※この作品はR-18です。

そうだ、勇者を喚ぼう ~亡国の王女の決断~   作:布施鉱平

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すれ違う思い

「そこの怪しい男。止まれ」

 

 硬質な声で呼び止められ、正男は振り向いた。

 

 すると誰もいなかったはずのそこには、一人の女性が立っていた。

 

 紫色の髪と瞳、整った目鼻立ち、すらりと伸びた手足、鎧を身に着けていても分かる大きな胸……

 

 なぜか目は死んだように曇っているが、それを差し引いても間違いなく美しいと言える女性だった。

 

 正男がこれまで見てきた中で、もっとも美しい幼女がロリーナだとするならば、もっとも美しい成人女性は目の前の美女だろう。(エロースは女神なので除外)

 

 一つ問題があるとすれば────

 

 

 それは、その美しい女性が剣を抜き、正男に向かって突きつけていることだろうか。

 

「貴様、何者だ? というか何人(なにじん)だ? 肌の色も、目や髪の色も、その平たい顔も、ここらでは見かけない人種だな。それと、そこにいる犬に乗った少年とはどういう関係だ? ────ああ、いや、貴様は答えなくていい。少年、この怪しい風体の男とはどういう関係だ? もし何か事件に巻き込まれているのなら、心配しなくていい。こう見えても私はそれなりに腕が立つ。君の助けになれるかも知れないから、正直に話してくれ」

 

 美女は正男に剣を突きつけたまま、やけに早口で、途中正男から目を逸らしつつ詰問をした。

 

 まるで出来るだけ正男を視界に入れたくない、というような態度にやや傷ついた正男だったが、それどころではない。

 

 ロリーナがこの女性の質問になんと答えるのか、気が気ではなかったのだ。

 

 正男はロリーナに一生懸命目配せをした。

 

 くれぐれも自分が王女である事を明かしたり、正男が勇者である事をバラしてはいけないと、必死に目で訴えた。

 

 その思いが通じたのか、ロリーナは「(まかせておけ)」とばかりに自信ありげな笑みを浮かべると、

 

「きさま、頭(ず)が高いのじゃ! 妾はロリーナ・ペ・ド・フィリア! この国の王女であるぞ!」

 

 堂々と、そう言い切った。

 

 正男の思いなど、欠片も通じていなかった。

 

 犬とすら心を通じ合わせられると言うのに、なぜ同じ人間とは通じ合えないのか。

 

 というか、何のためにわざわざ変装までしたと思っているのか。

 

 いや、何も考えていないのか?

 

 そんな悲しみを抱きながら、剣を突きつけている美女に恐る恐る視線を向けると……

 

「…………」

 

 美女は、まるで石化したように固まっていた。

 

 よく見ると、呼吸すらしていないようだ。

 

 もしかしたら心臓も止まっているのかも知れない。

 

 心配になった正男が声を掛けると、美女は一度ビクリと震えた後、再起動した。

 

「は……ははは、面白い冗談を言う少年……いや、少女か? と、ともかく、ロリーナ王女はすでに成人されている。君のように年若い少女が────あれ、瑠璃色の瞳に金の髪……それにその顔、王城にあった肖像画とそっくり……?」

 

 そして美女の挙動が、明らかにおかしくなった。

 

 カッと目を見開いてロリーナを見つめ、なにかをブツブツと呟きながら、今にも発狂しそうな雰囲気を醸し出している。

 

「妾は大人じゃ! まあ、十(とお)の頃から妾のびぼうはいささかも衰えておらぬゆえ、勘違いするのもムリはないがの」

 

 そんな挙動のおかしい美女を尻目に、ロリーナが勝ち誇ったように宣言した。

 

 その言葉には正男も驚愕したが、それ以上に劇的な反応を見せたのは、もちろん名も知らぬ美女だ。

 

 ぎぎぎ、とまるで油の切れたブリキ人形のような動きで、美女はその視線をロリーナから正男に移した。

 

 そして、

 

「…………まさかとは、まさかとは、思うが……いや、絶対にあり得ない、はずだが、一応……一応、念のために聞いておく。

 この少女が、ロリーナ王女だというならば、貴様はっ、まさか、ゆ、ゆ、ゆゆ、ゆう……はぁっ、はぁっ……!!」

 

 いったい、なにが彼女をそこまで追い詰めているのか。

 美女の四肢は生まれたての子鹿のように震え、目は血走り、過呼吸にすらなりつつあった。

 

 再度心配になった正男が声を掛けようとするが、美女はそれを拒絶するかのように両手で剣を構えると、覚悟を決めた表情で言葉を続けた。

 

「貴様は……ゆう、勇者っ……では、ないよな?」

 

 美女の声には、懇願するような、祈るような、あまりにも切実な何かが込められていた。

 

 …………

 

 ……正男には、美女がどう答えて欲しいのか、分かっていた。

 

 勇者などではない。

 ただのファンシーなヒツジ服を着た変質者で、ロリーナ王女とは何の関係もなく、たまたま偶然森の中で出会っただけだ。

 

 そう答えて欲しいのだと、分かっていた。

 

「こやつはマサオ。こんな見た目じゃが妾の下僕で、いちおう勇者じゃ。こんな見た目じゃが」

 

 だが、そんなことがロリーナに分かるわけがない。

 もし分かっていたところで、別に気にもせず同じ事を言っただろう。

 

 そういう幼女だ。

 

 ロリーナの言葉を聞いた美女は、持っていた剣を取り落とした。

 そしてそれを追うように、自らも地面に崩れ落ちた。

 

 美女は震えていた。

 

 それが怒りによるものか、それとも別の感情によるものなのか、正男には分からない。

 

 だが、正男が勇者であるという事実が、目の前の美女に膝をつかせたのだろう、という事だけは分かった。

 

 なんと声を掛ければいいのか、それとも声を掛けない方がいいのか。

 

 正男が判断に迷って右往左往する中、美女が顔を上げる。

 

「くっ……殺せ……っ!」

 

 そして、血を吐くような声で、そう口にしたのだった。






早くエロシーンに行きたいのに、なかなか到達できない……
自分で書いているのになぜだ……?
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