冬の風が街を吹き抜け、雪が舞うそんな中。私の体温は師走の寒ささえ打ち消すほど、いっそ頭から蒸気噴きそうなくらいに上がっていた。繋ぐ手から伝わる大喜くんの鼓動もまた、熱く強い。これからする事を思い、二人とも興奮し続けているのだ。
ウインターカップも終わり正式な引退を迎え、数日遅れのクリスマスでもしようかと街を行く。まあ別に、クリスマスにはそこまで執着ないけど。
どちらから手を繋いだかは覚えていない、でも気が付けば恋人繋ぎ。
街のクリスマスムードは当然既に無く、年末の慌ただしい空気だけがそこにある。そんな中をゆっくりのんびり歩き抜け、足の向くまま適当に行きたい所へ。
この雪が続くと帰りが大変かもしれないけど、それはまだまだ先の話。むしろ濡れるのも風情だし、こうやって並んで歩くだけでも楽しい。さっきちょっと軽い食事……というか重めのお茶を済ませたから、今は腹ごなしにただただボケッと過ごしている。そんな呑気な時間を楽しみながら、私は先の算段を立てていく。
今日はまだまだ長い、それに明日明後日と時間はたっぷりある。私たちは別々の理由で年末年始を猪股家ではない場所で過ごすと擬装しているから、帰るのは年明け。これからまだまだ遊んで、そして。
恋人同士でする事を、いっぱいするのだ。
今まで我慢したんだから、今日くらいは良いだろう。毎日ずっと部活に明け暮れた私たちにだって、息抜きは必要だ。付き合い始めてからもうじきに一年、それくらいの事はするのが普通のはず。菖蒲ちゃんなんて三日も経たずにしてしまうそうだし、その辺は早くて困るものじゃない。
そう、この日のために色々準備してきたのだから。
はあ、疲れた。師走に忙しいのは坊さんじゃないのか、なんで私はこんなに駆け回ってたんだ。そりゃ居候でも三杯食べるよ、むしろもっと出せって気分になるよ。
借り物の部屋で荷物をベッドに投げ込み、私は溜め息を一つ。
思った以上のドタバタだった、と今更ながら胸を撫で下ろしたくなるな。ウインターカップはどうにか勝って終わり、お父さんとの事も穏便に解決した。
正直そこは良いんだ、問題はこの年末年始。ここをうまく使って、大喜くんとの関係をもっと進めてしまいたい。だってここからはもう、我慢しなくて良いのだ。後顧の憂い無く、全力でイチャイチャしたい。由紀子さんにもバレたし、ここからは隠すのも最低限で良い。とりあえず私たちは清く正しい関係なんだと思わせておけば、猪股家としてもまさか反対もするまい。
そこを上手く使えれば、この計画は磐石なはず。
私は花恋を大喜くんは笠原くんをアリバイ作成に巻き込み、各々が小旅行で留守にするという設定をでっち上げてある。無論大喜くんだって、それがどういう意味かは分かっている……だろう。思えば去年の夏、アクシデントで民宿に泊まった時以来のお泊まりだ。付き合っている私たちが同じことをしたならば、それはもう――。
「しちゃうんだろう、な……」
キスとかそれ以上のこととか、色々と。そのつもりですけどね、ええ。
どういう事をするかは知ってるし勉強もした、実践できるかどうかはともかく。やはり経験者からのアドバイスが必要なんだろうか、でも……うーん。菖蒲ちゃんは参考にしちゃいけないし、花恋に話すとまた心配させちゃうか。渚たちはこういう話じゃ役に立たない、夢佳なら……だけどあれはあれで奥手なんだよね。
私の周りにはロクなのがいないや、どうしたものか。
検索して出てくる内容を馬鹿正直に信じるほど単純じゃない、それにあんまりスマホをそんな用途で使いたくない。履歴はシークレットモードにしておけば心配ないとは言え、あんまりマニアックな知識を付けてもなあ。
いっそ一眠りしてから考えるかな、なんてころんとベッドに転がり感じたのは壁の向こうのわずかな気配。大喜くんもどうやらおねむの時間らしい、毎日お疲れさまです。
……もしこのまま向こうに突貫して、勢いだけで突っ走ったらどうなるだろう。大喜くんは困るだろうし私も色々大変だけど、それでも本懐は遂げられる。そういうのも悪くない――んだけど、だけどなあ。一生に一度の事だ、ムードが欲しい。半分眠ったポンコツ状態で襲い掛かって、では余りにも不粋。
大喜くんがしたいならそれも良いんだけど、な。
分かっている。
分かっている。
分かっている。
したいのは、私だ。
大喜くんだってそりゃしたいかもしれないけど、私がまずしたいのだ。
だからこそ、ここは我慢。ちゃんと万障繰りあわせて、二人が納得いく形で愛し合おう。
まあ、とは言え。このガサツ者同士で話し合って細かい事なんか決まるわけがない、そりゃそうだ。
どっちかに考える頭があればともかく、バカの暴走特急なんだもの。猪突猛進の大喜くんと視野狭窄の私がタッグを組めば、ワケわかんない方へ突っ走るに決まってる。
大まかな予定と言うか計画としては、とりあえず知り合いに合わなそうなやや遠方で過ごそうという事になった。忙しい時期ったって観光客が遊ぶところは日本全国津々浦々何処にでもある、それに二人でいれば何をしたって楽しいに決まってる。実際聞いたことない駅で電車を降り街をブラブラしてるだけなのに、私はずっと笑っているのだから。
楽しいね、幸せだね。ずっとずっと、一緒にいたいね。口にしたら冬の風に溶けてしまいそうだから言わないけれど、代わりに大喜くんの手を握り返す。
お互い無言のまま歩いていくのは、人通りの少ない方。申し訳程度の街灯の先、まるで人目を避けるように路地の奥へ。知らない町の知らない道は、少しだけ不安だ。
一応事前に地図は見ておいたけれど、ここでスマホを出すのは無粋だろう。それに歩きスマホはよくない事だ、あと今の天気だと雪で浸水しかねないから出すの怖い。
多分ここからもう少し歩けば、目的地。一夜を過ごす筈の、……ラブホテルだ。元よりこのつもりで来たとは言え、少しだけ怖じ気付く気持ちはある。
だけどきっと、大丈夫。大喜くんとだから、大喜くんがいるから。
下調べはしたとは言え、こういう所のシステムはよくわからない。でもま、滞在時間と料金の関係さえ分かればなんとかなるものだ。家族名義ではあるけどクレカもある、いざとなれば脚力と腕力でどうにかしよう。暴力は何にでも良く効くオールマイティなお守りだ、圧倒的な暴力は論理に勝るという格言もあるし。
緊張したまま入った部屋は、ビジネスホテルよりだいぶ広い。大きなベッドに豊富なアメニティ、そしてテーブルに置かれているのは様々な銘柄の煙草とライター、あとは……コンドームの包み。前もって買ったのを忍ばせてはあるけど、ここにも用意されているものなんだな。さすがはえっちする為の施設だ。
「あー……結構歩いたねぇ、お風呂で汗流そうか……な」
わざとらしくそう言いながらコートを壁にかけ、私は高鳴る胸を押さえながらどうにか言葉を手繰る。
顔を染めながら頷く大喜くん、その肌は既に火照って見える。
その熱を感じつつ背を向け、ゆっくりと服を脱いでいく私。
いつぞやは平気で着替えて見せたりしたけど、今はもうそんな事出来やしない。見せたいし見たいけど、恥ずかしい。これからもっと恥ずかしい事をするのに、な。
全てを脱ぎ捨ててから、ふと気づく。何で部屋の真ん中で、タオルも持ってこないで脱いでるんだ私は。せっかくあるアメニティなんだから、こっちに持ってきてプール授業の前みたく隠しながら脱げば良かった。私だいぶポンコツ化してるな、それにお湯も張ってない、シャワーだけってのもなんか……なんかだし。ああ、考え無しだな本当に。
まあ、良いか。これくらいでちょうど良いんだ、多分。
蛇口とシャワーが独立している作りなのは助かったな、と浴槽へお湯を注ぎつつ私は――大喜くんと向かい合っている。お互い隠す事ない、正真正銘の丸裸で。シャワーラックから暖かい霧雨のように振るミストシャワーを浴びながら、頭はそれよりもっともっと熱い。さっきまで下を向いていた大喜くんのオトコノコが、今はもうかなりの角度で直下たっているのがよく見えているから。勃起という言葉は知っている、だけどまさかこうまじまじと見つめる日が来るなんて。
私を見てこうなったんだ、私がいるからこうなるんだ。触ってもいいかな、怒るかな。いや、怒りはしないだろう。大喜くんも、それどころではないだろうから。
大喜くんの視線は落ち着き無く動くけれど、どこを見ようとしているのかは伝わる。私が気を悪くしていないか心配だから顔を、多分さわりたいからおっぱいを、そして――
私たちは同じ目的でこうしている、だから我慢も遠慮もしなくて良い。
そう確信しながら私は大喜くんの手を取り、足の間へと導いた。
「触って良いよ。だからさ、大喜くんのも……触るね」
物心付いて以来自分以外触れていない箇所に大喜くんの指先を迎え入れ、そのお返しに私は大喜くんのそこへと触れていく。ドクドクと脈打つ硬い肉の塊は、まるで別の生物のようだ。
確か男子はこうやってオナニーするんだっけ、根本から先端へと手筒を動かし抜けそうになるとまた根本へ動かしてあげるとだんだんと粘つく何かが染み出してきた。そうか、男の子も濡れるんだ。今の私のように。
おっかなびっくり膣口を弄っていた大喜くんの指は少しずつ中へと入り込み、自分では触れない深さまで侵攻していく。尿道の裏辺りを刺激されて腰が砕けそうになった、その時。大喜くんの腰が、ガクガクと震えた。
「あ……のっ、先輩、出ま……すっ」
その声に反応する暇も無く放たれるのは、白く熱い粘液の塊――精液だ。とくんとくんと私の手のなかに放精する様は、なんだか可愛らしい。
大喜くんは申し訳無さそうにするけれど、私としては嬉しくなってしまうな。だって、私で気持ちよくなってくれたのだから。
入れすぎたお湯を盛大に溢れさせながらのお風呂タイムを終え、私たちは光量を落とした部屋の中ベッドに腰掛けている。身体は拭いても足の間はヌルヌルと粘液を滴らせシーツを汚していくのが分かるけど、なかなか身体を動かせない。
これから、するんだ。セックスを、するんだ。どうしよう、上手くいかなかったら。私が大喜くんを受け入れられなかったら、大喜くんが私を拒んだら。……どうしようかな、そうなると。
いや、悩む必要はないな。起きてもいない事に怯えたって仕方ない、私たちは私たちなんだ。
「んっと、まあ……えーと。……しましょうか、大喜くん」
「あ……はいっ」
よっとベッドに上がり直し、私は大きく脚を拡げる。なにもかもさらけ出し、身を委ねる為に。
大喜くんは震える手でコンドームを嵌め、そして。……そしてどういうわけか、動かない。いや動いてはいるのだ、視線は私のそこへと釘付けにして落ち着き無く腰を揺すっているから。
そんなに見たいもんなのか、ここ。男子ってのはよくわからないな、持ち主としてはあまり凝視されたくない場所なんだけど。私毛の処理甘いし、形もあんまり良くない気がしてるし。まあ他人と見比べてはいないけど、どうも片寄ってるのか採尿の時とか面倒なんだよね。ナプキンも普通につけると片漏れするし……いやまあそれはそれ、今考える事じゃない。
言うべき事は言って、したいことをする。私たちはそういう関係だ。
「あの、大喜くんや。そんな見詰められると、照れます。て言うか普通に恥ずかしいんで、早く来てください」
ハッと我に帰った大喜くんは決意めいた瞳で私を見据え、そのままのし掛かってくる。二度三度と上滑りしても諦めることは無く、何度目かの突貫で遂に。大喜くんの先端が、私の膣口へと押し当たった。
指とは比べ物にならない程に太く力強いものが、私を抉じ開けていく。ミシリと骨盤が軋み、お腹の奥で何かが破れる感触を経て――私たちの腰は、完全に密着を果たす。
大喜くんの全てが、私の中にある。内臓の内側を焼けた鉄串で抉られるような、意識を刈り取る灼熱感。ぴったりとくっついたままなのに、全身が一秒おきに快感で震えて止まらない。
「あ、……の先輩、中……動かしてるんです、かっ。吸い付い、て……っ」
「んーいや……そんな器用じゃないんだけど……なんだろ、ねっ」
言われてお腹に手を当てると、確かに中で蠢く何かがある。イメージとしては子宮だろうか、大喜くんから精を吸いとろうと躍起になってるのもしれない。あんたたちは持ち主の意思を無視しすぎだ、少しは控えろ。
ちょっとひっぱたいたら言うこと聞かないかな、と思考をそっちに向けたまさにその瞬間。
「え、あ……っえっ」
脳の裏側を、甘い電流が貫いた。大喜くんがわずかに身をよじった、それだけで膣肉がゴリっと削られ、暴力的な快感が一瞬で身体を焼いていったのだ。
それは大喜くんにとっても予想外なのだろう、悦楽に蕩けた顔で私を見詰めている。これを続けて良いのか、尋ねるように。
そんなの――
「大喜、くん……もっと、動いて……」
期待されているであろう言葉を紡ぎ出すと、許しを得た大喜くんは思いきり腰を振るわせ始めた。
引き抜く動きで膣内を丸ごと引っ掛かれ、押し込む動きは子宮を突き上げてそれでも収まらない。
たちまちベッドは飛沫で汚れ、私は狂ったように喘ぐばかり。大喜くんが呻く度に感じる、胎内でお湯入りの風船が膨れ上がっていく感覚も堪らない。コンドームの中での射精でさえ、私をこうやって壊してくのだ。もし遮るものが無ければ、どうなってしまうのだろう。いやそれは遠い先の事じゃない、もしかしたら次の射精でコンドームが破裂するかもしれないし、そうはならなくとも磨耗して破れるかもしれない。
そうなったら、あの熱く濃い白濁液が凄まじい量で子宮へと殺到する。抵抗さえできないまま卵菅まで精液漬けになり、ただ快楽に溺れるだけになるだろう。
それは決して良いことじゃない、大喜くんの未来を奪ってしまう。だけど、でも。そうなっても構わないくらい、私は大喜くんを愛している。愛しているから、大喜くんにも愛されたいんだ。
そう実感し出した頃、遂に大喜くんのオトコノコは私の中から引き抜かれた。さすがに身体が続かないんだろう、私も限界が近かったし。
取り外されたコンドームは信じられない程の精液でパンパン、よくこんなもんが入ってたな。僅かに付いた赤いのは、私の血だろうか。
全く、一人で頑張らせちゃった。私からももっと動いてあげたいけど、今は無理そうだ。
もっともっとしたいけど、とりあえず少しだけ休もう――。
疲労困憊で眠りに落ち、眼を醒ましたのはもう明け方。御休憩ではなく御宿泊になったけどそれはまあ良い。
ここに連泊する訳にもいかないし、明日―いやもう「今日」か―の為にビジホでも予約しておこうかな。て言うか最初からそうしたって良かったんだ、別にビジホがセックス禁止って訳でなし。でもなんて言うか、こういう「専用の場所」の方が気分が盛り上がる感じはする。
まあ清算してから考えよう、どうせ年末年始だ急ぐものじゃない。ほんの数日ではあるけど、まるで夫婦みたいに過ごそう。
――などと大喜くんの寝顔を見ながら思ってみた矢先、私はふと思い出す。そういえば一つ、していなかった事があると。
「んー……っと」
すやすやと眠る可愛い顔を覗き込み、息を止めて一秒。意を決して私は、大喜くんの唇へとキスをする。今までしてこなかった、恋人の証を。
順番もメチャクチャなら同意も得てない、なにもかも的外れなファーストキスは甘酸っぱくなんかない。そもそもの時点で散々
さて、あとは大喜くんが起きてからだな。そのままチェックアウトしても良いし、もっかい愛し合うのも悪くない。
……いや待てよ、このまま寝た振りをするのはどうだろう。似た者同士の私たちだ、大喜くんも同じことを考えて私にキスしてくるかも。その瞬間に目を開けたら、どんな顔をするのかな。
ああ、ああ――楽しい。