※この作品はR-18です。

アオの夜R18SS   作:扇町グロシア

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アオく伸びる冬の陽に  (千夏×大喜)

 俺たちの関係が変わるのは、いつも一月なのかもしれない。いやまあ、他の季節にだって色々あるけど。

 一昨年の一月、俺は初めて千夏先輩と向き合った。思えばマトモに話したことなんか無く、ただ同じ時間に朝練をするだけ。俺が一方的な片想いを続けてただけで、接点なんか無かった。あのままなら話すことさえないどころか、俺の名前さえ知られる事は無い筈だった。

 そう、あの日体育館前で解錠を待つ千夏先輩に話し掛けなかったなら。一世一代の勇気で声をかけたお陰で、どうにか話が動き出したのだ。

 そこから二人きりの1on1を経て、先輩が海外へ行ってしまうと早とちりをかましてしまった。気持ちを伝えていない事なんて頭からすっかり抜け、夢を捨てないでほしいとただ懇願するだけ。それが決め手ではないだろうけど、結果として先輩と俺は一つ屋根の下で暮らすこととなるわけで。まさか告白とか通り越して、同棲するなんて思わなかった。

 去年の一月、俺たちはお互いの思いを伝えあった。俺はずっと千夏先輩が好き、でもそれを伝えられないままでいた。先輩の負担になりたくないとかそんなのは言い訳だ、ただ怖かっただけじゃないか。小さく弱い俺はでも、雛から教わった。例え勝率が無くとも、挑んでいく勇気を。

 だからあの日、氷の上で告げた――好きですと。

 そこから一年が過ぎて、現在。

 俺たちはまた一つ、関係を進めたのだけれど……良いんだろうか。良くない気がひしひしとするんだけど、まあでも千夏先輩は幸せそうに眠っている。起こさないように帰らないといけないのはちょっと辛いけど、明日の為だ。もう一緒に朝練することはないけど、だからって手は抜けない。頑張ろう、うん。

 冬の陽は既に落ちきり外はもう真っ暗、早めに戻らないと母さんに勘繰られる。

 名残惜しさを感じつつ、俺は立ち上がる。大好きな人と、これからも一緒にいたいから。

 

 

 これが今生の別れではない、と分かっていても辛くて仕方なかった。お義父さんとの約束もあるとは言え暮れも押し迫ったド年末に引っ越す事無いでしょう、とうっかり言ってしまったくらいには。『けじめだから。このままズルズル居続けるのは、私らしくないし』と後ろ手を振って去っていく背中が見えなくなるまで、俺は手を振り続けた……のだけれど。

 年が明けて数日、俺たちにとって何物にも代えがたい一月四日。つまりは今この瞬間俺は千夏先輩の新居で――思(・)い(・)っ(・)き(・)り(・)押(・)し(・)倒(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 いや、いやいや。いやいやいやいや、なんだこれは。

 三ヶ日も終わるという刻限に千夏先輩から『片付けも終わったし、そろそろ遊びに来ませんか』と誘われ、内心ウキウキしながら向かった結果がこれなのだ。父さんにもお義父さんにも散々節度を弁えろと言われたのに、まさか向こうから来るとは。て言うかあの二人、千夏先輩にはそこまで言ってないだろ絶対。

 室内は先輩にしては珍しく――いやまあ先輩の部屋なんか入ったことないからプライベートまでは知らないが、とにかく汚れぎみ。カーテンも無い窓からは昼下がりの陽光が差し込むけれど、冬の太陽は自己主張が弱々しい。そんな中で千夏先輩は目をギラギラと輝かせ、全力で俺の腕を抑え込んでいる。この細腕のどこにそんな力があるのか、と思うくらいに。

 どうしよう、振りほどけない。全力でやれば不可能ではないかもしれない、だけどそれをやったら怪我させかねない。つまりは、詰みだ。 

「私は大喜くんが、好きです」

 こんな状況でなければそれは、何よりも嬉しい言葉。しかし今の千夏先輩は、はっきりいっておかしい。押してはいけないスイッチを連打したというか、道の無いところを爆走しようとしているというか。どうしたものだろう、吐息がかかるほどの近さにいられると色々困るんだけど。

「俺も千夏先輩が好きです、だからその降りてくれませんか」

 どうせ無駄だろうと思いながら言ってみると、先輩は存外素直に俺の上から身を除ける。なんだ、言えば聞いてくれるのか。いやそれ以前に押し倒さないで欲しいです、心臓が破裂する。

 考えてみれば先輩に押し倒されるのは二度目だな、前は夏風邪の看病してもらった時にアクシデントで。あのまま寝られる筈もなく体力が尽きるまでオカズにしてしまったけれど、それで大汗かいたのがデトックスになったのか翌日にはすっかり回復していたっけ。まあ疲れは取れてなくて、母さんに心配されたんだよな。

 それは良いんだ、それは。

 千夏先輩は少し不満そうな顔をして、でも瞳を潤ませ僅かずつ距離を詰めてくる。猫が飛び付いてくる直前のあれだ、少しでも気を抜いたらまた襲われる。しかしここで一気に逃げ出したら先輩を傷つけかねない、ならばどうするか。

 ――とりあえず、話そう。言わないことは伝わらない、黙ったままでは動けない。まずは会話だ、いくら今の千夏先輩が変なテンションでも人語は解するのだから。

「えっとですね、千夏先輩」

「私はね、大喜くん。大喜くんに触りたいし触れてほしい、愛したいし愛されたいのですよ。一年付き合ってキスもしないって、それはそれで不健全だと思います」

 ……どうしよう、牽制に対して即死カウンターが飛んできた。言いたいことは分かるけど、そりゃ分かるけど。段階を豪快にすっ飛ばさないでほしい、何でこの人一速と幻の七速しかないんだ。

 こういう時にどう対処するのが正解か、俺には見当もつかない。そんな経験も無いし知識も朧気、打つ手も上げる手もありゃしない。

 男を見せるべき時だと感じはすれど、心は必死でブレーキをかける。一線はまだ越えない方がいい、そんな迷いを抱えたまま俺が意を決し立ち上がろうとした、その時。

 先輩は、小さく呟いた。

「大喜くん。そろそろお風呂が沸きます」

「は?」

 いつも突拍子の無い言葉で俺を驚かせる千夏先輩は、ある意味今日も通常運転だ。一瞬の静けさの後、扉越しに飛んでくる『お風呂が沸きました』という電子音声。つまりはこの瞬間に鳴るよう仕掛けてあったということ。……何処まで計算ずくなのか、それとも全部行き当たりばったりなのか。

「せっかくだから入りませう一緒に」

 何で半端に旧かな遣いなんですかとツッコミを入れるような余裕は、まさかあるわけはない。

 考えるまでもなく、今俺たちは二人きり。何があろうが無かろうが、助けも邪魔も入らない。

 つまり、選択肢は二つしかない。入りたいと答えるか、嫌だと断るか。

 結局俺は、どうしたいんだろう。どうなりたいんだろう。思考する事さえ放棄して、俺はただ頷いた。

 

 勿論先輩の入浴を覗いた事はないけれど、誘惑に負けかけた事はある。欲望はある、だからこそ我慢するのが人間だ。しかしまあ、そんな俺が千夏先輩と堂々混浴する羽目になるなんて。

 さぞかし照れたりするんだろうと思ったりはしたけど、実際にはそうでもない。ただでさえ回りの悪い頭が熱で動作不良を起こし、反応さえ出来なくなったから。

 やたらと脱衣の早い千夏先輩がさっさと服を脱ぎ捨てて浴室へ入って行くのを見送りながら、ふと置かれた籠の中を見下ろす。脱衣籠ではないらしい、そもそも先輩は脱いだ服をそのまま洗濯機に放り込んでた。良いのかそんな雑把で、と言えるほど俺も家事をしているわけではないから黙っておこう。

 まあそれはそれとして。そこにあったのは、見慣れた俺の衣類一式だった。勿論今着ているものじゃない、洗濯済みらしくキッチリと整えられている。

「あの先輩、ここにあるのって」

「うん、前に預かったやつ。着替えにしてね」

 預けたような覚えはない、あるわけない。どうも引っ越しのドサマギで持ってきたんだろう、何考えてんだこの人は。年末の時点でここまで計画済み、という事だったのか。まあ、もう良いけど。

 それよりずっと問題なのは、目の前の光景。湯気のなかでも白く輝く、艶かしい先輩の裸体。まるで先輩自身が光源になっているようで、眩しくさえある。今こうしている光栄に溺れてしまいそうで冷や冷やする、頑張れ理性。

 覚悟を決め入った浴室は、想像よりずっと広かった。うちも他所よりは広い方だけど、それよりも湯船は大きい。とは言え一般家庭の風呂だから、高校生二人が並んで座ったりすれば身体は密着する訳で。 

 お湯のなかでも分かるほど火照った先輩の肌が俺の肌に触れ合い、熱い鼓動さえ伝わってくる。

 これは――不味いな。あまりにも、不味すぎる。下半身の血流はどんどん激しくなり、こ(・)の(・)先(・)を求めて隆起してくるのが分かる。

 気まずい汗が溢れる。

 脳が茹で上がる。

 息が苦しい。

 俺は何を考えているんだろう、自分からカタにはめられているじゃないか。理由をつけて逃げるべきだった、でも期待する部分は確かにある。一年ずっと清い付き合いをしてきて、欲望に負けかけた事は数えきれない。でも千夏先輩が自分から来たんだ、これはもう流されても良いんじゃないか。だけどそれで良いのか、先輩の負担になりたくない筈なのに。

 しかし堂々巡りしていた思考は、突如やって来た刺激によって中断される。潜航する先輩の手指が、前触れもなく俺の腰へと触れてきたのだ。

 ぞわりと走る甘い感触は肌をなぞって更に深く、その中心にまで達し声が上がりかけてしまう。

「わ。そっか、こうなるんだねぇ」

 楽しそうに俺自身を弄ぶ千夏先輩の顔は、まるで無邪気な子供のよう。もっと小さかったら、メスガキとか言われるんだろうな。

 でもそれを指摘するような余裕は、やはり無い。

 自分でするのとはまるで違う快感に、脳が塗り潰されていく。

 それを察したんだろう、先輩は俺へと囁く。

「あの、さ。大喜くんも……触ってくれませんか」

 

 湯を沸かす原動力にでもなっているのではないかと思うくらいに熱い身体をバスマットへ下ろし、俺たちはキスを交わしていく。これが初めてだという事さえ頭から抜けかけているのは、もう脳が処理能力を越えてしまっているからだろう。

 さすがにこれ以上お湯に浸かっていたら真っ赤に茹で上がってしまう、と湯船は出たものの逃げ出すような気にはならない。先輩の肌はそれくらい魅力的で、俺を捕らえて離さない。お互いの手は身体をまさぐりあった後、脚の間を執拗に弄くりあっている。濡れた陰毛を掻き分けて、先輩の内側へと俺の指が入り込んでいるのだ。

 なんだろうこれは、何にも例えようがない。焼けるほど熱くて、千切れそうなくらいにきつく締め上げてくる。ここに――入るのか。先輩の指でしごかれる感触と指が受けている圧迫が脳内で混ざりあい、どんどん頭が蕩けていくのが分かる。

 そしてそれは、すぐに決壊してしまった。

「あ、……っ」

 何度目かの上下動に快感が域値を越え、精液が迸る。普段なら床に敷いたティッシュ目掛けて飛ぶ筈のそれは、慌てて添えられた先輩の手皿へと降り注いだ。

 何をする気なのかという小さな疑問はでも口にさえ出来ない、そんな暇もないまま。先輩はそれを――一息に飲み干した。

 喉を鳴らして嚥下するその動きにあわせるように、先輩の内側もまた蠢いて俺の指を締め付ける。

 ここに到って俺は、やっと気がつく。先輩の異様な感じ、これがまさしく――発情なのだと。 

 口元に付いた残滓まで舐め取った千夏先輩が身を捩り、ちゅぽんと音を立てて指が離れた刹那。

 俺の身体はマットへと組倒され、入浴前と同じマウントポジションへと移行した。違うのは、腕を押さえつけては来ないという事。

 先輩の手は自身を支えるだけ、抜け出すのは容易に見える。

 それは出来ないのだけれど。

「……良いんですか」

 押し倒されてる側が言うことではない、でも一応は言っておく。千夏先輩はこういうことがしたい、俺にも欲求はある。なら、後は覚悟一つ。

 先輩は言葉では応えない、応えないけど微笑んで。その顔のまま、天井を向く俺自身へとゴムを――

「あ。ごめん、しくった」

 ……ゴムを被せ

「んー……あれ爪引っ掻けた。もっかい」

 ゴムを被せていき

「にゃー……なんだこれ。大喜くんさ、自分で着けられないかな。私こういうのしたことないし、持ち主がやってよ」

 押し倒している側が言うことではない、でもまあ文句は言わない。歪でメチャクチャで、それでこそ俺たちだから。

 乏しい知識を総動員してどうにか着装を終えると、待ち構えていた千夏先輩がいそいそと俺へ跨がりだす。どうしてこういう時だけやたら積極的なんだろう。

 ピトリとゴム越しに粘膜が接触し、湿った熱が伝わってそして。そして腰は降り落とされた……のだけれど。

「あー……ごめんちょっと待って、痛い痛い。裂ける」

 中腰のまま停止し涙目になる千夏先輩は、それでも可愛いからちょっとだけ困る。しかしここは風呂場であって、いくらバスマットの上とは言え足下が不安にならないものだろうか――って。

「ん、……ぁっと」

 こっちが考えるより早く千夏先輩はバランスを思いきり崩して、そのまま。……俺の上へと、着地した。

 重力に加速度がプラスされ落下時間はほんの一瞬、本人さえ呆然とした顔のままで

「え」

「あ」

 感慨も何もあったもんじゃなく、俺は根本まで千夏先輩へと呑み込まれてしまっている。

 生肉で出来た万力で挟まれたような、さっき指で感じたものとも違う気がする複雑な感触。ゴムの被膜越しでもそれが強く伝わり、頭がバチバチと火花を上げていく。千夏先輩と繋がった、ただそれだけでどうにかなりそうだ。

 ここから動く、なんて出来るんだろうか。

 等と悩む暇があると思ったのは、大きな間違いだったのだけれど。

「あー……ごめん、ちょっとお薬つけて……あっ」

 立ち上がろうとして再びストンと落ち、落ちたかと思えばまた立とうとする千夏先輩。繰り返されるスクワットと言うか騎乗位と言うか、意識してるんだかしてないんだか分からない上下動が俺を責め立てて止まらない。どうしてこの人は何もかもが規格外なんだ、サプライズしか受けてないぞ今日。

 意図はどうあれこの動きが致命的である事は変わらない、たちまち射精欲求が込み上げてくる。頭の奥から衝動が脊椎を駆け降りて、輸精菅を抉じ開けながら出口へと殺到しようとしているのを感じてしまう。

 堪える事など出来ない圧力が沸騰し尿道を内側から圧倒し、その勢いのまま放出されていく。0.001mmの壁に阻まれていなければ取り返しのつかないことになる、でもそれを望んでしまう俺も頭の片隅に確かにいる。この人を身籠らせたい、一生を共にしたい。そんな暴力的な愛情を受け止めながら、千夏先輩はニヘニヘしていた。……ムードとかないなぁやっぱり、こういうところも好きだけど。

「お、おぉー……? なんか膨らんでる……そっか、射精されるとこうなるんだねぇ」

 お腹の内側がこうなるとは思わなかったよ、と事も無げに笑う千夏先輩。最初からこうする気でいたのか、それとも単に勢いなのか。それは分からないけれども、まあ――良いか。

 弛緩した身体を横たえたまま目を閉じてしまおうかと思った、その時だった。

「痛みも引いてきたし、改めてもう一回しましょう。大喜くん体力あるし、平気だよね?」

 ……千夏先輩は、たぶん知らない。男は連戦が難しい事も、俺があれこれ考えすぎて疲労困憊な事も。

 ただ、だ。それは拒む理由になどならない、愛さえあれば乗り越えられる程度の障害でしかない。

 頑張ろう、俺。

 

 

 ……あの日はすっかり日も落ちる頃、疲れた身体を引きずってどうにか俺は帰宅を果たせた。あれから何度搾り取られただろう、ほんの数時間でなんキロか痩せた気もしたな。二回目以降千夏先輩は馴れてきたのか豪華に腰を振りたくり、バスケで鍛えたフィジカルを全開にしてくれたから。衝突上等の格闘技的なチームスポーツのエースと、やっても二対二のバドミントンでは使う筋力が違いすぎる。

 そして事を終えて頭の血が下がったのか、戻ってきた冷静さもまた痛かった。なんだあれ、メチャクチャ過ぎないか。死んでもいいと思えるくらいに気持ちよかったし実際死にかけたけど、よくもまああんな事したな。そりゃ千夏先輩はずっとしたかったようだし俺もしたかった、でももうちょっとステップとか考えてもよかった気がする。どうしてああもイベントスキップしちゃうんだ、直線しか進めないのか。

 それに、だ。千夏先輩、どうも天然過ぎるというか親しい間柄の人には結構話したみたいなんだよな。あのあと歯医者行ったら夢佳さんに『お前がナツとどうなろうが構わないけど、一発だけ殴らせろや痛くするから』と言い終えるより先にひっぱたかれたし、花恋さんからも『あのバカどうにかしなさいよ』とかボヤかれた。ちなみに二人の下へは、今も大量のノロケメッセージが届き続けているらしい。そのうち雛辺りにも飛び火しそうで怖いんだけど、どうにかしないとな。あいつ今晴人と付き合ってて幸せそうなんだから、余計な波風は困る。

 そんなこんなで少し経つけど、相変わらず先輩はこの通り。俺たちの関係も、もちろん。

 平日はお互いするべき事をするし、休日も俺の部活が優先。まあ先輩だって進学に向けて頑張ってるから、いつもいつも一緒にはいられない。ただ予定がうまく会えば昼日中から先輩の新居でむつみあい、そして夜になると名残惜しさを堪えて帰宅する。お泊まりは卒業してから、だ。

 あと一年、それくらいで俺も猪股家を出る。そうしたら、夢の二人暮らしが始まる。

 バカと粗忽の共同生活がうまくいくか、それは分からない。でもま、どうにかなるさ。

 

 

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