「そこの怪しい男。止まれ」
硬質な声で呼び止められ、正男は振り向いた。
すると誰もいなかったはずのそこには、一人の女性が立っていた。
紫色の髪と瞳、整った目鼻立ち、すらりと伸びた手足、鎧を身に着けていても分かる大きな胸……
なぜか目は死んだように曇っているが、それを差し引いても間違いなく美しいと言える女性だった。
正男がこれまで見てきた中で、もっとも美しい幼女がロリーナだとするならば、もっとも美しい成人女性は目の前の美女だろう。(エロースは女神なので除外)
一つ問題があるとすれば────
それは、その美しい女性が剣を抜き、正男に向かって突きつけていることだろうか。
「貴様、何者だ? というか
美女は正男に剣を突きつけたまま、やけに早口で、途中正男から目を逸らしつつ詰問をした。
まるで出来るだけ正男を視界に入れたくない、というような態度にやや傷ついた正男だったが、それどころではない。
ロリーナがこの女性の質問になんと答えるのか、気が気ではなかったのだ。
正男はロリーナに一生懸命目配せをした。
くれぐれも自分が王女である事を明かしたり、正男が勇者である事をバラしてはいけないと、必死に目で訴えた。
その思いが通じたのか、ロリーナは「(まかせておけ)」とばかりに自信ありげな笑みを浮かべると、
「きさま、
堂々と、そう言い切った。
正男の思いなど、欠片も通じていなかった。
犬とすら心を通じ合わせられると言うのに、なぜ同じ人間とは通じ合えないのか。
というか、何のためにわざわざ変装までしたと思っているのか。
いや、何も考えていないのか?
そんな悲しみを抱きながら、剣を突きつけている美女に恐る恐る視線を向けると……
「…………」
美女は、まるで石化したように固まっていた。
よく見ると、呼吸すらしていないようだ。
もしかしたら心臓も止まっているのかも知れない。
心配になった正男が声を掛けると、美女は一度ビクリと震えた後、再起動した。
「は……ははは、面白い冗談を言う少年……いや、少女か? と、ともかく、ロリーナ王女はすでに成人されている。君のように年若い少女が────あれ、瑠璃色の瞳に金の髪……それにその顔、王城にあった肖像画とそっくり……?」
そして美女の挙動が、明らかにおかしくなった。
カッと目を見開いてロリーナを見つめ、なにかをブツブツと呟きながら、今にも発狂しそうな雰囲気を醸し出している。
「妾は大人じゃ! まあ、
そんな挙動のおかしい美女を尻目に、ロリーナが勝ち誇ったように宣言した。
その言葉には正男も驚愕したが、それ以上に劇的な反応を見せたのは、もちろん名も知らぬ美女だ。
ぎぎぎ、とまるで油の切れたブリキ人形のような動きで、美女はその視線をロリーナから正男に移した。
そして、
「…………まさかとは、まさかとは、思うが……いや、絶対にあり得ない、はずだが、一応……一応、念のために聞いておく。
この少女が、ロリーナ王女だというならば、貴様はっ、まさか、ゆ、ゆ、ゆゆ、ゆう……はぁっ、はぁっ……!!」
いったい、なにが彼女をそこまで追い詰めているのか。
美女の四肢は生まれたての子鹿のように震え、目は血走り、過呼吸にすらなりつつあった。
再度心配になった正男が声を掛けようとするが、美女はそれを拒絶するかのように両手で剣を構えると、覚悟を決めた表情で言葉を続けた。
「貴様は……ゆう、勇者っ……では、ないよな?」
美女の声には、懇願するような、祈るような、あまりにも切実な何かが込められていた。
…………
……正男には、美女がどう答えて欲しいのか、分かっていた。
勇者などではない。
ただのファンシーなヒツジ服を着た変質者で、ロリーナ王女とは何の関係もなく、たまたま偶然森の中で出会っただけだ。
そう答えて欲しいのだと、分かっていた。
「こやつはマサオ。こんな見た目じゃが妾の下僕で、いちおう勇者じゃ。こんな見た目じゃが」
だが、そんなことがロリーナに分かるわけがない。
もし分かっていたところで、別に気にもせず同じ事を言っただろう。
そういう幼女だ。
ロリーナの言葉を聞いた美女は、持っていた剣を取り落とした。
そしてそれを追うように、自らも地面に崩れ落ちた。
美女は震えていた。
それが怒りによるものか、それとも別の感情によるものなのか、正男には分からない。
だが、正男が勇者であるという事実が、目の前の美女に膝をつかせたのだろう、という事だけは分かった。
なんと声を掛ければいいのか、それとも声を掛けない方がいいのか。
正男が判断に迷って右往左往する中、美女が顔を上げる。
「くっ……殺せ……っ!」
そして、血を吐くような声で、そう口にしたのだった。
早くエロシーンに行きたいのに、なかなか到達できない……
自分で書いているのになぜだ……?