努力が報われるなんて甘えた事を言っていたら、その時点で敗けだ。努力は皆が積み重ねている、量を競ったって仕方ない。才能も同じ、逃げ口上には使えない。どんな世界も上へいけば努力家の天才で溢れている、そこで勝つには――止まらず突き進むしかない。
努力に裏切られ非才を嘆き、でもそれを隠してひたすら這い上がる。生き続ける限り人生にはハッピーエンドなんか無い、でもまあ捨てたものでもないのだ。
そんな風に思えるようになったのは、つい最近ではあるけれど。
かつて私は向かうところ敵無しの天才を自負し、世界の全てが自分のためにあると信じて疑わなかった。チームメイトを導き勝利の栄光を分かち合うのは、最高のプレイヤーである私にとって当然のこと。……だったのだ、かつては。
その鼻っ柱がへし折られたのは、中学に上がってすぐ。私たちがやっていたのは「バスケ」ではなく「ミニバス」に過ぎなかった、僅かに年齢が違うだけの二年生三年生は想像を遥かに越えて余りある程に強かったのだ。練習しても練習しても練習しても、思うように活躍できない。同年代の中でさえ埋もれはじめて、私は私を見限り始めていた。少し早熟なだけで才能なんか持ち合わせて無かったんだ、と。
それでもバスケが好きな気持ちは変わらない……筈だったんだ、なのにそれさえ失って。
泥臭く必死でもがきながらも戦い続け、もう差はないのに私を憧れと言ってくれるナツは余りにも眩しすぎる。
このまま一緒にいたら私は破裂する、そう確信して栄明から逃げ出す決意をした。丁度親が離婚し私立高へ通い続けるのが厳しくなりそうだったし、当時の私は渡りに船と思っていたことだろう。
しかしまさか逃げ込んだ先で、あんなバカに逢うとは思わなかった。
朝練しなくなってから極端な早起きもしなくなり、でも登校中に誰かと会うのも億劫で気持ち早めに家を出て、一人で無人の教室に入る。それが中学までの私の朝、だったのだけれど。どういう訳か最近、登校時間は殆ど変わらないが同行者が出来た。
全く本当に毎日毎日、よくもまあ私に付きまとうもんだ。
「おはよう、夢佳」
「……ん」
今日も家の前まで来ていたクラスメイトの男子、宗介へとバッグを放り投げて私は歩き出す。母さんはきっとニヤニヤしながら見てんだろうな、とか思いつつ。
どうして朝からこのバカ眼鏡がうちまで来るのか、それは彩昌に入った直後まで遡る。何もかもいやになってひねくれていた私は入学式なんかサボる気満々で、実際講堂まで行きもしなかった。んでホームルームが始まるまで教室で寝てて人が集まり次第起きて一回廊下に出て、「いや最初から式に参加して今戻ってきましたよ?」みたいな顔で人混みにまざるつもりだったけど、いかんせん睡眠というのは自分の意思では切り上げられない。目を覚ますと教室内は気まずい沈黙で、担任教師だと思われる女が酷く睨んでいたのだ。うんまあ、そうなるわな。式にも出ず教室で
斯くして私は入学早々バカをやらかして怒られ、クラスでも浮いた存在に――ならなかった。宗介のバカが、アホな事を言い出したお陰で。というか、宗介のせいで。
どうも私が単なるドジっ子だと思ったらしく、講堂の場所が分からなかった上に寝不足でうっかり爆睡してしまったもんだと勘違いしたようだ。『俺がちゃんと面倒みますから、ここは御寛恕を!』なんて言い出し、毎日行き帰りに同行するようになりやがった。ちゃんと朝学校に連れていき夕方家へと送ってあげれば生活リズムが整って、教室で寝たりはしないだろうとか何とか。
いや、いやいや。いやいやいやいや、何だその謎理論は。人を幼稚園児みたいに言いやがって、お前ふざけんなよコラ。最初はそう言って殴ったり蹴ったりしたけれど、全然効きやしない。昔はサッカー部だったとか聞いたけど、そのタフさおかしいだろ改造人間か。
まあ朝っぱらから怒るのも疲れるし別に一緒に登校するくらい良いんだけど、母さんが浮かれまくってるのがなぁ……。私みたいなワンパクで逞しいのが色恋沙汰なんかにカチあうわけないだろ、いくらアンタの娘だからってさ。
もう朝夕の同行も二ヶ月になり、お互い呼び捨てにしあうようにはなった。でもそれだけだ、それだけ。
――このお節介焼きの眼鏡野郎だって、そう思ってる筈なんだ。そうに違いない、他意は有り得ない。
「……よくもまあ、毎日毎日来やがるなお前はさ」
「うん、好きでやってる事だし」
二人分の荷物を抱えたまま隣で笑うその顔は、いつものヘラヘラ顔。まあ、それで構わないんだけどさ。
要するに筋金入りの世話好き眼鏡って事だな、なら気にしなくていい。愛想を尽かして離れていくまで、付き人としてコキ使ってやろう。
……なんて思うようになってから半月。風が生温くなってきた頃合い、それでも日々の習慣は続いている。
いや、続いてはいるのだけれど。
どういう訳かこれは最近、何か考えているような考えていないような。たまにこっちの顔を覗き込んでは不思議そうにする、なんなんだろう。
やっと嫌になったのか、と一瞬思ったけどそうでもないらしい。むしろ休日までまとわりついてくる辺り、熱心さが伺える。
これは果たしてどういう事だか分からないまま、今日も通学路を歩いている私たち。
そろそろ本格的な夏が来る、そして何もすることがない夏休みが。帰宅部に予定なんかあるわけ無い、それこそどうしたもんか。去年までなら夏休みは練習と大会で終わり、身体を休める合間も無いまま九月になっていたんだから。
――と。
宗介はふと立ち止まり、じっと私を見詰めてきた。
「……ちゃんと言わないと伝わらないよな、やっぱり」
小さく呟くその声に感じるのは、確かな決意。これは、……これは。とうとう『もう止めたい』が来るか。
まあそれならそれでいい、短くない期間を過ごしたとは言え他人は他人。うちの親だって別れたんだ、会うは別れの始まりってね。て言うか三ヶ月だぞ三ヶ月、長々とボケ続けたお前もお前だ宗介。最初の数日で気付け、こんなガラッパチといても楽しくないぞ。
じゃあなバカ眼鏡、明日からはちょっとだけ通学が寂しく思うかもな。
そう返してやるつもりで開いた口は、でも――
「好きです。俺は夢佳が、好きです」
……呆気に取られて固まってしまう。
いや、いやいや。いやいやいやいや、何だそれは。三ヶ月前もそうだけどお前の頭はどうなってんだ。
私はこの仕上がりだぞ、有り得るか。て言うかせめて前置きとかしろや、あと通学路だぞ。
反射的に振り上げた拳は宗介のテンプルへと叩き込まれるけれど、それでもこれは倒れない。もう一度『好きです』と一言言って、柄にもなく真剣そうな顔を崩さない。
つまりは、つまりそういう事だと言うのか。
でも、だけど。
「あー……悪ぃ、今はその……」
私は夢から逃げ出した半端者で、ろくでもない女だ。人を好きになるとかならないとか、そんな段階じゃない。身を縮めて逃げ出したい、無かった事にしたい。
こんなのを好きになるな、頼むから。
しかし宗介は退こうとしない。
「うん、別に付き合ってくれとかはまだ言わないよ。でも俺は夢佳が好きだから、言っておこうと思って」
いつか俺を好きになってくれたら嬉しいかなーなんて、とか照れ臭そうにしながら再び歩き出す宗介。その背を呆然とみながら思うのは、一つだけ。
この眼鏡、バカだろ。いやバカだ、むしろアホだ。
朝からうるさいセミの声をぼんにゃりと聞きながら、頭が追い付かないまま足が勝手に歩みを進めていく。
考えるのは後にしよう、全部後だ。先送りで後回し、それしかない。
さぁ行こう、既知なる学舎へ日常を求めて。
やー……まさか自分がああも鈍かったとは。宗介としては明言しなくてもなんとなく伝わっている気でいたけど、私が余りにも気付かないからハッキリ言うことにしたんだとか。まあ言ったって伝わらない事もあるんだから、況んやって事か。
そこから暫くギクシャクしたけど、最終的には私が折れた。こういうのもま、悪くはないかなって。
こんな目付き悪いガラガラした女でいいのかと聞けば、だからこそ良いんだよと言うし。
最初は一目惚れで一緒にいてもっともっと好きになった、とかこっ恥ずかしい事も言いやがるし。
んでもって迎えた夏休み、二人であれこれバカやったり大人の階段を昇ったり致しました。知識はあれど実践経験があるわけもなく、手探りで。
いやぁあれは大変だったなぁ、親にアリバイつくって外泊し初えっちに臨んだけれどうまくいかないったら。て言うか恥ずいんだよ全部。
なに見てんだ眼鏡砕くぞ何処触ってんだ膝砕いてやろうか、と一アクション毎に大騒ぎ。やっとこさ挿入に辿り着いても痛みと違和感で軽くパニくり、痛えだろうが人のハラワタなんだと思ってやがる掻き回すな早く終わって抜けや蹴り殺すぞコラと大騒ぎしまくった。
そして全然休んだ気がしないまま新学期になり、あれこれ色々あっても宗介は宗介のまま変化なし。人前処か教室でも好き好き言うから、今やクラスでは夫婦扱いだ。……なんで私が「嫁の躾がなってない」とか言われにゃならんのだ、誰が夫だ誰が。
て言うか関係が深まって分かったけど、コイツ大分変態臭い。真冬のクソ寒い時期にニーハイ穿いてくれとか言い出すし、バスケまた始めるから髪切るかなって言ったら「その前に一回だけ髪コキして!」なんてほざきやがった。いや部活復帰したら会う時間減るんだぞ、まずそっちを気にしろドスケベ眼鏡。
まあ――……してやったけど、さ。
鼻息の荒さ以上にギンギンになったそれが熱気を放つのが気にはなれど、頼まれたんだしやってやるかと髪束で包んだまましごいてやったのを昨日の事のように覚えている。たちまち髪は透明な粘液に濡れ、絡まった髪が引っ掛かってちょっと痛かったな。まあそれよりは、そのまま出しやがった方が問題か。あんにゃろう自分だけスッキリしやがって、思い出すと腹立ってくる。その上巻き付けたままえっちしたいとか言い出すから、さすがに蹴りとばしてやったんだ。人の髪を避妊具みたいに言うんじゃねぇ。
他にも色々とやってきたな、生でしたりとか中で暴発したりとか良くない事を中心に。よくあんなのと付き合えるよ、私。
にしても暫くは、控えないといけないのだ。さすがに最初で最後のウインターカップを控えて、ここで部活以外に注力する時間はない。ナツと今度こそ決着を付ける、それでようやく心残りが無くなるのだから。
――だから、さあ。そう言ってんだからさぁ。
「人が浸ってんのに延々と
私の尻にすがりつく宗介に一発後ろ蹴り、しかしまあ堪えないのは分かってる。こいつはバカだから。
年末まで出来ないなら名残に一回、と泣いてすがって歯茎を剥いて頼んでくるから承諾したんだけど、このバカさっきから何発出すんだ。手でも胸でも出しまくるし、口でしてやったら鼻から逆流する程大量に射精するしさ。窒息するぞバカ野郎、しかも萎えやしない。
愛してるからもっともっとしたい、なんて言われたら強くは拒めないけどさ。
「ほら、……来いよ。とっとと終わらせろバカ」
大きく拡げた脚の間へと宗介自身が埋まっていくのを見ていると、なんだか不思議な気がする。毎回思うけど、よくこんなのが入るもんだ。……まあそりゃ子供が出てくる場所だから、驚くには値しないのかもしれないけど。
宗介も宗介で不安にならんのかな、入らなかったらどうしようとか万力みたいに潰されるんじゃないかとか。いやこのバカなら悩みもしないか、そりゃそうだ。
私が考えている事なんて知りもしないまま宗介は必死で腰を振り、私の中をゴリゴリと擦りたててくる。最初は気持ちいいとかそういうのより異物感が凄かったのに、今やすっかり慣れてしまった。人は変わるんだな、良くも悪くも。
バスケに全てを捧げた日々は中学卒業と共に終わり、無為なロスタイム人生になるかと思えば宗介のバカに出逢って色恋沙汰に首突っ込んで。そして宗介に支えられてバスケの世界へ戻り、捨てたはずの夢を取り戻した。
その先は――なんだろうな、新しい夢を見るかどうなるか。まあ、二人でゆっくり考えようか。
ブワリと膣内に広がるこの灼熱感は、心の奥にキックを入れてくれる。いやなにも言わないからって平然と中に出すな、と少しだけ思ったりはするが別に構いはしない。これから忙しくなるし、パワー充填ってなもんだ。
これから一気に部活モード、ナツ率いる栄明を平らげ覇道を突き進んでやる。
さぁ、出があるよ。道を開けろ凡人ども、天才様のお通りだ。