※この作品はR-18です。

アオの夜R18SS   作:扇町グロシア

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どうも世の中がグチャグチャなので、開き直れるくらいにポンコツなバカエロ詰め合わせです。


アオの夜 真冬のダダ甘ポンコツ特大号  (千夏×大喜 雛)

#1 道はアオく広がって

 

 参ったな、これは。借り物の部屋でベッドに転がり、私はぐちゃぐちゃになっている思考を纏めようと試みる。まあ、上手くいくわけが無いんだけどね。私は考えれば考えるほど、泥沼に填まっていくタイプだから。それでも考えなければいけない、このままにはしておけない。

 誤解を解かないといけないし、返事もしなければならない。そうしなければ、大喜くんと向き合えなくなってしまう。

「あー……、もう。なんであんな……」

 寝返りを一つ、そのまなんとなく叩いた枕は酷く熱い。そりゃそうだ、今の私はサーモグラフィーで見たら真っ赤通り越して真っ白になるくらいに発熱している。全部大喜くんのせいだ、間違いない。

 遡ること半日前。合宿もほぼ終わって後は帰るだけという時分になって大喜くんは、私に言った。

 ――好きです、と。

 それは、……とても嬉しい事なんだけど、でも。問題なのは、そのあと。

『先輩に好きな人がいるのは知ってます、だから俺を好きになって欲しいとは言いません。ただ、千夏先輩を好きでいさせてください』

 ……と来たもんだ。何処でどうこんがらがったのか、どうも大喜くんは大きな勘違いをしているらしい。

 私の好きな人、それは……大喜くん、だ。まだ「好きかもしれない人」みたいな段階にいる可能性もあるけど、さ。なのにどういうわけか、私が他に誰かを好きになっていると思い込んでいる。

 これはさすがに、不味いな。大喜くんは真っ直ぐで純真、悪く言えば単純なおバカさん。一回信じたことは絶対に曲げない、曲がらない。

 私が否定した所で、大喜くんはきっとこう思う。「俺に気を遣って、傷つけないようにそう言った」と。まだ一緒に住んで半年くらいだけど、そうなるのは確実だと分かる。大喜くんはそういう子なんだから。

 とは言え、このまま両片想いなんて馬鹿馬鹿しい状態を続けるわけにはいかない。蝶野さんにも悪いし、何より私が持たない。

 そうするとどうしたら良いか、私の頭では妙案なんか思い付かない。それに壁一枚向こうには大喜くんがいるわけで、その事実がただでさえ回らない頭を更に鈍らせていく。

 窓辺においたサボテンはまだ蕾も付けていないのに、どんどん私の周りは変わっていく。

 あぁ、どうしよう。

 

 切れ切れの睡眠を繰り返しながら朝を迎えて階下に降りると、大喜くんは既に登校してしまっていた。普段より大分早いけど、やっぱり向こうとしてもあれこれ意識しまくっているんだろうな。正直今は顔を合わせにくい、体育館でも気まずいかも。まだ名前さえ知らなかった頃のように、挨拶だけしてお互い黙々と朝練するしかないか。

「おはようございます、由紀子さん」

「あぁおはよう千夏ちゃん、大喜ったらもう朝練するからーって行っちゃったのよ。昨日まで合宿してたのに、どれだけ練習したいのかしらね」

 いつも通りの朝、それを崩さないように平生を装おう私。まさか由紀子さんに相談なんか出来ない、それだけはダメだ。

 変化を悟られないよう静かにかわす、それは17年ずっと続けている私の特技。熟練の冴えは家族さえ欺ける、これが通じないのは――大喜くんくらい。インターハイを二回戦で終わらせてしまった、先輩の夢を果たせなかった、そんな動揺や焦りは硬く隠してたはずだった。でも大喜くんはそれを感じとり、敢えて何も触れなかった。気付かないから無視したわけじゃない、あの優しい対応は大喜くんの心根が為せる業だったのだろう。

 同じ部屋で一晩を過ごしたあの日きっと私は、――本当の意味で大喜くんが気(・)に(・)な(・)り(・)始(・)め(・)た(・)。

 だからこそ、今の誤解が辛い。早くどうにかしなければ、と気持ちばかりが先走っていく。

 ダメだ、落ち着け。私はいつだって、クールでいなければ。

「じゃあ行ってきます、由紀子さん」

「行ってらっしゃい、大(・)喜(・)を(・)宜(・)し(・)く(・)ね(・)」

 バッグを肩にかけ、玄関を飛び出してようやく、私はふと気付いた。由紀子さんが発した言葉の違和感に。

 ……どういう意味だろう、それは。

 しかし考える時間は無い、いつものルーティンを崩せばそれこそ変に思われる。

 きっとただの気紛れだ、受け流せ。私はそれで良いんだ、多分。

 

 朝からの不調は昼過ぎになって、ついに結実してしまった。午後の授業を受ける気にならないまま、私は屋上で踞っている。ここは人が来ることなんかまず無い、落ち込むにはちょうど良い場所だ。

 何もかもが、辛い。昨日の今ごろは帰り支度をしていた、まだあの話をしてはいなかった筈だ。ほんの一日前が、余りに遠く懐かしい。

 ――と。

 立て付けの悪い扉が遠慮がちに開けられ、隙間から誰かが屋上へと出てくる。

「あぁ、いたいた。珍しいじゃない、千夏がサボりなんて。こりゃ明日は大雪だわ」 

 軽口を叩きながらやって来たのは、手にポカリのペットボトルを携えた渚だった。こいつは私が落ち込む場所をよく知っているから、様子を見に来たんだろう。同(・)行(・)者(・)はいないようで、一安心。

 こんな姿を見せたくはない、見せるわけにはいかない。大喜くんの前でだけは、ちゃんとした先輩でいなければ。

 でも今は大喜くんがいないから、渚と二人きりだから。

 だから私は、ちゃんとしていなくても良いんじゃないだろうか。この親友に、弱さを見せてしまいたい。そうでなければ、私(・)は(・)破(・)裂(・)す(・)る(・)。

 そんな私を先回りするように渚は笑って、私の手にポカリを握らせた。

「……頼ってくれとかなんとかしてやるとか、そんなのは言わないけどさ。黙って愚痴を聞くくらいの事はしてあげるよ、友達だもん。そうすりゃ少しは、楽になるでしょ」

 何を悩んでるかは知らないけどね、なんて軽く言う渚の姿が不意に歪んだ。涙で視界が滲んでいくのが、どうにも止まらない。

 ああ、全く。私は周囲に恵まれているよ、本当に。

 

 私の辿々しく不器用な言葉を、渚はどう聞いているんだろう。何処か頭の中でそう思いながら私は、自分の想いを打ち明けていた。

 大喜くんを好きになったこと、告白されたこと。誤解されていること、蝶野さんのこと――それらを全て。

 他に誰もいない屋上で私たちは向かい合い、風に吹かれながら何分そうしていたか。

 ややあって渚は、言うべきことを言い終えた私の手を掴んで。

「――バッカじゃないの?」

 ……………………あっさりと、結構ヒドイ事を言ってくれた。おいこら親友。

 そして更に。

「大喜くんはあんたの事大好きだし新体操ちゃんは大喜くん好きでしょ、んであんたは大喜くんが好き。それは前から全部知ってるって。んで告白されたけどなんか勘違いされてて凹んでます、って話でしょ。悩む必要がどこにあんのよ、違うって一言言えば済むわよ」

 信じられないくらい簡単に、纏めてくれやがった。て言うか、知ってるってなんだ。どうして以前からそんな細かく知っていたとか言うんだ、この女は。

 私は今まで厳重に、隠し通してきたのに。それに大喜くんだって蝶野さんだって、軽々しくそんな話をするわけがない。

 いくらなんでも、そんな――。

「一応言うけどさ千夏さんや、あんたは表情が固いだけで内面がダダ漏れしてるからね? 部活中も大喜くんばっか見てるし、新体操ちゃんが近付くと露骨に嫌そうなオーラが出るし。大喜くんはともかく、新体操ちゃんは気付いてるわよ絶対」

 えー……まさか。齢17まで鍛え上げてきた筈の穏行力が、全て気のせいだったと言うんだろうか。みんな私に気を遣って、見て見ぬふりをしてくれていただけで。そうなると私の人生、なんだったんだろう。

「あとね、行動しない理由に他人を使うんじゃありません。大喜くんがこう思うだろうから言わないでおこう、なんて逃げてるだけ。理解してくれるまで言い続けなさい、みんなそうしてんだから」

 渚の口調は軽いけど、その瞳には真剣な光が宿っている。私を気遣い、私のために言ってくれている。

 それが分からないほど愚かではないつもりだけど、でも。

「大丈夫よ、ダメでも骨くらいは拾ってやるから」

 頭が追い付かないままの私に背を向けて、渚はそのまま軽やかに立ち去っていく。

 一人残されて、私は考える。この後の事を。

 

 ――骨は拾うと言ってくれた、なら恐れることはない。きっと、多分。

 気持ちを立て直して帰路へと着くまで数時間もあったけど、私はもう大丈夫。行ける。

 猪股家へと帰って、挨拶もそこそこに階段を駆け上がる。目指す場所は、ただ一つ。

「あ、……おかえりなさい、千夏先輩」

 迎えてくれた大喜くんは何処か堅い、平(・)生(・)を(・)装(・)い(・)き(・)れ(・)な(・)い(・)笑(・)顔(・)になっている。

 ああ、そうか。私もきっとこんな顔をしていたんだ。そりゃぁ――バレるわな。

 でも今は、それどころじゃない。

「聞いて。私が好きなのは、大喜くん。他の誰でもない、キミなんだよ」

 一切の配慮もなく、力尽くに真っ直ぐに。ミサイルでももっと湾曲すると思うけど、でも私はこうするしかない。言っても伝わらないなら、伝わるまで言い続けてやる。

「だ、だって菖蒲が……。千夏先輩は男バドの、帰国子女の人が好きだって……!」

 菖蒲……? あのバカが余計なことを言ったのか、今度会ったらひっぱたいてやる。

 いや、後で花恋に電話して文句いってやろう。私の大喜くんに妙なこと吹き込むなんて、許せない。

 引っ掻き回される身にもなれ。

「違う。松岡くんを好きになって無い、私は大喜くんが好き」

「でも俺は、俺は……。雛にもちゃんと返事できない、部活も中途半端で……!」

 それを言うか、この私に。何もかもがメチャクチャで、形だけ取り繕ってばかりの半端者に。私と比べたら、大喜くんの方が億倍マシだ。その真摯さに、熱さに、どれくらい私が救われてきたか。私こそ出来の悪い見下げ果てた先輩だ、間違いなく。

「こんな俺なんかが、千夏先輩に……」

「そんなの知らない、私は大喜くんが好き。大喜くんがどう思おうと、大喜くんだけが好き。他の誰も、好きになんかなれない」

 気が付けば大喜くんを壁際に追い込むように、私はどんどん前へ出ていた。

 近付きたい。触れたい。好き。

 その想いが私を突き動かす。

 そして――。

「んむ……っ」

 大喜くんを強く抱き締めて、私はそのまま何一つ躊躇うことなく、……キスをしていた。

 

 唇を重ねあったまま、どれほどが経っただろう。

 永遠のような一瞬のような、そんな長く短いキス。

 私から始めたそれを終わらせたのも、やはり私だった。

 顔が焼けるように熱いまま、それでもどうにか身体を離していく。

「大喜くん、は。私が、好きでもない人とキス、するような、女だと思います、かっ」

 息は上がりきり、言葉は切れ切れにしか出てこない。

 キスって、こんなにも凄まじいのか。全身が焼け堕ちそうなくらい火照り、心臓が爆発しかねない程に危険なビートを刻んでいく。

 いや、もう爆発してしまえ。何もかも消し飛ばすくらいに、激しく。

「これで、足りな……いなら、……もっと、してあ、げるよ」

 殴りかかるように勢いよく大喜くんを捕らえ、再びキス。キス、キス、キス。

 背骨よへし折れろ唇よ砕けろと苛烈にキスの雨を降らせ、そして抱き締める。

 腰が抜けたように力なく崩れそうになる大喜くんを、それでも離さない。離したくない、離れたくない。

 このままずっと、もっと。強く深く、何処までも――!

 そう思った、まさにその時だった。

 

「二人とも、そろそろご飯だから降りてらっしゃーい」

 

 余りにも平和な、日常そのものな由紀子さんの声が私の思考を現実へ引き戻した。

 ハッと気が付けば、大喜くんは目を白黒させて今にも倒れそう。

 そして窓ガラスに写る私の顔も、混沌色に染まって見える。

 ――なんなんだ、これは。勢いが削がれたせいで、遠くへ行っていた理性も帰ってきたようだ。おかえりなさい。って、そうじゃない。

「あー……うん。そういう事だから、ね」

 どういう事だよと自分で自分に呆れつつ、私は今度こそ大喜くんから身体を離した。

 まだ胸の鼓動は爆音のままだし、顔も紅いだろう。それでもどうにか、自身を立て直す。

 とりあえず、下へ行かなければ。日常に戻らなければ。

 ああ、まったく――どうしたものか。

 

 どうにもならないまま、ぎこちなく気まずい状態で食事を終えて。なんとか溺れる事なく無事入浴を済ませ、私は部屋で悶々としている所だ。

 花恋へ電話する気にはなれない、菖蒲ちゃんは明日学校で会ったときにでも殴ろう。〽️出会い頭(がしら)に頭と頭、あ痛かったと目に涙。……いやそうじゃない。

 なにやってんの、私。その想いだけが頭のなかを廻っている。ああ、もう。

 叩き付けるような告白と、暴力的なキス。どう考えても正気じゃない、何処までも狂っている。いやそれだけなら、まだ良かったかもしれない。

 あろうことか私は、先程大喜くんに言ってしまったのだ。風呂へ行こうとする所を捕まえて、「後で部屋に来て」――と。

 風呂上がりの大喜くんを呼びつけて、まだ湯上がりの熱が残っている私は一体何(・)を(・)す(・)る(・)気(・)な(・)の(・)か(・)。

 どう考えたって、これはもう。

「……することなんか、一つしかないよね……」

 恋人同士がすること、愛し合うという言葉を体現する行為。つまり所謂一つのあれ、……セックスというもの。 

 いやまあ、うん。強引で無秩序で滅茶苦茶だ、ここまで無茶な話はそうそう無いだろう。こんなバカをやらかすほど私はポンコツだったのか、我が事ながら呆れたものだ。

 大喜くんに告白する、相思相愛になる、そこまではまだ良い。大喜くんとそ(・)う(・)い(・)う(・)関(・)係(・)になってしまったら、由紀子さんたちに申し訳が立たない。バスケの為に居候させて貰っている身なのに、それを疎かにしては義理が立たない。

 それにどの面下げて蝶野さんに謝れば良いんだ、殴られたって文句は言えない。あの子の一途さを、私は知っている。あんな良い子を泣かせて、それで何を得るというのか。

 考えれば考えるほどに、自分の愚かさばかりが身に染みてくる。

 だけど、でも。

「私は大喜くんが、好き。全てを捨てても良いくらいに、好き」

 口に出してようやく、私のなかで何かが結実するのを感じた。

 居候としての矜持も蝶野さんへの葛藤も、脇に置いておこう。私が望むことだけを、ひたすらに求めよう。

 愛しているから。それだけで良いんだ、私は……いや私たちは。

 そう思えば思うほどに、身体の芯がどんどん熱くなっていくのが分かる。その中心は、お腹の奥。そこから沸き立つ熱が腰を浮かせ、少しずつ脚の間から漏れ出ていく。普段はあまり触りたくない場所、私のその――オンナノコが燃えている。そう思えるほどに、熱い。

「んー……、あ……?」

 右手の人差し指で触れてまず感じたのは、ぬるついた湿り気。たまにオナニーはするけど、弄る前からこんなに濡れているなんて初めてだ。それに殆ど濡れないまま終わる事もあるのに、今日の湿度は自分でも引く。どれだけ大喜くんを好(・)き(・)なんだろうな、私と来たら。考えただけでこれなんだから、本当にさ。

 裂け目を拡げるとそれは更に増え、あっという間にシーツに染みが出来ていく。それをぼんやり恥じ入りつつも、指はまったく止まろうとしない。いつしか中指も加わって、グチュグチュと音を立てていく。左手は左手で、シャツの下で隆起していた乳首を攻めあげ、乳房全体を捏ね回し、欲望を加速させる。

 オナニーに夢中になるなんて、どれくらいぶりだろうか。それこそ覚えたての頃以来かもしれない。浅ましいとは思うけど、でも止まれない。

 このままもっと、と快感に身を任せようとした、その時。

 小さなノックの音が、私の意識を引き戻す。

『千夏先輩、あの……入って良い、ですか?』

 そして聞こえた声の主は勿論、大喜くんだ。さっき私が呼んだんだ、間違いない。

 熱に浮かされた頭で返事しようとした私は、ようやく自分の姿に意識を通した。

 オナニーの真っ最中、身体は発情しきっている。不味い、これは不味い。不味すぎる。

「あ、……ちょっと待ってて! 今その、えーととにかくそこにいて!」

 汚れたシーツを蹴り飛ばしてベッドの下に隠しつつ、とりあえず服を着直す。まったく、なにしてんだ私は!

 

 バタバタと片付ける事数分かそこら、なんとか私は大喜くんを招き入れた。

 ……でも、だ。

 落ち着かない表情の大喜くんと二人、ベッドに腰かけたまま私たちはあれから黙ったまま。……変な匂いとかしてないかな、平気だと良いけど。いやまあ、それを尋ねるほどの勇気はない。

 呼んでおいてこのまま黙っているわけにはいかないけど、でもなかなか上手い言い回しが思い付かない。大喜くんの気持ちを尊重しつつこの場をどうにか――、そう考えた所で私はかぶりを振って思い止まる。

 そうじゃないだろ、私。考えすぎて動かなくなって、そのせいでどれだけ間違ってきたか思い知ったじゃないか。変な遠慮と歪んだ気遣いで、大喜くんを振り回してきたんだから。

 もうそんなのは、止めるんだ。

 したいこと、するべきことを只しよう。それで誰かが傷付こうとも、立ち止まるより遥かにマシだ。

 一直線に、突き進む。

「大喜くん、私はキミが好き。キミだけが好き。大喜くんの全てが、欲しい」

 言葉は不器用で、時に無力だ。だからその先に進むには、身体ごと行くしかない。

 そっと抱き締めた大喜くんの唇に、改めてキスを落とす。さっきのように力尽くじゃない、気持ちを込めたキスを。

 じんわりと広がる熱は心地よく、頭を蕩かしてしまう。その熱に導かれ、大喜くんのはだけた胸元にもキスをする。その肌は甘く熱い、私と同じように火照っている。

 お互いそ(・)の(・)先(・)を、期待しているんだ。言葉にしなくてもそれは分かるし、伝わってもいるだろう。でもやっぱり、言わないと形にはならない。そういうものだ、結局は。

「私は大喜くんと、……したい、です。セックスを、したいです。良いです、か」

 

 お互いに服を脱ぎ捨てて、脚を開いたままベッドで向かい合う。大喜くんの視線は私のオンナノコへと注がれ、勿論私は大喜くんのオトコノコを見つめている。手を伸ばせばすぐに触れあえるほど、近くで。

 それがどうなっているのかどうしても見たくて、でも大喜くんはすごく恥ずかしがって真っ赤になってしまった。じゃあ私のも見せるから、とそんなこんでよく分からない格好になっているわけだけど――。

「あ、……の、千夏先輩。なんかその、スゴい……ドロドロなんですけど、大丈夫なんですよ……ね?」

 ……どうして大喜くんと来たら、こうなんだろう。そりゃまあ興奮しきっているしさっきまでオナニーしてたしで、ドロドロになってたって仕方ないじゃない。

 そう言う大喜くんだって、相当だ。血管が浮いて見えるほど張り積めたそれは、手で触れると火傷しそうなくらいに熱くなっているしガチガチに堅い。大丈夫なのか、はこっちの台詞だ。いやまあ、よく考えたら心配するのは大喜くんじゃなく私の方かな。だってこれが――入るって言うんだから。

 それでもまあ、どうにかなるだろう。私たちなんだから。

 じりじりと近付いていく、私たち。だけどその姿勢は少しずつ傾き、私が大喜くんへ覆い被さる格好になっていく。どうも私は、そういう進み方が性に合っているようだ。

 更に進んで腰を浮かせ、天井を向いた大喜くんのオトコノコの真上に私のオンナノコを持っていく。

「じゃあ、大喜くん。行く……から、ね」

 痛いとは聞く。そりゃまあ痛いんだろう、指もロクに入らない場所にこんな大がかりなモノを捩じ込むんだから。

 だけどまあ、どうにもならない程でもないはずだ。花恋だって平気だったんだし、あれよりかは運動部な分多少は私の身体の方が頑丈な筈だ。

 女は度胸だ、きっとうまく行く。

 そんな事を自分に言い聞かせながら、腰を落としていくけれど――。

「ん、……ぉあ……っ、これ、はぁ……」

 やって来たのは覚悟していたような痛みではなく、僅かな異物感と胎内を押し上げる圧力。そして甘くゾワゾワとする快感だけが、押し寄せてくる。

 さっき解しすぎたのか、それとも体質的なものか。まさか私が人より緩いって事はないだろうけど、うーん。

 まあ、良いか。痛くないなら、それに越したことはないし。

 そう思いながら身体を沈めきった、その時。私の下で大喜くんが、弾けるように身体を震わせた。

「あっ、先輩、出……っ!?」

 悲鳴のような声と共に、大喜くんが私の中に何か放ったのが直感的に伝わってくる。粘膜の内側に迸る熱い液体がなんなのかは、考えるまでも無い。大喜くんの精液が、私の中に注がれている。それだけ、だ。何の問題があろうか。

 私が快感を味わっていたのと同じくらいに、大喜くんも感じてくれた。それは何よりも、幸福な事なんだ。

 まだ脈打つオトコノコの感触を楽しみながら、私は大喜くんとキスをする。

 もっともっと、愛したいから。もっともっと、愛されたいから。

 舌を絡め合う間にも、大喜くんのオトコノコは私の中で猛っていく。やっぱり大喜くんも、私と同じ気持ちなんだな。

 意識しないまま腰がだんだんと動きだし、知らず知らずお互いの口からは喘ぎが漏れていく。吐き出される精液の量はどんどん増えているのか、結合部からはぶしゅぶしゅと空気の混ざった湿っぽい音が絶え間なく続いている。……大喜くん、これ何の音だと思ってるんだろうか。まさかお尻からだとは思ってないだろうけど、ちょっと恥ずかしいかも。

 良いんだけどさ、別に。だって大喜くんには私の身体を、奥の奥まで知ってほしい。身体の隅々まで精液を染み込ませて、私を染め尽くしてほしい。もっともっと、いっぱい愛し合いたい。恥ずかしさよりずっと、その欲求の方が強い。

 このまま息が上がるまで繋がっていよう、そして少し休んでから一緒にお風呂に入り直そう。

 ああ、幸せだな。思いきって突っ走って、良かったな。

 

「…………アンタ、バッッッッッッッッカじゃないの!?」

 ――背中を押してくれた渚に報告して、ちゃんとお礼を言っておこう。そんな殊勝な事を考えていた私に対しての渚からの返答が、これだ。バカなのは知っているけど、そうも溜めて言われるほどのバカでもないんだけどさ。いや、うん。自分ではそう思ってるよ、ハイ。

 さすがに一言文句言おうと思ったけれども、渚の圧が強すぎてたじろいでしまう。この馬鹿げたプレッシャー、試合で活かしてくれないもんだろうかな。渚の圧で相手チームが気圧されてくれれば、私らも動きやすいんだけど。

「あーのーねー……、告白とかはまだしも、誰が一気に最後までヤれって言ったのよ! 少しは自分を大事にしなさい! 男なんて全部ケダモノだって、前教えたでしょうが!!」 

 そりゃ渚の弟くんがおサルなだけだと思うけど、とりあえずは指摘しないでおこう。こうなった時は黙ってるのが一番だ。

 まったく、渚にまでこうも言われるなんて。ついさっき、蝶野さんとやりあったばかりなのに。 

 何も言わないままじゃアンフェアだと思って一応話したのに、まさか全力で殴りかかってくるとは思わなかった。睨み付けるくらいならともかく、ノータイムで暴力に訴えないで欲しい。即時応戦して無力化した後、追加でたっぷりディスられたし。とは言え蝶野さん、「引き下がる気なんかねーですから!」って吠えてたしこれからはバチバチにやりあう事になるんだろうな。

「あのさ、千夏。あんた何一つ聞いてないでしょ」

「……滅相もない」

 まあ、実際聞いてないけど。だって過ぎたことをグチグチ言っても始まらない、先を考えないといけないんだ私は。

 私はもう、我慢しない。好きな人に好きだと言える、これ以上の幸福があるものか。

 今日は帰ったら、由紀子さんにも打ち明けよう。それで追い出されるようなら、大喜くんの首根っこ掴んで連れてって二人暮らししても良いんだし。

 そして明日からは、もっともっと頑張ろう。部活も勉強も、何もかも。大喜くんが誰よりも私を好きでいてくれるように、私が大喜くんを誰よりも好きでいられるように。

 愛の力は、いつだって奇跡を起こす。……多分、きっと。

 

#2 アオい日々は絶えなく続く

 

 世の中には、こんな格言があるという。「しばらく二人で黙っているといい。その沈黙に耐えられる関係かどうか」、キルケゴールだっただろうか。要するに黙ってても気まずく感じない、そんな信頼しあえる関係が理想だって話。……だと思う。違うかもしれないけど。

 俺と千夏先輩は、そういう関係はなれそうにない。黙っていたくないというか、二人きりになったなら本心を打ち明けたい。そう思うようになったのは、一ヶ月の同居中断が開けた頃だった。

 一ヶ月、たかがそれだけ。平日は学校に行けば逢える、なんなら休日だって遊びに行けば良い。それなのに。

 それなのに――寂しくて仕方がなくなった。

 千夏先輩が家にいない、それだけで俺はすっかり弱りきってしまったのだ。

 指折り数えて一ヶ月、俺はひたすら待ち望んだ。大好きな人が戻ってくる日を。

 

 そして。……そして。

「――ただいま、大喜くん」

 先輩が猪股家へ帰ってきた夜、俺は自分を抑えきれなくなった。

 私がいなくて寂しかったかな? とからかってきた先輩を、ただ抱き締めて。

「寂しかった、です。もう、何処にもいかないでください」

 困惑する先輩を見詰めながら、ずっと胸に引っ掛かっていた願いを感情のままにブチまけた。

 離れたくない、離したくない。

 辛かった、苦しかった。死にたくなるほど、寂しかった。

 千夏先輩の気持ちなんて、考えられない。こんなこと、許されない。そんなの分かっているけれど、俺はもう止まらない。

「先輩、好きです」

 きっと良い返事は返ってこない。殴られても文句は言えない、二度と逢えなくなるかもしれない。

 それでも、それでも。

 この気持ちは、どうにも出来ないから。

「……大喜くん、ちょっと痛いよ」

 小さく漏れた声に身体が一瞬強張り、その隙を突くように千夏先輩の姿が腕の中から離れていく。

 ああ、終わりだ。これで、何もかも。

 そう思って腹を括った俺の視界が、僅かに翳った。そして唇に触れる、暖かく柔らかな感触。

「――…っ」

 視界に光が戻って目に入ったのは、恥ずかしそうな千夏先輩の顔。何が起きたか、それで察する。

 キス、された。千夏先輩に。

「ありがとう、大喜くん。嬉しいよ。でもさ」

 そう言ってクルリと後ろを向いた千夏先輩の声は、少しだけトーンが落ちていく。

 でもさ。でも。それは、多分俺がさっき想像した通りのことなんだろう。じゃあ今のキスは、餞みたいなものだったのか。いやそれで良い、構わない。今ここで死にたいくらいに、幸せになれたんだから。

 俺は最期の時を覚悟し、千夏先輩の背中を見つめながら息を吐く。

 でも、しかし。飛んできたのは、そ(・)う(・)い(・)う(・)事(・)ではなかったのだ。

「本当に、良いのかな。大喜くんは、蝶野さんに告白されたんだよね?」

 その言葉は俺を否定するのではなく、むしろ気遣う声。何故千夏先輩がそれを知ってるのかは分からないけど、言いたい事は分かる。雛の気持ちを考えなくて良いのか、という事。

 雛は俺に言ってくれた、返事は良いと。ただ、好きだと知っていて欲しいと。いくら俺だって、それが方便だと気付いているさ。だからこそ、千夏先輩を好きなままでも構わないと笑ってくれたんだ。あんなにも、真剣に。あんなにも、真っ直ぐに。雛はこんな俺を、好きになってくれた。

 だけど俺は――。

「俺は、千夏先輩が好きです。雛がどう思っていたとしても、それは変わりません」

 自分を曲げて雛を好きになる事は出来ない、それは逆に雛の心を踏みにじる行為だ。

 俺は変わらない、変われない。

 誰がなんと言おうとも。

 その思いを込めて、先輩を後ろから抱き締める。俺の気持ちが、伝わるように。

「そっか。……そっか、そうなのか。大喜くんは、そうだったのか」

 フワリと香る良い匂いは、髪からなんだろうか。何処か悪戯っぽい先輩の声と相まって、なんだか現実感を失いそうだ。でもこれは、俺のリアル。俺たちの、リアル。

 甘い熱に浮かされたまま、先輩を掻き抱く腕には力が籠ってしまう。また痛いと言って逃げてしまうかもしれないけど、先輩を捕まえていたいから。

「あの、大喜くん。……こんな時にあれですが、ちょっと良いでしょうか」

 え、と思う暇もなく千夏先輩が小さく呟く。

「あのね、大喜くん。お尻に何か当たっていますが、これはその……。その、あー……何て言えば良いかな……?」

 ……………………。

 好きな人を抱き締めて、その髪に顔が埋まる程密着して。こんな状況で、つまり俺は。俺の意思とは関係なく。

 ――そうなっていた。そう、なってしまっていた。

 

 甘い空気も良い雰囲気もたった一言で雲散霧消して俺たちは、背中を向けあったまま床に座っている。俺は腕まで真っ赤っか、先輩もさっき見た限りではそうだろう。

「あ、いや。うんまあ、男の子だもんね大喜くん。えーっとよく知らないけど皆そうなっちゃうんだよね、私別に怒ったりしないからさ、うん……うん」

 どうにか俺を気遣おうとする先輩の優しさが、辛い。男ってなんでこうなんだ、あんなに幻想的な雰囲気になってこれかよ。

 俺は千夏先輩が好きだ、でもそ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)を求めてる訳じゃない。でもそんなの、理解してもらえるもんか。告白に失敗どころか、下手したら俺がこの家を追い出されるぞ。

 どうしよう、どうしよう。……いやどうにもならないぞこんなの。

「すいません、千夏先輩……」

 ただ絞り出すように謝るのが精一杯、とても振り向く勇気なんか無い。

 軽蔑される、嫌われる。最悪の大失敗。そう嘆きながら、自分の馬鹿さに嫌気が指すばかり。 

「ねえ、大喜くん。それは謝らないといけないものなの? ……私のせいでそうなっちゃったから、大喜くんはそれが嫌なのかな」

 先輩の困惑した声に、心がざわめく。

 嫌なんじゃない、でも俺は千夏先輩に嫌われるのが怖い。だから謝って、許されたいと願っている。

 それに先輩のせいじゃない、俺がバカだからだ。空気も読めないサルだからだ。

 伝えたいことはあっても、口が動かない。どう言って良いかも分からない。

 ――と。

「大丈夫だよ、大喜くん」

 ふわり、と空気が流れるイメージ。

 そしてかけられた優しい声。

 後ろから抱き締められた、と気付いたのはその少し後。

「私は、大喜くんが好き。好き同士なら、そうなるのもきっと普通だよ」

 背中に感じる、柔らかな熱。密着する肌が、鼓動を伝えあう。

 言葉だけじゃない、千夏先輩のすべてが告げている。偽り無い、その気持ちを。

「大喜くんはね、悪い子でも恥ずかしい子でもない。私を好きになってくれた、私が好きな人。大切な、人」

 甘く蕩けるような、囁き。耳から身体を塗り潰していく、圧倒的な意思の奔流。

 さっきよりも強く熱く下半身が猛っていく事さえ、意識の中から消えていく。

 俺は、俺は。千夏先輩が好きだ。

 許されるなら、受け入れてもらえるなら。

 俺は自分のすべてを、捧げたい。そう、思う。

 だから、――。

 

 家族が寝静まるまでの、ほんの数時間。それが永遠に近い程、長く思えた。

「やー……お待たせさんです」

 何処か緊張した様子で入ってきた先輩、そして心臓が張り裂けそうな俺が向かい合う。 

 これから何をするか、その事で頭は一杯。深く考える余裕はない、あるわけがない。

「ええと大喜くん、……ホントに私で良いのでしょうか」

 珍しくモジモジとする千夏先輩は、それでも尚美しく見える。

 神々しささえ覚える程のその姿は、触れる処か見る事さえバチが当たりそうで躊躇われる。

 でも。俺はこれから、この人に触れるんだ。――愛する、んだ。

 千夏先輩は、それを許すと言ってくれた。

「はい。俺は千夏先輩が好きです、だから――」

 したい。抱きたい。それはよくない感情かもしれないけど、それでも俺の本当の気持ちだから。

 そっと触れた千夏先輩の肌は、焼けるように熱い。きっと俺も、同じくらいに熱くなっている。

「と言うか、その。千夏先輩こそ、ホントに……良いんですか」

 もう結論を出してもらえたのに、俺は再びそれを口にしてしまう。

 だって先輩は、女の人で。そういう事をするという重さが、俺よりずっと強い筈だ。俺は先輩が好きだから、だからこそ傷付けたくない。

 さっきはまだ、お互い熱に浮かされていた。少しだけとはいえ時間が置かれた今、先輩の気持ちは変わっているんじゃないだろうか。そう考えてしまって仕方がない。

 いや、そうじゃないな。俺はやっぱり、怖いんだ。先輩に嫌われるのが、それだけが怖い。

 だ(・)か(・)ら(・)、確(・)か(・)め(・)て(・)お(・)き(・)た(・)い(・)。

「さっきも言ったけど、うん。まあ私こういうのサッパリだから、上手くいかないだろうけど。でも大喜くんとなら、私は平気だよ」 

 先輩はなんともまあ、アッサリしているけど。俺がこんなに重々しく考えているなんて、想像もしてないんじゃないだろうか。

 この人はいつもこうだよな、悩んでるのが馬鹿馬鹿しく思えてくるくらいに真っ直ぐでポンコツで。

 ああ、やっぱり俺はこの人が好きすぎる。

 

「んむ……っ」

 合わせた唇同士が擦れあい、柔らかな隙間から息が漏れて音になる。

 ベッドの上で、折り重なるようにキスし続ける俺たち。モゾモゾと身体がよじれる度に服は少しずつずり落ち、気が付けばお互い下着姿。

 まるで貪り合うようなキスの果てに、名残惜しげに離れた先輩は。

「さぁ、――どうしましょうか」

 余韻を掻き消すくらいに明るく、俺に微笑んだ。

 ここから、どうやったものか。そんなの俺が聞きたい、でもそうもいかないか。ここで艶やかな空気が続かないのが、俺たちなんだな。

 どういうのが「正しい」かは分からない、けど「したいこと」はある。その為に先輩の胸元へと手を伸ばしてみるけれど、けれども。

「あ、……れ? ん?」

 もっと触れたい、直に触れたい。なのにこれ――ブラジャーというモノは、どう外せば良いのか。

 えー……分からん。これどういう構造なんだ。

「あのー……先輩、どうやったら脱げますかコレ」

「え、あぁごめん。今外すね」

 一旦身体を起こした先輩が背中に手を回すと、ブラジャーは支えを失ったように剥がれて落ちた。後ろにボタンだかなんだかがあるのか、不便そうな構造だな随分。

 しかしそんな事を気にしている余裕は、すぐに無くなってしまう。

 遮るものの無い白い肌、思った以上に大きな胸――おっぱい。それを目の当たりにしてしまっては、モノを考えてなんかいられないから。

 許可を得るのももどかしく、その谷間に向けて顔を埋めていく。千夏先輩に包まれている、安心感。肌に伝わるのは体温とそして、鼓動。千夏先輩の、命のすぐそばに顔を寄せている。

 すりすりと滑らかな肌を楽しみながら手をなんとなく動かしていると、柔らかな感触の合間に固い何かが触れた。見なくても分かる、これが先輩の乳首なんだ。顔を少しだけ上げてそこへキスして、そして「ん、……っ」口の中に、含んでみる。自分が赤ちゃんになったように。

「ふふ、大喜くん可愛いねー」

 頭を撫でてくれる先輩の声は、とても優しい。このままこうしていれたら、どんなに幸せだろう。でも俺は、もっともっとこの人を知りたい、深く繋がりたい。

 口づけたままゆっくりと肌を滑り、おっぱいを通り越して臍へと降りていく。その先を目指して。さすがにこうなると、許可を得ないといけないけど。

「千夏先輩、その……良いですか」

 顔を上げて問いかける、でも直接は言えない。生々しいし、恥ずかしいから。

 だけど言いたいことは伝わってくれた、先輩の照れ臭そうな声がその証拠。

「う……ん。でも良いのかな、あんまり綺麗な場所でもないんだけど」

 あ、だからって汚くなんかしてないからね!? と慌てて付け加える先輩に苦笑しつつ、俺は千夏先輩の腰にキスを落とす。そのまま、そのまま。俺の唇は肌を舐め下ろしながら、その場所――先輩のオンナノコへと接触を果たした。

 ピクンと僅かな震えを感じながらも、俺はキスを止めない。舌に広がる、塩気と酸味。汗ではない味と、噎せかえる程の「メス臭さ」。これが先輩なんだ、そう思うと心の底からいとおしい。

 頭を揺らしながら、奥へ奥へと舌を伸ばしていく。もっと進みたい、もっと知りたい。千夏先輩の身体を、奥深くまで知り尽くしたい。

 溢れてくる蜜を吸いながら、それでも口が止まらない。美味しい、気持ちいい、快感だけがどんどん高まっていくのが分かる。

「ぁー……、大喜くん、ちょっ……一回、離れ……よ?」

 突然グイッと額を押され、気が付くと俺は千夏先輩の股から離されてしまっていた。……良いとこだったのに。

 ゼーゼーと荒い息を吐く千夏先輩は、首まで真っ赤だ。それに離れたお陰で見えるようになったオンナノコも、同じくらいに色付いている。改めて見ると、唇というか磯の生物というか不思議な形なんだな。穴じゃなく肉の谷間、って感じだ。

「あんまりジロジロ見るんじゃありませんっ、恥ずかしいんだからね」

 サッと手で隠されてしまったけれど、その記憶は身体から消えたりしない。あの味も匂いも含めて。

 でもそりゃ恥ずかしいだろう、いくらマイペースな人でも。だからこそ俺は舐めたいけど。

「それに、さ。私、お返しできないもん。……大喜くんの触ったり舐めたり、とか……ちょっと無理だし…………」

 申し訳なさそうに俯く先輩に、俺はただキスを返す。

 先輩は嫌なことなんか、しなくて良い。俺は先輩が好きなだけで、奉仕してほしいわけじゃない。そんなのは、いらない。

「大丈夫ですよ。千夏先輩がもし嫌だとか怖いとか思ったら、いつでも言ってください。そこで止めますから」 

 御預けは正直堪えそうだけど、それ以上に千夏先輩が辛い想いをする方が耐えられない。

 俺は先輩が好きだから。

 愛しているから。

 

 ベッドに腰かけて背中を壁に預け、脚を大きく広げた先輩。その中心、先輩のオンナノコは物欲しげにヒクヒクと震えている。そこへと向けられているのは、俺自身。

 このまま進めば、そこで――繋がれる。先輩と、一つになれる。

 もちろんこれは、軽々しくして良い行為じゃない。そう思うからこそ、俺は先輩としたい。この世に一人だけの大切な人と、この先もずっと生きていきたい。その願望と覚悟を込めて、ゆっくりと進んでいく。

 粘膜が当たった瞬間、先輩の口からは小さく息が漏れた。ここから先へ進めばもう、取り返しはつかない。きっと先輩は、それを感じている。

「千夏……先輩。……もし、嫌だったら……」

 言いかけた俺の額に、コツンと先輩の拳が小さく当たった。

「そうじゃないよ。大喜くんこそ、良いのかな?」

 悪戯っぽく笑うその顔は、優しくて。可愛くて。ああ、もう。俺はやっぱりこの人が、大好きだ。

 全ての思いを込めて、先輩の中へと俺は入っていく。もっともっと、この人を好きになりたいから。

「ぃ……っ」

「う、ぁ……!?」

 声が漏れたのは、ほぼ同時。千夏先輩が何を思ったのかは分からない、でも俺が声を出してしまった理由は一つ。

 余りにも、気持ちよすぎるから。

 千夏先輩の中は温かく柔らかで、なのに握り潰すような圧力で締め上げてくる。そうかと思えばうねるように蠢き、一瞬たりとも同じ形に留まらない。舌を入れた時は味に気をとられていたのか、これに気付かなかったみたいだ。そして俺を引きずり込もうと、どんどん奥へと導いてくれる。

 女の人って、スゴい。オンナノコって、スゴい。

 気が付けばお互いの腰は密着しあい、陰毛が絡まりあっていく。

 先端に何かが突き当たる感触を覚えたその時、俺は自分が全て先輩の内側に包まれている事を、そして先輩の一番奥に触れている事を知った。

「あ……入りまし、たぁ……っ、全、部……」

 ゾクゾクと背筋が粟立ち、心臓は張り裂けそうなほどに早鐘を打っている。完全に、繋がった。一部の隙もなく、一つになった。

 それは先輩にとっても、同じことなんだろう。

 俺の背中に手を回し、抱き締めてそして。

「うん……。私のなか、大喜くんでいっぱいだよ……」

 幸せそうな顔で、キスしてくれたのだ。

 上も下も、繋がって。これで理性を保てるほど、俺は賢人じゃない。

 沸騰し続けた快感は、もう自分でもコントロールなんかできない。

 脊柱を貫く稲妻が、一気に身体の芯を焼き尽くす。

「出、ま……っ」

 口を開く余裕すらないまま、身体がガクガクと痙攣して。尿道を精液が駆け抜け、一瞬毎に意識が飛ぶほどの爆発的な快感が襲ってきた。

 目の前は真っ白になり、意識まで精液に変わっていくんじゃないかと思うくらいの勢いで射精が止まらない。

 触れている千夏先輩の身体も大きく震え、それでもしがみつくように俺から離れない。

 今、この瞬間に死にたい。それくらいに圧倒的な快楽の暴力に晒されながら。

 俺は力の限り、千夏先輩を抱き締めていた。

 

「ふぃー……出したねぇ大喜くん……」

 空が白み出し、お互い精も根も尽き果てて漸く俺たちは身体を離していた。

 先輩のオンナノコはまだ口が閉じきらないまま、逆流してきた俺の精液をトロトロと垂れ流している。それさえ気にならないくらい、ベッドはもうグチャグチャだ。一晩かけてこうも汚しきってしまったけど、悔いはない。母さんには殴られるだろうけど。

「先輩だって、スゴかったですよ。……色々と」

 どーせあたしゃガサツですよ、とペチペチ叩いてくる先輩は可愛いけど、ついさっきまでは獣のような状態だった。むしろ後半は俺に跨がって暴れてたくらいだ、やっぱり俺はこの人の事をなにも知らなかったんだと想い知らされた。

 俺たちはお互い、深く知り合えた。でもまだ、終わりでもなんでもないんだ。

 きっと俺たちは、これからも――。

 そうやって余韻に浸っていたけれど、千夏先輩の呟きが俺を現実に引き戻した。

「大喜くん、さ。危険日という言葉をご存じでしょうか」

 ……。…………。え。

 それはまあ、言葉としては知っている。それくらいなら。

 でもなぜ今、と思った矢先。俺は自分のバカさ加減に、今更ながら気が付いた。

 考えてみたら俺は、何も考えずに射精し続けてなかったか。いや、し続けていたさ。

 もしかして先輩が「良いのかな?」と言ったのは、そ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だったのか。

「ちなみにあたくし、今日明日辺りが排卵予定日でございます。超危険日、ですねぇ」

 俺の動揺を察するように先輩は、ニヤニヤしながらそんなことを言ってくる。

 なんだろう、このハメられた感。まさか最初から手のひらで転がされていたんだろうか。

「大喜くーん、何か言うことがあるよねぇ……?」

 千夏先輩はやっぱり、読めない人だ。俺なんかじゃ御せるわけがない。

 でも、それでも。分かっていることはある。千夏先輩は、俺が好き。俺が千夏先輩を好きなのと同じくらいに、俺が好き。

 だったら、何も問題はない。

「千夏先輩、好きです。結婚しましょう」

 お互いがお互いを好きなら、それが一番幸せだから。もちろん色々と厄介な事はあるけど、そんなもんで俺たちは止められない。

 昇りつつある朝陽を浴びながら俺たちは、キスをする。この先も離れることなく一緒にいる事を誓いあい、愛しあうために。

 ああ、幸せだ。なによりも、誰よりも。俺たちは、幸福なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ後は、パパが18になるのを待つだけだね」

「後二年ありますけど」

「二人目も間に合うかな」

「勘弁してください……」

 

#3 アオい明日へと向かって

 

 精も根も使い果たし、俺はただ天井を見上げている。

 さすがにもう、動けそうにない。バドの公式戦でさえここまで疲れきった事はない、正直かなり厳しい。下手したら明日辺り筋肉痛で悶える事になりそうだ。

 ああ、もう。これ以上は絶対無理。

 頼むからもう暫くは、というか朝まではおとなしく寝ててくれ。

 俺を挟んでステレオで聞こえてくる雛と千夏先輩の寝息を感じながら、そう祈る。

 しかしまさか、こんな事になるとは思わなかったな。

 ……いやまあ、狙ってやってたらゲス過ぎるんだけどさ

 

 

 いつの間にか雛と千夏先輩が仲良くなっていた。それに気が付いたのは、ほんの数日前。

 どうも二人が一緒にいるのをよく見かけるようになり、なんだか気まずさを覚えたりした。とは言え栄明のスーパーエース同士、通じるものがあってもおかしくはないか。それに同じ整体院にかかってるのもなにかの縁、仲良くなる土壌は揃っている。

 俺が感じている気まずさは、二人には関係ない話だろう。俺は千夏先輩が好きで、だから雛の想いには応えられなかった。それがあるから、二人が並んでいるとどうも身構えてしまう。どこぞのハーレムラブコメじゃあるまいし、二人が俺を巡って対立するなんて有り得ないのに。千夏先輩はきっと、雛が俺に告白したことなんか知らない。雛は俺の気持ちを知ってはいるけど、そもそも先輩が俺に大した感情は持っていないのも分かっている。

 まあどうあれ、これは悪いことじゃない。仲良きことは美しきかな、と言うし。

 そんな後方友人ポジションでいた自分を、今は思いっきり殴りたい気分だな。なにしろ俺と来たら、人も通わない空き教室で二人に詰め寄られているのだから。

 ……形はどうあれ、意図はどうあれ、人同士がそんな簡単に仲良くなる事はなかなか無い。それこそ、お互いが手を組み合うような理由が無ければ。

 そう、その理由とは即ち――俺だったと言う訳だ。

「大喜くんさ、私を好きになってくれたのは嬉しいよ。でもそれで蝶野さんを泣かせるのは、お姉ちゃんよくないと思います」

 そもそも貴方を姉に持った覚えはないんですけど。いやそうじゃない、そうじゃなくて。

 先輩の後ろに隠れるようにして、雛はじっと俺を見つめている。こんちくしょうやりやがったな、まさか千夏先輩を味方につけて意趣返しに来るとは。 その上こっちの気持ちも全部ブチまけてくれたようだ、マジで何てことしてくれたんだお前は。

 合宿の夜はお互いのこと考えてああ言った、それで俺も傷ついたのに。

「……あのね、私(・)も(・)大(・)喜(・)く(・)ん(・)が(・)好(・)き(・)だ(・)よ(・)。だけど人の気持ちを踏みにじってまで独り占めするような事はしたくないし、出来ない。人を好きになる事が誰かを傷付ける事とイコールなんだとしたら、私はとても哀しいと思うんだ」

 それは、……それは。俺は千夏先輩が好きだ、でも雛を嫌いな訳じゃない。だからこそ気持ちが揺れてしまう自分が許せなかった、こんな不純な心持ちではいられないと思って「結論」を突き付けた。好きになれるのはただ一人、他を見てはいけない。そう思うからこそ、俺は――。

 そこまで考えて、ふと気がついた。あっさりと語られた、その言葉に。

「あの、……千夏先輩? 今なんて言いました、俺を……?」

「うん、好きだよ。それは置いといて、蝶野さんの話をしようよ」

 いや、いやいや。いやいやいやいや、それは余りにも――大事(おおごと)過ぎないか。そんなサラッと言って良い事なのか。

 ……いや、しかし。もしかしたら、ズレているのは俺の方なのかもしれない。守屋マネがあちこち蛸足配線しているように、これくらいライトなのが普通だったりするんだろうか。

 そうなると、それは。……それは、こういう事だったりするんだろうか。

「俺は千夏先輩が好きで、でも……同時に雛を好きでも構わない……?」

 都合の良い話にも程がある、でも二人はそれを否定しない。

「私は、それで良いと思うよ。蝶野さんも、だよね?」

「まあ、……はい。このまま拗れるくらいなら、共同所有ってことにしちゃおうかなって」

 そんな家電買い換えるくらいの態度でそんな事言わないでほしい、それに俺の気持ちはどこへいくんだ。

 そう訴えようにも、逃げ道はもう無い。そして何か言おうと開きかけた唇も、ついっと塞がれてしまった。雛と千夏先輩、二人の唇で。

 柔らかく濡れた質感が、唇の左右を包み込む。密着した顔同士が体温を伝え会う、脳が追い付かない程の快感が全身を貫いていく。こんな行為に晒されて、それでもまだ拒絶の意思を示せる程俺は強くない。

 永遠に近い長さにも思えたキスが終わって俺は、ただ頷く事しか出来なかった。

 

 三人仲良く、はそりゃ理想かもしれない。理想かもしれないけど、許されるんだろうか。

 何処かに残る罪悪感はでも、その楽しさに押し潰されてしまう。部活帰りに三人で喫茶店に寄ったり、夜寝る前にグルチャで延々無駄話したり。考えてみれば俺たち三人は、千夏先輩の件で秘密を共有する仲だ。こうやって穏やかに過ごしても、不自然ではないだろう。

 そう、俺はそんな甘いことを考えてしまっていた。あの行動力の権化千夏先輩と手段のためなら目的を選ばない雛が手を組んで、何も起こらない訳がないのに。

「大喜くん、蝶野さんとも話したんだけどさ。――セックスを、しましょう」

 謀ったように練習がない上大人もみんないない連休の午後、遊びに来た雛と部屋でなにやらゴソゴソやっていた千夏先輩は、想定を遥かに越えるろくでもない事を言い放った。

 そう来るか、そんな風に来るか。一緒に暮らしていて分かったけれど、千夏先輩は器が大きい天才じゃない。底が抜けた天災だ、何をやらかすか全く分からない歩く災害。理解するとかそんなことは不可能で、吹き荒れる暴風から身を守るためには常に最悪の事態を考えるしかない。その更に斜め上を行くから始末が悪いんだけどさ、実際。

 まあ、俺たちは三人で付き合い出したわけで。三者三様あれこれあれど、もう高校生なわけで。そういう事があっても、おかしくはないわけだ。

 それに、考えたことがないとは言わない。俺だって男だし、人並みに興味はある。あるけれど、さ。こんな形でするもんなんだろうか。

 自信はどう思ってはいるのか、ピッと指をたてて千夏先輩は続ける。

「ただね、どうすれば良いのか分かりません。この中には経験者がいませんから」

 何でか知らないけど倒置法で言う意味はあるんだろうか、なんて何処か他人事のように聞きながら俺はふと窓の外を眺めた。

 空はこんなに青いのに、日差しは柔らかなのに。どうして俺たちは、こんな事を大真面目に話してるんだろう。

 ヒートアップする先輩と雛の声を聞きながら俺は、思考を手放した。無意味だから。

 

 とりあえずそれっぽい事してみようか、と服を脱がせあったりシャワーを浴びたり。そんな事してる間に、時刻はいつの間にか夕暮れになっていた。

 三人とも素っ裸のままありもので晩御飯を済ませるという、何だか普通に有り得ない事をしてみたりしつつ。……俺たちは、だんだんとそういう雰囲気を醸し出していく。と言うか期待する気持ちはきっと見透かされている、一目見れば分かるだろうし。と言うか余りにも分かりやすすぎるくらい、よーく見えているから。血が全て集まっているんじゃないか、そんな事を考えてしまうくらいにガチガチになっているから。

 それは二人も同じなのか、さっきから落ち着きなく太股を擦りあわせたり切な気な吐息を漏らしたりしている。

 そろそろ、なんだろうか。でもこういう時は、どうすれば良いんだろう。一応脳内にあるその手の情報を総動員してはみるけれど、細かい部分がハッキリしない。

 モジモジしながら過ごす時間を終わらせたのは、やっぱり千夏先輩だった。

 じゃあしましょうかーと言いながらゴソゴソとコンドームを取り出すと、俺と雛の目はそこに釘付けになる。これを着けたら、もう本(・)番(・)はすぐそこだ。あとはもう、流れに身を任せるだけ。いや俺がそんな事言ってちゃダメなんだけどさ、男の子なんだから。

「えーと、あれどうやって着けるのかな……」

 押し当てられた薄いゴム、その被膜越しに千夏先輩の指がゆっくりと俺の幹を下りていく。

 それは刺激的という言葉では形容できない、そんな凄まじさを帯びた快感が脊髄を駆け抜けて――。

「え、なんか脈打っ……、うぁっ!?」

 驚きの声と共に弾かれるように離れた千夏先輩の手、それを追いかけるようにドクドクと精液が放たれた。

 その勢いでコンドームは捲れ上がって外れ、噴き上がる白い噴水がベッドを汚していく。

 やがてそれが収まると、目を丸くした雛が小さく呟いた。

「……いや、触っただけで出るもんなの? 男の子のってさ」

「あー……面目無い」

 

 ベッドに寝転がり脚を拡げた雛と向かい合い、俺は息を呑む。

 蝶野さんからしてあげて、と千夏先輩が言ってくれた。それがどういう意図なのかは分からないけれど、でも。千夏先輩に見守られながら、俺はこれから雛とするんだ。

 できる限りで良いから優しくしなさい、て言うかそうしないと後で血が出るまで殴るからね、なんて怖いことを言われながらも雛へと覆い被さり、その入り口へと自身を押し当ててみる。明らかにモノが入るような構造とは思えない、狭い狭い隙間。ここへと分け行って、良いんだろうか。まさか今ここからやめるわけにもいかないけどさ。それこそ殴られる。

 腰を少しずつ突き出し、様子を伺いながら俺は雛の中へと入っていく。一回出してしまったのが逆に幸いしているのか、その感触を味わえるくらいにはまだ余裕が残っているようだ。しかしこれは、これは――なんなんだろう。暖かく窮屈な筒の中へと押し込んでいくような、他に比べようがない感覚。全体が締め付けられるこの快感は、手とは全く異なる。

 根本まで全て埋まった瞬間、唇に感じたのは熱く軟らかな圧力。それが雛の唇だと理解した時、それは起こった。

 ぎちり、と締め付けが一気に強まり、雛の内壁がゾワゾワと俺を擦り上げて蠢くのがハッキリと分かる。目の前の雛は白目を向いて囈のように俺の名前を呼び、背中に爪を立ててしがみつく。

 これが女の子の、絶頂なんだ。本能的にそう感じた刹那、俺もまた臨界を迎えた。雛を抱き返しながら、思いきり腰を突き上げ射精が始まる。

 お互いの絶頂が合わさったからか、まるで搾り取られるように精液が止まらない。

 抱き締めあいながらそのまま、どれくらいそうしていたか。拍動が収まってゆるゆる身体を離すと、それに引き摺られてコンドームが雛の中から抜け落ちていく。……よくもここまで入るものだ、と感心するくらいにパンパンに膨れ上がった状態で。もし途中で傷ひとつでも付いていたら、これが全て雛の中に呑み込まれていたのか。ちょっと興奮はするけど、でもまあそうなってしまったら色々とお仕舞いになってしまう。

 雛は荒い息のままズリズリとベッドから滑り降り、そして交代するように千夏先輩が上がってきた。

「じゃあ、次は私だね」

 トンっと俺の胸を突いて仰向けに押し倒し、先輩は俺へと跨がってくる。専門用語でいうところの、騎乗位というやつだろうか。

 そのまま新しいコンドームを嵌めながら、千夏先輩は薄く笑みを浮かべた。

「そう言えば大喜くんが隠してるえっちな本とかって、こういう姿勢多いよね。やっぱり大喜くんマゾだし、女の子に色々されちゃうのが好きなのかな」

 ……ええ、まあはい。でもそんな開けっ広げに言わないで下さい、雛がニヤニヤしてやがるんで。

 天井を向いた俺へと覆い被さってくる、千夏先輩の秘所。雛よりも少し毛深いそこはまるで猛獣の口のように、俺を呑み込んでいく。

 上からのベクトルだからか雛のよりも深く入っていく気はする、締め付け方も違う気がする。でもそんなの比較できるわけがない、どっちにしても気持ちよすぎる。この快感の前で、何を考えることが出来るものか。それに先輩が俺の上で動くたび、形の良い胸が激しく揺れるのも目に毒だ。囁く声は耳を犯し、伝わってくる体温は俺の身体を侵食する。

 全ての感覚がセックス以外の刺激を否定し、全身でただそれを味わうだけ。

「お。お、おー……。なんかビクンビクンってしてるー……、射精してるんだねぇー……」

 千夏先輩の蕩ける声を、まるで遠くに感じながら。俺はただ、幸福な脱力感に落ちていった。

 

 

 疲れ果てて意識は夢現をさ迷い、寝ているのか起きているのかさえ曖昧になっている。

 あのあと先輩は「私まだイケてないよー」と速攻で二回目をしようとするし、雛は交代でするって約束でしょうと俺を持っていこうとするし。結局耐久戦に突入し、動けなくなるまでやり倒した。疲労の質が違うのか俺は疲れすぎてうまく眠れないのに、二人は揃って電池が切れるように寝てしまったから不思議だ。

 首だけ動かして見た時計はもう昼前、切れ切れに意識のオンオフを繰り返しているせいかまだ心は収まらない。あんなメチャクチャな時間を過ごしたんだから当然か、なんて思いながらも俺は何となく千夏先輩の手を取っていた。眠っているからか普段よりだいぶ熱い、それに触れているとさっきまでの乱れた姿が思い出されて止まらない。悪いと思いながらもその手を、隆起し始めた俺(・)へと押し当てていた。

 眠りの中で何を思っているのか、指先が予想できない形でふよふよと動き回るのを感じる。これは、これは。……思ったよりも、気持ちいいかもしれない。同じ手ではあるのに、自分でするのとは大違いだ。このまま激しくしごいたら、どうなってしまうのか。でもまさか、そんな事をさせてはいけない。こうして触らせている事自体、反則みたいなものなんだ。

 早く手を戻して、汚れを拭き取って、全部元通りにしなければ――。理性にそう急かされながらも、快感は溢れてくる。

「、ぁ――、……っ」

 遮る事も出来ないまま精液は迸り、俺は口をつぐみ声を殺すので精一杯。

 千夏先輩の手は白く汚れ、湯気さえ立てているように見えてしまう。

 漸く噴出が止まり、胸を撫で下ろした次の瞬間。太股に小さな痛みが走り、俺は思わず声を上げかける。

「……何やってんのよ、バカ大喜」

 痛みを感じた方へバッと顔を向けてまず見えたのは、俺に白い目を向けている雛。……全部見てやがったのか、こいつは。

 雛は呆れ顔で汚れた先輩の手を掴んで、そして。まとわりついていた精液を、チロチロと舐めとり始めた。

「あのさぁ大喜、するなら起こしてからにしなさいよ。起きた時に手が精液臭くなってたら嫌でしょうが」

 いやよだれ臭くなるのも大概だと思うけど、と言うと雛は愉快そうに笑いだす。それが聞こえたらしく目を醒ました千夏先輩も、むにゃむにゃと寝ぼけ顔で微笑んだ。

 なんだろうな、これは。三人揃ってこうやって、目を醒ましてすぐに笑いあって。

 こういうのが、幸せなんだろうかな。

 いやまあ、色々と間違ってはいるんだけどさ。

 

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