これでもなぁ! 毎日5~6000文字は書いてるんだよぉ!
連載中のやつとは、全く関係ない話をよぉ!
これはそのひとつです。
亡国の王女
ロリーナ・ペ・ド・フィリアは激怒していた。
必ずや、かの邪知暴虐な簒奪者どもを誅滅せねばと決意した。
ロリーナは王女である。
見目麗しい従僕たちに
ロリーナに政治は分からぬ。
貴族の腐敗も、貧困に喘ぐ民の声も、王宮の厚い壁に阻まれて耳に入ってはこなかった。
けれども、自分の幸せを脅かそうとする気配には、人一倍に敏感であった。
昨夜未明、蜘蛛のごとき危機察知能力によって胸騒ぎを覚えたロリーナは、ネグリジェ姿のまま、王族しか知らぬ隠し通路を通って城から脱出し、近くの森へ出た。
そして振り返り、生まれ育った城を仰ぎ見て愕然とした。
いつもであれば城の天頂に翻る、金糸の刺繍で王家の印が施されたフィリアの国旗が、炎に包まれ焼け落ちていたからだ。
焦げ臭い匂いを届けてきた風に乗って、いくつもの声が聞こえた。
それは悲鳴であり、怒号であり、勝ち
悲鳴は必死に命を乞い、怒号はそれを切って捨て、勝ち鬨はだれが勝者かを知らしめていた。
────革命が起こったのだ。
簒奪者どもは声高らかに叫ぶ。
王は死んだ、圧政は終わったと。
王妃は死んだ、搾取は終わったと。
先頭に立って声を上げるのは、平民から戦功を上げて叙勲された騎士であるようだった。
ふざけるな!
ロリーナは叫んだ。
父が殺されるのはまだいい。
ごちそうと人妻にしか興味が無く、ロリーナには愛情も示さなかった父だ。
母が殺されるのもまだいい。
しかし、自らの幸福な暮らしを奪われた事だけは、なんとしても許しがたい事だった。
どんなわがままも聞いてくれる、眉目秀麗な従僕たち。
美しい声と美麗な文句で、ロリーナを称えてくれる詩人たち。
好きなときにお菓子を食べ、好きなときに昼寝をし、時には道化を的に石を投げて遊び、夜になってベッドに潜れば、夢の中ですらロリーナを不快にさせるようなものは何一つとして存在しなかった。
ロリーナの人生は、完璧だったのだ。
それが、唐突に奪われた。
故に、ロリーナは激怒した。
お気に入りのオモチャを奪われた三歳児のごとく激怒した。
政治も、道理も、正義も、
そしてその怒りが冷めぬままに、ロリーナは考える。
どうすれば、あの素晴らしくも怠惰な暮らしを取り戻すことが出来るのか、と。
考えて、考えて、考えて────そして、思い至った。
そうだ、勇者を召喚しよう。
……ロリーナは魔術を知らぬ。
自らを教育しようなどという不届きな輩(魔術の教師)は、ことごとく遠ざけてきた。
だがしかし、その才能と血筋だけは無駄に優秀であった。
元を辿れば、フィリア王家は神に仕える巫女の家系である。
かつて世界に魔物が溢れ、今よりも遥かに混沌としていた時代。
当時の巫女が、失われていく命の多さを嘆き、神に救いを求めた。
神はそれに応え、異世界から一人の男を呼び出すと、その男に『特別な力』を与えて地上に遣わしたのだ。
男は多くの魔物を屠り、人間の生活圏を広げ、後に勇者と呼ばれるようになった。
そして、その勇者と巫女が結ばれ、彼らの庇護を求めて人が集まり、国が興った。
フィリア王国の始まりである。
重ねて言うが、ロリーナは魔術を知らぬ。
勇者を召喚するための儀式も、神に祈りを捧げる作法も、何も知らぬ。
そもそも神自体を信じてはおらぬ。
だがしかし、その身に流れる血は間違いなく、異世界から召喚された勇者と、神に仕える巫女のもの。
故に、何も知らぬままに、ただ漠然と勇者の召喚を望んだその願いは、身に秘めた膨大な魔力と共に天を突き、神に届いた。
届いて、しまったのだ。
女神エロースは困惑していた。
何かの間違いでは、と首をかしげていた。
エロースは性愛の女神である。
その権能はもちろん、セックスとラブである。
そんなエロースの元に、地上から祈りが届いたのだ。
その祈りとは、異世界から勇者を召喚して欲しい、というもの。
……もう一度言うが、エロースは性愛の女神である。
しかも、昔より世界が平和になって人間が堕落したせいか、セックスが九割、ラブが一割という、極端にエロ方面に特化してしまったエロ女神である。
勇者という、愛と正義と勇気によって世界を救うような存在の召喚など、畑違いもいいところなのだ。
しかし現実として、エロースの元には勇者召喚の祈りが届いてしまっている。
おそらく、祈りを捧げる段階で、何らかの間違いが生じたのだろう。
本来であればこういった祈りは、戦いの神や知識の神、もしくはさらに上位の存在である秩序の神の元などに届くものだ。
なぜならば、神は自らの『権能に則した能力』しか扱えないからである。
戦いの神であれば、優れた戦闘能力を勇者に与えられるであろう。
知識の神であれば、優れた魔術の知識を勇者に与えられるであろう。
上位存在である秩序の神ならば、法則すら逸脱した能力を勇者に与えられるかもしれない。
では、エロ女神であるエロースが与えられるのは?
もちろん、彼女の権能である『エロ』に関する事だけである。
ラブはもはやおまけ程度にしか存在していないので、ないものとする。
エロースは悩んだ。
これ自分が受け持っていい案件なの? と秀麗な眉目を困惑に歪ませた。
だが、それも一瞬のこと。
エロースはあっさりと悩みを捨てると、上司(秩序の神)に相談もせず、さっさと勇者召喚の準備を始めてしまった。
なぜなら、かつて愛を謳った美しい女神は、地上の人間が日々せっせと繰り返しているドギツイ変態行為とエロい妄想によって脳が蕩け、正常な思考能力を失ってしまっていたからだ。
エロースは神の力によって次元の門を開いた。
門の先にあるのは、全次元を通してもトップクラスにエロが溢れている、エロの聖地────
そう、