参ったな、これは。借り物の部屋でベッドに転がり、私はぐちゃぐちゃになっている思考を纏めようと試みる。まあ、上手くいくわけが無いんだけどね。私は考えれば考えるほど、泥沼に填まっていくタイプだから。それでも考えなければいけない、このままにはしておけない。
誤解を解かないといけないし、返事もしなければならない。そうしなければ、大喜くんと向き合えなくなってしまう。
「あー……、もう。なんであんな……」
寝返りを一つ、そのまなんとなく叩いた枕は酷く熱い。そりゃそうだ、今の私はサーモグラフィーで見たら真っ赤通り越して真っ白になるくらいに発熱している。全部大喜くんのせいだ、間違いない。
遡ること半日前。合宿もほぼ終わって後は帰るだけという時分になって大喜くんは、私に言った。
――好きです、と。
それは、……とても嬉しい事なんだけど、でも。問題なのは、そのあと。
『先輩に好きな人がいるのは知ってます、だから俺を好きになって欲しいとは言いません。ただ、千夏先輩を好きでいさせてください』
……と来たもんだ。何処でどうこんがらがったのか、どうも大喜くんは大きな勘違いをしているらしい。
私の好きな人、それは……大喜くん、だ。まだ「好きかもしれない人」みたいな段階にいる可能性もあるけど、さ。なのにどういうわけか、私が他に誰かを好きになっていると思い込んでいる。
これはさすがに、不味いな。大喜くんは真っ直ぐで純真、悪く言えば単純なおバカさん。一回信じたことは絶対に曲げない、曲がらない。
私が否定した所で、大喜くんはきっとこう思う。「俺に気を遣って、傷つけないようにそう言った」と。まだ一緒に住んで半年くらいだけど、そうなるのは確実だと分かる。大喜くんはそういう子なんだから。
とは言え、このまま両片想いなんて馬鹿馬鹿しい状態を続けるわけにはいかない。蝶野さんにも悪いし、何より私が持たない。
そうするとどうしたら良いか、私の頭では妙案なんか思い付かない。それに壁一枚向こうには大喜くんがいるわけで、その事実がただでさえ回らない頭を更に鈍らせていく。
窓辺においたサボテンはまだ蕾も付けていないのに、どんどん私の周りは変わっていく。
あぁ、どうしよう。
切れ切れの睡眠を繰り返しながら朝を迎えて階下に降りると、大喜くんは既に登校してしまっていた。普段より大分早いけど、やっぱり向こうとしてもあれこれ意識しまくっているんだろうな。正直今は顔を合わせにくい、体育館でも気まずいかも。まだ名前さえ知らなかった頃のように、挨拶だけしてお互い黙々と朝練するしかないか。
「おはようございます、由紀子さん」
「あぁおはよう千夏ちゃん、大喜ったらもう朝練するからーって行っちゃったのよ。昨日まで合宿してたのに、どれだけ練習したいのかしらね」
いつも通りの朝、それを崩さないように平生を装おう私。まさか由紀子さんに相談なんか出来ない、それだけはダメだ。
変化を悟られないよう静かにかわす、それは17年ずっと続けている私の特技。熟練の冴えは家族さえ欺ける、これが通じないのは――大喜くんくらい。インターハイを二回戦で終わらせてしまった、先輩の夢を果たせなかった、そんな動揺や焦りは硬く隠してたはずだった。でも大喜くんはそれを感じとり、敢えて何も触れなかった。気付かないから無視したわけじゃない、あの優しい対応は大喜くんの心根が為せる業だったのだろう。
同じ部屋で一晩を過ごしたあの日きっと私は、――本当の意味で大喜くんが
だからこそ、今の誤解が辛い。早くどうにかしなければ、と気持ちばかりが先走っていく。
ダメだ、落ち着け。私はいつだって、クールでいなければ。
「じゃあ行ってきます、由紀子さん」
「行ってらっしゃい、
バッグを肩にかけ、玄関を飛び出してようやく、私はふと気付いた。由紀子さんが発した言葉の違和感に。
……どういう意味だろう、それは。
しかし考える時間は無い、いつものルーティンを崩せばそれこそ変に思われる。
きっとただの気紛れだ、受け流せ。私はそれで良いんだ、多分。
朝からの不調は昼過ぎになって、ついに結実してしまった。午後の授業を受ける気にならないまま、私は屋上で踞っている。ここは人が来ることなんかまず無い、落ち込むにはちょうど良い場所だ。
何もかもが、辛い。昨日の今ごろは帰り支度をしていた、まだあの話をしてはいなかった筈だ。ほんの一日前が、余りに遠く懐かしい。
――と。
立て付けの悪い扉が遠慮がちに開けられ、隙間から誰かが屋上へと出てくる。
「あぁ、いたいた。珍しいじゃない、千夏がサボりなんて。こりゃ明日は大雪だわ」
軽口を叩きながらやって来たのは、手にポカリのペットボトルを携えた渚だった。こいつは私が落ち込む場所をよく知っているから、様子を見に来たんだろう。
こんな姿を見せたくはない、見せるわけにはいかない。大喜くんの前でだけは、ちゃんとした先輩でいなければ。
でも今は大喜くんがいないから、渚と二人きりだから。
だから私は、ちゃんとしていなくても良いんじゃないだろうか。この親友に、弱さを見せてしまいたい。そうでなければ、
そんな私を先回りするように渚は笑って、私の手にポカリを握らせた。
「……頼ってくれとかなんとかしてやるとか、そんなのは言わないけどさ。黙って愚痴を聞くくらいの事はしてあげるよ、友達だもん。そうすりゃ少しは、楽になるでしょ」
何を悩んでるかは知らないけどね、なんて軽く言う渚の姿が不意に歪んだ。涙で視界が滲んでいくのが、どうにも止まらない。
ああ、全く。私は周囲に恵まれているよ、本当に。
私の辿々しく不器用な言葉を、渚はどう聞いているんだろう。何処か頭の中でそう思いながら私は、自分の想いを打ち明けていた。
大喜くんを好きになったこと、告白されたこと。誤解されていること、蝶野さんのこと――それらを全て。
他に誰もいない屋上で私たちは向かい合い、風に吹かれながら何分そうしていたか。
ややあって渚は、言うべきことを言い終えた私の手を掴んで。
「――バッカじゃないの?」
……………………あっさりと、結構ヒドイ事を言ってくれた。おいこら親友。
そして更に。
「大喜くんはあんたの事大好きだし新体操ちゃんは大喜くん好きでしょ、んであんたは大喜くんが好き。それは前から全部知ってるって。んで告白されたけどなんか勘違いされてて凹んでます、って話でしょ。悩む必要がどこにあんのよ、違うって一言言えば済むわよ」
信じられないくらい簡単に、纏めてくれやがった。て言うか、知ってるってなんだ。どうして以前からそんな細かく知っていたとか言うんだ、この女は。
私は今まで厳重に、隠し通してきたのに。それに大喜くんだって蝶野さんだって、軽々しくそんな話をするわけがない。
いくらなんでも、そんな――。
「一応言うけどさ千夏さんや、あんたは表情が固いだけで内面がダダ漏れしてるからね? 部活中も大喜くんばっか見てるし、新体操ちゃんが近付くと露骨に嫌そうなオーラが出るし。大喜くんはともかく、新体操ちゃんは気付いてるわよ絶対」
えー……まさか。齢17まで鍛え上げてきた筈の穏行力が、全て気のせいだったと言うんだろうか。みんな私に気を遣って、見て見ぬふりをしてくれていただけで。そうなると私の人生、なんだったんだろう。
「あとね、行動しない理由に他人を使うんじゃありません。大喜くんがこう思うだろうから言わないでおこう、なんて逃げてるだけ。理解してくれるまで言い続けなさい、みんなそうしてんだから」
渚の口調は軽いけど、その瞳には真剣な光が宿っている。私を気遣い、私のために言ってくれている。
それが分からないほど愚かではないつもりだけど、でも。
「大丈夫よ、ダメでも骨くらいは拾ってやるから」
頭が追い付かないままの私に背を向けて、渚はそのまま軽やかに立ち去っていく。
一人残されて、私は考える。この後の事を。
――骨は拾うと言ってくれた、なら恐れることはない。きっと、多分。
気持ちを立て直して帰路へと着くまで数時間もあったけど、私はもう大丈夫。行ける。
猪股家へと帰って、挨拶もそこそこに階段を駆け上がる。目指す場所は、ただ一つ。
「あ、……おかえりなさい、千夏先輩」
迎えてくれた大喜くんは何処か堅い、
ああ、そうか。私もきっとこんな顔をしていたんだ。そりゃぁ――バレるわな。
でも今は、それどころじゃない。
「聞いて。私が好きなのは、大喜くん。他の誰でもない、キミなんだよ」
一切の配慮もなく、力尽くに真っ直ぐに。ミサイルでももっと湾曲すると思うけど、でも私はこうするしかない。言っても伝わらないなら、伝わるまで言い続けてやる。
「だ、だって菖蒲が……。千夏先輩は男バドの、帰国子女の人が好きだって……!」
菖蒲……? あのバカが余計なことを言ったのか、今度会ったらひっぱたいてやる。
いや、後で花恋に電話して文句いってやろう。私の大喜くんに妙なこと吹き込むなんて、許せない。
引っ掻き回される身にもなれ。
「違う。松岡くんを好きになって無い、私は大喜くんが好き」
「でも俺は、俺は……。雛にもちゃんと返事できない、部活も中途半端で……!」
それを言うか、この私に。何もかもがメチャクチャで、形だけ取り繕ってばかりの半端者に。私と比べたら、大喜くんの方が億倍マシだ。その真摯さに、熱さに、どれくらい私が救われてきたか。私こそ出来の悪い見下げ果てた先輩だ、間違いなく。
「こんな俺なんかが、千夏先輩に……」
「そんなの知らない、私は大喜くんが好き。大喜くんがどう思おうと、大喜くんだけが好き。他の誰も、好きになんかなれない」
気が付けば大喜くんを壁際に追い込むように、私はどんどん前へ出ていた。
近付きたい。触れたい。好き。
その想いが私を突き動かす。
そして――。
「んむ……っ」
大喜くんを強く抱き締めて、私はそのまま何一つ躊躇うことなく、……キスをしていた。
唇を重ねあったまま、どれほどが経っただろう。
永遠のような一瞬のような、そんな長く短いキス。
私から始めたそれを終わらせたのも、やはり私だった。
顔が焼けるように熱いまま、それでもどうにか身体を離していく。
「大喜くん、は。私が、好きでもない人とキス、するような、女だと思います、かっ」
息は上がりきり、言葉は切れ切れにしか出てこない。
キスって、こんなにも凄まじいのか。全身が焼け堕ちそうなくらい火照り、心臓が爆発しかねない程に危険なビートを刻んでいく。
いや、もう爆発してしまえ。何もかも消し飛ばすくらいに、激しく。
「これで、足りな……いなら、……もっと、してあ、げるよ」
殴りかかるように勢いよく大喜くんを捕らえ、再びキス。キス、キス、キス。
背骨よへし折れろ唇よ砕けろと苛烈にキスの雨を降らせ、そして抱き締める。
腰が抜けたように力なく崩れそうになる大喜くんを、それでも離さない。離したくない、離れたくない。
このままずっと、もっと。強く深く、何処までも――!
そう思った、まさにその時だった。
「二人とも、そろそろご飯だから降りてらっしゃーい」
余りにも平和な、日常そのものな由紀子さんの声が私の思考を現実へ引き戻した。
ハッと気が付けば、大喜くんは目を白黒させて今にも倒れそう。
そして窓ガラスに写る私の顔も、混沌色に染まって見える。
――なんなんだ、これは。勢いが削がれたせいで、遠くへ行っていた理性も帰ってきたようだ。おかえりなさい。って、そうじゃない。
「あー……うん。そういう事だから、ね」
どういう事だよと自分で自分に呆れつつ、私は今度こそ大喜くんから身体を離した。
まだ胸の鼓動は爆音のままだし、顔も紅いだろう。それでもどうにか、自身を立て直す。
とりあえず、下へ行かなければ。日常に戻らなければ。
ああ、まったく――どうしたものか。
どうにもならないまま、ぎこちなく気まずい状態で食事を終えて。なんとか溺れる事なく無事入浴を済ませ、私は部屋で悶々としている所だ。
花恋へ電話する気にはなれない、菖蒲ちゃんは明日学校で会ったときにでも殴ろう。〽️出会い
なにやってんの、私。その想いだけが頭のなかを廻っている。ああ、もう。
叩き付けるような告白と、暴力的なキス。どう考えても正気じゃない、何処までも狂っている。いやそれだけなら、まだ良かったかもしれない。
あろうことか私は、先程大喜くんに言ってしまったのだ。風呂へ行こうとする所を捕まえて、「後で部屋に来て」――と。
風呂上がりの大喜くんを呼びつけて、まだ湯上がりの熱が残っている私は一体
どう考えたって、これはもう。
「……することなんか、一つしかないよね……」
恋人同士がすること、愛し合うという言葉を体現する行為。つまり所謂一つのあれ、……セックスというもの。
いやまあ、うん。強引で無秩序で滅茶苦茶だ、ここまで無茶な話はそうそう無いだろう。こんなバカをやらかすほど私はポンコツだったのか、我が事ながら呆れたものだ。
大喜くんに告白する、相思相愛になる、そこまではまだ良い。大喜くんと
それにどの面下げて蝶野さんに謝れば良いんだ、殴られたって文句は言えない。あの子の一途さを、私は知っている。あんな良い子を泣かせて、それで何を得るというのか。
考えれば考えるほどに、自分の愚かさばかりが身に染みてくる。
だけど、でも。
「私は大喜くんが、好き。全てを捨てても良いくらいに、好き」
口に出してようやく、私のなかで何かが結実するのを感じた。
居候としての矜持も蝶野さんへの葛藤も、脇に置いておこう。私が望むことだけを、ひたすらに求めよう。
愛しているから。それだけで良いんだ、私は……いや私たちは。
そう思えば思うほどに、身体の芯がどんどん熱くなっていくのが分かる。その中心は、お腹の奥。そこから沸き立つ熱が腰を浮かせ、少しずつ脚の間から漏れ出ていく。普段はあまり触りたくない場所、私のその――オンナノコが燃えている。そう思えるほどに、熱い。
「んー……、あ……?」
右手の人差し指で触れてまず感じたのは、ぬるついた湿り気。たまにオナニーはするけど、弄る前からこんなに濡れているなんて初めてだ。それに殆ど濡れないまま終わる事もあるのに、今日の湿度は自分でも引く。どれだけ大喜くんを
裂け目を拡げるとそれは更に増え、あっという間にシーツに染みが出来ていく。それをぼんやり恥じ入りつつも、指はまったく止まろうとしない。いつしか中指も加わって、グチュグチュと音を立てていく。左手は左手で、シャツの下で隆起していた乳首を攻めあげ、乳房全体を捏ね回し、欲望を加速させる。
オナニーに夢中になるなんて、どれくらいぶりだろうか。それこそ覚えたての頃以来かもしれない。浅ましいとは思うけど、でも止まれない。
このままもっと、と快感に身を任せようとした、その時。
小さなノックの音が、私の意識を引き戻す。
『千夏先輩、あの……入って良い、ですか?』
そして聞こえた声の主は勿論、大喜くんだ。さっき私が呼んだんだ、間違いない。
熱に浮かされた頭で返事しようとした私は、ようやく自分の姿に意識を通した。
オナニーの真っ最中、身体は発情しきっている。不味い、これは不味い。不味すぎる。
「あ、……ちょっと待ってて! 今その、えーととにかくそこにいて!」
汚れたシーツを蹴り飛ばしてベッドの下に隠しつつ、とりあえず服を着直す。まったく、なにしてんだ私は!
バタバタと片付ける事数分かそこら、なんとか私は大喜くんを招き入れた。
……でも、だ。
落ち着かない表情の大喜くんと二人、ベッドに腰かけたまま私たちはあれから黙ったまま。……変な匂いとかしてないかな、平気だと良いけど。いやまあ、それを尋ねるほどの勇気はない。
呼んでおいてこのまま黙っているわけにはいかないけど、でもなかなか上手い言い回しが思い付かない。大喜くんの気持ちを尊重しつつこの場をどうにか――、そう考えた所で私はかぶりを振って思い止まる。
そうじゃないだろ、私。考えすぎて動かなくなって、そのせいでどれだけ間違ってきたか思い知ったじゃないか。変な遠慮と歪んだ気遣いで、大喜くんを振り回してきたんだから。
もうそんなのは、止めるんだ。
したいこと、するべきことを只しよう。それで誰かが傷付こうとも、立ち止まるより遥かにマシだ。
一直線に、突き進む。
「大喜くん、私はキミが好き。キミだけが好き。大喜くんの全てが、欲しい」
言葉は不器用で、時に無力だ。だからその先に進むには、身体ごと行くしかない。
そっと抱き締めた大喜くんの唇に、改めてキスを落とす。さっきのように力尽くじゃない、気持ちを込めたキスを。
じんわりと広がる熱は心地よく、頭を蕩かしてしまう。その熱に導かれ、大喜くんのはだけた胸元にもキスをする。その肌は甘く熱い、私と同じように火照っている。
お互い
「私は大喜くんと、……したい、です。セックスを、したいです。良いです、か」
お互いに服を脱ぎ捨てて、脚を開いたままベッドで向かい合う。大喜くんの視線は私のオンナノコへと注がれ、勿論私は大喜くんのオトコノコを見つめている。手を伸ばせばすぐに触れあえるほど、近くで。
それがどうなっているのかどうしても見たくて、でも大喜くんはすごく恥ずかしがって真っ赤になってしまった。じゃあ私のも見せるから、とそんなこんでよく分からない格好になっているわけだけど――。
「あ、……の、千夏先輩。なんかその、スゴい……ドロドロなんですけど、大丈夫なんですよ……ね?」
……どうして大喜くんと来たら、こうなんだろう。そりゃまあ興奮しきっているしさっきまでオナニーしてたしで、ドロドロになってたって仕方ないじゃない。
そう言う大喜くんだって、相当だ。血管が浮いて見えるほど張り積めたそれは、手で触れると火傷しそうなくらいに熱くなっているしガチガチに堅い。大丈夫なのか、はこっちの台詞だ。いやまあ、よく考えたら心配するのは大喜くんじゃなく私の方かな。だってこれが――入るって言うんだから。
それでもまあ、どうにかなるだろう。私たちなんだから。
じりじりと近付いていく、私たち。だけどその姿勢は少しずつ傾き、私が大喜くんへ覆い被さる格好になっていく。どうも私は、そういう進み方が性に合っているようだ。
更に進んで腰を浮かせ、天井を向いた大喜くんのオトコノコの真上に私のオンナノコを持っていく。
「じゃあ、大喜くん。行く……から、ね」
痛いとは聞く。そりゃまあ痛いんだろう、指もロクに入らない場所にこんな大がかりなモノを捩じ込むんだから。
だけどまあ、どうにもならない程でもないはずだ。花恋だって平気だったんだし、あれよりかは運動部な分多少は私の身体の方が頑丈な筈だ。
女は度胸だ、きっとうまく行く。
そんな事を自分に言い聞かせながら、腰を落としていくけれど――。
「ん、……ぉあ……っ、これ、はぁ……」
やって来たのは覚悟していたような痛みではなく、僅かな異物感と胎内を押し上げる圧力。そして甘くゾワゾワとする快感だけが、押し寄せてくる。
さっき解しすぎたのか、それとも体質的なものか。まさか私が人より緩いって事はないだろうけど、うーん。
まあ、良いか。痛くないなら、それに越したことはないし。
そう思いながら身体を沈めきった、その時。私の下で大喜くんが、弾けるように身体を震わせた。
「あっ、先輩、出……っ!?」
悲鳴のような声と共に、大喜くんが私の中に何か放ったのが直感的に伝わってくる。粘膜の内側に迸る熱い液体がなんなのかは、考えるまでも無い。大喜くんの精液が、私の中に注がれている。それだけ、だ。何の問題があろうか。
私が快感を味わっていたのと同じくらいに、大喜くんも感じてくれた。それは何よりも、幸福な事なんだ。
まだ脈打つオトコノコの感触を楽しみながら、私は大喜くんとキスをする。
もっともっと、愛したいから。もっともっと、愛されたいから。
舌を絡め合う間にも、大喜くんのオトコノコは私の中で猛っていく。やっぱり大喜くんも、私と同じ気持ちなんだな。
意識しないまま腰がだんだんと動きだし、知らず知らずお互いの口からは喘ぎが漏れていく。吐き出される精液の量はどんどん増えているのか、結合部からはぶしゅぶしゅと空気の混ざった湿っぽい音が絶え間なく続いている。……大喜くん、これ何の音だと思ってるんだろうか。まさかお尻からだとは思ってないだろうけど、ちょっと恥ずかしいかも。
良いんだけどさ、別に。だって大喜くんには私の身体を、奥の奥まで知ってほしい。身体の隅々まで精液を染み込ませて、私を染め尽くしてほしい。もっともっと、いっぱい愛し合いたい。恥ずかしさよりずっと、その欲求の方が強い。
このまま息が上がるまで繋がっていよう、そして少し休んでから一緒にお風呂に入り直そう。
ああ、幸せだな。思いきって突っ走って、良かったな。
「…………アンタ、バッッッッッッッッカじゃないの!?」
――背中を押してくれた渚に報告して、ちゃんとお礼を言っておこう。そんな殊勝な事を考えていた私に対しての渚からの返答が、これだ。バカなのは知っているけど、そうも溜めて言われるほどのバカでもないんだけどさ。いや、うん。自分ではそう思ってるよ、ハイ。
さすがに一言文句言おうと思ったけれども、渚の圧が強すぎてたじろいでしまう。この馬鹿げたプレッシャー、試合で活かしてくれないもんだろうかな。渚の圧で相手チームが気圧されてくれれば、私らも動きやすいんだけど。
「あーのーねー……、告白とかはまだしも、誰が一気に最後までヤれって言ったのよ! 少しは自分を大事にしなさい! 男なんて全部ケダモノだって、前教えたでしょうが!!」
そりゃ渚の弟くんがおサルなだけだと思うけど、とりあえずは指摘しないでおこう。こうなった時は黙ってるのが一番だ。
まったく、渚にまでこうも言われるなんて。ついさっき、蝶野さんとやりあったばかりなのに。
何も言わないままじゃアンフェアだと思って一応話したのに、まさか全力で殴りかかってくるとは思わなかった。睨み付けるくらいならともかく、ノータイムで暴力に訴えないで欲しい。即時応戦して無力化した後、追加でたっぷりディスられたし。とは言え蝶野さん、「引き下がる気なんかねーですから!」って吠えてたしこれからはバチバチにやりあう事になるんだろうな。
「あのさ、千夏。あんた何一つ聞いてないでしょ」
「……滅相もない」
まあ、実際聞いてないけど。だって過ぎたことをグチグチ言っても始まらない、先を考えないといけないんだ私は。
私はもう、我慢しない。好きな人に好きだと言える、これ以上の幸福があるものか。
今日は帰ったら、由紀子さんにも打ち明けよう。それで追い出されるようなら、大喜くんの首根っこ掴んで連れてって二人暮らししても良いんだし。
そして明日からは、もっともっと頑張ろう。部活も勉強も、何もかも。大喜くんが誰よりも私を好きでいてくれるように、私が大喜くんを誰よりも好きでいられるように。
愛の力は、いつだって奇跡を起こす。……多分、きっと。