告白イベントのないIFだと思っていただければ。
人生で一番アオかったあの頃を、たまに思い出す。
青春期という言葉だけでは収まらない、俺の人生のハイライト。
あの日の俺が、今の俺と繋がっているとは思えないくらいに。
あの日の俺は、熱かったんだ。熱く、恋をしていたんだ。
一つ上の、先輩に。
鹿野千夏先輩、栄明の女子バスケ史にその名を刻んだスーパーエース。今も伝説のOGとして、語り継がれているらしい。そんなスゴい人は高二から卒業までの二年間、俺の家に住んでいた。
勿論それを知る者は少ない、というか殆どいない。お互いの家族を除けば、俺の親しい友人二人だけだ。
一つ屋根の下にいて、お互いに憎からず思っていて。それでも、俺たちは。俺たちは、同居人のままだった。
何処かで踏み出していれば、と後悔はしている。結局俺には、勇気が無かったのだ。和やかな空気を壊す勇気も、先輩を受け止める勇気も。何一つ、持ち合わせていなかった。
卒業して猪股家を去る千夏先輩に、何も言えなかった。せめて一言、好意を伝えたかったのに。
あれから既に、10年が経ってしまった。先輩との連絡はすぐに取れなくなり、俺も俺で忙しくなって。千夏先輩は、想い出の中へと消えていく。もう朧気な、若き日の記憶だ。
でも。それでも、消えることはない。きっと。
そう思いながら、いつかの再会を願って生きている。未練がましいけど。
出張先の慣れない街を歩きながら、通りすがる高校生らしき集団を見ていると、そんな事ばかり考えてしまう。
歳取ったなあ、なんて柄にもなく溜め息を吐いてしまったり。
――と。
ドン、と軽い衝撃音。そして、傾いていく身体。
「お、……あっ」
よそ見なんかしているから、何かにぶつかったらしい。道に倒れるなんて、何年ぶりだろう。久しぶりすぎて、受け身も取れないまま。俺は倒れ込んでしまう。
「あっ、すいません……っ」
ぶつかった相手も同じく倒れながら、そう謝罪の声を投げ掛けてきた。標識やなにかではなく人間、それも女性にぶつかったようだ。
まったく何やってんだ、俺は。
とりあえず立ち上がって相手に手を差し伸べた、その時だった。
「たいき、くん……?」
何故か目の前の女性は、俺の顔を見てそう言ったのだ。
何処かで会った人だろうか、でもこの辺は縁も所縁も無い場所だし。
相手の顔をまじまじと見てみるが、……どこかで会ったような会わないような。似ている人は知っているけど。
似ている、人。
そうだ、何処かが似ているんだ。
あの人に。
10年前の、記憶の彼方にある人に。
「え、……千夏、先輩……?」
まさか。そんなまさか。こんな偶然が、あるとは思えない。
でも俺の小さな呟きに、彼女はコクンと頷いた。
こんな出来すぎた形で、俺たちは。10年ぶりの再会を、果たすこととなった。
「じゃ、カンパーイ」
「あ、乾杯」
積もる話はあれど道端で話し込むわけにも行かず、俺たちはすぐ近くの居酒屋へ。お互いビールジョッキを持ち上げて、再会を祝いあう。
なにしろ、10年ぶりだ。
「あー……のさ、ごめんね。里心が着くって言うか、甘えちゃいそうでさ。落ち着いたら連絡する気だったんだけどさー……」
バツが悪そうに言う千夏先輩に、俺は笑顔で返す。
まあ、追求する事じゃない。俺はこの10年で、黙ることを覚えたから。何でもかんでもハッキリさせればいいわけじゃない。
「先輩、この辺に住んでるんです?」
「ん、いや私ちょっと用事で来てただけ。大喜くんも出張なんでしょ、さっき言ってたよね」
偶然ってスゴいね、とビールを煽るその仕草は、記憶にある食いしん坊な先輩のままだ。さすがに当時はおおっぴらに酒呑んだりはしなかったけど。……うん、おおっぴらには。
10年ぶりの千夏先輩は、メガネを架けるようになっていた。バスケの為に高校時代ずっと短かった髪は長めのセミロングになり、色も明るくなったような。あと全体的に、多少ふくよかになった気がする。悪い意味でなく、どことなく艶っぽさがでたというか。大人になった、という感じ。
大人、か。俺はあんまり大人になっている気がしないけど、一つ上の先輩はこうも大人なんだな。
なんとなく、悔しいようなそうでもないような。
「そういえば、さ。蝶野さん、結婚したんだってね」
「ああ、はい。ニュースで見ました」
雛のやつは栄明を出るなり世界へと羽ばたき、今ではオリンピック連覇を成し遂げた新体操界の生きた伝説だ。
丁度去年の今頃だったか、突然コーチとの結婚が報じられて。本人は現役を続けるつもりだそうだけど、次のオリンピックがどうなるかはまだ未定らしい。
気が付けば、雲の上の人になってしまった。一緒にバカやってた頃が、懐かしいな。最後に話したのは、いつだったか。
交わす話は、適当で無秩序で。先輩のご両親が離婚したとかうちのじいちゃんが一昨年亡くなったとか、栄明の運動部全体が最近インターハイに出られていないとか、二人でいった水族館がこのまえリニューアルしたらしいとか、今話す必要無いようなどうでもいい事ばかり。
あの頃だって、こんなに喋ったことはなかった。多分。
そんなこんなで何杯目かのジョッキを開けたその時、ふと何かが煌めいた気がした。
どこか金具にでも照明が当たって光ったかな、と思ったけれど。
その煌めきは、目の前からだった。先輩の、左手。その薬指から、銀色の光が見えている。
考えるまでもない、その意味は一つしかない。
先輩が、誰かの物になった。それだけだ。
もっと辛いとか苦しいとかあるんじゃないかと思ったけれど、そういう感情は出てこなかった。
なにしろ10年、だからな。色々あるさ。
それでも多少は動揺が顔に出てしまったのか、見てるのがバレたらしい。
「ついこの間、ね」
先輩は恥ずかしそうに、その手を隠してしまった。
「まだ籍も入れてないし同居もしてないけど、一応指輪は先に貰ったんだよ」
どこか言い訳するような先輩に、やっぱり笑顔だけを返しておく。
変に俺があれこれ言うことじゃない。
「……こっちが目立つ前に、ってことで。順番メチャクチャだよね」
そう言いながら、先輩はお腹を撫でている。お腹。こっち。目立つ。順番。
――それは。つまり。
ふくよかになったわけではなく。
先輩の中には、新しい命が宿っているという事……なんだろうか。
「……先輩、良いんですか酒なんか呑んで。酒とか刺激物って、不味いんじゃ……」
「安定期入ってるし、一応セーブしてるから平気だよ。煙草もあんまり吸わないようにしてるし」
そういう問題だろうか、この人は本当に。
しかし、先輩が――そういう事になっているとは。
10年は、甘くないな。
セーブしてると言いつつ先輩はどんどん呑み続け、それに付き合って俺も酒量が増えていく。
というか俺としてはもう、やけ酒みたいに思えてきた。
先輩が、妊娠してるということは。そういう事を、したわけで。
先輩の身体を、好き放題した誰かがいるわけで。
肖りたいやら金借りたいやら、まったくもう。良いなあ畜生。
俺もそんなことが出来たなら。いやそこまでで無くとも、せめて告白くらい出来たなら。
今さら、だ。今さらだけど、でも。
「先輩、俺ずっと先輩が好きでしたよ」
酔った勢いをかりて、10年前に言っておくべきだった言葉が飛び出していく。
「あはは……酔ってるねぇ。帰れる?」
「今日はビジホだから平気ですー。明日は休みだし、最悪もう一泊しますよー」
一世一代の遅い遅い告白は、やっぱり笑って流されてしまった。ホテル帰ったら本格的にやけ酒してやろうかな、ああもう。
「まあ、ね。大喜くんの事は、そりゃ好きか嫌いかで言えば好きだったけどさ。好きだったけど、立場がさあ……」
立場、か。
バスケの為の居候だから、恋愛なんかしていられない。そんな先輩の立場を理解したのは、いなくなった後だ。
あの頃は家のどこにいても、先輩の気配がまだ残っていて。ふとした物音に、先輩を感じて。先輩が戻ってくる夢を、なんど見ただろうか。先輩があんなにも強固に線引きを守っていたのは、俺を嫌いだからじゃない。立場があるからだ。だからこそ何も言えなかった自分が、先輩の真意を計れなかった子供な自分が、嫌で嫌で仕方なくなった。
卒業と同時に実家を出た理由なんて、ほぼそれだけだ。あそこには、思い出が多すぎる。
「先輩こそ、終電そろそろ出ますよ。帰れますか?」
「んー、私も今日はホテルだから。終電なんか気にしないよー」
いや、それよりお腹の心配をしましょうよこの不良妊婦め。
で。先輩は、それから旦那への愚痴だかノロケだか分からない話をヒートアップさせつつ杯を重ねていった。
結果はまあ予想した通り、ぐでぐでに酔い潰れて。
さすがに酔いどれ妊婦を放置するわけにも行かず、先輩が泊まる部屋へと送っていく事となったわけだけれど。
……けれど。
部屋へ入るなり先輩は、据え付けの小さな冷蔵庫からガシャガシャと缶ビールを取り出し始めた。
チェックイン前にコンビニで酒買い込むのは俺もよくやるけど、一人でどんだけ呑む気だったんだ。それとも、誰かが一緒だったりするんだろうか。
……旦那とかだったらスゴい修羅場る気がする。怖い。シングルルームだしその可能性は低いけど、でも。
「大丈夫だよ、他に誰もいないから。最近色々あってさ、呑まないとやってらんないのよ」
俺の顔色を察したのか先輩は笑顔でそう言って、スモール缶をグッと飲み干してしまった。
本当に大丈夫か、この人は。
と言うか思ったより酔ってないのか、さっきまでの泥酔フォームからすると妙に動きが早い。
まさか俺を連れ込む為の、ブラフだったんだろうか。でも何でそんな。
「優しいのは良いんだけどさー……」
何度目か分からない、旦那への不満げな声。
でも最後まで聞くと結局はノロケになるんだ、さっきからずっと聞かされてるから分かる。そう思っていたが、今回はどうも色合いが違うようだ。
「身体に障るから、って何もしてくんなくなってねー……。産まれるまで我慢なんか出来るかってのよ」
ニヘヘと邪悪な笑いを浮かべる先輩に、なんとなく変な予感がして離れようとした俺は、いきなりベッドに組み倒されてしまった。
そのまま結構な力で押さえ付けられ、俺は身動きも取れない。いや本気になれば振りほどけるだろうけど、相手は妊婦だし。暴力が不味い相手としてはトップランカーだ。
そう言えば昔、こんな風に押し倒された事があったな。あの時は冷えピタを貼り直しただけだったけど、今の先輩は明らかに興奮している。
「どっかで男の子引っ掻けようかなーって思ってたら、大喜くんに会うんだもん。ホント、偶然ってスゴいね」
……随分と変わったもんだな、この人も。まあ当時のストイックさはバスケの為だったわけで、それが無くなって出てきたこういう顔こそが先輩の「素」ってことなのか。
10年前の俺なら、幻滅してたんだろうな。
でも、だ。俺だってずっとあの頃のままなわけじゃないから。
こういうのも、受け入れられる。
人は変わっていく、変わり続けるものだから。
「俺は善良な一市民なんで、不倫とかそういうのは気にしますよ」
「私はしないし、あと法律上はまだ独身だから平気ー」
それでも浮気ですよ、と言いかけて呑み込む。俺は黙ることを覚えたから。
先輩は欲求不満で、丁度良い相手を探していた。で、俺がいるわけで。じゃあ俺は後輩として、先輩の役に立つべきだろうな。
俺も棚ぼたを嬉しがるくらいには、不純な人間だから。そうなったから。
されるがままに、服を緩められていく。
先輩が嬉しそうに、俺を脱がせていく。
楽しそうで、何よりだ。まったく、何よりだ。
そして目を輝かせ、俺の腰に抱き付いてきた。
「はあー……、やっぱり男の子の匂いっていいなぁ……」
人の股座で深呼吸しないでほしいけど、先輩が喜んでるから俺はやっぱり黙っていよう。
それを同意と取ったんだろう、先輩はそのまま――
「あー……むっ」
俺のモノに、むしゃぶりついてきた。
あの頃、こういう妄想をした記憶はある。そのあと罪悪感に囚われて、必死で腹筋に励んだっけ。懐かしい。
上目遣いで俺を見上げながら、じゅるりと音を立てながら、美味しそうにしゃぶり続ける先輩。10年の間に成長した、って事か。
俺だって色々経験はしたし、先輩が特別上手いとは思わないけど、でも、憧れの相手ってだけで興奮が上乗せされていくのが分かる。
舌を絡み付かせ、時に吸い上げ、俺を責め立ててくる。その顔は淫靡で猥雑で、でも何処かに昔の先輩の面影も残っている。俺が好きな、あの千夏先輩が。
「あの、あんまり激しくされると、出ます、よ……っ?」
「んー、ひいほ。ほほはは……へ」
何を言っているのかは、いつぞやと同じくサッパリだけれど。でも、その刺激は強烈すぎた。
とっさに先輩の頭に手を置いたまま、沸き上がる衝動に身を任せ。躊躇いなく、そのまま俺は精を放つ。
一瞬苦しそうな顔をした先輩は、それでも嬉しそうに喉を鳴らして精液を嚥下する。それどころか頬をすぼめ、尿道に残った残滓すら吸い上げていく。まったく、スゴいなこの人は。どこで身に付けたんだか。
「ぁう、んー……。大喜くん、溜まってた? 結構濃かったけど」
比較するほどサンプル数が多いのかよ、と突っ込んだりはしない。曖昧に笑うだけ、やっぱり黙るのは大事だから。
こっちの考えは、知ってか知らずか。千夏先輩はあの頃のような笑顔で、自身も服を脱ぎ始めた。
その白い肌は、記憶のなかにあるよりも美しいと思える。まあ、俺はそこまでしっかりと見たことなんか無いけど。偶然僅かに見えたのが、心の底に沈みこんでいただけだ。
この身体は、他の誰かの物。今この瞬間だって、俺の物じゃない。
でも、それで良い。俺は棚ぼたの幸運を、甘受するだけだから。
露になったその胸は、あの頃より大分成長している……と思う。妊娠のせいか、それとも色んな手に触れられて来たのか。どっちでもいいけど、さ。
少し黒みを帯びた乳首は敏感に反応し、すぐに固く隆起していく。吸ってもまだ何も出ないけど、それでも吸ってしまうから男って不思議だ。
「んふふー、大喜くん甘えんぼさんー」
先輩が上機嫌なのは嬉しいけど、頭を撫でてくるのは勘弁してほしい。子供扱いかよ。
いや、そうでもないか。もし本当に子供扱いなら、空いた手をこっちの股に差し込んできたりしないし。
「あの先輩、ちょーっと待って下さい……。まだ出たばっかりなんで……」
「うー、若いのにタンパクだね大喜くんはー」
一歳しか違わない人にそんなこと言われたくないです、と言うかお互いアラサーでしょうが。言ったら絶対怒るから、言わないけど。
「じゃあ元気になるまで、私に御奉仕してくださいな」
拡げられた脚の間、噎せかえるようなメス臭さの根元にキスをする。
ガサツだから手入れが甘いのか旦那の趣味なのか陰毛は濃く茂り、そこを覆い隠そうと躍起になっている。それを掻き分けながら何度も唇を落としては、少しずつ焦らすように刺激を拡げていく。
元々の体質なのか長年の成果なのか、すぐに口は緩みだしとろとろと蜜を溢して。欲求不満は確かなようだ、刺激に飢えている。
緩んだ所に舌を捩じ込んで内側へと分け入ると、先輩の味が舌を突いた。酸味が強く生臭い、メスの味。今まで舐めてきた他の誰よりも、その濃度が濃い気がする。気のせいかもしれないけど。
一旦顔を上げて指で押し開きつつ上端の肉芽を舌先で弄ぶと、先輩の口からは低めの喘ぎが切れ目なく溢れ出す。
男受けする身体と言うか男好きの身体と言うか、これが素だとしたら大変だな。10年前でも、押していけば結構受け入れてくれたのかもしれない。あの頃の俺に、そんな度胸は無かったけど。
わざとグチュグチュ大きな音を立てながら、どれくらい弄り続けたか。
いつしか顔も手も先輩の蜜でドロドロになり、口の中いっぱいに先輩の味が広がっている。
どうしようもないくらい、この人は淫らだ。
もしかしたら、と言うかやっぱりと言うか。俺たちの前ではストイックに振る舞ってただけで、昔からこうだったのかもしれない。ずっと壁一枚向こうにいた筈なのに、何一つ気付かなかったけど。
あれだけ近くにいても、俺は先輩を何も知らなかったのか。
もしあの頃、勇気を出せていたら。
先輩が愛を誓う相手は、俺だったんだろうか。
先輩は俺の子供を、身籠ってくれたんだろうか。
もう、済んだ話だけど。
しかしこんな色気の塊みたいな人相手に、耐えきれる男はそういないだろう。
この人が欲求不満で浮気するくらいに意思が固い旦那は、一体何者なんだろうか。
薬指に嵌まった指輪が所有権を主張しているのに、俺は旦那さんに対して遠慮する気にはならない。
でも、それでも。乱れる先輩の左手をみながら、ふと思いを馳せてみる。
なあアンタ、しっかりしてくれよ。アンタが不甲斐ないから、俺の大事な先輩がワルイコトしてるんだぞ。もっと大切にしてあげてくれよ、アンタの嫁だろうに。
……まあ全力で話に乗ってる俺も大概だけれども。
ベッドに四つん這いになった先輩のお尻を弄りながら、回復した俺自身を向けていく。先輩は「顔みられながらだと恥ずかしい」とのことで、いつも後ろからしかしないらしい。俺としては顔を見ながらするのが好きだけど、贅沢は言うまい。今この瞬間自体、望外の奇跡なんだから。
「あのー、ホントに着けなくても……?」
「まあ中に一人入ってるし、大喜くんが病気持ってるとも思えないし」
それに生の方が好きだから、と可愛くお尻を振って魅せる先輩に苦笑してしまう。
今でも俺を信用しているのか、10年も顔を見ていない後輩を。
器が大きいのか底が抜けているのか、あの頃からそういう所も変わっていないんだな。
「あーでも赤ちゃん寝てるから、優しくね」
「イエス、マム」
こういうどっかズレたところも、変わらないな。実際なにかあったら、困るどころの騒ぎじゃないけど。
そんな先輩の腰に手をかけ、ゆっくりと。言われた通り優しく、その中へと進んでいく。生でするなんて滅多にないから、背筋がゾワゾワとしてきてしまう。でも、それだけじゃない。
触れるどころか声をかけることさえ怖かった、近付き過ぎて嫌われるのではないかといつも怯えていた。そんな相手の中に、自分が埋まっていく。生膣の感触より諸々の背徳感で、気が狂いそうだ。
でも、だからって。引き下がろうとなんて、思えない。
ギシリとベッドをゆらしながら、可能な限り奥まで。我を忘れ、先輩の中を掘削していく。
絡み付く、熟れきった襞。すっかり開発され尽くしているのだろう、しかしそれでも魅惑的な肉の隘路に、俺が蕩けていく。
中にいる「一人」への配慮は、すぐにどこかへ消え失せてしまう。
それは先輩も同じなのか、激しい動きを嫌がる素振りも見せない。
「あ、あー……ッ、良いな、あっ、大喜くんのっ、……!」
膨らみ加減のお腹をゆすりながら、先輩が声を上げ。それに合わせて、俺も突き上げて。
二人の声は絡み合い、だんだんと獣じみていく。
意味のある言葉なんか無くなっていき、二人の狂い獅子がそこにいる。ただ、それだけ。金の屏風も牡丹の墨絵もない、獣の喰い合いが延々と続いていく。
そして、そして――唐突に終わりは訪れる。
限度を超えた快感に、脳のブレーカーが弾け飛ぶイメージ。
浮気させている罪悪感も何もかも、消えて失せる。
細い腰を掴んだまま、身体を叩き付け。獣の咆哮と共に、射精が始まった。
ドクドクと迸る精液はでも、本懐を遂げる事はない。もう、遅いから。
可能ならば。許されるならば。俺の子供を、孕んで欲しかったと思う。
10年と言う月日に隔てられて、叶うことのない願いを込めたまま。何の役割も果たせない精液たちは、行き場を無くして先輩の中を満たしていく。
「ー……、これこれぇ……。やっぱり、こうじゃないとねぇ……」
漏れ出でる淫らな呟きを、只ぼんやりと聞きながら余韻に浸る俺。
何だかんだと考えながらも、可能な限り楽しんでいた自分がちょっと哀しい。射精して気が落ち着いたせいか、そんな風に思ってしまう。
まだまだ元気な先輩に付き合って、それから何度自分を奮い立たせたか。
精根尽き果ててベッドに横たわった俺の隣、ツヤツヤした顔で先輩は笑っている。
これ旦那は命の危機を感じて自制してるんじゃないか、とさえ思う。ごめん旦那、心の中で罵ってしまって。
「んー、安定期に入ってからやたらムラムラしてさ。大喜くん、ありがとね」
「はは……どういたしまして」
まあお役に立てたなら、何よりだ。
それから色々またどうでもいいおしゃべりを何時間もして、俺は自分が取ったホテルへの帰路に着いた。
やろうと思えば連絡先くらいは聞けたし、逢う約束も出来たんだ。性欲を持て余してる先輩は、俺をセフレくらいにはしてくれるかもしれない。
でも、そんな気になれなくて。
何がどうと言う事じゃない。幻滅したわけじゃない。
それでも、心の奥が告げている。
中三のときから、足掛け13年の片想い。それがようやく、終わったんだと。
俺はこの先、何度も先輩を思い出すだろう。過ぎた過去の、単なる出来事として。
13年前に燃え始め、今では僅かな熾となっていたその火は、もう消えてしまったんだ。
俺たちの道は、10年の間に大きく逸れてしまったから。二度と交わることはないから。
だから――、これで良い。
「先輩、好きでした。」
夜の闇の中、誰にも聞かれないまま。俺の言葉は、消えていく。
それで良い。それが良い。
あのアオい季節は、二度と帰らない熱い季節は、思い出として残っていくから。
さあ、進もう。もう俺は、アオくない。