既に、時間は深夜へと変わっていた。現在、ここにある明かりは、頭上に浮かんでいる月の光だけであり、その光を頼りに、僕は眼前に襲い掛かる斬撃をなんとか受ける事しかできていない。
「ふんっ」
軽く、クコチヒコが呟くだけでも放たれた斬撃に対して、僕は受け止める事しかできていない。斬撃を受け止められたのは僕自身の力というよりも、刀が優れている事もあって、受け止められた。だが、それでも今の一撃によって、僕の手には痺れと痛みが走っている。
そして、そんな攻撃を受ける度に、身体中に傷が増えていく。
先ほどまでは、何とか致命傷だけは避けていたのだが、それも限界に近いだろう。
そう思いながらも、どうにかしようと必死になる。しかし、相手も容赦などしない。
容赦をする理由がないからだ。
だけど、僕はこの場を逃げる訳にはいかない。
「分からんな、その程度の力で、なぜ未だに抗おうとする?」
そう言いながら、またクコチヒコの攻撃が迫ってくる。それに対して、僕は刀で受けようとする。だが、それでは駄目だと思ったのか、すぐに刀で防御する事を止めて回避する。
今までの僕なら、そのまま攻撃を受けてしまっていただろう。
だけど、諦めるつもりはない。
「ちぃっ」
クコチヒコの方からも舌打ちが聞こえた。
どうやら、僕の動きを見て何かを感じ取ったようだ。
クコチヒコの動きが更に鋭くなった。
それでも僕は逃げずに攻撃を受けるのではなく避ける事にした。
「まだ抵抗するか」
そう言って、今度は拳を振るってきた。
それを刀で受ける事はせずに横に跳んで避けようとした。しかし、クコチヒコの拳は僕の頬を掠めた。その瞬間、頬に激痛が走った。
おそらく、殴られたというよりかすめていっただけだと思うのだが、それだけでも痛みを感じるほど鋭い一撃だったのだ。
もし、まともに喰らっていたら致命傷になっていたかもしれない。
そして、今の攻撃だけで分かった事がある。
やはりクコチヒコの方が強いという事だ。
今の攻防だけでもそれがよく分かる。
クコチヒコの強さはスピードとパワーを兼ね備えているというものだ。それにあの速さなら、例え攻撃を避けられても次の動きに移るまでのタイムラグがほとんど無いだろう。つまり、反撃する暇もないということだ。
(だけど)
だからといって諦めるわけにはいかない。
たとえ勝ち目が無くとも足掻いてやるしかない。
(まだだ!)
そう思って立ち上がる。
もしも、チャンスがあるとしたら、あの技にかけるしかない。
だから、その時がくるまで待つ。
そして、その瞬間はすぐにやってきた。
僕の攻撃を避けた直後だった。クコチヒコの体勢が崩れたのだ。
「そこだッ!!!」
それを見逃さず、僕は全力で斬りかかった。
だが、それは悪手だとすぐに思い知らされた。
なんと、クコチヒコはその崩れた姿勢のまま僕に向かって蹴りを放ってきたのだ。
だけど。
「っ!」「なにっ」
だが、僕は、なんとか足に力を踏み、その技を放つ為に構える。
刀を右手で握り、その柄尻を左の掌で押し込む。
その狙いは真っすぐと、その心臓を刺し貫くように放たれた。
しかし、その一撃すらも見透かしていたかのように、クコチヒコは身を翻して回避しようとする。
だが、それよりも早く、刀が、クコチヒコの心臓に届く。
「「はあああぁぁぁ!」」
それに対して、クコチヒコは、そのまま僕の腕を掴む。
狼の手が、僕の腕を潰そうとする。
だが、それよりも早く、真っ直ぐと、奴の心臓を貫く。──―その一点に狙いを定めて、ただ、貫く。
「ッ!!!???」
奴の驚愕した顔が見えた気がする。
いや、もしかしたら、そんな表情すら見えなかったかもしれない。
ただ、僕の剣は確実に奴の心臓を捉えていたのだ。
そして、そのまま剣を振り下ろす。
「ぐっ!!!! あぁあああっ!!!」
僕は、クコチヒコとの戦いでボロボロになった体を無理矢理動かしていた。
もう、立っていることさえ限界だっていうのに。
それでも──―。
「うわああああああああっ!! 」
真っ直ぐと、そのまま僕は最後の力を振り絞るようにして、右手を前に突き出した。
そしてその手にはしっかりと握られた刀がある。
「──―ッ!?」
僕の手に握られている刀を見た瞬間、クコチヒコの顔色が一気に青ざめていく。
まるで信じられないものでも見たかのように、目を限界まで見開いていた。
「こんな所でっ! 死んでたまるかぁああああっ!!」
「うわあああああああっ!?」
──ズドォオオオンッ!! と、まるで爆弾でも落ちたかのような轟音が鳴り響いた。
その音と共に地面が激しく揺れる。地震かと思ったが、そうではない。
だが、それは、クコチヒコの体内にある全てが心臓からあふれ出した瞬間だった。
その勢いに押されるようにして、僕は後ろに吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられた痛みと衝撃に耐えながら、僕は自分の身体を見下ろす。
「うわぁあああ!?」
思わず悲鳴をあげてしまった。
僕の胸からは大量の血が流れ出し、地面を赤く染め上げている。
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