「ああ、楽しみだなぁ」
井出がワクワクウキウキしている。しきりに眼鏡のレンズを拭いていて忙しない。
今日は嬉しい日曜日。俺と井出は駅前の広場で女の子と待ち合わせしていた。
待ち合わせの相手は真有ちゃん。あともう一人友達が来るらしいけど、まあおまけみたいなものだ。
「せっかく女の子とのデートを約束してやったんだ。変なことして引かれんなよ」
「大丈夫さ祐二。今日のためにネットでデートについて調べてきた僕に死角はないよ」
フフンと胸を張る井出だった。彼女いたことがないくせに(記憶消去後)どこからそんな自信が湧いてくんのか教えてもらいたいね。
まあこの調子なら大丈夫か。自信なさすぎて口を閉ざしてしまう方が問題だしな。
「ネットで調べた? 失敗フラグですねわかります」
「祐二こそちゃんと事前調査はしてきたんだろうね?」
「自然体で接していれば、女子は心を開いてくれるものさ」
「キモいよ祐二」
「なんだと!? 井出にだけはっ。井出にだけは言われたくねえんだよぉぉぉぉぉぉ!!」
「マジギレしすぎでは!?」
今回は井出と真有ちゃんをくっつけるのが最優先事項だ。二人に記憶がなくても、俺は井出と真有ちゃんが相性バッチリなのを知っている。二人ともが恥ずかしがってコミュニケーションが取れない、なんてことにさえならなければ自然に元の鞘に収まるだろう。
この件に関して堂本の力を借りるつもりはない。だって、完全に俺とは無関係なんだもん。こんなことで借りを作りたくないんだよな。
それに前は偶然だったとはいえ、俺が井出に指示したおかげで上手くいったのだ。きっと次も上手くいくだろう。
「すみません先輩方。お待たせしました」
声に反応して顔を向ける俺達。井出が小さく「おおっ」と漏らしたのが聞こえた。
俺達の前に現れたのは二人の少女だ。
一人はもちろん真有ちゃん。想像していたのとは違うと言ったら失礼なのかもしれないが、彼女の私服は落ち着きのあるシックなものだった。
外見が幼く見える真有ちゃんが年相応に見える。……やっぱり失礼なこと考えてしまったかもしれない。
「こ、こんにちは……あの、今日はその、お、お世話になります……」
もう一人の少女は真有ちゃんが連れてきた友達なのだろう。初対面の俺達にビクビクしていた。なんだか男に慣れていないって印象を抱く。
彼女は真有ちゃんとは対照的に背が高い。男子の俺とあまり変わらないくらいだ。だけど、ごつい感じはないどころかほっそりとした身体つきをしている。
そして、服がとにかく黒い。上から下まで黒一色だ。黒の組織に所属していると言われても信じちゃうレベル。
俺が言うのもなんだけど、垢抜けていない感じの女子だ。顔は綺麗系なのに勿体ない。服装一つで化けそうなんだけどなぁ。
「そっちの子は初めましてだよね。俺は会田祐二。会田先輩でも祐二様でも、好きな呼び方でいいからね」
「あっはい……。じゃあ、会田先輩で……。私は
「俺が先輩みたいだし、菜緒ちゃんって呼ぶね。今日はよろしく菜緒ちゃん」
「こ、こちらこそ……よ、よろしくお願いします……っ」
俺が笑顔であいさつをすると、ぺこぺこと頭を下げる菜緒ちゃん。見た目はクール系なのに、こうも低姿勢だとやりやすい。ご主人様としての本能が刺激されてる感じがするね。
「ゆ、祐二……」
「なんだよ井出?」
「祐二って……こんなにチャラかったっけ?」
「普通にあいさつしただけだっての」
人を宇宙人みたいな目で見るんじゃありません。そこまでおかしくはなかっただろ。
「会田先輩って面白いですよね。選択肢が祐二様って……まゆが呼んじゃってもいいんですか?」
真有ちゃんが俺を見上げて笑う。上目遣いの眼差しが小悪魔チックだ。
「むしろご主人様って呼んじゃってもいいぞ。そしたら真有ちゃんを俺のメイドにしてやろう」
「あはっ。メイドさんって良いですね。まゆ、会田先輩の言うことなら聞いちゃいますよ」
俺と真有ちゃんは笑い合う。こんな冗談にもさらりと乗っかってくれるところが真有ちゃんと話しやすいところなんだよな。
「ゆ、祐二ーーっ」
「ん?」
井出が小声で叫ぶ。どうした? 顔が青いぞ。女子に反応して腹でも壊したか?
「祐二は僕のために女の子とデートの約束をしてくれたんだよね? 僕を引き立て役にするためじゃないんだよね? 本当に信じてもいいんだよね?」
井出は涙目だった。美少女の涙目は可愛いのに、ダメ男の涙目はただただ情けない印象しかない。
だがしかし、なぜか真有ちゃんはこういう男がいいのだ。井出は気づいていないが、その情けない顔を見た真有ちゃんの目がキラキラしてんだよなぁ。
「わかってるって。俺がこのメンバーで橋渡ししてやれるのは真有ちゃんだからな。井出も、狙いは真有ちゃんでいいか? 実は菜緒ちゃんの方が気に入ったとかないか?」
「いや、友達の子はちょっと気後れしちゃうな。それに僕は小さい女の子が好きなんだ。小柄な女子の方が、僕の思い通りになってくれそうじゃないか」
うん、このクズ♪
井出は眼鏡を光らせながら言い切った。安定のゲスっぷりに安心させられる。
「わかった。できるだけ真有ちゃんに近づけてやるよ。サポートしてやるんだから、井出もがんばれよ」
「お、おう! ありがとう祐二。持つべきものは優しい親友だよね」
「誰が親友だ」
「酷いっ。そこは否定しなくてもいいじゃないか……」
そんなわけで本日、俺と井出は下級生美少女達とデートするのであった。
※ ※ ※
俺達がデート場所に決めたのは遊園地だった。
某ネズミの国の遊園地みたいな大きい規模ではない。だけど、遊園地で定番の乗り物は一通り揃っている程度にはちゃんと遊園地していた。
大きすぎず小さすぎず。しかも学生のお財布に優しいときたものだ。俺達のような一般人が選ぶデートスポットとしてはベストではなくとも、ベターであろう。
「わぁっ! まゆ遊園地なんて久しぶりですよ」
「ま、待ってよ真有……っ」
真有ちゃんは見た目通り子供らしくジェットコースターへ突撃した。それを菜緒ちゃんが追いかけて、追いついて止めていた。菜緒ちゃん足速いな。
見たまんまのデコボココンビって感じだ。菜緒ちゃんはけっこう苦労人なのかもしれない。なんとなく合掌した。
「井出。乗り物は基本二人一組だ。意味はわかるな?」
「ももももも、もちろんさ!」
大丈夫かこいつ? 遊園地に到着した途端、意識したのかガチガチになっていた。
まあ真有ちゃんがチョロイ娘だとわかれば緊張も解けるだろう。なんたって二人の相性が良いってのを俺だけは知っているからな。
二人きりにさえしてしまえばどうとでもなるだろう。ふっ、恋のキューピッド作戦なんざ楽勝だぜ。
「さてさてさーて、まずは何に乗りたい? ここは女子の意見を優先するぞ」
「まゆはジェットコースターに乗りたいです!」
「あの……私も、真有と同じで……」
ビシッと、綺麗に肘を伸ばした挙手をする真有ちゃん。続いておずおずとした調子で菜緒ちゃんも手を挙げた。
真有ちゃんは真っ先にジェットコースターに向かっていたからわかるけど、菜緒ちゃんも同意見なのは意外だった。
真有ちゃんを止めていたし、大人しそうな態度から絶叫物は苦手なのかと思った。まあ友達に合わせただけという可能性もあるが。
「わかったわかった。可愛い女の子の意見は無下にできないよな」
「か、可愛いっ……」
「……いい」
俺はさりげなく真有ちゃんと菜緒ちゃんの間に割り込んだ。それから井出にアイコンタクトを送る。
「くっ、祐二め……っ。女子に挟まれていい気になりやがってっ!」
悔しがって睨んでんじゃねえよ! 早く真有ちゃんの隣を歩けってんだ。
何度かアイコンタクトを繰り返して、ようやく俺の意図に気づいた井出が真有ちゃんの横を歩く。まずは女子グループを固まらせないことに成功っと。
男女二人一組にするためにも、真有ちゃんと菜緒ちゃんをいっしょにさせるわけにはいかない。俺だって井出とペアになるのはご免だしな。
ジェットコースターは少し並んだものの、すぐに乗ることができた。長蛇の列を作らない遊園地っていいよな。
全国に数あるジェットコースターの中でも、これはかなり優しめのものだろう。イチャイチャできる余裕くらいはあるはずだ。
ジェットコースターは一列に二人ずつ乗れる。俺は井出にアイコンタクトを送った。
「菜緒ちゃん、俺といっしょに乗ろうか」
「え、あの、その……は、はい……。よ、よろしくお願いします……会田、先輩……」
クール系美少女後輩を誘う。初心な反応に、うちのメイドにも学ばせてやりたいと思った。
「ままままままま真有ちゃん……っ。ぼ、僕が隣でもいいかな?」
「はい。よろしくお願いします井出先輩」
真有ちゃんに笑顔でよろしくされて、井出は天国へ行ってしまいそうな顔になった。早すぎるっての。
ジェットコースターに乗ると、安全バーが下ろされる。それからゆっくり発進した。
「……」
隣から緊張した気配が伝わってくる。菜緒ちゃんは安全バーを両手で握って衝撃に備えている感じだった。
怖いのだろうか? 表情が乏しいから感情が読めない。そうしているうちにも、ジェットコースターは空に向かって上がっていく。
「きゃ──」
そして、俺達は一気に急降下していくのであった。
お読みいただきありがとうございます!
小説家になろうでも連載している作品がありますので、よければ応援よろしくおねがいします↓↓↓
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
https://ncode.syosetu.com/n7113jy/