私立彩昌高等学校は、これといって特徴らしい特徴がない学校である。学校としての傾向は近所の公立校と大して変わらないのだが、近年の……というか平成以降の「公立校にいれるなんて可哀想」的なムードに乗って、毎年生徒数をしっかりと確保している辺り如才ない。地方はともかく都会だと公立校は選択肢として認識されていないのだな、うん。私立校が高嶺の華だった時代は「特別じゃない子」はみんな揃って、それこそバカもヤンキーも凡才もガリ勉も雑把に一まとめにされて公立校へと入っていたのだが、私立が身近になった現代では「私立に入れなかった子」の吹きだまりになってしまっているわけである。
そして学費も今や高
しかし、しかし。あの学校は選べない、何故なら――。
バスケがそこそこ強いからだ。
夢佳はかつて地域ミニバス界のエースオブエースで、誰もが憧れるスターオブスターだった。その自信が揺らいだのは、私立栄明中学高等学校中等部へと進んでから。たかが一年二年の練習量と人は言うが、その体感上の違いとなれば夢佳的にも天地ほどあり、修練を積んでも尚埋まらなかった。同年代のなかではそれでも輝きを放てたが、それも本人としては不本意な姿。更に追い討ちをかけたのは、両親の離婚。愛も情熱も冷めるものだ、と齢14にして知ってしまった夢佳にはもう、バスケを続ける理由がなくなった。
家の経済状況を口実に内部進学を取り止め、平々凡々な彩昌へと都落ち……。
昔の友達は捨てたし今後も自分から誰かと仲良くする事は無い、夢佳はそれくらいひねくれた人間として高校生になったのだ。
の、だが。高校二年の秋、即ち現在。
夢佳には彼氏ができていて、夏休みの間に大人の階段を昇ってしまったのだから人間万事塞翁が馬。
人見知りで人間不信の極悪目付き女子高生を自認している彼女は、秋風を感じながら思う。
なにやってんだろうな、私はさ。
彩昌高校二年生になった夢佳にとって、放課後は暇なものだった。中三で部活をサボりだしてからずっと夕方は暇だったが、今はダベる友達もいないし作れる気がしない。ダラダラと雑談をする楽しさ、というのは出来なくなってから痛感するものだ。令和なのにギャルだったマナも恋バナしかしないユイも、学校を離れると同時に縁を切った。勿論誰よりもバスケを愛していたナツとも、一方的に。
夢佳はそれを後悔しない、どうせ人間そんなものだと知っているから。
バイトがある日は直帰してから着替えて出掛けるのだが、無い日は暇をもて余して。夢佳は今日も、特別教室棟と一般教室棟を結ぶ渡り廊下の窓からボンヤリと外を眺めている。部活に励む運動部を、中でも経験者として女バスの連中を。
あいつらいつだって、練習も真剣味も足りていないな。一年かけて見てきた夢佳はそう感じているが、実際正しい。多分彼女らの技量はミニバス時代の夢佳に並ぶかどうか、運と相性が最高の所で噛み合えばなんとかインハイ地区予選に出られるレベル。まあ高校スポーツなんて三年で入れ替わる、ブレイクスルーがあれば化けるかもしれない。それが起きないから、変わることなくずっと弱いままなのだが。
開かれたままの窓から吹き込む春風は時として冷たく、そろそろ帰るかなと思わせてくれたその矢先。
「あ、夢佳。まだいたんだ」
気軽にかけられた男子の声に、夢佳の只でさえキツい目がつり上がる。気安いぞお前、と言わんばかりに。
小学校時代は男子に混ざって殴りあいもした、中学になっても衝突上等の格闘技的なチームスポーツに従事していた夢佳は、強度に男性的な思考を持っている。即ちプライドが高く攻撃的、無愛想なくせして暴言癖がある。そんな夢佳に対して一年の頃からずっとずっと話しかけ続けているのが、この男子生徒――宗介くん。
人避けオーラで武装する無愛想殺人目付きの女子相手に、まるでずっと友人だったかのようにヘラヘラと接してくれる彼が、夢佳はちょっと苦手としていた。最初のうちは、という但し書きが付くのだが。気に入らない相手は遠慮なく殴り飛ばせる夢佳が睨むだけで済ませるのは、相当に気を許しているからである。
ただし本人は、自身の感情をあまり分かっていない。愛想というモノを母親の胎内に忘れてきた人間だから、馴れ馴れしいのか人恋しいのか分からない愛想の塊相手には怯んでしまう――くらいにしか思ってはいない。
「ん、もう帰るとこだ。四月だってのに寒ぃ寒ぃ」
ペースを握られるのが好きではない夢佳はちゃっちゃと立ち去ろうとするけれど、するのだけれど。いつも通り、宗介くんは夢佳よりも役者が上だった。
言葉より早く夢佳がリノリウムの床へと投げ出していた鞄を持ち、いつものスマイルで『じゃあ一緒に帰ろうか』と歩き出す。スマートで最短距離な、良い男ぶり全開である。パッと見はインテリ系地味イケメン、しかし中身が割と残念なのが彼の特徴。
夢佳と宗介の関係は、まあ当然のように入学式から始まった。正確にはロングホームルームが始まる前にフケようとしていた夢佳を呼び止め、長々と自己紹介を繰り広げてその場に足留めした時から、なのだが。世の中には余計な世話を焼くのが趣味の暇人がいるのだな、くらいの感想しか抱かなかった相手と何故か腐れ縁になるとは、人生というのも不思議なもんだと夢佳は思っている。それにここの女子連中よりは付き合いやすい、とも。
繰り返すが男性的な思考を持つ夢佳は、女子特有の関係性を苦手としている。なぜ連れ立ってお花摘みに行くのか、どうして言っていない事まで察してやらねばならないのか。発言内容ではなく「何故そんな心にもない事を言う羽目になったのか」という心中を気遣え、というエスパーコミュニケーションが出来るほど器用でもないし。幼少期を限りなく
……ただし、それ以前の問題として。目付きが悪すぎる上に口が悪いので避けられがちだというのも、また真実である。世の中は男子に礼儀を、女子に愛想を求めるから。
そういう意味では、男子としての礼儀に関して宗介くんは多少劣っている。所謂オタク気質が根っ子にあって、ある程度仲良くなるとそれが解放されてズケズケと入ってくる傾向があるのだ。コミュニケーションの程度が上手く調整できないというか、極端というか。それがうっすら伝わるからか、好い人だし真面目だが「親しい友達」はあまりいない。距離をおいて見るとそれなりに楽しいが近付くとめんどくさい、というやつ。
ある意味ではこの二人、相性は良いのかもしれない。
すっかり桜も散りきった夕方の通学路を歩く二人は、知らない人が見たらカップルにでも見える可能性が高い。実際には単なるクラスメイトで、女子の方は男子を小突いたり口汚く罵ったりしているのだけれど。夢佳と宗介はSとM、人より手が早くて口が悪い夢佳と人より頑丈で心が強い宗介。この二人の間にどんな関係性があるかは、傍から見ていたって分からない。当事者である夢佳にも、良くは分からないのだから。
友達なんか持つ気もない、そう考え出して久しい夢佳。しかしまあ、今の状況は不愉快ではない。こんなのが続くのも良いかもしれない、とは思うけれども夢佳は夢佳。手は早いし余計な事は言ってしまう、不器用でガラッパチな子なのだ。
「しかし、まあ。懲りもせず私といたがるよな、お前はさ」
「え、うん。だって俺、夢佳が好きだからね」
何の詰まりもなくサラリと返ってきた言葉、それが楔のように夢佳の脚をその場に縫い付けてしまう。
好き。ラブかライクか、どちらとも取れる便利な単語ではある。あるが、こういった関係のなかでライクの意を強調する事は少ない。それくらいは雑把でガサツな夢佳にも、見当はつく。
しかし脳の処理は追い付かず、脚はまだ動かない。それを察した宗介もまた、立ち止まって夢佳に正対した。
「俺は夢佳の事が、好きだよ」
――夢佳とて、樹の股から産まれた訳ではない。世間には蓼喰う虫も好き々々という言葉がある、夢佳に告白してくる物好きは男女問わず何人かいたのだ。しかし自分が意識していない一方的な恋慕は気持ちが悪い、そこは夢佳も女子である。どれだけ相手の気持ちがデカかろうが、それは想いに応える理由にならない。せめて友好的な関係になってから来い、何で毎回「ずっと影で見てるだけだったけど好きでした」なんだ。男子の場合はとりあえず殴って帰らせ、女子に関しては「私ノンケだから」と説得して引き上げてもらった。
でも、とは言え。今こうしてされた告白は、今までとは違う。
一年という長い間隣にいて、憎からず思ってはいる。好きか嫌いかで言えば、好きなのだろう。
アッサリと言い放たれたとはいえ予想外の言葉に、夢佳自身の心も揺り動かされていく。
拒むほどの理由は特にない、彼氏というものを持ってみるのも一興であるか。愛想はないが意外に好奇心の強い夢佳としては、この申し出は決して悪くない話と言えた。
「んー……お前正気か」
「正気のつもりだよ。夢佳が好きだし、出来れば付き合いたいとかそんな感じ」
言い切らないのが宗介くんの宗介くんたる由縁なのだろう、多分。
四月の夕暮れ、この時期にしては冷えるそのなかで。
二人の関係は、一歩ぶんだけ進展した。
先日と言うかもう数ヵ月前、ゴールデンウィークももう間近に迫っていた辺り。
バイト代はたいて買ったキャミワンピ姿を『アンタ女装癖あったの』と母親に真顔で言われ、さすがの夢佳さんも若干傷付いたりしてた頃。手をあげずに済んだのは、確かに制服以外でスカート履いた記憶が真剣に無いなと思い到ったお陰。あと家庭内暴力は良くないというか、絶対何倍にもしてやり返される。百回やられたら百万回やり返せ、が後藤家の通年標語である。
母からも女装扱いされるほど似合わないのは分かっているが、ミニスカやらヒールやら女子っぽい格好をすると宗介が凄く嬉しそうにするから仕方がない。夢佳的にはちょっと面倒だが、バスケを辞めて適度に筋肉が落ちスリムになった身体はレディスコーデを一応受け入れてくれている。問題はメンタルだけだ。
まあ夢佳とて、要求をのむばかりではない。と言うか宗介くんはかなり濃ゆい趣味人なので、普通に生身の人間がしたら痛々しくなるような格好さえ平気で求めてくる。ツインテールにしてほしいと言われたときは『この目付きとタッパでそんな髪型出来るか』と殴ったし、記念写真だからとローアングルから撮ろうとしたときは蹴り飛ばしてやった。
それでもやっぱり宗介は付いてくる、夢佳も離れない。相性は良いのだ、この二人は。
その動かぬ証拠は、何度目かのデートの帰り道に訪れた。
いつものように夢佳は宗介を毒付き、宗介はそれを嬉しそうに受け入れていた夕暮れの時間。
道行く人の影が途切れ、雲が夕陽を遮った時。夢佳は宗介の顔を掴んでそして――
「あだっ」
「痛っ」
……盛大に顔面を激突させたのだった。
世間で言うところのキスをしてみたくなって敢行したものの、夢佳は知らなさすぎた。キスの際には顔を傾ける事も、勢いよくやったら鼻を打って痛い思いをするという事も。
「えーと、夢佳……」
「なんも言うな目ぇ突くぞメガネ野郎」
照れ隠しに宗介をぶちつつ、そこで夢佳は背を向けたのだった。
そこから正式にキスをするまで二週間ほどかかったのだが、まあ不器用な夢佳としては長足飛びの進歩と言える。
そして今は季節も移り、夏休み真っ最中。
どうせ予定がない長期休暇、ひたすら無為に過ごすより良いと自分に言い訳しながら夢佳は宗介と二人でお出掛け中。
いつもより多少距離は近く、なんとなく双方共にぎこちない。お互いこれからどうするか、という事を考えているせいなのは言うまでもあるまい。
そろそろだな、そろそろだろう。数日前からソワソワし、意味もなく気合いをいれた下着をつけたりつけなかったり。なお後日うっかりそれを洗濯に出してしまい、母親は真剣に娘の将来を心配し出すのだが、それを夢佳が知るのはずっとずっと後の事。
今夢佳が考えているのは、たったひとつなのだから。
付き合いだして三ヶ月を過ぎた事だし、せっかくの夏休み。ここで一つ、もう一段階大人の階段を上がるのも手としてあるだろう。等と心中でまたしても言い訳を並べているが要するに夢佳は現在、かなり激しい発情状態になっているのだ。重ね重ね男性的な思考で動いている上、二次性徴以降の諸々を運動で捩じ伏せてきた夢佳は身体が空いて久しい最近、
で、宗介くんはどうかと言うと。
実際まあ健康な高校二年生男子なのだから、人並みの欲求はある。あるのだが、ありはするが。周囲に迷惑をかけない昨今流行りの草食系男子なので、いくら付き合っているとはいえ生身の女子に対してそれを向けようとは
多分このままだったら後何年か清い交際が続いたのだろうが――、そのままではいられないのが人生というものだ。
少しだけ汗ばむ手で宗介の手を握り、夢佳は覚悟を決めて入っていく。本日の目的地である、ラブホテルへと。
入室システムなどはよく分からなくとも、勘と察しで進められるのがこの手のホテル。入るも出るも誰にも会わず、ただただ目的を果たせばそれでいい場所。建前上は未成年お断りだが、制服姿でもない限り止められる事もない。
高いか安いかはサンプル不足で判然としないが、どうせ割勘にする気の夢佳は迷わなかった。空いているところをとりあえず取る、それだけだ。
入った部屋はそこそこ広く、しかし大きなベッドが面積の三割ほどを占めている。
「……おぉ、アメニティもある。使い方分からんのも多いけど」
乳液だ化粧水だなんだという顔塗料や下地類は、夢佳の生活には組み込まれていない。ユイには『女子なんだから少しくらいケアしなよ』と呆れられたが、朝起きたときや夜寝る前に面倒な手順を増やしたくない――とスルーしてきた。睡眠時感の方が大事なのは確かなのだが、夢佳はその後二十歳を越えてから後悔する事になる。まあそれはまだまだ先の話、華の女子高生にとっては実感を得にくい話。
「歩いたし汗、かいたな。……シャワー、浴びるか」
宗介へ顔は向けないまま、夢佳が小さく呟く。同意の声を背中で聞いて、ほんの少し身を強張らせつつも服を脱いでいくのだ。
夢佳にとってある意味幸いなのは浴室に近い側にいる事、少なくとも入室するまで相方を見ずに済む。その合間に心の準備を整えよう……という考えは、脆くも崩れ去る。
一つ、どうせ同じ部屋から同じ場所を目指す以上かかる時間は誤差でしかない。良いとこ数歩、それくらい。
一つ、脱ぐものが複雑な分夢佳の方が脱衣に時間がかかる。パッパと脱いで終われる男子とは構造が違いすぎるのだ。
そしてもう一つ、短い時間で構築した付け焼き刃の平生は――基本役に立たない。
シャワーを出しながら振り返って宗介の裸体を見たとたん、全部吹っ飛んでしまったのがその証拠。
異性の裸は見慣れない、それは仕方がない事。未経験はお互い様なのだろうから条件は同じ、と夢佳は思っていたのだが、……しかしだ。
直下たつ宗介自身を目にしてしまうと、さすがに怯んでしまう。インターネット全盛の時代に生まれた世代としてそれなりに「情報収集」はしたつもりの夢佳だが、こうして目の当たりにすると全く感情が異なる。こんなモノが、果たして入るのだろうかとさえ思ってしまう。
救いがあるとすれば、宗介もまた夢佳の裸体にフリーズしていることか。
「……なんだよ。なに見てんだメガネ割るぞ」
理不尽な台詞によって解凍されたのか、宗介は油が切れたブリキ人形のようにぎこちなく夢佳へと手を伸ばし、遠慮がちに「触っても良いかな」と口にした。夢佳は人に身体を触られるのが、どころか自分の体温さえ好きではない。真夏でも薄着で寝ると自分の肌同士が密着して気持ち悪いので、上下しっかり着込まないと熟睡できない。しかし今触れようとしているのは「彼氏」であり、夢佳の警戒圏外の存在。頷いてすぐ宗介が乳房に吸い付いてきても、それで怒ったりはしない。……呆れはするけど。
「お前なあ……なんなんだよ」
いきなり乳を吸うバカがあるかもっと段階踏め、と後頭部を小突きはするが引き剥がしはしない。熱く湿った唇が柔らかい乳肉を包み唾液を塗り込んでくるのも、吐息が柔肌をなぞるのも心地いい。それに無心でむしゃぶりつく顔は赤ちゃんのようで、それなりに可愛く思えた。
空いている片側の胸を自ら捏ね回し、隆起していく乳首を指で押し潰しながらふと夢佳が見下ろすと、宗介は意識してなのか無意識なのかは知らないがかくかくと空腰を振っているのがわかる。
その中心へと指を這わせていくと、御返しとばかりに宗介もまた夢佳の脚の間へと手を伸ばしてくる。器用なものだと嘆息しつつ宗介のそれを掴んでみると、その熱さが直に伝わってくる。猛々しいがしかし決して不快ではない、不可思議な凶器。これを――どうするか。
乏しい性知識から導きだした上下動はしかし、宗介にとっては致命的な一撃。手付きがぎこちなかろうが力が入りすぎていようが、恋人の手筒に堪えきれる男などいるものではない。そして呆気なく離れた精液は、快感へと従った結果。二人はまだ知らないが、それこそが関係性を決定付けるものとなるのだった。
快感で頭を痺れさせながらシャワーを終え、ベッドに腰かけても夢佳の心臓は早鐘を打ち続ける。さっきの光景が、宗介が快感に顔を歪め自分の手の中で精液を噴出させた姿が、目に焼き付いて離れない。あの瞬間夢佳の脳内で弾けたのは、牡を屈伏させたという謂わば――男性的な快楽。古今東西権力をもった男が男色に耽るのは、相手を支配する事が堪らなく気持ちいいからである。それも自分と同じ牡を押さえ込み、牝扱いして快楽に堕とすのが。……多分きっと、メイビー。
そんな牡の感覚に生来のS気質が加わり、夢佳の中にあるスイッチが音を立ててオンになる。
脳内の快楽物質は止まることをしらず、只でさえ色づいてきていた肌は真っ赤に染まり、そして脚の間は白濁する粘液で汚れていくがそれもまた止まらない。
この男を支配したい、モノにしたい。直線的にそれを発露するべく、夢佳はベッドへと宗介を突き飛ばした。
大の字に転がされた宗介の股座、一度射精して尚天井を向いたそれを足裏で弄んで夢佳は思い出す。そう言えば小さい頃もクラスの男子にこんな事したな、なんて。当時ガキ大将として知られていた夢佳は、女子をからかって喜んでいた彼へあくまで「おしおき」としてそんなことをした。しかしそれが性癖形成への重大なインプレッションとなり、その後彼はドSメスガキに一方的に搾精されるシチュエーションでなければ抜けない体質へと覚醒してしまうのだが、それは夢佳にとって何の関係もない。朧気な過去の記憶より、今こうしている方が大事だから。
尊厳をグリグリされている宗介も宗介で、濃ゆい性癖へと興味があるオタク野郎だからこの手の行為は「ごほうび」になる。加虐性と嗜虐性の歯車はいよいよ噛み合い、御互いの脳が発情で沸き立つまで時間はかからない。
「おら、じっとしとけ。上手く入るか分かんないんだからな」
上擦った声で言いながら夢佳は宗介を跨ぎ、下半身を密着させていく。
指とは違う感触、さっき手の中に感じた質量が陰毛を掻き分け肉の裂け目へと近づいてくる。少しだけ怖じ気付きそうにはなるが、興奮に蕩けた脳はそれさえ上書きしてしまう。溢れる愛液は亀頭を濡らし、陰唇を掠めて何度も上滑りしつつも少しずつ少しずつ夢佳の内側へ宗介を導いていく。
「あー……入ってく、ぞ……」
腰を僅かずつ落とし、重力の助けを借りて挿入は進んでいる。夢佳に恐怖はない、しかし聞いている程の痛みがないこととなかなか全てが入りきらないことには驚いていた。割と高い位置から腰を振り下ろしたつもりだし、幾らなんでもこんなに自分の中が深いとは。そのうち突き当たって止まるかと思っていたのに、気が付けば腰は完全に落ちきり陰毛が絡み合う。宗介を呑みきりきったと理解した時、ようやく内臓が大きく押し上げられている自覚が沸いてきた。
少し身体を揺らすだけで、膣肉から全身へと刺激が走る。激しく動けば持たない、そう気付いた夢佳が一旦抜こうとしてそろりそろり腰を上げようとするものの、今度は雁首に膣壁を削られていく。たまらず身体が沈めば再び最深部が抉られ、無意識がそこから逃れようと腰を持ち上げる。
卑猥なロデオによって攻め立てられるのは宗介もまた同じで、
しかし――しかし。男側の抵抗など、薄紙にも等しいのが色の道。加えて夢佳の方も余裕がないのだから、配慮など出来る訳がない。まあ余裕があった所で、一度走り出したら止まらない直情型の夢佳が相手を気遣う訳もないのだが。
程無く宗介の腰がガクガクと震え、怒張は最大限にまで高まって、……そして。
「う、あ……っ」
放たれた精液は遮られる事なく膣内を染め上げ、その勢いで子宮口まで叩き付けていく。事ここに到ってやっと
「あのなー……出すなら言えよってか抜いてから出せよ……。妊娠したらどうすんだっての……」
一般的な男子高校生ならばたじろぐであろうその台詞は、しかし宗介くんのような
だからこそ宗介は萎える事なく、それどころか夢佳の中で再び猛っているのだ。それを胎内に感じ、夢佳は呆れ顔で甘く囁く。バーカ、と。……その言葉が宗介にとってどういう感情を呼ぶかは、敢えて語る必要もない。
事程左様に、二人の相性は良うござんす。
長い長い足踏みを経て関係を進めた二人は、残った夏休みを全力で遊び呆けて過ごし、二学期に入ってからも呑気な日々を送っている。あの日当たらずに済んで以降はちゃんと避妊もするし、今まで経験してこなかった青春も謳歌しようと努力しあってみたりみなかったり。とは言え夢佳はやっぱり愛想の無い極悪目付きだし、宗介はズレたサンドバックのまま。つまり世はなべて事もなし、取り立てて変化は見られない。夢佳の人間不信も、解除されつつあるのは宗介に対してだけだ。やはりクラスでは友達がいないし、外でも栄明生がいそうな場所は避けて通る。
彼女がそんな状態である事に宗介も内心気を揉んではいるが、それを背負えるほど高校二年生は大人ではない。それぞれ抱く問題は、各自どうにかするしかないのだ。人は誰かを助けられない、勝手に助かるしかない。しかしただ黙って話を聞いたり、寄り添ったりは出来るもの。
そして人生において、やり直しの機会は意外と多く転がっている。ただ本人には見えないだけ、分かりにくいだけ。落としたもの無くしたものは大抵どこかで巡り会うし、捨てたものでさえ戻ってくるものだ。
だから二人は、まだまだいつも通り。夢佳さんは威圧感ある目付きで真っ直ぐ歩く、その隣を半歩遅れた宗介くんが着いてくる。その先がどうであれ、なんであれ。
ここからもうちょっと気温が下がったある日、夢佳は放課後デートに出掛けた先で、自身の過去と対面する事となる。かつての旧友鹿野千夏との再会、そして猪股大喜をお節介を切っ掛けとした一連の出来事を経て夢佳の人生は大きく変わるのだが――今はまだ、その気配さえない。
その日が来るまで、あと少し。
さてはてこれにて、幕間の寸劇は語り仕舞い済み済まし。
続きは又の御目文字にて、とね。