広い室内に大きなベッドがどでーんと鎮座している。思ったよりも綺麗な部屋なんだな、というのが俺の感想だった。
「ここが、ラブホテルなんですね……」
真有ちゃんが息を漏らすように呟いた。彼女の表情から緊張していることが読み取れる。
そう、俺達はラブホテルに訪れていた。何気に来たのは初めてだったりする。彩音とだって来たことなかったのにっ。
「へ、へぇー……。ま、まあこんなもんなんじゃない?」
「…………」
井出は平静を保とうとしながらも緊張しているのを隠し切れてはいなかった。菜緒ちゃんに至っては顔を真っ赤にして固まっている。
俺達、というのは四人全員だ。本当は井出と真有ちゃんだけを中に閉じ込めてしまいたかったが、そう上手くはいかなかったのだ。
※ ※ ※
遊園地で遊んだ俺達はすっかり仲を深めていた。
いろんなアトラクションを楽しんで良い感じに疲労が溜まってきた頃。俺はみんなに休憩を提案した。
「そういえば遊園地の近くにホテルがあったよね。そこでゆっくり休みながらおしゃべりでもしようよ」
ホテルはホテルでも、ラブホテルである。高校生とはいえ、この場の全員がそのことをわかっていた。
「この近くって……それ、ラブホテルじゃなかったでしたっけ?」
愛想笑いを浮かべながら尋ねるのは真有ちゃんだった。声から警戒を表していた。
が、その警戒をあえて無視する。
「そうだよ」
俺はあっさりと肯定する。それから当然のように続けた。
「あれ、知らないの? ラブホテルって友達が集まっておしゃべりする空間として人気なんだよ。パーティールームがあってみんなで入れるところがあるし。俺が読んだ漫画でも年頃の男女が平気で入って遊んでたりするから」
「そ、そうなんですか?」
「あ、知ってますその漫画! ヒロインが超絶可愛いラブコメですよね!」
食いついてきたのは菜緒ちゃんの方だった。引っ込み思案な彼女がどこかへと吹っ飛ばされたみたいに、新たな一面を見せてきた。
「そ、そうなの菜緒?」
「うん! アニメ化決定した人気のラブコメ漫画なの! 真有ちゃんにも貸してあげるね。本っ当におすすめだから!」
菜緒ちゃんが勝手に真有ちゃんを引き込んでくれていた。菜緒ちゃんがこの日一番の輝きを見せていた。うん、めちゃくちゃ良い顔してるっ!
「ほら、菜緒ちゃんが言うようにけっこう普通なんだって。それとも真有ちゃんはエッチなことでも考えていたのかな?」
「そ、そんな……まゆはエッチじゃないですよ!」
「だよね。真有ちゃんは大人だからラブホテルくらい余裕だよね」
「もちろんです! 余裕中の余裕ですよ!」
てな感じで、女子二人は行く気になったのだった。
「え、い、いきなりラブホテル……?」
この流れに置いてけぼりだったのは井出だった。
俺は井出にアイコンタクトを送った。混乱状態の井出には効果がなかった。やれやれ、チャンスを掴むにはスピードが命だぜ?
そんなこんなで強引に流れを作り、後輩女子ズをラブホテルへと連れ込んだのであった。
※ ※ ※
さて、ラブホテルに入ってそこで終わりじゃない。もちろん本番はこれからだ。
「たくさん遊んだから汗かいたでしょ? 女子からシャワーを浴びてくればいいよ。俺達は後でいいからさ」
「え、シャワーですか? それはちょっと……」
「何言ってるの。ホテルに来たらシャワーくらい浴びるでしょうよ。それとも真有ちゃんはホテルに来ただけでいかがわしいことを考えちゃう女の子なのかな? それともシャワーって単語だけでエッチな気分になっちゃうとか?」
「そ、そんなことないですよ! シャワーくらい余裕です!」
真有ちゃんは声を張って否定する。この娘けっこう扱いやすいよね。
「ラ、ラブホテルのお風呂場ってすごいんだよね……漫画で見たことがあるんだ……」
菜緒ちゃんは声を震わせながらも好奇心が勝っているようだ。漫画のネタなら勢いでいろいろやってくれるかもしれないね。
「そ、そっか……ちょっと楽しみかも……」
友達にそう言われたら否定ばかりもしていられないだろう。真有ちゃんは小さく頷いた。
女子二人は緊張を表しながらも、乗り気になって素直に浴室へと向かった。けっこう流されてくれるもんだな。
「ゆ、祐二……女子がお、お風呂だってさ……。ふふふっ、これは何か間違いがあってもおかしくない展開だよね」
冷静になろうとして、欲望が漏れ出している井出だった。女子に壁を作っていた陰キャでは起こるはずのなかった状況に、妄想と現実がごっちゃになり始めているのかもしれない。
その妄想と現実の境界線とやらを、これからぶち壊してもらうんだけどな。
「よし、行くぞ井出」
「行くってどこへ?」
「そんなん風呂場に決まってるだろ」
「ぎょっ……!?」
井出が驚愕の面白顔を見せる。不覚にも笑わされそうになってしまった。
「ななななななななななな何を言っているんだ祐二ぃぃぃぃっ! 今、たった今二人ともお風呂に入ったばかりじゃないか!」
「そうだな」
「いや、そうだなじゃなくて──」
「井出」
興奮する井出を手で制する。だが落ち着かせてはいけない。
「お前は今日、一体何しに来たんだ?」
「え? そ、それは女の子と遊ぶために……」
「違うな。間違っているぞ井出」
俺はピシャリと言い放つ。今の俺からは強者のオーラが滲み出ているに違いなかった。
「女の子と遊ぶのは手段だ。今日の目的は可愛い女の子と良い関係になって──」
俺は拳を作り、ドンと井出の胸を叩く。
「──自分のモノにするためだろうが」
井出はしばらく呆然としていた。だが、徐々に熱が身体中に広がったみたいに戦う男の顔になっていった。
「そっか。そっかぁ……。い、いいんだよね祐二?」
「知ってるか井出? リア充はノリで初体験を経験しているらしいぞ」
情報源は不明である。メイドがいなかった頃の俺の偏見だ。
だが、今の井出には正しい情報と認識されたらしい。完全にやる気になったようだ。目がマジで怖いからな。
「そうか……なら、僕達もノリで初体験を済ませたっていいわけだよね……」
「だな」
俺は童貞じゃないけどな。まあ井出もそうなんだが、記憶がないし合わせてやろう。
「わかった。行こう祐二。これは、僕達が大人になるための戦いだ。……いや、聖戦だ!」
「おう」
井出はキリッとした顔で一歩を踏み出した。自分を格好良いと思っている奴の顔だった。
だけど、ちょっと格好良い感じにすれば許される話じゃないからな。まあせっかくやる気になったんだからツッコミはしないけども。
俺と井出は脱衣所に入った。ちょうどシャワーを浴びているらしく、こっちの小さな物音は聞こえていないようだ。
「おおっ。見てよ祐二っ。あれブラジャーだよ! こっちはパ、パンツ……。す、すごい……」
この時点で鼻血出して倒れそうなほどの興奮っぷりである。ここで倒れても介抱してやらないからな。
「そんなのいいから早く服を脱げ。油断している今がチャンスなんだからよ」
「ぬ、脱ぐのか……。な、なんか恥ずかしいな……」
ちょーっとだけ殴りたくなった。ここまで来て恥じらうなよ気持ち悪い。
俺は無言で服を脱いだ。それを見た井出が慌てて俺に続く。
「祐二……もう勃起しているんだね」
「じろじろ見んなよ」
俺のチンポは天を向いて屹立していた。井出は半勃起といったところだ。
「な、なんか祐二のでかくないか? 勃起しているったって……えー?」
「そうか? 普通だろ」
「それに前は腹筋割れてなかったよね?」
「男性ホルモンが活発になると腹筋くらい割れるだろ」
「……なんか祐二の身体を見たら自信失くすなぁ」
「そんなんいいから早く行くぞ」
井出に任せると浴室のドアを開けるのに時間がかかりそうだ。俺は先陣切ってドアに手をかけた。
「ひえっ!? あ、会田先輩!?」
「え……?」
勢い良くドアを開けた。音に反応して裸の真有ちゃんと菜緒ちゃんがこっちを向いた。
ほうほう……。二人共なかなか良いじゃないか。
髪を下ろした真有ちゃんは思ったよりも大人っぽかった。身体のラインはなだらかなのに、そこには色気が漂っていた。マスコット的存在の後輩がこんな色っぽい一面があるとは驚きだ。
対する菜緒ちゃんは驚きすぎて目を真ん丸に見開いているせいか、見た目よりも少し子供っぽく感じた。だが元が背の高い綺麗系というのもあって裸体をさらしていても美しさがあった。まあ胸はこれからの成長に期待ってことで。
突然の裸の男の乱入に、二人は完全にフリーズしてしまっていた。
そのチャンスを見逃す俺ではなかった。
「俺もいっしょに入れてー♪」
無邪気な男の子を装って後輩美少女に突撃した。勃起チンポをブルンブルンさせながら真有ちゃんと菜緒ちゃんに迫る。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
絹を裂いたような悲鳴が浴室に響いた。なんだか事件が起こったように聞こえるよね。
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