俺には井出という友達がいる。
俺が言うのもなんだが、井出は最低の男である。性欲を妄想で発散するならまだしも、エロ漫画みたいな鬼畜の所業をマジで実行しようとする奴なのだ。
そんなんだから、井出がモテるはずがない。外見もおしゃれ感のない眼鏡男子。モテる要素が何一つなかった。
……なのだが、井出は童貞というわけではない。
「はぁ~……。可愛い女の子とセックスできないかなぁ。僕の童貞をもらってくれる天使に早く出会いたいよ」
自分がすでに童貞を捨てている。その事実を、井出本人は知らなかった。
それもそのはず、堂本の不思議パワーによってその辺の記憶を消されてしまったのだ。
俺の不都合な情報だけを消すはずだったのだが、うっかりやりすぎてしまったらしい。問題が問題なだけに堂本を責められなかった。すまんな井出。
あくまで不可抗力だが、可愛い女の子とセックスをした記憶を失ってしまったのは、少しは可哀そうに思わなくはなかった。
「早いとか遅いの問題じゃないだろ。都合のいい美少女が降ってくるわけでもあるまいし。自分から可愛い女の子とやらにアプローチするしかないんじゃね?」
「祐二……。いつからそんなまっとうなことを言うようになったのさ! がっかりだよ! 僕と祐二は同類だったはずなのに!」
「勝手に同類にするんじゃねえ!」
井出の脳天に渾身のチョップを食らわせた。井出は倒れた。俺は男に容赦する性格ではないのだ。
「くっ……。最近藤咲さんと仲良くなったからって余裕かましちゃってさ。なんで僕には美少女が寄りつかないんだ。僕と祐二で……何が違うんだよおおおおおぉぉぉぉぉぉーーっ!!」
井出は地面に拳を叩きつけて慟哭した。なんか……すげえ可哀そうな奴に見えてきた。
※ ※ ※
俺の一つ下の学年に、戸倉坂真有という女子がいる。
小柄で可愛らしい女子だ。ポニーテールが身動きする度に尻尾みたいに揺れて小動物チック。サッカー部のマネージャーで、マスコットとして可愛がられているという情報あり。みんなから可愛がられているという点では、彼女もまた学園のアイドルと呼べるのかもしれなかった。
「あっ、会田先輩じゃないですか」
「よっ、真有ちゃんはいつも元気そうだね」
真有ちゃんと学園の廊下でエンカウントした。俺に気づいた彼女は小走りで近づいてきた。こういうところから愛嬌を見せてくれる。
最近、俺と真有ちゃんは顔見知りになった。
井出のことがあったので、学園で真有ちゃんを見かける度にガン見していた。毎回視線を感じていたという彼女から、さすがに気になって声をかけられてしまった。
真有ちゃんの行動に、いろいろとバレてしまったのかと焦った。しかし、話してみると俺に対して攻撃的な意志がなかったし、マスコットと言われるだけあって俺みたいな奴にも優しかった。学園で俺に優しい女子が藤咲姉妹以外にもいたんですねー。
「俺の友達に井出って奴がいるんだけど……」
「あっ、知ってますよ。あの眼鏡の人ですよね?」
少し探りを入れてみようとしただけなのに、真有ちゃんの食い気味の反応にビビらされた。
だが、よく聞いてみると、記憶が残っているというわけではなかった。やはり井出と恋人だったという事実は忘れ去られてしまったようだ。とりあえず井出が彼女に告白したよりも前までリセットされていた。
「良かったらなんだけど、今度暇な時にでも俺達と遊びに行かない?」
「俺達って……会田先輩と井出先輩ですか?」
「そうそう。もちろん真有ちゃんも友達連れて来たらいいよ。女の子一人に男子二人じゃ嫌でしょ?」
未だに信じ難いことではあるが、どうやら真有ちゃんの好みの男性は俺達のような一見ダメな感じの男子のようなのだ。まあ一見っていうか、普通にダメなんだけどな。
大した知り合いでもなかったのに、井出の告白が真有ちゃんに成功したことから間違いないはずだ。マジで俺達みたいのが良いとか……井出じゃないけどこの娘が天使に思えてならなかった。
「そうですね……。部活がない日ならいいですよ」
悩むそぶりを見せながらも、結局は人懐っこい笑顔で了承してくれた。
最近話すようになったとは言っても、普通の女子なら井出のような奴を連れてくると言われたらちょっと尻込みしてしまうだろう。この辺が真有ちゃんのイレギュラーなところだ。
「ありがとう。また井出と相談してから日にちを連絡するよ」
「わかりました。じゃあ連絡先を交換しましょうよ」
スマホを出した真有ちゃんが距離を詰めてきた。こういうところが無防備なんだよな。
真有ちゃんと連絡先を交換した。メイド以外の女子が俺のスマホに登録される。……なんか、今すごいことが起こった気がしたぞ。
「井出に言ったら喜ぶよ。真有ちゃんみたいな可愛い女の子と遊びに行けるなんてさ」
「か、可愛いだなんて……。まゆ、勘違いしちゃいますよ?」
「勘違いじゃないって。俺は本当のことしか言わないよ」
爽やかスマイルを浮かべてみる。真有ちゃんの顔が赤くなった。まるでイケメンにでもなった気分だな。
よく考えたら、これってナンパでは? しかも学園の廊下で堂々とやってしまった。堂々とやったおかげか、行き交う人に注目されることはなかった。雑談しているだけとでも思われたのだろう。
「じゃあまた連絡するね」
「はい。楽しみにして待ってますね」
真有ちゃんに手を振りながら別れる。なんか普通に友達って雰囲気だ。
「可愛い娘だったけど、あんまり緊張しなかったな」
ずっとメイド達と接してきて、美少女との会話に慣れたのか、特別緊張してどもることはなかった。
「さーて、たまには井出のためにがんばってやるか」
自分の成長を感じて気分が良くなる。
井出と真有ちゃんをもう一度くっつける。その計画のために、俺は一肌脱いでやることにしたのであった。
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