好きか嫌いかで言ったら嫌いだった、だろうな。最初はそうでもなかった、出来もしないのにちょこまか忙しく動き回ってる姿は見ていて面白かったし。そして少しずつ上達していくのを見るのも、それはそれで楽しめた。ただ、だ。その速度はあまりにも早すぎて、可愛いげがまったく無かった。そしてあのバカは、それを一切自覚しない。頑張れば頑張った分上達するし、好きなことならいくらでも時間をかけられる。それが才能に恵まれた結果なのだと、理解していなかった。……誰でもできる、と本気で思っていたようだから。
私も昔はそう思えていたけれど、でもそれは幼さが見せる夢でしかない。小学校に上がる前から親の見栄を満たすために力を振り絞っていた私に、ナツはほんの数年で追い付いた。「始めるのが遅かったから、その分いっぱい練習する」なんて、とんでもない力業で。それこそが素質と才能の賜物だ、あれは天性の素質と努力する才能を持ち合わせている。
それに耐えきれなくなって逃げ出し、縁を切ったというのに。
ナツは全国制覇こそ果たせなかったもののインターハイで目覚ましい活躍を見せ、その上男連れで出掛ける余裕まである。私はバスケから逃げ出して恋愛に依存したのに、両立させているようだ。またしても私を越えていくのか、ふざけるな。
もう二度と会う事もないと思っているけれど、でも。せめて嫌がらせの一つもしてやろう、なんて思っていた……筈なのだけれど。
何の因果で私はナツの彼氏くんと、ベッドを共にしたりしてるんだろう。
紫煙の香りを鼻に感じながら、私はしみじみ考える。なんだこれ、どうなってんだ。
知ったような事を偉そうに、そう思ったときには遅かった。人間には理性というものが必要で、感情に任せた暴力なんてのは最低の行為だ。ただこればっかりは反射行動だし、途中で止まるようなものじゃない。
気が付けば私の右手は、彼氏くんの頬を思いっきりひっぱたいていた。
そりゃあ――お前からしたら私はクズだろうよ。真剣になって傷付くのが怖いから、日和って逃げ出した。マジになる方がおかしい、と自分を正当化していた。でもな、
私は知っている、真っ直ぐに前を見詰めて進む大切さを。そしてそれが果たせなくなった時に味わう絶望も、すべて知っている。
だからこそ、許せない。こんなバカ野郎が、ナツの隣にいるという事実が。
憤怒と憎悪がない交ぜになり、胸の内を塗り潰していく。そんな中でも冷静を保てるのが、私の特技だ。感情は熱く、思考は冷たく。そうやって私は、勝ってきたんだから。
――クールに行こうじゃないか、クールにさ。
そう、簡単じゃないか。私はコイツが気に入らない、ナツの彼氏という
ブチ壊してやろう、二人の仲を。私が楔になって、破綻させてやる。それこそ簡単だ、愛想を尽かさせるくらいに手酷く裏切らせてやればいいんだから。
「ここで騒ぐのも迷惑になる、河岸変えるよ」
一方的に吐き捨てて、私は歩き出す。このまま喧嘩別れするのが一番お互いにとって平和なんだろうけど、そうは問屋が卸さない。冬風に冷えた頭はフル回転、この先のプランを叩き出す。
ナツの側にいられなくしてやる、精々苦しめ。
……どうやらこの彼氏くん、想像以上に頭が悪いらしい。私を敵視している筈なのに、言った通りに着いてきている辺り相当だろう。その辺の空き地とかならまだしも、人の家まで来ちゃうんだから。
ナツもナツでバカだし、相性は良いんだろうな相性は。あんなオブラートに包みもせず正論ブチかますような空気読め無さだけなんとかなれば、うまくいくかもしれない。
まあ、そうはならないんだけど。この手のヤツは、一回折れれば脆いものだ。二度とナツに顔向けできなくしてやろう。
その思いを込めてステップイン、鳩尾へと手のひらを叩き込んで一気にベッドへと抑え込む。
「ぐ、……っ」
腕力ならば自信がある身だ、それに目的はバランスを崩すこと。気を抜いた所を突けば、そんなのは簡単だ。
重心が揺れた身体はあっさりと沈み、そのまま背中を打ち付けたせいか一瞬目の焦点がブレる。それが、合図。
倒れた所へと覆い被さるようにして私は一気呵成に、
「ん、……むぅっ」
唇をキスで完全に塞いでやった。息も出来なくなる程強く、堅く。
バタバタと動く手足も次第に力を失い、酸欠のせいか舌さえ満足に動かなくなっていく。そしてぐったりと横たわり、生気を無くした瞳を静かに閉じるまで。私はひたすらキスをし続けた。
身体を放して尚、その身体は動かない。よほどショックだったのか、思ったよりも純情なんだろうか。それでこそ、傷痕を残せるというものだけど。
脱力した手足を持ち上げて服を剥ぎ取っても、まだ抵抗はない。素直すぎて張り合いがないけど、まあ良いか。暴れられても面倒だし。
するすると脱がせて最後の一枚にかかろうとして、ようやく僅かではあるけれど抵抗の意思を示す。どうにか脱がされまいと、ゆるゆるとではあるけれど手で私を制しようとしてくるのだ。
そんなのは薄紙程の意味も無いけど、ね。
「さあて、可愛い顔にお似合いの子が出てくるかなー……っと」
伸ばされた手を払いおとして、トランクスをずり下げると予想通り。皮に隠れた、可愛い
初物は嫌いじゃないし、先を越してやったっていうのは傷口を深く出来て良いか。
皮の隙間に指をかけ、少しずつ引きずり下ろしていく。程なく覗いたピンクの先端は、未使用の証か。笠にこびりついた滓を押し退けてしごいてやると、それが充血して赤みを増していく。
このまま一回出させても良いかな、でも長々としたくないし――早々に極めてしまうか。
「んー……」
屹立したモノを扱き立てながら、私も私で弄り出す。サイズ的にはそこそこだし、あまり本格的に濡らさなくても平気だろうけど気分の盛り上げは大事だ。
それに、視覚的な意味もある。身体を浮かせゆっくりと跨がって、結合の瞬間を見せ付けてこそ心をへし折れるというものだ。
大きく脚を広げガニ股になっての、いわゆるスパイダー騎乗位。捕食者の姿勢で私は、……腰を降り下ろす。
ずにゅりと肉がめり込む音と共に、身体の芯を押し開けられるこの感覚。今やバスケよりもこっちに熱心になってしまった、肉の快楽がやって来る。
きっと恐らくこんな快感を知らないであろう彼氏くんは顔を真っ赤にし、必死で抗っているように見える。きっと彼氏くんにだって、理想はあったんだろう。ナツと結ばれる時をどれほど期待しているか、待ち望んでいるか。
――と。
大喜くんの身体がガクガクと揺れ動き、お腹の奥で激しく何かが噴き上がった。
ああ、もう出たか。射精の影響で力が抜けたのか、糸が切れたように大喜くんは四肢を投げ出して呆然としている。
やれやれ、堪え性がない。しかしこんなにもあっさり堕ちるとは、自分の魅力が恐ろしいね。まあ男なんて、穴なら何でもイケる生き物だけど。
「どうかな彼氏くん、カノジョを裏切った感想は?」
言い訳はするだろう、襲われて抵抗できなかったとかさ。でも念のため
どうやったって詰み、それが分かっているんだろう彼氏君はさっきから顔を押さえてグスグス泣き続けている。
私を舐めるからこうなるんだ、正論小僧が。
「ち、がい……ま……す、俺は……」
何を言おうというのか、この状況で。違うも違わないも無いだろうに。まあ負け惜しみくらいは聞いてやろう、と続きを聞こうとした私は。
「まだ……告白もして……ない、んです……っ。好き、なだけ、でぇ……」
その言葉に、思わずスマホを取り落としてしまった。
彼氏くん……いや大喜くんは啜り泣きをしながら、事の顛末を語ってくれた。ナツに憧れて
と言うか考えてみれば、これをネタにしてナツを揺さぶると不味い。そもそも私が彼氏持ちなんだから、こっちもこっちで破綻するわ。どうして事前に気が付かない、私。あいつに一泡吹かせてやろう、とそれだけで全く他を考えてなかった。クールを気取っててこの様、なんなんだよ一体。
現役時代ナツとコンビが成立した辺り、まさか私も相当バカなんだろうかな。いやいやそんなそんな、あんな空前絶後のアホと一緒にはされたくない。
だけどどうしたものか、いぢめても仕方ない相手だったとは。彼氏をいたぶってやればナツも歯噛みしただろうけど、取り巻きA程度じゃ意味がない。地雷踏んでくれた件に関しては一発ひっぱたいた時点で済んでるんだから、その先はナツへの当て付けにする気だったというのに。
どうしたもんだろうかな、実際。
まあまずは、こう言うしか無い。
「とりあえず、今日の事はナツには黙っておきなさい。別に気にしなくていいから、犬に噛まれたと思って」
噛んだ側が言う台詞ではないけれど、ここは場を納めるのが先決だ。ここで長々と揉めると後が面倒だ、とにかく帰らせよう。
まだ泣き止まない大喜くんを外面モード全開でなだめながら、私はそれだけを考えていた。
「夢佳さん、どうかした?」
「ん、あー……いや別に。ヤニ切れただけ、取ってよ」
まだ高校生なんだから程々にしておきなよ、と苦笑しつつもちゃんとニコチンタール箱を放ってくれる彼。たしなめはするけど怒らない、こういう所がやっぱり好きだな。
でもなあ、まさか他所の男に跨がってたとか知ったらさすがに怒るだろう。て言うか捨てられるわ、私。
考えなしに突っ走り過ぎたな、これは。ニコチンのおかげで頭が冴えてきたのか、素直にそう思える。そもそもの時点で、私は何をやっているんだろうな。ナツに嫌味を言いたいだけで、別に全否定したいわけじゃないのに。
売り言葉に買い言葉でヒートアップし過ぎたな、冷静に流しておくべきだった。まあ今さらだ、考えるのはもういい。
今は目の前の事だ、集中集中。
そんな想いのままタバコを灰皿で押し消し、キスを交わしあう。
ヤニ臭く苦い唇だろうに、文句ひとつ言わない彼が――やっぱり好きだ。御互いを貪るように、粘膜を侵しあう快感。男の子を組敷くのも悪くないけど、こういうフラットな関係が一番いい。愛して愛されて、が私の理想だから。
肌を重ねる瞬間に過る僅かな罪悪感、それもまたスパイスだと思おう。いつしか身体は焼けるように熱くなり、内側から欲求が溢れ出す。
それに従って唇は彼の肌の上を滑り、舌が追撃を開始する。勝手知ったる人の身体、どこがどう感じるかは把握している。
ピチャリピチャリと大袈裟な音を立ててあげると、すぐ切なげな吐息が漏れ出した。
全く相性が良いんだな、つくづく。こう素直に反応してくれると、嬉しくて更に捗ってしまうじゃないか。
口の愛撫に合わせて指を這わせ、弄る範囲を拡大していく。でも私は意外と優しくない、一番触れてほしいであろう場所は敢えて御預け。焦らして焦らして、そこから……のつもりだったのだけれど。
ビクンと彼の身体が震え、腰の下に感じたのは熱い迸り。
「あ。……暴発させちゃった、かあ……」
念入りに周囲を弄り過ぎてしまったのか、本陣へ触れる前に射精してしまったようだ。感じてくれるのは楽しいけど、かけられるのはちょっと困る。正直生臭いし。
しかし回数は重ねている筈なのに、大喜くんより敏感なんだな……なんて思ってしまう私。比べる気なんか無いんだけどね、うん。好きなのは彼であって、大喜くんとのアレはアクシデントだもの。うんアクシデント、或いは事故です多分。
……ぬう、いけないいけない。これじゃ浮気したみたいじゃないか、してないかって言われると微妙なんだけど。
仕切り直しだ、仕切り直し。
じゃあ次はこっちでね、と私はベッドに背を預けて脚を開く。そして入れやすいよう、私自身もまた指で割り開いてあげる。くちゅりと粘液が立てる音が、我ながらいやらしいな。
こんな風に拡げて中を見せるのが、どうも彼は興奮するんだとか。個人的にはちょっと変態っぽいとは思う、まあ愛があるから許せる範囲だな。
息を荒げて自分を扱きながら重なってくるその姿はちょっと笑えるけど、そこもまた愛でカバーだ。下半身と同時に唇同士も密着しあい、上下で粘膜が繋がった瞬間、脊髄を稲妻が走り抜ける。他の誰が相手であっても、こうはなるまい。向こうもそう思ってて欲しいな、難しいだろうけど。
私の思いを知ってか知らずか、彼は私を掻き抱きながら腰を動かしていく。一突き毎に愛が深く深く打ち込まれ、引き戻される度に名残惜しくて膣粘膜が彼を離すまいと絡み付いていくのが分かる。
いつしか御互い、夢中で腰を叩き付けあっていた。
バチバチと目の裏に閃く稲光と、子宮目掛けてドクドクと放たれる精液。それを感じて尚、彼に止まる気配はない。今夜もきっと、力尽きて動けなくなるまでは続くんだ。部活よりずっと身体使ってる気がする、幸せすぎて死にそうだ。
安いAVとかなら浮気相手の方が良かった、とかなるんだろうけどおあいにく様だ。慣れ親しんだ彼の方が、私としては気に入っている。
まあ一回限りの事だし良いか、と思ってはいたのだけれど。
何の因果かズルズルと、あのまま関係は続いてしまっている。最近では一丁前に自分から動こうとしたり、聞き齧ったらしいやり方を試そうとしたりとなかなかに生意気になっている。可愛い顔して結構好き者なんだな、と言うか要するにバカ。
そしてどうも本人いわく「千夏先輩相手におかしな事を考えるのは心苦しい」という事で、代わりに私を……というニュアンスで捉えている感じらしい。
いやバカだろお前、浮気って言葉知ってるか。本当に下手をすると、ナツよりもバカかもしれない。バカとバカは引き合うんだろうか、スタンド使いでもあるまいに。
とは言え、二人の関係自体は進んできているらしい。先日告白してきたと、
しかも、だ。あれはこうも言ったのだ、「大喜くんがお世話になってるって聞いたんだけど」と。〽️折々亭主がお世話になると、遠火で焦がさぬ焼き上手……ってか。
何処まで話したのかは知らないが、少なくともナツは私と大喜くんが親い間柄だとは分かってるわけだ。その上でニコニコしてるんだから、アドバイザーみたいに思っているのかもしれない。あのバカには裏も表もあったもんじゃないから、揺さぶって私をハメようって意図は無いと思いたい。
ああ、まったくお似合いのバカ夫婦だなコイツらは。
……あー思い出した、このバカを嫌いになった理由。一緒にいると物凄い疲れるんだ、迸る程バカだから。真っ直ぐ過ぎて身が持たない。
でもま、今は学校も違うし、この先大して絡むわけでなし。知り合いに超弩級のバカがいたって、別に良いんだけどさ。…うん。
これからどうするか、どうなるか。気にしたって、仕方がない。昔の偉い人が言ったじゃないか、「大抵の揉め事は、タバコ一本吸う間に心のなかで解決するものだ」と。
一服して、呑気にやっていこう。それでいいさ、多分。
そうとでも思わないと、やってらんないし。