※この作品はR-18です。

アオの夜R18SS   作:扇町グロシア

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初心者向けライトなお話詰め合わせです。
かなりポンコツですが、まあこんなもんです。



アニメ放送開始記念 千大バカップルエピソードセット

#1 アオく激しく、思いは募り

:37話辺りの感じです。もはや懐かしいですが、この時分にはもう書いてたんですよ。

 

 考えてみればもう何年も、自分から何かを欲しがらなくなっていた気がする。バスケは母から託された夢で、それ以外を見ないで突き進むのが「正しい生き方」だと教えられてきたから。だから本当は何もかも興味が薄くて、当のバスケさえ別にそこまでは執着していなかった。親の都合で止めることになっても、それならそれで構わないとさえ思っていた。悔しくはあっても、母がそれで良いと言うなら従う気だった。

 でも心の何処かに後悔はあって、引っ掛かってはいた。ここを離れたくない、と思い始めていた。

 その気持ちがハッキリ形になったのは、あの日。大喜くんと、話した時だ。

 毎朝体育館で会う、後輩男子。今まで単に、それだけだと思っていた。でも大喜くんはあんなにも真剣に、あんなにも真っ直ぐに、私に向かい合ってくれたのだ。私はこの子と離れたくないんだ、そう気付かされた。理由なんて分からないまま、ただ心の底から沸き上がってくる感情に身を任せて。

 そして思い出した、まだ小さかった頃を。欲しいものを手にいれるまで泣いた事、駄々をこねて暴れたあの頃を。いつのまにか物分かりが良くなっていた自分に、腹が立って仕方なくなった。

 だから私は、駄々をこねた。親の都合も何もかも蹴り飛ばし、泣いて暴れて意地を貫き、日本に残ったのだ。

 まあまさか、その大喜くんの家に居候するとは思ってもみなかったけど。

 

 猪股家の面々は皆優しく、私を気遣ってくれる。でもそれが、少しだけ重い。私は表向きバスケの為に住まわせてもらっているから、それ以外を考えるのが心苦しい。由紀子さんは母の元チームメイトで、だから何処か似ているんだ。夢を託されている、と思うとまた色々と思うところもある。

 そんなのは私の勝手な思い込みなんだろうけど、それでもなんとなくやりにくい。大喜くんに、近付きにくい。

 大喜くんは可愛いし良い子、最初はそうとしか思わなかったけど、段々と分かってくる。私が大喜くんに向けている感情は、世に言う――恋と言うものなのだろう。だから離れたくなくなった、そういう事か。分かってみれば、簡単な事なんだな。こんな気持ちは、知らなかった。私はまだまだ子供で、誰かを好きになるなんてもっと遠い話だと思っていたし、今までそんな暇も無かった。

 しかしそうなると、私はどんどん大変になっていく。猪股家への義理もあるから私からは動けないのに、大喜くんの側には既に他の女の子がいる。蝶野雛さん、新体操部の子だ。大喜くんは「好きとかそういうんじゃない」とは言うけど、二人はとても仲が良い。きっと付き合っているんだろう、とさえ感じる。

 悔しいな、素直にそう考えてしまう私がいる。もし私が、居候じゃなかったら。同じ学年だったら。夢なんて、託されなかったら。私はきっと、大喜くんに好きだと言えるのに。

 ああ――、辛い、な。

 好きだけど、好きだから。これ以上近づいてはいけない、と気持ちに蓋をした。線を引いて、離れた。離れたくないのに。大喜くんは蝶野さんが好きだから、私は距離をおかなければならない。それが大喜くんの、幸せだから。

 そう思うのに、そのせいで、苦しくて仕方ない。大喜くんの気配を感じるだけで、お腹の奥が熱くなる。線なんか越えてしまえ、と耳元で声がする。血が出るほど唇を噛み締めて堪えても、心の中では濁流が渦巻いて止まらない。

 人を好きになるって、難しくて苦しいんだな。

 

 インターハイが翌日に迫り、出先用の荷物を詰めながら。ふと、思ってしまう。私がいない間に大喜くんは、蝶野さんと過ごしたりするんだろうか。こんな事を考える余裕はないのに、一度始まってしまった妄想は止まらない。恋人同士がなにをするかなんて、よくは知らないけれど。

「……嫌だ、な」

 蝶野さんは嫌いじゃない、あの子だってかわいい後輩だ。でも、だからって。大喜くんを、渡したくない。

 ――大喜くんは、隣にいる。たぶんまだ、起きている。

 心に嵌まっていた枷が音を立てて軋みだし、少しずつ本音が外へと漏れていくのが分かる。こんなのは絶対に許されない、でももう止められない。

 熱に浮かされたまま、私はふらふらと部屋を出て。そして、隣のドアを開けていた。

「ぇあ、どうしたんですか、せんぱ……い?」

 驚いた顔で立ち上がった大喜くんを見た途端に溢れる涙が、視界を一気に塞いでいく。身体から力が抜け落ち、気が付けば私は体制を崩し。あの時のように、大喜くんを押し倒していた。

 あと数センチの所まで肌が接近し、私の鼓動や熱まで伝わってしまいそうだ。離れなければならないのに、離れたくない。もっと、近づきたい。

 なのに、なのに。近づくことが出来ない。大喜くんには、蝶野さんがいるから。私なんて――。

「ごめん、ねぇ……っ」

 涙は止まる事を知らず、ボロボロと溢れ続けている。情けない、消えてしまいたい。こんな身勝手で、どうしようもない私が、この子を好きでいて良いはずがない。

「……蝶野さんと付き合ってるのは、知ってるの……。でも私、大喜くんが好き……」

 ああ、言ってしまった。これでもう、全て終わる。それでももう、我慢できない。終わらせてしまわなければ、私は破裂する。

「嫌だよね、私なんか……。大喜くんが好きなのは」

 蝶野さんだもんね、と言おうとした。言いかけた。でもその言葉は紡がれる事無く、消えてしまった。大喜くんの言葉に、掻き消されてしまった。

「俺は、千夏先輩が好きです」

 短く、でも強い口調で。信じられない一言が、私の胸を貫いてしまう。

 大喜くんが、私を。そんな、まさか。そんなのは、そんなのは。

「……どう勘違いしたのか分かりませんけど、俺は雛と付き合ってませんから。あとアイツを女子だとあんま思ってないです。俺が好きなのは、千夏先輩だけです」

 大喜くんの口から出てくるのは、あまりにも意外すぎる話。私を気遣う優しい嘘なのかとも一瞬訝しんだけれど、そんなわけがない。大喜くんが、そんなこと出来るわけがない。

「あの日、先輩を見たときからずっと。俺は、千夏先輩が好きです」

 その言葉には、一切の嘘を感じない。真っ直ぐで熱い、真摯な言葉が私に向けられている。

 じゃあ。つまり。気付かないまま、両思いだったという事なのか。

 こんなに近くにいて、お互い好きあって、それでも拗れて。

 あまりにも、あまりにも――。

「大喜くん、バカだよね……っ」

「千夏先輩こそ、バカですよ」

 そっと触れたその肌は、焼けるように熱い。その熱を絡み合わせるように、私たちは。

 初めての、キスをした。

 

 夜が明ければ、私はインターハイへと出陣する。その後でも良かった、いやそうするべきなんだろう。身体のバランスを崩したくないし、テンションも保ちたい。でも、それでも。

 私は今、大喜くんを愛したい。大喜くんに、愛されたい。胸の奥からやってくる衝動を、押さえきれない。

 服を脱ぐのさえもどかしく、大喜くんを掻き抱いて、そして。……そして。

「ねえ、大喜くん。……どういう風に、すればいいのかな」

「いや、俺もよくわかりません」

 二人揃って、未経験な私たち。何をどうすればいいか分からないと、今になって気が付いた。なんて間抜けなんだろう、お互いバカ過ぎる。勢いでどうにかなるかな、とも思ったけど。思ったけど、まず初動が分からないから踏み出しようがない。

 ……むう。どうしよっか。もぞもぞと触れあいながら、そんな風に小さく悩んでみる。視線を落とした先にあるのは、大喜くん。大喜くんの、オトコノコ。……これが、入るのかー……。大丈夫かな、私。壊れないかな、ちょっと不安。

 まあ、なんとかなるさ。とりあえず触れてみると、そこは思った以上に硬く熱い。張り詰めた肉の、独特な感触。今までに無い、でも何処かで知っているような。きっと本能が、知っているんだ。これの扱い方を。

 なら、なんとかなるだろう。指の赴くままになで回すと、少しずつ湿り気を帯びてくる。透明な、でも粘つく何かが涌き出て止まらない。

「あー……の、大喜くん。なんかトロトロ出てきてるけど、これ平気?」

「は、いっ。気持ちい、い。ですっ」

 息を荒げる大喜くん、その表情は蕩けきっている。そうか、これは間違ってないんだな。そうかそうか、うん。

 ……そうだ、もう一つ試してみよう。

「ね、大喜くん。触ってみて」

 そっと大喜くんの手を、私の脚の間へと導いてみる。私がなんとなく「やり方」が分かったみたいに、大喜くんも出来るかもしれない。私もこんな風に、気持ちよくなれるかもしれない。

 物心ついて以来、親さえ触れたことがない場所。そこを大喜くんの手がおっかなびっくりはい回っていく。ああ、なるほど。これは、良いな。私が、ほとびていく。少しずつ、解れていく。

 そしてその指は、ゆっくりと「中」へも食い込む。自分でもあまり弄ったりはしない所だけど、怖くはない。大喜くんだから。

 御返しに私も手の動きを速めていくと、大喜くんもそれに応えて。激しい喘ぎはどちらの口から出ているのか、もうわからない。夢中になって弄り続けていると、不意に大喜くんの身体がビクンと震えた。

「あ、出ま……すっ」

 え、と思う暇もないまま。大喜くんのオトコノコが、激しく脈打ちそして、熱い飛沫を迸らせた。白い噴出はあっという間に私の手を染めて、それでも止まらずに溢れてベッドに広がっていく。これが、射精というものだろうか。大喜くんの精液は青臭く、試しに舐めてみると苦味が舌を突く。でも、愛おしい。

 その愛しさに身を任せ、直に精液を舐め取ろうとオトコノコに舌を這わせてみる。たちまち口の中が大喜くんの味になり、息をするだけでそれが鼻にまで抜けていくのが興奮して堪らない。そして喉を降りていく感じはちょっと名残惜しい、もっともっと欲しい。

 でもそれは、こ(・)こ(・)にじゃない。そう身体が告げている。これが注がれるべき場所は――。

 

 ベッドに腰掛け直して脚を開き、そして、私のそこを、手で割り拡げていく。グチュリと粘膜が音を立てて、私の内側が。決して見せてはいけない筈の場所が、大喜くんの目に晒されてしまう。恥ずかしい、でも頭が快感で痺れて堪らない。もっと見て欲しい、触れて欲しい、――愛して欲しい。

 大喜くんもきっと、それを望んでいる。だって大喜くんのオトコノコは、そうしようとしている。あの堅さも、熱も、全てはこのためにあるんだ。オンナノコを貫くためにオトコノコはあって、オトコノコを呑み込むためにオンナノコはある、それがきっと正しいんだ。

 やっぱり不安はある。うまくいかなかったらどうしよう、とも思ってしまう。

 それでもきっと、大丈夫。私たちは、私たちだから。

 何度か角度を直しながら、ゆっくりと大喜くんのオトコノコが私の中に埋まっていく。こんな大きなものが入るなんて、何か不思議ではあるけれど。でもこうやって掘削されていくのは、嫌な感じじゃない。大喜くんを迎え入れている、愛している、それが嬉しい。

 身体が押し重なり、そして。二人の腰が、密着した。

 私の一番奥に、大喜くんを感じる。不思議だけど、でも心地良い。痛みも不快感も無い、ただただ愛しさだけが溢れてくる。

「どう、かな……、私の中、変じゃない、かな……っ」

「は……い、先輩、スゴく、気持ちいぃ……で、す」

 どちらともなく腰が動きだし、私の中が掻き回され。それに応えて、私も大喜くんを締め付けて。これは、気持ちいい。気持ちよすぎる。一瞬毎に眼の裏で稲妻が走り、身体の芯が溶け落ちていく。きっと大喜くんも、同じ気持ちだろう。

 ……と思っていたけど。ふと見れば大喜くんは歯を食い縛り、必死で何かを堪えている。これは、まさか。私は何か、間違えたんだろうか。大喜くんに変な我慢を強いるなんて、私はイヤなのに。

「あの、大喜くん、どうし……」

「いやあの、このままじゃ、出……ますっ」

 出ます、さっきも聞いた言葉だ。それはつまり、つまり。

 大喜くんはさっきのように、射精しようとしている。それだけの事だったんだ。

 ぎゅっと大喜くんを抱き締め、耳元で囁く。

「良いよ。そのまま……ね」

 それが、どうやら楔になったらしい。大喜くんの身体はさっきよりも激しく震え、そして私の中にいるオトコノコも爆発するように脈打った。ドクドクと音がしそうなくらいの勢いで、凄まじい奔流が押し寄せてくるのが感じられる。私の隅々まで、大喜くんが染み渡っていく。それは気絶しそうなほどの快感で、意識が焼け切れそう。やっぱり、こっちなんだ。私はここで、精液を味わいたかったんだ。

 膣内射精を楽しみながら、上の口同士もキスを交わす。愛している、それだけしか考えられない。もっと、もっと。

 大喜くんのオトコノコは、まだまだ元気だ。私だって、負けてない。お腹が破裂するくらいに、注いで欲しがっている。

 今この瞬間を、精一杯楽しもう。貪欲に、力一杯愛そう。 

 人を好きになるって、こんなにも楽しいのか。ああ、良いな。

 

 空が白みだして漸く、私たちは身体を離した。全身ドロドロで、息も絶え絶え。ベッドに横たわったまま、でも眠りに落ちる時間は無い。シャワーを浴びて支度しないといけないし、それに何か食べておかないと。……まあお腹(子宮)はいっぱいなんだけど。

「先輩、あの、ごめんなさい……」

 申し訳なさそうに溢す大喜くんを抱き締め、頭を撫でる。言いたいことは分かってる、私はこれからインターハイなんだ。セックスしていい状況ではないだろう、そんなの私が一番分かってる。でも。

「良いんだよ。私は大丈夫」

 そう、大丈夫だ。むしろ、負ける気がしない。今の私なら、キングギドラにだって勝てる。……多分。

「全国制覇して、来週帰ってくるよ。そうしたら、またしようね」

 これは、約束。果たすべき、約束。

 さぁ、やってやろう。私は全部、手に入れる。泣いて暴れて駄々こねて、何もかも手に入れる。

 それでこそ、私だから。

 

 

#2 果てなく続くアオい夜

:先輩のポンコツぶりをどうぞ。なんか毎回こんなですけどね。

 

 不埒な事を考えるものじゃない、本当に。こっちは目的があって住まわせて貰っているんだから、品行方正にしていないと立場が無くなってしまう。

 それは重々承知しているけれど、それでも気持ちに戸は立てられない。なにしろ我慢が効かない身体、こればっかりは仕方無い。

 だって大喜くん、可愛いんだもん。ちょっとからかうと真っ赤になるし、とにかく可愛い。そのせいで私はあれこれ悪い事考えてしまうんだ、私のせいじゃない。例え私のせいだとしても、そこを突かれると困る。本当の事でも言って良い事と悪い事がある、ってやつだ。

 だからそう、これは不可抗力というやつだ。大喜くんのベッドの下で息を潜めているのも、全てはそれ。何度でも言うけど、誰が悪いわけでもないんだ。

 さて、どうしようかな。

 

 切っ掛けはちょっとした好奇心というかなんというか、まあ興味本意の事。大喜くんが一人の時間をどう過ごしているか知りたかった、そんなものだ。

 ジャンプ借りたり色々と理由を付けては部屋へお邪魔してはいるものの、思ったより大分スッキリしていて人となりがわかる要素が見当たらない。実家から持ってきた私物で借り物の部屋を埋め尽くしている身としては、ああもシンプルでは落ち着かない気がするんだけど。……いやまあ二年で出ていく部屋で、こうも好き勝手してる私も大概非常識か。

 とは言え最近の私は大喜くんが気になっていて、あれこれと知りたいのだ。バド以外に趣味はあるのかとか、そういうの。それで急にどうこうとかじゃなく、話のフック程度になれば良いかな、くらいの気持ちだけれど。

 そんなわけで大喜くんがお風呂に行った隙を突いて入っては見たものの、……見たものの。

 ちょっと慎重になりすぎたか、特に成果も無いまま時間を無駄に過ごしてしまった。お陰で大喜くんが戻ってきた時にはまだ脱出できておらず、やむ無くベッドの下へと緊急避難を決め込んだのが現状です。分かりやすいですか。

 凹凸の少ないフラットな体型が幸いして気づかれてはいないものの、正直これは厄介すぎる。この状態からではどんな言い訳も出来ないし、下手をしなくても追い出されかねない。不味い、不味いったら無い。幸い大喜くんは眠りが深い子だから、寝静まったところを狙えばどうにか――。

 私がそう考えていた、まさにその時。

 顔の上でベッドの底板が、ギシリと音を立てた。

 思わず反射的に声を漏らしそうになるのをギリギリで堪えるも、胸の鼓動は爆音化していく。これは不味すぎる、危険だ。

 だけどその少し後、私は更に思い知った。本当に不味いのは、これからだと。

「……っ、ぁ……ぁっ」

 大喜くんの呻くよう声に合わせるように、ベッドがリズミカルに軋み出したのだ。その動きは明らかに普通ではない、激しすぎる。一体何が起こってるのか、一瞬警戒して。でも私はそれが何なのか、すぐに理解した。理(・)解(・)で(・)き(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 いつだったか渚が言っていた、弟くんの「それ」を見てしまって気まずいやら気持ち悪いやらで大変だったと。腰かけたベッドを激しく揺らし、剥き出しの下半身で――オナニーをしていた、と。その時の微に入り細に入る嫌がらせみたく詳細な解説のお陰で、本物を見たこともないのにイメージでばかり詳しくなってしまった。姉の下ネタトークに使われる弟くんも気の毒だけど、そんなもんを聞かされる私も複雑だったな。

 まあ、だ。別に大喜くんだって、そういう事くらいするんだろう。私だってたまにはするし、ここは見なかった事にして忘れてあげるのが人の道。

 何も聞かない、察しない。終わったら手くらい洗いにいくだろう、そうしたらコッソリ戻ろう。

 呻きは喘ぎに変わり、軋むベッドとのセッションがどれほど続いたか。そこへヌチャヌチャと粘っこい音も混ざり、もう目の前で見せ付けられてるかのような錯覚に陥り出した頃。

 一際大きい喘ぎと共に、ガクンと一気にベットが深く沈み込んだ。……危うく鼻をぶつける所だったけど、私にはそれを怖がる余裕はない。だってその瞬間、確かに聞こえたから。大喜くんが小さく「千夏先輩」と呟いた事を。

 バレたのかと身構えた次の瞬間、隙間から見えていた大喜くんの足がフラリと動き出す。そのまま聞こえてきたのはドアが開かれる音と、下っていく足音だけ。私を引きずり出そうと言う意図は感じられない、予想した通りに手でも洗いに行ったのだろうか。

 怖々ベッドの下からズリ出て漸く、私は気が付いた。大喜くんが私の名前を口にした、その意味を。

「――、ぁ……」

 ベッドの上に残されていたスマホには、私の姿が映し出されていたのだ。

 

 部屋に戻って私は思考を整え、先程の光景を反芻している。考えなければならない、それは大切な事なのだから。

 練習中にフォーム確認で写真や動画はよく撮るし、他の部員がいない時大喜くんに頼んだ記憶もある。逆に私が撮ってあげた事もある、それは私たちにとっては日常の風景。

 でも大喜くんは今、……オナニーをしていた。私の写真を見て名前を呼びながら、していた。

 それは、……つまり。大喜くんは私をそ(・)う(・)い(・)う(・)目(・)で(・)見(・)て(・)い(・)る(・)ということなのだろうか。

「んー……ふむ」

 こんなガラッパチな、ワンパクでたくましい子を相手にそんな気になるとは思えない。私が男子だったら、どう考えても蝶野さんとかの方が良いと思うけど。その辺はどうもよくわからない、男の子って難しい。

 しかしこれは、どうしたものか。渚が言うみたいな気持ち悪さは感じないけど、今のままでは良くないな。

 このまま悶々とさせておくと、辺な方向にいきかねない。花恋も針生くんに「御預け」し過ぎて関係が拗れたことあったそうだし、思い詰めて夜中に押し掛けられたりしたら大変だ。それに欲望をもて余したままでいると、菖蒲ちゃん辺りが雑に押し倒しかねない。あの子そういうの好きだし、何よりも大喜くん可愛いんだもん。そんな事が起きて部活に集中できなくなられると、さすがに心苦しい。

 ちゃんとした形で発散させて、前向きにさせてあげないと。それは「良い同居人」としての勤めでもある、……んじゃないかな。それに私としてもそっち方面は、人並みに興味がある。大喜くん相手にそういう行為をするというのは、中々宜しいのではないだろうか。なにしろ可愛いからね、うん。

 さてしかし、今これからどうするわけにもいかないか。

 まずは眠って、明日改めて考えよう。灯りを消して思うのは、やっぱり大喜くんの事なんだけど。

 

 人間にはルーティンというものがあって、無意識にそれを守ろうとする。要するに身に付いた習慣は、そう簡単に変わらないということだ。

 前日とほぼ同じ時間、同じタイミング。私は今日もベッドの下で仰向けになっている。ただ昨日とは違い、すぐにでも出られるように場所を吟味した上で。

 ここから見える足の位置から大喜くんが座っている所が分かるし、それを基にして視界を計算するのは難しくない。団体競技をやっていれば、誰でも身に付く技能だ。

 そして集中してオナニーしているであろう大喜くんが、ちょっとした違和感なんかに気が付くわけはない。

 そっと顔を出して見やった大喜くんの視線は、恐らく私が映っているであろうスマホに釘付け。

 ――ここでもし私が……何(・)か(・)したら、どうなってしまうんだろう。そう思うよりも早く、身体は動いてしまう。

 ぬるりと全身で這いずり出し、音もなく忍び寄って。大喜くんが異変を認識したかしないかの刹那、私は躊躇いもせずに大喜くんのオトコノコを握り締めていた。

「っあ、……、せん……ぱいっ!? な、……んでっ」

 パンパンに張り詰めた硬い肉の質感と、指先に伝わる拍動。入り交じった体液の匂いは鼻がまがりそうな程に牡臭く、それなのに不快感を誘わないのが不思議だ。そのせいだろう、フラフラと導かれるように顔を近付け、私は――それを口に頬張っていた。

 舌が焼けるような粘っこく熱い汁の味、鼻に抜ける生臭さ。手よりも更に近い、粘膜が理解する脈打つ鼓動。舌でなぞると、まだ硬いメロンのような感触が伝わってきた。

 溢れる液体はすぐ口いっぱいに広がり、喉を犯しながら胃の腑へと落ちていくのが心地良い。もっと深くまで味わおう、そう思って陰毛が当たるくらい深く顔を埋め、顎に蒸れた肉の袋の感触を覚えながら更に吸い上げ始めたその時だった。

 ドクンと大きく大喜くんのオトコノコが震え、そして私の喉奥目掛けて何かが勢いよく迸った。

「ぐっ、ぇあ……ぷっ」

 それは口内が焼け落ちる程に熱く、ドロドロと絡み付く。きっとこれが、射精というものなんだ。噴き上がる濁流は治まる事を知らず、鼻から逆流してしまいそう。

 放出が止まって漸く口を放すも、尚その先端からはトロトロと白濁液が溢れ出してくる。元気で働き者なんだな、この子は。

 大喜くんのだもん、そりゃそうか。

「ね、大喜くん。……私の写真見ながらするのと、どっちが良かったかな?」

 ちょっと意地悪な事を言ってみると、息も絶え絶えな大喜くんの顔が羞恥に染まっていく。ああ、可愛いなぁ。

 もっと困らせてあげたくなってしまうのは、大喜くんが可愛いから。

 胃から上がってくる精液臭いげっぷを気付かれないよう鼻へ逸らしながら、私は更に問いかける。

「どうして蝶野さんじゃなくて、私なのかな」

 それは本当の意味での疑問点。だって大喜くんは蝶野さんに告白されていた筈だ、と言うか本人が私に宣言しに来たし。人が家族の事で大変だって時に、余計な事をしてくれたんだもん。さすがにあれは忘れようがない。

 二人はお似合いだし付き合っててもおかしくないわけで、なら蝶野さんの写真なり動画なりですれば良い話だ。

 それともそれが照れ臭くて、とかなのかな。そんな風に思いながら待っていると、大喜くんは真っ赤な顔で小さく呟いた。

「好き、だから……。千夏先輩が、好き……なんです……」

 

 嗚咽を漏らしながら大喜くんが言ったのは、私への好意。好きだからそ(・)う(・)い(・)う(・)事(・)をしたい、でもそんな事許されるわけがない。許されないとわかっているから気持ちいい、そんな矛盾した感情が渦を巻いてああなっていたのだと。

 いや、いや……うん。まさか、そんな。大喜くんが私を、私なんかを。手近な異性として発情していたわけでなく、私だからこそそうしたかった、と。

 そうなると、そうなると。話は簡単になってしまうかな、これは。

 私の目的と大喜くんの意思は合致し、同意が成立する。そうなればもう、躊躇う事もない。

「そっか、そうなのか。私としたいのか、うんうん」

 泣きそうな大喜くんを抱き締めて、私は微笑みかける。

 ならば、良いじゃないか。私も大喜くんには好意を抱いているわけで、拒否する気持ちはない。

 ムードも何もないけど、これはこれで私たちらしいかもしれない。

 ……それに、だ。さっきから身体が疼いて仕方がない、私の方こそ我慢できない。湿るどころか使い物にならないくらい汚れきったショーツを脱ぎ捨て、そのまま肉の裂け目を大きく押し開く。外気に触れることなどあり得ない部分がクチャリと音を立て、大喜くんに晒されていくのがゾクゾクするほど心地良い。

「じゃあ、さ。……良いよ、しようよ。私も大喜くんと、したいから」

 返事を待たないまま私は大喜くんへと覆い被さり、さっきの余韻か天井を向いたままのオトコノコへと自分を押し当てていく。指よりもずっと太く逞しいものが膣内を抉るこの感覚は、痛みよりもずっと心地好さが大きい。完全に腰を下ろしきった時にはもう、目の前がチカチカし始めていたくらいだ。

 お腹の中で内臓が押し上げられ、甘い圧迫感が子宮を揺らしていくのが分かる。ああ、なるほど。セックスって、こうなのか。そりゃ菖蒲ちゃんが男子をとっかえひっかえしてヤりまくるわけだ、これは一回知ったら止められなくなる。あの子小学生の頃からああだし、よっぽどだよね。

 気が付けば私はスクワットのように腰を上下させ、ゴリゴリと内壁を引っ掻かれる快感に身を任せてしまっていた。そして大喜くんも瞳に浮かんでいた困惑の色が完全に消え去り、囈のように私を呼びながらガクガクと腰を震わせ射精を繰り返し続ける。私の中はすっかり精液まみれ、きっと子宮どころか卵菅まですっかり埋まってしまっているだろう。それでも尚収まらず、行き場を無くした分がブジュブジュと接合部から溢れている。そうなっているのにまだまだ、二人とも止まらない。

 射精する瞬間の激しい蠢動が、快感に蕩けるその顔が、大喜くんの全てが愛しくて仕方無いのだ。だって可愛くて、可愛いから。もっともっと楽しみたい、もっともっと愛したい。

 それ以外の全てが曖昧になっていき、視界は白く澱んでいく。ただ一つ確かなのは、この瞬間の快感だけ。

 脳が熔け落ちる悦楽の夜は、終わらない。

 

「うー……身体重いなぁ……」

 お腹の奥で粘液がとぐろを巻いているような、そんな感覚が朝になっても残っていた。

 あの後ちょっと催して手洗いへ駆け込んだら結構な量の精液が溢れ出てきたのに、まだ入っているのだろうか。あの粘り気と量だから、それも不思議はないけれど。

 でもそれを休む言い訳には使いたくない、と私は今朝も体育館へと急いでいる。

 それにしても、一気に話が進んでしまったな。大喜くんが私を好きだなんて、考えもしなかったのに。しかしそうなると、これまたどうしたものか。この先猪股家にお嫁入り、なんて将来も有り得るんだろうか。

 ――いや、ちょっと待て。

「んー……と」

 立ち止まってヘルスケアアプリを起動し、私はカレンダー部分を注視する。

 数字の羅列を眺めながら計算する事、ほんの数分。

 そこから割り出されるのは、私の身体に関する周期というかそういうものだ。

「あー……、不味いかな……」

 どう見てもどう考えても、出てくる結論は同じ。今の私はどう考えても危険日、昨夜のあれで当(・)た(・)っ(・)た(・)可能性は捨てきれない……処かかなり大きいという事だ。

 これは、……これはさすがに不味すぎるかな。

 でもまあ、しかし。

「とりあえず、後で良いか」

 根が単純で楽天的な私だから、考えるのは苦手だ。先ずは朝練して、大喜くんが来たらそれとなく話してみよう。

 それでどうなるか、その時考えれば良いんだ。どうせ人間、なるようにしかならないんだから。

 さて、立ち止まっていても仕方無い。行こう行こう、真っ直ぐ行けば大抵どうにかなる。

 そんなもんさ、きっと。多分。

 

 

#3 アオくて甘い、繋がる日々

:そしてポンコツ極まった先輩。こんなのを書くのが趣味です。

 悩んだ分だけうまくいく、なんて事は無い。考えた時間と成果が比例するんじゃない、どうやって筋道を立てるかが大事。でも悩んだ事自体が無駄になるわけではないし、悩まず動いた方がうまくいくってわけでもない。適度に考えて適度に即決、要するに世の中はバランスなんだろう。

 その辺がどうも俺たちは極端すぎる、しばらく動かないままでいたかと思えば何段もすっ飛ばして突き進んだりもする。

 まあ、お互いあんまり頭が良いわけでもないからな。お手本があるわけでもないし、何もかも手探りでやるしかない。

 とは言えど、とは言えどもだ。少しは考える癖も付けないといけないかもしれない、この先長いんだから。

 勢い任せで突っ走るのがどれだけ周りを振り回すか、千夏先輩に思い知らされてそれを痛感しているんだけどさ。

 本当にこの人は、困った人だ。それを楽しんでいる俺も大概だけど、さ。

 

 

 家族と長野で過ごした千夏先輩が、お土産とともに「帰って」きてくれた。ただそれだけで、泣きそうになっていたのが今さっきの俺。

 にこやかなその顔に、涼しげなその声に、どれほど癒されただろう。

 ああ、そうか。俺はやっぱり、この人が好きなんだ。片時も離れたくないと、思えるくらいに。

 だからこそ誤解を解きたい、あの日のハグが嫌なわけがないと。ただどうして良いか分からなかっただけで、嬉しかったと。でもそれは絶対に、直接言わなければならない事。メールやLINEは勿論、電話でもダメなんだ。だからこそ、今日まで待ったんだから。

 そう思ってはいるのに、いざとなるとやっぱり理性が邪魔をする。起きてもいない事に怯えて縮こまるのはもう止めよう、そう誓ったのに俺はどうしてこうもウジウジしてるんだ。時間が遅くなればなるだけ気まずいし、そもそも千夏先輩が寝てしまうかもしれない。でも「明日にしよう」なんて言ってたら、そのままズルズル先伸ばしにしかねない。

 そうやって俺は、堂々巡りで動けなくなっていたのに。

 どういうわけか。

 どんな料簡か。

 何の因果か。

 今俺は――千(・)夏(・)先(・)輩(・)に(・)、(・)組(・)み(・)倒(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 いつぞや看病してくれた時にも近い格好、だけど伝わってくる肌の熱は逆転している。千夏先輩の身体は焼けるように熱く、そしてそれ以上に視線が燃えている。

「ごめん。嫌かもしれないけど、もう無理だから」

 何がどうして、と尋ねようにも口が開かない。一方的に言い終えた千夏先輩の唇で、完全に塞がれてしまったから。

 絡み合う舌と舌、ぶつかりあう粘膜が卑猥な水音を立てるのが止まらない。

 永遠にも思えた数分間の後、ゆっくりと唇を放した千夏先輩。その瞳は涙に潤み、それでも尚強い意志の輝きを失わない。

「寂しかった。……たった数日なのに、大喜くんがいなくて凄く寂しかった。私は大喜くんを離したくない、ずっと一緒にいたい」

 絞り出すようなその声からは、悲痛な感情が伝わってくる。

 俺はどうしようもなく、バカだったんだ。何が「あのハグの意味は」だ、そんなの――一つしかないのに。単に信頼しているとか頑張りを認めているとか、そんな理由であんな事するわけがない。思えばずっと千夏先輩は、そうだったのかもしれない。俺は自分に自信がない、弱さを認めることも出来ない。だからずっと、何処かで考えないようにしていた。

 千夏先輩が俺なんかを好きになる訳がない、そう思っていた。傷付くより片想いのままでいたい、とさえ考えていたんだろう。そう振り返ると、雛の凄さが分かる。自分が傷だらけになる事もいとわず、真っ直ぐに進んだんだから。

 頬を伝う涙を拭い、俺は千夏先輩を見つめる。これ以上この人を傷つけてはいけない、はっきりと言うべきなんだ。

「俺も、です。先輩がいなくて寂しかった、もう……何処にもいかないでください」

 身体にのし掛かっている先輩をかき抱くように腕を伸ばし、俺は言葉を紡いでいく。

 不格好で良い、不器用で構わない。バカが無理に頭を使うな、バカなんだから。

 たった一つ、伝えれば良いんだ。

「先輩、好きです」

 ようやく口から飛び出したその告白に、千夏先輩は――晴れやかな笑顔を返してそして。俺の唇に、もう一度キスをしてくれた。

 

 想いは伝わった、そう十二分に。そうならない筈がない、聞き損じも勘違いも起こり得ない。

 いや、……その筈なんだけど。

 千夏先輩はどういう訳か、にへりと妖しい笑みを浮かべている。どうしたんだろう、この距離であんな単文で、解釈違いも無いだろう。

 背筋に冷たいものが走るのを感じ、意識より早く身体が硬直する。これは、不味い気がする。理屈は分からないけどそう思ってしまうのは、千夏先輩が俺の上から退こうとしないからだろうか。

 底まで考えて、ようやく俺は思い至る。この体勢は明らかに、不味いと。

 ベッドに押し倒されて密着し、体温さえはっきりと分かってしまう距離感。これは――不味すぎる。

 そんな思考が肌から伝わったのか、千夏先輩は更に顔を寄せてくる。

「――大丈夫。私経験無いから病気とか無いし、一応勉(・)強(・)はしたからね。きっと上手くいくから、大丈夫だからね」

 ……どう考えても大丈夫でもなんでもない表情、俺を押さえ込みつつ服を脱がせようとする手。何をしようとしているのか、それは分かるけど余りにも不味い。

 千夏先輩は俺を、襲(・)う(・)つもりだ。思いっきりド直球に、全力で。

 いや、いやいや。いやいやいやいや、なに考えてんだこの人。そりゃあ両思いだと分かったし将来的にはそうなるかもしれないけど、でも今じゃないだろ千夏先輩。もうちょっと自分を大切にしてほしいし、て言うかあれこれ段階を飛ばしすぎだ。

 とは言え強固に拒んだら千夏先輩を傷付けそうだし、そもそも俺だって興味がない訳ではないし。どうしよう、この人相手にどうしていいか分からん。何をしても不正解な気もするし、でも何も言わないとこのまま流れで大人の階段を昇らされてしまう。

「いやあの千夏先輩、えーとそのですね、あの」

「同意があれば合法だって渚も言ってたから! 花恋も針生くんが煮えきらないから、寝込みを襲って跨がったって言ってたもん!」

 色々どうなってんだ俺の周りは、こんな人ばかりなのか。いやもうどうすりゃ良いんだよこれは。

 そうこうしている間にも千夏先輩は、ふんすふんすと鼻息も荒く俺の服を剥ぎ取ろうとしてくるし。

「えーあの千夏先輩、そのっ、下に……母さん達に聞かれちゃいますからっ! 今はダメ……ですっ」 

 苦し紛れに出した言葉は、でも千夏先輩をたじろがせるのには充分だったようだ。下着にかかりかけていた手は引っ込み、身体もついっと離れたから。

 口許に手を当てて何やら考え込み始めたのを機に、俺はどうにか身を起こして距離を取ってみる。逃げ出したら絶対嫌な想いをさせちゃうけど、でもくっついたままだとまた捕まれてしまう。こう言っちゃ悪いけど厄介だなこの人。

「んー……由紀子さんに見付かるのは不味いかな、お母さん達にも話が行っちゃう。それに部屋汚しちゃいそうだし、ここではしない方が良いよね」

 じゃあまた今度にするね、おやすみ。そう言って何(・)事(・)も(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)千夏先輩は隣室へ去り、俺には嵐が去ったような脱力感だけが残される事となった。

 この数十分で、俺は何キロか痩せた気がする。本当にどうなってんだ、これは。あれこれ激しすぎないか、高校生になってからの俺の人生。先輩と同居したり雛に告白されたり忙しいったら無いぞ、生き急ぎすぎだ俺。

 それにまた今度、か。つまり機会と場所があればいつでもOK、って事なんだろうな。

 もうどうして良いやら、見当も付かないや。

 何もかも馬鹿馬鹿しくなった俺は、ただ眼を閉じる。とりあえず寝てしまえ、明日になれば多少は千夏先輩も頭が冷えるさ。そうなればしばらく何もしてこないだろうし、ゆっくり考えれば良い。

 人はそれを先送りと言うのだけれど、なにが出来るわけでもないんだから仕方ない。

 

 一夜明けてもまだ冬休みは終わっていない、体育館の整備で練習も出来ない。さて今日はどうするか、と遅い朝を迎えた俺は洗面所で千夏先輩に袖を掴まれた。『これから遊びにいきませんか』というその言葉は魅力的で、それにこれは掛け値なしで――デートではないか。どうやら千夏先輩は程度を弁えてくれたらしい、その上でこんな提案をしたのだろう。

 断る理由なんかあるものか、二つ返事で了承して二人手を取り合って家を出た。

 以前「今度は恋人同士で来たいな」と思った水族館へ行って、新しい限定スタンプなんかもダウンロードして。歩き疲れてきた所でちょっと高めの喫茶店なんか入って、「私奢るよ、先輩だもん」「いやいや俺が出しますって」と仲良く譲合いを楽しんだりもして。そんなこんなで日も落ちかけてきた頃、俺はようやく思い出した。

 千夏先輩という人は、行動力の塊である事を。そして一度決めたら曲がらない、前しか見えない人だという事を。

 次は何処へ行こうかなーと楽しそうな先輩から掴まれた腕に、僅かな痛みを感じながらも一緒に歩いていた俺。その眼前には、妖しい建物が聳えている。

 ファッションホテル、ブティックホテル。古風な言い方をすると連れ込み宿、つまりは――そ(・)う(・)い(・)う(・)場(・)所(・)だ。

「ここでなら良いよね、由紀子さんたちにバレないし汚しても良いし。問題ないよ……ね?」

 返事はイエスかハイだけだよ、と言わんばかりの力で千夏先輩は俺を引きずり込もうとしていく。

 ここまで連れてこられた時点で、もう詰みだ。俺はただ、顔を赤らめて付き従うしか無かった。

 

 薄暗い赤系の間接照明、立ち込める甘い匂い。すべてが一つの目的に集約される場所、セックスをする為だけに用意された空間。

 そのなかで俺たちは、貪るように深く深くキスを交わしている。

 抵抗を感じていた割には、俺の身体は素直に流されていく。やっぱり千夏先輩が、好きだから。千夏先輩も俺を好きでいてくれる、だからこそこんな事をしようとしてくれるんだ。

 抱き締めあう腕はお互いの服の中へと入り込み、肌の上を滑りまさぐり出す。触れられた箇所は火が付いたように熱く、そして触れている指もまた高熱にまみれている。それは段々と高度を下げ、やがて腰の下へと到達しあった。

「わ。……こんななんだ、ね」

 おっかなびっくり俺(・)に触れる千夏先輩の脚の間、そこ――オンナノコへ俺も触れてみる。感じるのは湿った温もり、指先が少しずつ肉の併せ目へと導かれていくのが分かる。この中、ここが俺を受け入れてくれる場所。そう本能が、教えてくれる。

 意を決して人差し指を押し込んでみると、抵抗する強い圧力と中へ引きずり込もうとする襞の感じが伝わってきた。相反する二つの触感を味わいながら指を進めていくと、ある一点に触れた途端――。

「う、ぁ。あ……っ」

 千夏先輩の身体が大きく跳ね、その勢いで力が入ったのか俺(・)をなで回していた手の動きが、強く握り締めるようなベクトルに変わる。

 予想外のそんな刺激に、ただでさえ高まっていた俺が耐えきれる筈はない。

 腰がガクガクと震え、意識が食い止めようとした時にはすでに遅かった。

 気が付けば千夏先輩の手の中で、俺は……射精を始めていたのだ。

 大切な人の身体を汚している、そんな背徳感はしかし逆に興奮を煽ってしまうばかり。目を白黒させる千夏先輩に包まれたまま、精液をただただ放ち続ける俺。

 それがやっと収まった頃には、脱力感と共に罪悪感が沸き上がってくる。どうしよう、どうしよう。

 でも千夏先輩は、俺を責めたりはしなかった。

「うっかり掴んじゃったし痛いんじゃないかと思ったけど、大丈夫みたいだね。良かったよ、大喜くんが気持ちよくなってくれて」

 ドロドロになった手をチロリと一舐めし、朗らかに笑ってくれた。その笑顔は心の曇りなんか晴らしてしまう程に魅力的で、俺に再確認させてくれる。俺が好きなこの人は、俺の事が好きなんだと。

 

「んー……たぶんこれで合ってると思うけど、キツかったら変えてね」

 辿々しく着けてくれたゴムの皮膜越しに感じる、千夏先輩の体温。熱く柔らかな指先に、再び暴発しそうになってしまうのを根性で阻止して俺は千夏先輩に自身を向けていく。入るべき場所へ、進むために。

 広げられた脚の間には白く泡立つような粘液質の水溜まりが出来、薄く口を開いた肉の裂け目が蠢いて見えた。そっか、ここに入れるのか――……。さっき指でさえなかなか通らなかった事を考えると、本当に入るのか疑わしいけど。いや、俺がそんな事考えてどうする。むしろ先輩の方が内心色々不安かもしれないんだから。

「痛かったら後で血が出るまで殴るからね、優しくしてよ?」

 ……いや違うな、この人そういう次元にいない。器が大きいんじゃない、底が抜けてる。どうしよう、俺ここで殴り殺されるんだろうか。

 とりあえずは息を整え、俺は先輩の入り口へと先端を押し当てた。終わってから考えよう、うん。怖い怖い。

 ゆっくりと腰を進め、狭い肉の隘路を少しずつ少しずつ抉じ開けながら俺は中へと入っていく。薄いゴムに隔たれて尚伝わってくるのは、絡み付くような襞の感触と焼け落ちそうな程の熱さ。指で触れたのとはまた違って思える、圧倒的な肉感。

 ふと窺った千夏先輩の表情は、痛みを感じている風ではない。これは正解の方向へと行っているようだ、殴られずに済むかもしれない。

 ――と。先程まさぐった千夏先輩の内側を、俺は脳裏に思い描いた。あの激しい反応、あれは明らかに快感を覚えたように見えた。じゃあもし今、あの場所を俺(・)で擦ったなら。千夏先輩はいったい、どんな顔をするんだろう。

 さっきはどう触れた、指とはサイズも箇所も違うんだから勝手は分からない。だけど、でも――俺は千夏先輩にも、気持ちよくなってほしい。その思いだけで腰をくねらせた、その瞬間だった。

「あ"。ぁ、……そ、こ……っ」

 一瞬眉根を寄せシーツを強く掴むその仕草に、わずかの間呼吸が止まりかけてしまう。いや大丈夫だ、痛がってるわけじゃない。やっと辿り着いた、こ(・)こ(・)なんだ。ここを重点的に、攻めていけば良いんだ。

 余韻が消える前に同じ箇所をゴリゴリと擦りあげるその動きは、俺自身にも強い刺激を連れてくる。あっという間に背筋がゾワゾワと粟立ち、抗いがたい射精欲求が溢れてくる。それを煽るように千夏先輩の中はギチギチに俺を締め上げ、食い尽くさんとしようとするかのようだ。

 もう顔を窺う余裕なんか消し飛び、千夏先輩の顔さえぼやけていく。

 確かなのはひとつだけ、こうしている相手が何よりも愛しいという事。

 そこからどれくらい経っただろうか、本能のままに振り続けた腰の奥で何かが弾け飛んで、それでやっと俺は自分が射精している事に気が付いた。

 コンドームに包まれながらの射精は何処か不自然な感じがするけれど、でも今まで生きてきて一番出たかもしれない。もしこれが何(・)も(・)着(・)け(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ら(・)、一大事だろうな。

 だけどいつか、そうなってみたい。俺は千夏先輩と結婚したい、子供がほしい。死に水取ってほしいし同じ墓に入りたい。ずっとずっといつまでも、一緒にいたい。そんな風に考えてしまうのは、悪いことだろうか。……悪いとまではいかなくても、良くないことではあるかな。千夏先輩がどう思ってくれてるか、俺には分からないし――って。

「……千夏、先輩……?」

 そう言えばさっきから静かだな、と意識を立て直し歪んだ視界をどうにか直したその時。俺の頬が、ぺちりという軽い音と共に軽く軽く打たれた。痛みでさえない小さな刺激に視線を落とすと、そこでは千夏先輩がゼーゼーと荒い息を吐いているのが見える。

「んー……大喜くん、や。殺、す気……ですかっ。あ、んな……に激し、くした、ら、壊れま……すっ」

 あ。あー……そうか。理性が飛んでどれくらい過ぎたか分からないけど、我に返るまでただアクセルをベタ踏みし続けたわけか。それに付き合わされたら、そりゃあ……こうなるか。

 これは謝らないと、それこそ殴られる。そう察して口を開こうとしたタイミングで、千夏先輩は――グッと上体を倒して俺に覆い被さった。まるで攻守交代しようというかのように。

 いや、ようにじゃない。その顔に浮かんだ悪戯な表情は告げている、ここからは私のターンだと。いつのまにか息も整い、瞳に光を戻した千夏先輩は肉食獣のオーラを纏って見えた。

「ずいぶん好き勝手してくれたねぇ、今度はこっちから行くねぇ……っ」

 いやそもそも最初に好き勝手したのは貴女ですけどね、俺は完全に振り回されてますけどね。

 まあ、良いか。こういう千夏先輩を、俺は好きになったんだから。

 こっちもまだ動ける、なら全力でぶつかろうじゃないか。

 どっちが先にへたるか、根比べと行こう。

 

 

 結局あの後俺たちは、時間を買えるだけ買った。夜の帳が降りて尚、どちらも止まらなかったから。

 あんた達いつになったら帰って来るの、と母さんからメッセが飛んできてようやくバタバタと帰り支度をしたくらいだ。当然注意はされたけど、まあ怒られたまでは行かなかったな。千夏先輩が流暢に言い訳をしてくれたお陰だけど、ああいうのが「講釈師見てきたような嘘を吐き」ってやつなんだろうか。さも事前に用意したかのように、嘘八百が出るわ出るわ。やっぱり半端ないなこの人。

 そしてあの日以来、千夏先輩はどんどん大胆になっていっている。とは言え部活を蔑ろにしたり勉強を疎かにする事は無く、ただ二人きりになった時の甘え方が尋常ではないと言うだけなのだけれど。

『ねえ大喜くん、おやすみのキスがまだですよ?』

『今日は疲れちゃったよ、大喜くんハグして充電しないと』

『トレーニングしすぎて胸が凝ったなぁ、揉んでくれないかな~』 

 ……毎晩がこんな感じ。凝るほど無いでしょう、と軽口叩いたら強めに小突かれたっけ。気にしてるんだろうか、でもバスケやってるんだし、体型はスリムな方が良さそうな感じもする。

 まあ色々あっても、幸せではあるんだよね。それに千夏先輩、やっぱり家では強引にしようとはしない。何かにつけてキスはしたがるけど、その先はこっちが言えばそれで我慢してくれている。いつまで続くかは分からないけど。……今のうちに部屋に鍵付けるべきだろうか、でもあの人無駄に器用だし。半月錠なら外側から一分かからないで開けられるらしいもん、なんなんだあの人は。

 それに俺だって、したくないわけじゃないし。こっちから積極的になると母さんにバレたりしかねない、ってだけで。下手したら俺の名字が無くなってしまう、追い出されたくはない。まあ千夏先輩と二人なら、どんな苦労もいとわないけどさ。

 うん、そのつもりだったんだけど……。

 最近また千夏先輩が、不穏な事を言い始めたんだよな……。

「私がバスケ引退したらさ、……そろそろ赤ちゃん作り始めない?」

 待て待て待て待て、ちょっと待て。この人なんで段階を踏まないんだ、一速と七速しかないのか。気が早いって言うか何て言うか、それ俺の人生が詰んでしまうんじゃないだろう。

 まあ、そりゃあホテルで思ったことは偽らざる本音ではあるけど、だからって……良いんだろうか。

 だけど、……うん。そういう事を考える必要も、あるかもしれないな。

 俺たちはお互いが大好きで、この先もずっと一緒にいたい。ならきっと、どうにかなるさ。

 ……なると良いなあ、本当に。ちょっと不安だけど。

  

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