霧の街から抜け出す事ができた。
どこまでも広がるかと思っていた霧は、街を抜けた少し先から見えなくなっていた。
少し見つめた先には、未だに霧がある様子が見え、それが街から出ている事は、よく分かる。
「それにしても、僕はどこを目指しているんだろうか」
「私が所属している場所の基地だ」
「基地?」
グリムの言葉に対して、僕は首を傾げる。
「怪物退治専門の傭兵組織・狩人組合。その基地ならば、ある程度の身の安全は保証されるだろう」
「けど、僕みたいのが」
はっきり言えば、僕は何か役に立てたのだろうか。
前回のジャックの戦いも、人狼の時の戦いでも。
「・・・君がこれからどうするつもりか分からないが、君の精液で私の魔女の呪いが弱まっている。それはつまり、今後の魔女との戦いにおいても有利になる可能性がある。それを調べる為にも、向かった方が良いだろ」
「そうなのか、というよりも、グリムの呪いって?」
「そう言えば、詳しく言っていなかったな、人を子どもの姿に変える呪い。それが私に賭けられた呪いだ」
「それって」
その言葉と共に、戦いの時にグリムが大人の姿になる事を思い出す。
「魔女に呪いを掛けられた為、普段は大人から子供の姿でいる。だが、有事の際は、特殊な道具『表層時計』により1日1度3時間程で大人へ変身できる。効力が切れた後は子供の姿に戻ると同時に、戦闘不能に陥る程の疲労感に苛まれてしまう。本来ならば」
「本来ならば?」
それに、僕は首を傾げる。
「君の精液を吸い上げる事によって、呪いによる影響はほとんど無くなる。しかも、子供に戻っても疲労感はない。ある意味、これ以上ない程の特効薬だ」
「そっそんなに」
その言葉に対して、僕は思わず驚きを隠せなかった。
「最も、他の連中に渡すつもりはサラサラないがな」
そうきっぱりとグリムは言う。
「それにしても、この周辺は、ほとんど何もないね」
「まぁな、だが油断はするな。
この周辺には」
そうグリムが何かを言いかけた時だった。
何かの香りがした。
これは
「硫黄?」
それに疑問に思った瞬間には、既にグリムは大人になっていた。
それと共に、その手には猟銃を構えていた。
「グリム?」
「捕まっていろ」
グリムの呟きと共に、そのままグリムは僕を掴んだ。
同時にこちらに向かってくる黒い影。
それは、まるで狼のようだった。
「まさか、人狼!?」
「ある意味、それ以上に厄介な奴らだ」
グリムの言葉が正解と言わんばかりに、次々と何かが来る。
「あれは」
「ブラックドック?」
再び、見つめる。
燃えるような赤い目に黒い体の大きな犬。
それらが、こちらに迫っていた。
「ちっ、これ程の数がいるとはな、厄介な事になった」
それと共に、グリムは、そのまま眼前にいるブラックドックを撃つ。
ブラックドックは、それによって吹き飛ばされる。
だが、未だに数は減る様子はなかった。
「っ」
それと共にブラックドックの一匹がこちらに向かって襲い掛かる。
グリムは瞬時に剣を取りだし、斬り裂く。
だが、それによって、僕は飛ばされる。
「しまったっ」
「っ」
すぐ傍には崖があった。
落とされる。
そう思った時には、グリムは、バックからもう一本の剣をこちらに向けて投げる。
剣は、崖に突き刺さる。
僕はすぐにそれを手に持つ。
だが。
「のわっ」
手に力を込めた瞬間、勢い良く落ち始める。
見ると、突き刺した箇所が、斬り裂かれていく。
「切れ味が良すぎたかっ」
それには、グリムも思わず舌打ちをしてしまう。
「その剣を、決して離すな!それを持つ所に、必ず私は向かう!」
「グリム」
「だから、最後まで生きるのを諦めるな!」
その言葉を最後に、僕は崖の下まで落ちていった。
「ぐっ」
剣を持ち、勢いを殺す事ができた。
なんとか、僕は、その剣を取り、少し息を整える。
「登るのは、難しいよな、だったら、ここからどこかに」
そう、僕はゆっくりと歩き始める。
すると、周りには、ブラックドックの群れがいた。
「嘘だろ」
まさか、ブラックドックの巣窟に迷い込んだのか。
僕は、そう思いながらも、なんとかブラックドックから隠れる。
必死な抵抗かもしれない。
すぐに見つかるかもしれない。
それでも、僕は諦めない。
そう考えていた時だった。
「・・・人間か」
「えっ?」
ぞっとする声。
すぐに振り返る。
そこで僕が目にしたのは黒い何かだった。
全身を鎖で縛られている。
僅かに飛び出ている金髪は整えられておらず、長い年月、放っておかれているのが、分かる。
「あなたは?」
「・・・ただの孕み袋だ」
「孕み袋って」
その言葉に、僕は思わず言ってしまう。
「ただの事実だ。私は、ここで長年、自分の分身を生み出され続けた。誇りもない存在を。愛おしくもない存在を」
そう、自暴自棄のように、言う。
「貴様は迷い込んだようだな。
ならば、すぐに立ち去れ、ここにいれば、奴らが来る」
「奴らって」
「私が産みだした存在だ」
それは、つまり、彼女がブラックドックを生み出した事を意味する。
ならば、やる事は1つだ。
僕は、手にした剣を構える。
「・・・仇討ちか」
「そうじゃない」
僕は、そのまま手にした剣を、鎖に向けて、斬り裂く。
「何をしている」
「鎖を斬る。それで、ここから逃げますよ」
「何を馬鹿な事を。そんな事をしていたら、すぐに奴らが来るぞ」
「どちらにしても奴らから逃げれるかどうか分からない。だったら、僕はせめて、後悔しない選択をしたい」
正しいかどうか分からない。
だけど、もしも、ここで彼女を見捨てたら、僕は、僕自身が許せなくなる。
そうしながら、何度も、何度も僕は鎖に向けて、剣を振り下ろす。
素人で、剣の使い方も、からっきしだ。
それでも、剣の切れ味は良く、鎖をなんとか斬り裂く事が出来た。
「これで、なんとかっ」
そう安堵した時だった。
こちらに迫るブラックドックの叫び声が聞こえる。
「まずいっ」
そう思った瞬間には、ブラックドックがこちらに襲い掛かる。
すぐに僕は女性の前で身構えた。
だが
「強いですね、あなたは」
その牙は、僕に襲い掛かる事はなかった。
代わりに聞こえたのは血飛沫。
それも、だらりと僕の上にかかる。
見ると、そこにはブラックドックの首が落ちていた。
同時に咀嚼音が聞こえる。
その音は、僕の後ろからであり、見つめる。
「あなたの心の強さに救われました。感謝します」
見ると、鎖から完全に解き放たれていた彼女がいた。
その容姿は、どこか大人になっているグリムと似ていた。
だが、彼女とは違った雰囲気を確かに見れた。
同時に、こちらに向かって、ブラックドックが近づいてくる。
「私の後ろに。あいつらは、私が喰らいます」
「えぇ」
それと共に僕の今の状況。
それは想像していたよりも、とんでもない事が起きているようだ。
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