人間万事塞翁が馬、なんて古い言葉もありまして。世の中なるようにしかならない、ならないようになった
でも流されてこうなった訳ではない、ちゃんと選択した結果だ。私は私の人生を完遂する、文句があるなら世界を引き連れて挑んでこい。私は折れない曲がらない、何があろうとも。そうするだけの勇気を、大喜くんがくれたんだ。
日本に残ったのは、かつての涙を思い出したから。二度と敗北に暮れたくないという誓いを、大喜くんが呼び覚ましてくれた。そうでなければ私は、きっと今こうして生きている事さえ無かった。大喜くんは私の背骨であり心臓だ、何があっても離れたくない。
外を舞う雪の華を見やり、私は拳を握る。細工は済ませた賭けには勝った、年末年始は二人きりになれる。
あの日、ホワイトデーの時みたいに。
告白はされたし付き合いだした、でもなかなか実感が沸かないままだったあの頃。恋人同士ですること、イメージは出来ても実行するまでが遠すぎる。それに部活を疎かにしたりしたら、それこそ愛想を尽かされかねない。真面目に頑張りつつ大喜くんを好きで居続けたい、これがなかなか難しいんだ。大喜くんの誕生日を口実にしてイチャイチャしたりバレンタインに気合いを入れたりしても、なかなか関係は進まない。
そして迎えたホワイトデー、ここを上手く使おうと周到に用意をしてそして……景気付けに一杯やっちゃったのが不味かったな。
ほろ酔いくらいで留めて「大胆なのはお酒のせい!」としなだれかかったりする計画だったのに、私と来たら勢いで大喜くんに跨がってしまったのだ。
翌朝目をさまして、隣には大喜くんがいるし私は裸だしでかなり狼狽したなあ……。記憶が少しずつ鮮明になってきて今度は青ざめたけど。いやまさかねぇ、あんなことをねぇ。避妊だけはしていたのが奇跡と思えた、多少は理性が残っていたらしいな。
そこから全裸土下座で謝罪し『まず服を着てください』と言われ、二人でじっくりと話し合った。
お互いすることがあるんだからえっちは程々にする、由紀子さんたちにはこの先しばらく交際を隠す。
大喜くんの寝込みを襲わない、性欲を持て余したからって突然跨がらない、学校で襲ったりしない、……等々。基本私が我慢する方向になったのはまあ、仕方ないと言えば仕方がない。
でもなあ、だけどなあ。もうちょっと大喜くんも色気を出してくれたって良いんじゃないだろうか、これじゃ私が性欲モンスターみたいじゃないか。
否定できないのも事実だけど。
何となく素直に同意できないまま、ちょっとだけ大人になった私たちは後片付けに追われたのでした。
「……等と言うことが先日ありましてね夢佳さんや、って聞きなさい! 逃げようとしない!」
そそくさと立ち去ろうとする親友の首根っこを掴んで座り直させてから、私はちょっと冷めてしまったカフェモカを一啜り。うん、長話の割にはまだ温い。
何年ものブランクはあれど、大喜くんのお陰で私たちは親友に戻れた。まあその件もあって夢佳はバスケに復帰し、もしかしたらインターハイで競り合う事になるかもしれないけど。
学校内でも付き合っている事は隠さないといけないから、花恋には相談しにくい。本人は別の学校だけど、絶対菖蒲ちゃんが余計なことするもん。だからこそ彼氏持ちで学校が違う夢佳に話してんのに、この女と来たら。
「私さ、彼氏っていたことないんだよ。だから世間一般では、どれくらい我慢するのが普通なのかなって。週に一回くらいなら合法だと思うんだけど、大喜くんはそれでも多すぎるって言うんだよね」
練習に集中しないと、は分かる。私だって大喜くんの前で格好つけたい、こんなスゴい人を恋人に出来て誇らしいと思ってほしい。勿論逆も然り、大喜くんには格好良く且つ可愛くあってほしい。要するに私たちは、どうしようもないくらいに両想いなのだ。
でもそれはそれとして、ご褒美はほしい。ちょっとした時間に大喜くんを抱き締めたいし、なんなら四六時中キスしたい。
そう熱弁しているのに、この女はまあ聞きやしない。
「お前のノロケも下半身の話もいらんし、私らはその……
こっちはお前らと違って順風満帆でも無いんでね、と夢佳は小さく溜め息を吐く。
どうも夢佳と彼氏さんは、まだ友達の延長と言う感じなのだとか。私たちは友達と呼びあえるタイミングがないまま一足飛びで恋人になったけど、元から友達として仲が良いと関係を進めにくいものらしい。あの「私は天才です」と背中に貼ってあるようなメスゴリラの事だから自信満々で襲っちゃいそうなもんだけど、思ったより大人しいんだな。いや普通は襲わないんだっけ、普通は。いやでもなぁ、私だって普通のつもりなんだけど。
とりあえず、だ。今の問題は、制御を失いつつある私の性欲だ。進級して更に忙しくなる中、大喜くん無しで大丈夫だろうか。
キスやハグくらいはやっぱり合法だろう、でもそれで気がすむかどうか。
そうなると、やはり。オナニーで発散するしかないか、うん。
……でも、だ。そうやって小出しに発散するのも、それはそれで違う気がする。我慢しきれなくなるまでは堪える方が、気持ちいいかもしれない。
大喜くんだって話が通じない相手じゃない、どうしてもしたいときは素直に言えば分かってくれる筈だ……うん多分。
頑張ろう、私。
そして、そして。忍耐と我慢の日々は、もう終わろうとしている。
クリスマスのウインターカップを終えて、これで私のバスケ人生は終わった。全力を尽くして一片の悔いもない、戦って戦って真っ白な灰さえ残さない完全燃焼。笑って泣いて滑って転んで、全部が全部最高の思い出だ。
楽しかったね、楽しかったねぇ。仲間達と交わすのは、そんな言葉だけ。それで良い、これで良い。
本当に楽しかった、夢のような8年間だったな。テレビでプロバスケの試合を観て、お母さんに頼んで地元のチームに入って。ミニバスからバスケへ、色んな人と出逢って別れて、あっという間だった。
バスケがなければきっと、大喜くんに逢うことも無かったんだろうな。そう思えば感慨もひとしおだ。
まあ浸っている暇なんか無かったけどね、うん。
疲れた身体に鞭打って色々と面倒事をこなし、年末年始に大人たちがいない状況を作りあげるのは一苦労だった。私は雑把な人間なんだから、向いてないんだよこういうの。
とは言えこれは必要なことだ、それに――なんだか大喜くんにも誤解があるようだし。ここは一つ、はっきりさせておくか。
なんだか居心地悪そうな大喜くん、その顔を手で挟んで。ゆっくりと顔を寄せ、私は囁く。
「大喜くん、愛しています」
可能な限り短く、可能な限り直通に。ただ一つ、愛だけを。
愛しているから、したい。愛しているから、気持ちいい。
私は盛りがついてるかもしれない、でも大喜くん以外には興味がない。他の誰でも嫌だ、大喜くんが良い。
いつまでも性欲に振り回されていられない、私は自制する中で悟ったのだ。陳腐でも構わない、愛したい愛されたいと。
言葉は足りなくても、その想いは伝わったんだろう。目の前の恋人は、最高のキスで応えてくれたから。
まだ日も高いというのにカーテンを閉めきり、団欒の場である居間で抱き締めあう。背徳的というかなんというか。どうせするならベッドですれば良いんだけど、我慢はしない方が望ましい。それにまあ、こういう明るいところでしてみたかったというのも本心ではある。
冬前にして以来お預けだったのは大喜くんも同じ、身体が我慢に耐え兼ねているのも。はち切れんばかりに勃起した怒張を指先でなぞると、透明な粘液が糸を引く。ああ、期待しているんだ。私を求めてるんだ。込み上げる愛情に従って顔を寄せると、むっと来る雄臭さが鼻を突く。正直良い臭いではない、だけど大喜くん相手だから愛しい。
ちろりと舌を当て、苦みの強い味を楽しみながらゆっくりと顔を動かしていくと、それに伴い聞こえてくるのは大喜くんの可愛い喘ぎ声。まったく本当に、大喜くんはこんな時まで可愛いんだからズルい。でもま、あんまりこれを楽しみすぎても良くないのだ。お互いに楽しまないと、ね。
ずるりと身体を動かし、私は大喜くんへとのし掛かる。抱き締めてキスをしながら、少しずつ交わっていくのだ。大喜くんが私の中を掻き分けて入ってくる、この瞬間はいつだって新鮮に心地良い。お腹の一番奥に感じる、焼けるような熱。内臓を抉られていく、この快感。大喜くんでなければこうなれない、必死でオナニーを我慢してきて良かった。
ぱちゅぱちゅと粘液質の音を奏でながら腰を振りたくり、獣のように喘ぎただただ愛を叫び続ける。我ながら野太い喘ぎ方してるなぁ、なんて頭の奥では何処か他人事みたいに思いながら。
痙攣する身体と沸き上がる熱、幾度となく胎内で迸る精液。粘膜で感じる愛を貪り、それでも満足仕切れないままに私は荒れ狂う。
疲れて動けなくなるまでは、私は止まらない。いつだって私は、ただ突き進むのだから。
いつだって大人に任せきりだった年越し、大晦日というのは忙しいのだな。大喜くんと二人、一戦終えた疲労を背負いながらバタバタしたまま時間は過ぎていく。ああ、ちゃんと支度してからすれば良かったかな。でもま、良いさ良いさ。
コンロの火を消し、一段落した私はうーっと小さく伸びをする。とりあえず無駄に手間はかかったけど台所仕事は大体終わり、後は年越し蕎麦を食べる時に沸かすだけだ。細々した片付けは年が明けてから、二人でしよう。
……二人、か。大人たちは三日まで帰らない筈だ、その間は二人きり。さあて、どうしようかな。早めにお蕎麦食べちゃって、次のラウンドに移行するか。カウントダウンをベッドで迎えて、そのあと初詣でも行こうかな。
いやでも、靴下も履かないくらいダラけたままイチャイチャしてても良いかも。たまにはそういうのも構わないだろう、普段頑張ってるんだからさ。
ああ、良かったね。幸せだね。ずっとずっと――こんな日々が続くと良いね。新しい年を控えて思うのは、そんな事。雲の切れ目から空を彩る、冬の星座を見上げながら。
多分後編は年始のイチャイチャ話にすると思いますのよ。