無くすものなんか何もない、ただ突っ走るだけ。やっちゃえイケイケ、だ。
そんじょそこらの女子高生とは造りが違う、二枚三枚上手の神も仏も付いてる。
負け方も諦め方も知らない、身の程だって知るものか。後悔も限界もない、私は無敵で最強なのだから。
その原動力は大喜くん、彼の存在が私の心を燃やしてくれる。
誰かを好きになった事は今まで無くて、そんな日が来るとさえ思わなかった。私の人生はバスケを中心に回っていて、それ以外見ずに来ている。いや、そうする事でしか生きられなかったのだろう。私は全力で頑張り続け、そして結論から逃げ続けていた。
人は大抵大人になる、それは止められない。子供でなくなる事は、自分の人生を自ら回さないといけなくなるという事。私にそんな事が出来るんだろうか、ずっとバスケだけやっていられれば良いのに。
まったく大人になるのも大変だ、それでも進み続けるのは大喜くん有っての話。
――なのに、だ。私はいつまで我慢すれば良いんだろうな。
「……そんなノロケ話のために、ライバル校のエースを呼びつけんなや」
相変わらずの大バカで安心したわ、と憎まれ口を叩くのは道を違えた我が親友。こういう話は物理的に少し遠い方が良い、広まられると困るけど吐き出さないと良くないから。そう言えば昔小泉八雲の「貉」を元にしたそういう漫画があったな、化物を見たと誰かに言いたいけど言ったら絶対その人も
それはそれとして夢佳をぺしぺししつつ、私は話を続けていく。大喜くんが可愛くて我慢が効かなくなりそうなんだ、なんて事を。
初めてその感情を抱いたのは猪股家で過ごす最初の夏が訪れようとしていた頃、夏風邪で倒れた大喜くんを看病してた時。
弱った大喜くんはいつもより可愛いしヘロヘロで私を頼ってくれるし、なんかもうこのまま襲っちゃうべきじゃないか据え膳ってこういうことだよねーと押し倒してしまったのだ。まあそこで正気に戻って、少ししてから謝ったけどさ。でもそのせいでちょっと拗れちゃったり色々あって、誕生日に二人で話すまではスレ違ってたな。そのあともお母さんに言われて猪股家を離れたり秋合宿で大喜くんが蝶野さんと一緒に何処かへ行ってたり気になることはいっぱいあった、でも――。
「冬休みに告白されたんだろ、何十回も聞かされた。お前私を道端のカカシかなんかだと思ってないか、同じ話ばっかり延々と」
いやいや車輪眼なんか持ってるとは思ってないよ、考えすぎだってばと私はすっかり冷めてしまったカフェモカを一啜り。
そう、まさか群馬まで来るとは思わなかったけれども私と大喜くんは、あの日思いを伝えあったのだ。
だけどでも、うん。
あれからもう半年近くになるのに、私たちは清いお付き合いのままなのですよ。
そりゃお互いインターハイ目指して切磋琢磨する身だ、心を乱している暇はない。
ないけどさあ、由紀子さんたちへの義理もあるけどさあ。
その辺はほら、勢いというものがあるじゃないか。向こうから来てくれればそれで済むのに。
「まあ、――ナツらしくもないね。バカの癖に長々考えんなっての」
悩む頭なんか無いでしょうが、と夢佳は伝票を摘まんで立ち上がってしまう。むう、失礼な事を言いながら帰ろうとするな。尚も食い下がろうとした私をぺしりと叩いて、長い付き合いの親友は微笑む。
「そろそろ県予選だ、馴れ合いは暫くお休みだよ。夏が終わったら、また遊んでやるからさ」
ピッと立てられたその指に宿るのは、確かな決意。今年の彩昌は去年とは比べものにならないほど強いだろう、何せブランクはあれど天才夢佳がいるのだから。私ができる事は、ただ全力でぶつかるだけ。
恋も友情も、その後だ。
大喜くんのせいじゃない。
もやもやしていたせいじゃない。
あれはアクシデントで、
道は決して平坦ではない、何が起こるか分からない。右へいけば断崖絶壁に突き当たるかもしれない、左へいけば不慮の事故にあうかもしれない。
だからこそ、想いに蓋をしてはいけなかったのだ。
ウインターカップに向けて血を吐く覚悟で邁進する、そしてそれと平行して大喜くんとも仲を深めたい。
本当に人生は、何が起こるか分からないから。
そう、起きてほしくない事ばかりよく起こる。
――まさか、なあ。お父さんが来るのはまだしも、すぐにここを出ろと言われるなんて。そしてまさか大喜くんが、私の代わりにお父さんと暮らすなんて。いや、いやいや。いやいやいやいや、何だこれ。冷静に考えたら、大喜くんおかしい。なんとか説得してみるとは言ったけど、それで同棲する意味が分からなかった。
どうにかこうにか私は勝ち進んで夢佳との決着をつけ、大喜くんもお父さんを口説き落として私が残れるようにしてくれた。
――結果を見れば、それは最善ではあったろう。だけどそれは薄氷を踏むような、奇跡にすがるしかない話。一つでも歯車が狂えば、手の施しようがない事態になっていた。それに、……それに。一ヶ月近く、私たちは離れて過ごす事を強いられてしまったのだ。
学校にいけば会えるけど、それじゃ足りない。前お母さんと暫く暮らしたときよりもずっと、私は心の飢えに苦しめられた。
辛い、哀しい、――寂しい。隣に大喜くんがいない、寄り添ってくれない。もしかしたらこれが、ずっと続くかもしれない。そんなの嫌だから、私は頑張った。
大喜くんもきっと同じ気持ちでいてくれたのだろう、そのお陰でお父さんはようやく赦しを出してくれた。
ウインターカップが終わって数日、やっと大喜くんが戻ってきてくれたのが今さっき。
久し振りに並んで過ごす時間は愛しくて、愛しくて――。
「寂しかった。寂しかった、よぉ……。もうどこにも、行かないで……!」
泣きながらすがった大喜くんの肌は、燃えるように熱く思えた。
離したくない、離れたくない。もう躊躇うのは終わりだ、何処までも大喜くんを愛したい。どうなろうと、知ったことか。
ただただ情熱のままキスを降らせ、ベッドへと身体を沈めていく。これから何をするか、何が起こるか大喜くんも気づいているだろう。抵抗せず身を任せてくれているのは、その証だ。
恋人同士でなければ、いや最も愛し愛される相手とでなければ許されない行為。セックスを、するのだ。
私はずっと大喜くんに近づきたかった、触れたかった。その全ては、ここに集約される。
全て捧げて全て奪って、何もかも手にしたい。
いつぞや押し倒した時とは違う、私の手が向かうのは大喜くんの頬。ゆっくりと撫で下ろしながらキス、キス、キス。唇はせわしなく大喜くんの肌をなぞり、唇を舐め滑って首へと降りていく。自分がこんなにも大胆になれるとは知らなかった、どうしてもっと早くこうしなかったのだろう。
見た目より逞しい大喜くんの胸を舌先が舐め抜けて、小さいながらも興奮に隆起する乳首をつついていく。なんだろうな、明らかに私のより可愛い。それに漏れてくる喘ぎさえ可愛い、本当に大喜くんは可愛すぎてズルいな。
そのまま私の頭は大喜くんの身体を南下しそして、腰を通り抜けていく。
「ん、……ぁ」
ムッと来る雄臭さが圧力となって鼻を捉えるけれど、それでも躊躇いはない。もう迷わない、逸れないブレない。いつだって直線だ。
頭の芯が焼け落ちる程に熱い、目の前さえよく見えない。確かなのは触れ合う肌の温もりと、濡れゆく粘膜の湿度だけ。
本能だけが身体を突き動かし、大喜くんへと跨がっていく自分が遠く感じてしまう。しかしそんなのは、ただの錯覚だ。腰を落とし感じたわずかな痛みが、これは現実なんだと教えてくれる。
「うぁ、あ……っ」
普段意識しない内臓の奥へと異物感が駆け上がり、膣内がゴリゴリ削り開けられていくのが分かった。大喜くんが私のなかにいる、一番深い場所へと進もうとしている。背筋はゾワゾワと快感に震え、口からは声ではなく呻きばかりが漏れていくが止められない。
大股を広げスクワットのように腰を振りたくる姿は間抜けにもほどがあるだろうな、でもそんなのはどうでもいい。
ただただ膣肉を抉られるのが、そして大喜くんの顔が快感に揺れるのが心地よくて仕方がないのだ。
気がつけば半開きの口はヨダレを垂れ流し、獣のように吼えて快楽を貪るばかり。何度も何度も胎内で弾ける粘液質の熱気も、いっそ気持ちいい。もっと出しなさい、もっと愛するから。もっともっと、愛し合おう。他になにもいらないから、
白濁していく視界の中、鼓動だけが確かにそこにある。ああ、幸せだね。幸せだね、ずっと――こうしていたいね。
夢のような夜が明け冬の朝が始まって、私たちは今――
「……反省しております」
「俺もです」
――由紀子さんにものっそい叱られている。まさか階下へ降りるなり『あんたらちょっと来なさい』と首根っこ捕まれるとは、さすがに反応できないまま居間に連れていかれ滔々と怒られ続ける事もう小一時間。お腹すいた。
……いやうんまあ、そうなるよね。一晩中上の階でギシギシやってれば、そりゃ怒るよね。何度上がってってブン殴ろうかと思ったか、と由紀子さんはもうすっかり呆れ顔。そうしなかったのはせめてもの温情なのだろう、きっと。
私としても昇っていた血が下がったせいか、変に冷静さを取り戻してしまい凄い恥ずかしい。どんだけ溜まってたんだろう、私と来たら。
「まあね、もう今さら反対もしないけどね。でも私の立場も考えなさい、下手したらご近所から通報されるわよ」
う。うう、それは……それはもうとにかく申し訳ない。理性を棄てすぎた、余りにも獣でありすぎた。♪金の屏風に墨絵の牡丹、中に二人の狂い獅子……なんてね。いや都々逸なんか唸ってられない、反省せねば。今ここで追い出されるのは御免被る。
しかしそれでも、私は折れない曲がらない。
お説教を浴びながらも、気持ちは目の前に迫った新年へと向いている。さて、どうしたもんか。まだまだしたい事は山ほどあるし、引き下がる気もない。
愛はきっと、最強で無敵だから。
「なんか最近私さ、ナツから一方的にノロケ話聞かされてばかりな気がするんだけど」
「あーはい今度お当番回やるから待ってて」
「待て、あんた一体どこの誰か」
「……ふふり」