※この作品はR-18です。

そうだ、勇者を喚ぼう ~亡国の王女の決断~   作:布施鉱平

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その名はポチ

「くっ……殺せ……っ!」

 

 ジャンヌは力の入らぬ腹筋に喝を入れ、絞り出すように叫んだ。

 

 比喩とか、俗語(スラング)とか、何か別の意味で言ったのではなく、心の底から殺して欲しかった。

 

 もう、希望を打ち砕かれるのはうんざりだった。

 

 遅い初恋の相手は、ジャンヌの理想を体現したかのような英雄。

 ただしガチホモ。

 

 次に恋したのは、まだ出会ってすらいない異世界からの勇者。

 しかしいざ出会ってみれば、平たい顔の太った変質者。

 

 いったい、ジャンヌが何をしたというのだろうか。

 

 前世で五億人くらい殺したのだろうか。

 

 神はいないのか?

 

 いや、勇者が召喚された以上、神はいる。

 

 しかしその神はジャンヌには微笑まなかった、それだけだ。

 

「くはっ……ははは、は、は……」

 

 意味もなく、乾いた笑い声が漏れた。

 

 その中には、ジャンヌの楽しかった記憶とか、幸せだった思い出とか、そういった彼女の人生を彩る大切な物が含まれていて、それらも一緒に流れ出てしまっているような気がした。

 

 つまり、ジャンヌにはもう、何もなかった。

 

 未来も、過去も、なにかも、残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしよう。

 

 正男は目の前で壊れたように笑う美女を見下ろしながら、相変わらず右往左往していた。

 

 女性と会話のキャッチポールすら出来ない正男に、傷ついた女性を慰めるなど不可能である。

 

 困り切った正男は、ロリーナを見た。

 

 目が合ったロリーナは、得たり、とばかりに首をカッ切るジェスチャーをした。

 

 違うそうじゃない。

 

 そもそも、なんで隣国の名前すら知らないのに、そういったジェスチャーは知っているのか。

 

 詩人か? 詩人が寝物語に語ったのか?

 

 ロリーナが全く頼りにならないという事を再確認した正男は、意を決すると美女の前にかがみ込んだ。

 

 拙(つたな)くてもいい、うまく通じなくてもいい、とにかく自分の言葉で、なんとか美女を慰めようと思ったのだ。

 

 だが、美女と目が合った瞬間。

 

 正男の脳裏に、ある映像が走った。

 

 

 ────そう、『エロ同人の竿役おじさん』の能力が発動したのだ。

 

 

 今回正男の脳裏に浮かんだのは、『一見するとお嬢様学園で用務員をしているただのおじさんだが、実は目を合わせた相手を瞬間的に催眠状態にする特殊能力を持っており、その能力で洗脳、認識改変、記憶の改ざんなどを行い、学園中のお嬢様を自分専用の肉便器に堕としたおじさん』の姿だった。

 

 そしてその『MCお嬢様肉便器製造おじさん』の能力が発動したということは……

 

「う……あ……」

 

 ただでさえ死んだような目をしていた美女の瞳から、ハイライトが完全に消え去った。

 

 催眠状態になっているのだ。

 

 ……正男は迷った。

 

 今ならば、美女がなぜ壊れそうになるほど苦しんでいるのか、なぜ殺してくれなどと言ったのか、その理由を聞き出せる。

 

 だがそれは、正男の倫理観からすればあまりにも卑劣な行為だった。

 人の心を操るなど、ましてやその力で女性の胸の内を強引に暴くなど、紳士たる者がやっていい行いではない。

 

 正男は迷いに迷い────結局、自らの倫理観に蓋をして、美女から話を聞き出すことにした。

 

 決してやましい気持ちからではない。

 

 カウンセラーが患者の悩みを理解するために逆行催眠を使ったりすることもあるし、目の前で苦しむ美女を助けるためならば今回はやむなし、という判断を下したのだ。

 

 正男はあまり突っ込んだことを聞きすぎないよう、慎重に言葉を選びながら美女に質問した。

 

 だが、美女の口から出たのは、予想外の情報だった。

 

 美女の名前はジャンヌ・デ・アルク。

 

 なんと彼女は、ロリーナから怠惰で快適で享楽的な生活を奪い、ついでにロリーナ以外の王族を皆殺しにした革命軍の一員であり、しかもその中でも中心的な人物の一人だったのだ。

 

 そこまで聞いたところで、正男は恐る恐るロリーナを見た。

 

 目が合ったロリーナは、即座に首をカッ切るジェスチャーをした。

 さもありなん。

 

 ロリーナにとって革命軍は、幸福に満ちた生活を奪った憎き存在。

 誅滅すべき者どもである。

 

 ましてやジャンヌは、その革命軍の幹部だ。

 生かしておくという選択肢など、ロリーナにはないだろう。

 

 だが、正男に美女を────ジャンヌを殺すことなど出来ぬ。

 

 百歩譲って相手が男であれば、今の正男なら石斧で頭をかち割る事も出来るかも知れない。

 

 だが、女性はダメだ。

 

 正男にとって女性とは、慈しむべき存在である。

 

 そして『竿役おじさん』にとっても、女性とは愛すべき(意味深)存在である。

 

 故に正男は勇気を振り絞って────ロリーナのジェスチャーを、見なかったことにした。

 

 見なかった以上、その指示には従えない。

 誠に残念なことである。

 

 後ろからビシバシと枝を振るってくるロリーナに構わず、正男はジャンヌに質問の続きをした。

 

 そして分かったことは……

 

 1、ジャンヌは革命軍の主導者にして、現在『英雄王』と呼ばれている男性に恋をしていた。

 

 2、その恋に敗れ、失意のジャンヌは強くてカッコイイ勇者に抱かれる事によって失恋の傷を癒やそうとしていた。

 

 3、勇者が太った変質者だったので死にたくなった。

 

 4、というか、殺してくれないんだったら崖から飛び降りて死のうと思っている。

 

 ……との事だった。

 

 ジャンヌの話を聞いて、正男は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

 いや、正男が悪いわけではないのだが、正男自身も自分が勇者に相応しいとは一ミリも思っていないし、なんなら召喚したロリーナも確実に思っていないだろう。

 

 なので、『理想の勇者』を思い描き、探し求め、そして出会ったのが正男だった時のジャンヌの絶望も理解できるのだ。

 

 しかし、困ったことになった。

 

 ジャンヌは殺してくれと言い、ロリーナはジェスチャーで殺せと示し、正男は殺したくない。

 

 だが殺さなければ、ロリーナはなんとか誤魔化せるとしても、ジャンヌは崖から跳ぶだろう。

 

 どうするべきか悩む正男の肩に、ぽんと手が置かれた。

 

 ロリーナかと思い振り返ると、そこにはポチの姿。

 置かれたのは手ではなく、前足だったのだ。

 

 何の用かと首を傾げる正男を、ポチの金色の瞳がじっと見つめた。

 

 まるで光を放っているかのように輝く、その金色の瞳を見つめ返した瞬間────

 

 

 

 

 

 ────正男は、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────マサオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────マサオよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────勇者マサオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────さあ、目覚めるのです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────声に導かれ、目を開いた正男は、真っ白な空間にいた。

 

 

 

 

 

 そして目の前には、正男をこの世界に連れてきた張本人。

 

 

 性愛の女神エロースが、淫らな微笑みを浮かべながら立っていたのだった。






ポチは一体何者なんだ……!

あ、正男が夜なべして作った服を着た、男装ロリーナ様の画像をpixivに上げといたよ。
色々おかしな所はあるだろうけど、まあこういうイメージってことで。
https://www.pixiv.net/artworks/108817836
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