「じゃあ一体何をしたら、私達の事認めてくれる訳?」
次のインターハイ征してから翌年インカレも取ってやったら満足か、なんならアンタが獲れなかった金メダルもつけてやる。
文武両道がお望みならそこに加え、在学中に海事代理士と司法書士試験ダブルクリアとかしてみせるさ。
私を舐めるなよ、
込み上げる怒りは赤々と燃え上がり、身体髪膚に力がみなぎるのが分かった。こんなにも人に敵意を向けることが出来るなんて知らなかった、と自分に呆れてしまうくらいに私は猛っている。瞳を輝かせ牙を剥き、殴りかかろうとする拳を必死で
私は不肖の娘で良い、理想通りに仕上がらなかった出来損ないと罵ろうが構わない。
でも、だ。私の大事な人を、晴人を侮辱するのは許さない。誰であろうが何であろうが、決して許しはしない。
その澄まし顔を熱線消毒してやろうか、過去の栄光と家柄にしがみつくだけの中年野郎。現役の私が殴り飛ばせば、その首ヘシ折ってやれるぞ。父親ごときが偉そうに、私を誰だと思っている。
「――次に同じ事を言ったら、殺すだけじゃ済まさない」
アワアワとしながらも私を止めてくれている晴人の手をとり、お父さんに背を向け一言掃き捨てる。
私は今も昔も不死身の身体と不屈の闘志を持ち、愛して愛されて更に強くなっている。断じて言わせない、色気付いて気が抜けてるなんて。
見せてやろう、晴人がどれほど私を強くしてくれたか。
証明してやろう、愛より強力な活力源は無いのだと。
すんませんでした、と頭を下げる晴人。いや頭を下げるべきはあのオッサンなんだから、なんて言いはすれども晴人の頭は動かない。
六畳一間の安アパートでこのサイズにまで育った人間がこうやってると、スペースを食って仕方ないのだけれど。まあ家主側がしてる事だし、こっちからは止めさせようもないか。
もっとバドへ真剣に向かい合いたい、柊仁と一緒にいたら越えられない、とかで晴人は進級を機に春から独り暮らしを始めた。そこへ押し掛け女房するようになって、……まあ関係も深まっていくのは必然だろう。そしてあの老害親父の顔も見飽きてきていい加減家を出たい私は、ズルズルと滞在し続けるようになって一ヶ月。そしてつい先日、――発覚してしまったというわけだ。
まさか伯母さ……ゲフゲフ、
私の大姉ちゃんこと蝶野舞、父の姉にして世界に名だたるスポーツドクター(自称)。新体操の才能がなかったから放逐された、と言って憚らない自由人だ。私と同じ赤毛だし一族のなかでは一番気安くて、勝手知ったる蝶野邸にもフリーパスな立場。なもんで家に置きっぱなしな荷物を持ってきてもらったりしてたんだけど、やっぱり油断しすぎた。その過程で『姪っ子の頼みは断れないけど、可愛い弟の頼みも断れないからさぁ』とあれこれアレに話していたなんて、全く以て油断大敵。打つ手も上げる手も無いまま連行されて、そして対峙する羽目になったという訳。
そりゃあ晴人はバカだし礼儀なってないし目付き悪いしバカで見た目チャラくて底無しにバカだけど、バカなりに真っ直ぐでバカだからこそ強い。その晴人にあの耄碌ジジイは言ったのだ、こんなのは蝶野の家に相応しくない。お前はまだ上に行けるのだからこんなのと付き合うな、釣り合いがとれる相手を私が探してやる。私に逆らうのは勝手だが将来の傷になるような事はするな、男漁りより練習しろ――等と世迷い言を。
根っからの戦闘民族である私がこんな事言われて黙っている訳がなく、殺意を込めた啖呵を切って早いもので数時間。
その間考えてきたのはただ一つ、それを偽らず向けるだけだ。何度でも、何度でも。
「アンタは謝らなくていい、私も謝る気ないから。悪いのは全面的に向こうだよ、私たちの何が間違ってるのさ」
勢いだけだと言われればそうだろう、もしかしたら未来の私は今日の事を恥じるかもしれない。
でも、例えそうであろうとも。私は胸を張って言える、晴人を愛していると。
家族だから最後は分かり合うとか親に逆らうのは通過儀礼だとか、そんなのはフィクションの中だけ。私はあのボケ親父を生涯許さないし、あれに頭を下げるくらいなら死んでやる。私は愛に生きて愛に死ぬ、この髪が紅い限り私は私であり続ける。
晴人もそれを分かってくれたのだろう、顔を上げて私にキスしてくれたから。そうだ、それで良い。貴方がいれば私は最強無敵だ、凡人どもなんぞ跳ね飛ばしてやる。
……明日辺り
まあでもそれは後で良い、折角だしこのまま――してしまおう。
確かに最近の私は色ボケてはいるけど、結果は出すんだから問題ない問題ない。
ちょうど時間も頃合い、楽しい夜を始めようじゃないか。あの日のように。
人を好きになるのは経験があっても、好きになられる立場になった事は一度もない。孤高の天才にして高嶺の花な私には、挑んで来るのがいなかったから。大喜だって、好きになってくれなかったし。
私みたいなワンパクで逞しい子には色恋なんか縁遠い、それより練習しよう。この先誰かを好きになる事があったら、その時に頑張れば良い。
なんて思いながら迎えた秋合宿、去年の傷は癒えたけどちょっとだけ引き摺りながら、それでも楽しんでやろうと思っていた矢先。
あのバカと来たら、送迎バスを降りてバッタリ顔をあわせたその瞬間に言いやがったのだ。『好きです』と。寄りによって合宿初日、みんながいる真っ昼間に。
そして不意討ち受けてよろけかけた所に『先輩が俺を好きになってくれるまで、何度でも言いに来ます』、と追撃が来たときはさすがにキツかった。せめて最終日とかにしなさいよバカ、これから気まずいでしょうが。想定外過ぎてボディブローが一拍遅れたわ、ほんとにもう。
菖蒲もにいなちゃんも無責任に囃し立てるし注目は浴びるしで散々だった、大喜と千夏先輩までなんか後方親友顔してたし全く災難な話だよ。まあ殴られた晴人も災難と言えば災難だけど、これは完全に自業自得。
そんでまああれこれと考えはしたけれど、考えはしたけれど――断るほどの理由はなかった。空気読めないバカな後輩を可愛がるのは楽しいし、それに私としては晴人が羨ましくもある。ここまで一気に好意を向けられれば、いくら大喜だって折れたかもしれない。まあもう未練はない、あれは単なる思い出だ思い出。
合宿中言われた38回の『好きです』に、私は最終日漸く返事をした。照れ臭くて仕方ないけどけじめだから、一応背筋だけは正して。『こんなんで良いなら、構わないけどさ』なんて前置きし、顔を背けてぶっきらぼうに。晴人の想いを、私は受け入れた。
んでもって交際開始して驚いたのが、自分の気持ち。何が断るほどの理由が無いだ、むしろ受けない理由がないわ。そう言えば春先の失礼な出会いを経てそれでも友好的な関係でいたのはつまり、私はかなり前から晴人を良いと思っていたんじゃないか。それこそ大喜の時だって、中学で好きになってたのに気付きたく無いとか言って空転してたんだよね。私はどうしてこう、自分の気持ちを切り離してしまうんだ。その点晴人は……というかバカってスゴいな、思ったこと全部やるんだもの。バカ相手に考えるのも面倒だし、晴人に合わせて好き好き言うのも楽しい。
そうだよね、恋愛って楽しいんだよね。
トントン拍子にバカップル化して皆にウザがられ、晴人がバカやると『このバカな大型犬、しっかり躾とけや飼い主ー』『亭主はちゃんと手懐けといてくれないと』と私まで呆れられるようになり。
二人で出掛けた初詣の最中に――初めてのキスをしたんだよね、思い出すと赤面するけど。
しかしあのバカ、なんでキス直前に『猪股先輩としたことあるんスよね? 俺キスしたこと無いんで、やり方教えて貰って良いスか』とか言うかな、思わず振り袖姿でずっこけるとこだった。
言われてやっと思い出したのは、一年の時の文化祭。確かにあの時大喜がくす玉から私を庇って、キスしたとかしないとか噂になった事はあった。でもなんでこいつが知ってたんだろう、まさか当時来てたのか。
まあそれはさておき、だ。手っ取り早く誤解だと教え、周りに人目が無いことを確認し、私たちはキスを……失敗した。
いやああれは痛かった痛かった、どういうわけか思いっきり額ぶつけちゃった。〽出会い頭に頭と頭、ア痛かったと目に涙……って感じ。角度を変えたら平気かと思ったら今度は鼻打つし三度目の正直と再チャレンジしたら歯で唇切りそうになっちゃうし、キスって面倒なんだなと実感させられた。四度目で漸く成功したけど、なんだか笑ってしまったんだよね。キス一つでこれか、馬鹿馬鹿しいもんだなって。
そして、そして。バレンタインも終わった二月後半、私たちはファーストキスから一ヶ月ちょいという速度で大人の階段を登ろうとしている。速いのか普通なのかは知らない、考えない。
身バレを防ぐためわざわざ遠方にまで出てラブホを捜し、システムがよく分からないまま入室して。灯りを落とした部屋の中、私たちは――絶賛戸惑い中であります。分かりやすいですか。
そりゃあね私だってもうすぐ高三ですよ、来年には民法的には成人ですよ。
でも、だけど。シャワーは浴びてタオル姿な初心者二人が暗がりで気まずく黙ってて、ここからどうしよう。菖蒲にそれとなく最初の時ってどうだったか尋ねたけど『菖蒲、初めては小一だったからもう覚えてなぁい~』とかフザけた事しか聞けなかった、あと恥を忍んで打ち明けた千夏先輩も千夏先輩で『我慢できなくて跨がっちゃったし、テンション上がりすぎて記憶飛んじゃった』だもんなぁ。私の周りってそんなんしかいないのか。
まあでも、とりあえず動くしかない。私はいつだって、挑んでいくからこそ勝ってきたのだから。
何度か重ねたお陰で薄暗がりでもキスするのに支障はない、初日のように痛い思いはしないのだ。
だけど今日はいつもと違う、合わさった唇はそう簡単には離れない。貪るように舌を絡め合いながら、お互いの身体をまさぐりつつ私たちはベッドに横向きで倒れていく。私が筋肉質な晴人の肌をなぞる中で、晴人はおっかなびっくり私に触れてくる。互いの体温を感じあうのは、こんなにも気持ちが良いのか。
――と。晴人の手は私の胸にかかり、遠慮がちに揉み始めた。あんたは猫か、と言いたくなるけどまぁ良いか。こんなのは只の脂肪の塊だけど、晴人が喜んでいるなら何よりだ。その昂りは闇の中でもよくわかる、さっきから熱気を上げている部分があるから。ゴムの被膜を纏っているとは思えない、焼けるような高温を湛えた肉の槍。いわゆるその、……オトコノコが。
勿論まじまじとなんか見られないし触れるのもなんだか申し訳ない、でもなあ。これが入ってくるんだよなぁ、うん。大丈夫なんだろうか、それってさ。裂けたら嫌だなぁ、なんて思いながらも晴人との睦み合いは止まらない。刻一刻と近づく
文字通り手探りで互いを愛撫する時間は、どれほどになっただろう。私の腿の間は粘液にまみれ、そして晴人もまた荒い息を吐いている。交錯する視線は思いを伝えあい、私は一度晴人から離れベッドの上で脚を広げた。上から見たら潰された蛙みたいな格好だろうけど、これが「正常」だっていうんだからまあ間違ってはいない筈だ。
ギシリと板の軋む音を立て、晴人が私の足の間へと入り込んで、……入り込んで。入り込んだのだけれど、あと僅かな距離にいるのは暗がりでも分かるのだけれど。なのに晴人は、動きを止めてしまった。申し訳なさそうな声と共に。
「あの、雛先輩。……何処にどうやって入れたら良いんですか……?」
「え"、ぇあー……うーん……」
そうか、そうだ。構造上そもそも外に出ていない器官な訳だし、まず暗いんだから見たって分かるわけはない。でも光量を増やすのは恥ずかしいというか、正直よそ様に見せられる場所じゃない。でもなあ……どうしよう、どうしたものか。
僅かに悩みながらも、どうにかこうにか頭を絞ってみる。場所さえ分かれば、入れられれば良いわけだ。ならば、それなら。
「晴人、ちょっと待ってて……」
私は右手で自分のオンナノコを開いて
そのまま進んでと晴人を促し、寸毫の間。クチュリと湿った音を上げ、私の中へと異物が分け入ってきた。普段は指もロクにいれないし、意識さえしない箇所がメリメリと押し広げられていくのが分かる。痛みは感じないし、異物感も決して不快ではない。お腹の深い深い場所に、晴人を感じていくのが堪らなく心地良い。圧力で子宮が押し上げられ、臍の裏側まで痺れていく。
もっと奥まで、もっと強く。そう言おうとした、まさにその瞬間。
「ん、あ……っ」
ブワリと何かが私の内側で膨れ上がり、凄まじい熱を伴う快感が押し寄せてきた。お湯の入った風船が膣内にあるような――って、ああそうか。これが射精か、ゴムが精液の勢いで膨らんでいるんだ。0.01mm向こうで弾けている晴人の遺伝子は、阻まれても尚私へと熱い想いを打ち付けてきている。
まだ出るのだろうか、もっとこれは膨らむのか。私の期待を他所に、でも晴人は腰を引き私の中から出てしまった。ああ、勿体ない。
「すい、ませ……出ちゃ、……ってっ」
ゼーゼー言いながら弁解する晴人はなんだか可愛い、それにしても射精ってそんなに疲れるのか。まあでもお互い部活で汗を流しているんだ、体力の回復は早かろう。
私はまだなにもしてないし、これ一回で終わるわけがない。せっかくこんなとこまで来たんだ、時間一杯まで楽しまないと
「良いよ、晴人。さぁ次々、もっともっとしようよ」
いやあ、あの時は大変だった。部屋に備え付けられていたゴムは即使いきり、自販機で買って更にしまくってたら晴人がダウンしてしまったんだよね……。射精が体力使うのは最初の一回で分かったけど、出せる回数も制限があるなんて。さすがにあれ以上すると帰れなくなりそうだから切り上げた、名残惜しいが健康には代えられない。
帰り道で交わしたキスの甘さに免じて、次はもっと頑張んなさいよと励ますだけで済ませてあげた私ってエライ。
あとこうして学校以外の時間を晴人と過ごすようになって分かったのが、私の未熟ぶり。やー……生活力って大事だ、うん。これに関してはバカ二人なわけだし。て言うか私がこなかったら一月持たずに破綻してた気もするぞ、勢いで一人暮らしなんかしようとするなよ。あと許すなよ親も、子供なんだと思ってんだ。ま、うちに比べりゃマシだけど。
そして最近の私は晴人への好意が天元突破しちゃって、すっかり虜になっている。もし別れたりしたら、泣くくらいじゃ済まないかも。あんま依存しちゃいけないとは思うけど、でも好きなものは好きだから仕方ない。この気持ちさえあれば、私は最強で無敵の女神でいられる。勝ってくるぞと勇ましく、雑魚どもを平らげてやる。出来れば晴人にも、そうあって欲しい。私を好きでいる事が、晴人にとって重荷ではなくブースターになって頂きたい。
――なんて、ね。こんな真面目な考えは、唇を合わせあい身体をくねらせていくとすぐに掻き消えてしまう。
ただ目の前しか見えない、触れる肌の熱だけが確かに伝わる。それで良い、それが良い。
すっかりえっちにも慣れて、煌々と明かりが灯っていても平気平気。それより愛し合う事が大事、愛される事が大事。
横たわってお互いの足の間へと顔を埋める、こんなバカみたいな姿勢も今や平気になった。どうせバカップルなんだから良いの良いの。
口に加えたゴムをはち切れんばかりに勃起したオトコノコへと被せながら、ふと思う。この先もしかしたら、こんなのを着けずにする日が来るんだろうかと。新体操でするべき事をすべて終え華々しく引退した私は、晴人との子供が欲しいとかそういう願望を抱いたりするんだろうか。
でもま、そんなのはだいぶ後の話だ。この業界受験に備えて引退する子が多いけど、私は大学からオリンピックまでやる気だし。と言うか神がくれたこの才能と美貌を無駄にしたら罪になる、まだまだ突き進んでやるさ。
でもまずは、目の前にある愛を楽しもう。
愛して愛されて、滑って転んで日がくれて。色々考えながらも日々は過ぎていく訳で、気が付けばお互いインターハイを終えていた。
いやまあなにしろ百折不撓、不死身の身体に不屈の闘志なこの蝶野雛様はいつだって有言実行だ。そんな私が一度誓った以上不可能なんか無い、危なげない処か影すら踏ませず圧倒的な差を見せ付けて全国制覇を成し遂げてやった。
幾ら
更に驚いたことに、晴人もまたやってくれた。ダブルスは惜しくも逃したものの、シングルスでは大喜と共に埼玉代表の枠をもぎ取り全国へと進出。
大喜としては晴人の兄さんとの決着が県予選準決勝になったのが不満だったそうだけど、晴人は晴人でインターハイの華々しい舞台で兄越えを果たしたかったらしくてやっぱり不満げみたい。『全国三位なんてまだまだです』とむくれる晴人を抱き締めて、私はベッドへ身を落とす。
夏休みはもうじき終わる、でも私たちの行く道はまだまだ続くんだ。