未だに悪霊がいるだろう霧の街の中、僕は歩く。
何時、どこから襲い掛かるか分からない霧の中で、僕はガスマスクで顔を隠しながら進む。
「……」
霧の中から悪霊が何時襲い掛かっても、対応できるように構える。
油断はできない。
いつ悪霊が現れるのか分からない。
そう考えるだけで僕の体は震えてしまう。
そんな恐怖と戦いながらも、一歩ずつ足を進めていく。
「あれぇ、あのお姉さんと一緒じゃないんだぁ」
「っ」
聞こえた声。
それと共に、間一髪だった。
僕の髪が僅かに切れた。
それを意味をするのは、たった今、僕がいた場所に悪霊が襲い掛かった。
同時に見つめた先には、銀髪の少女が見ていた。
幼い印象とは別に、その手に持ったナイフは完全に人を殺す為の道具だった。
「お前は」
「あはっ! やっぱり、お兄ちゃんは面白い反応をするんだ」
楽しげに笑う少女を見て、すぐに分かった。
この子は危険だ。
今まで戦ってきたどの敵よりも危険な存在だと分かる。
「ねぇ、一緒に、遊ぼうよ」
「っ」
それと共にナイフが襲い掛かってくる。
それに対して、僕が取った行動は逃げる事だった。
「追いかけっこ? いいね、じゃあ私から行くよ」
「くそっ」
走り出す。
背後では、少女が追ってきている。
振り向かずとも、気配だけでわかる。
このままでは追いつかれるのは時間の問題だ。
だけど、どうすればいい。
どうしたらこの状況を切り抜けられる。
「……」
考えている暇はない。
今はただ逃げる事だけに集中する。
「待ってよー。お兄ちゃーん」
後ろから聞こえてくる声はどこか無邪気なものだった。
子供特有の残酷さを孕みながらも、それでいて純粋さが垣間見える。
「足速いね。でも、どこまで逃げ切れるかな?」
まるで遊びのように追いかける彼女はとても嬉しそうだった。
「くそっ」
とにかく必死になって走る。
幸いにも僕の身体能力は常人のそれと大差はなく、彼女に捕まることはないだろう。
ただ、体力の方はあまり自信がない。
運動部に所属しているわけでもないため、持久力は期待できないのだ。
それに彼女の方はまだまだ余裕があるのか、時折立ち止まって僕の様子を窺っているようだった。
「……」
僕は走りながら思考する。
どうすればこの窮地を脱することが出来るかを考える。
今のままじゃいずれ捕まってしまうのは明白だ。
何か打開策を考えなければ。
「うふふ、お兄ちゃんてばそんなに急いでどこに行こうっていうの? まだ夜は始まったばかりだよ」
背後から聞こえる笑い声は楽しげで、まるで新しい玩具を手に入れた子供のようだ。
その表情は見えないけれど、きっと笑顔に違いない。
それと共に、僕が辿り着いたのは公園。
周りには障害物も何もない場所。
「あぁ、追いついちゃった。
もう、追いかけっこは終わりなの」
そう、女の子は尋ねてくる。
「……あぁ、そうだな」「終わりだよ」
「えっ?」
僕と重なるようにグリムの声が響く。
それと共に、霧が晴れる。
それには、彼女も驚きを隠せない様子だった。
「悪霊の恐ろしさは姿が見えない事。
姿が見えないから、どこから来るのか分からない恐怖に襲われる。霧の中、障害物の多い街の中。
それらは悪霊が人を恐れさせ、テリトリーを作るには、十分な場所」
そうグリムは近づく。
その手には筆を持っている。
「お前は、この街で死んだ多くの子供達が合わさった事で生まれた存在。故に、この街の事は誰よりも知っている。だからこそ、死後においても、霧の中でも歩ける。だが、この状況はどうだ」
「っ!」
少女は、そこで初めて恐怖した。
身を隠す為の建物はない。敵を眩ませる霧もない。
「もしかして」
「グリムが警戒されていたからね。囮としては僕しかいなかったけどね」
だけど、怖かったのは、本心だ。
「十分だ、あとは仕上げだ」
同時にグリムは、そのまま地面に筆を突き刺す。
「っ」
「成仏させようにも、お前の魂がどれぐらいあるのか分からないからな。だから、お前を封印させて貰う」
同時に手に持った筆で、人形に封印の文字を刻む。
それと共に少女の身体から幾多の霧が出てくる。
いや、あれは霧ではない。
「あれが、少女の、悪霊の正体」
1人の少女の形に収まっていた悪霊達は、そのままグリムの人形の中に吸い込まれていく。
それに対して、グリムは人形を構えている。
「同情するし、これらを行ったのは、お前達の責任ではない。だが、謝りはしない。なぜならばお前達は私の大切な物に手を出した」
その言葉と共に人形に、悪霊は完全に封印された。
「……彼女達は」
「人形の中だ、いずれは成仏させないとな」
そう、グリムはそのまま人形を手に取りながら言う。
「……霧が、また出るね」
「この霧は石炭を燃やした後の煙やすすが霧に混じって地表に滞留したからな。悪霊を生み出した霧だが、悪霊を倒しても、決して終わらないだろう」
「……そうなのか、それは」
少し悲しい。
僕はそう思いながら、霧を見つめていく。
次回作のジャンルは
-
時代劇
-
世紀末
-
ロボット
-
カードゲーム
-
ファンタジー