「俺は……ついてるのか?」
貼り出されたクラス表を見ていると自分の名前を見つけた。C組だった。
ついてると思ったのは女子の名前のところに藤咲彩音とあったことだ。二年連続で同じクラスになったということだった。
「おー、祐二。またいっしょのクラスだな」
「ん?」
声をかけられた方を向くと、眼鏡男子が立っていた。俺が言うのもなんだが、おしゃれ感のまったくしない男だ。絶対女子にモテないタイプだった。
「今僕のこと悪く考えてたか?」
「いや? 何でだよ」
「なんとなくそんな雰囲気を感じたんだが、まあいいや」
雰囲気を感じたって何だよ。怖いじゃんかよ。エスパーですか。
こいつは
井出とは高校からだが、出席番号が近かったこともあり、わりと話す機会が多かった。気が合ったので自然と仲良くなったのだ。
クラス表にもう一度目を向ける。出席番号一番の俺の名前のすぐ下に井出の名前が確かにあった。
「あ、本当だ」
「何だよ。まだ自分の名前見つけてなかっただけか」
見つけてたけどすぐに彩音の名前を探して井出に気づかなかった、とは空気の読める俺は言わない。自分の名前のすぐ下にあったのを気づかなかったなんて知ったら井出が可哀想だろう。俺って友達思いだな。
「ならこれも教えてやろう。なんと! 僕たちと同じクラスにあの藤咲彩音さんの名前があったんだぜ!」
「そ、そうなんだ」
どや顔をする井出には悪いが、もう知ってる情報である。
「ああっ、二年連続で同じクラスなんて運命を感じるよ……」
うっとりしちゃってまあ。俺も彩音をメイドにしてなかったらこんな反応だったんだろうけども。
「じゃあ俺とお前も運命か」
「おいおいキモいこと言うなよな」
こいつにキモいとか言われたくないんだけど。悔しいのでグーチョップを喰らわせてやった。
※ ※ ※
井出と教室でだべっていると、彩音が教室に入ってきた。身だしなみはしっかりと直されている。
こちらからあいさつする気はなかったのに、軽い調子で手を挙げてしまう。彩音は迷いながらもぺこりと頭を下げた。
「うわあ。ふ、藤咲さんが、あれってあいさつかな? 今の僕の方を向いてたよね?」
井出が顔を赤くしてはしゃいでいる。まるで好きなアイドルに握手したファンのような反応だ。
まあ、学内での彩音の扱いはこんなもんだ。まるでアイドル。たいていの男子は恐れ多くて藤咲彩音に話すことすら躊躇ってしまう。
俺もちょっと前まではこんな感じだったんだなぁ。今思うと感慨深い。
他の男子も彩音の登場でそわそわしている。仲の良い友達がいっしょのクラスだったのだろう。彩音は何人かの女子に囲まれた。
このクラスの誰もが知らない。学園のアイドルである藤咲彩音が俺に絶対服従のメイドだということをな。優越感でにやにやしてしまう。
「藤咲さんが来たからってにやにやしてたらキモいぞ」
だからお前にキモいとか言われたくないんだよ。
※ ※ ※
今日は始業式ぐらいしかとくにこれといったことはなかった。終わって放課後。俺はパソコン部の部室にいた。つまり所属している部活である。
「
「そう。あんまり人が立ち寄らない場所ってこの学校にあるか?」
部室内には俺と井出のみである。もちろん部員は他にもいるが、自由参加で全員集まることが少ないし、幽霊部員も多い。出席率は決して高くない部であるのだ。わざわざ始業式に出ようという熱心な部員はいない。
「そう言われてもなぁ。学園内の敷地って中等部もいっしょだから広いしね。不良っぽい不良もいないからそういう溜まり場もそうないんじゃないかな」
「そっかー」
こうなったら自分の足で探すしかないか。彩音とのスクールエロライフのために頑張るか。
「つーか、何で急にそんなこと聞くんだよ?」
ギクリ。身体が震えた。
「いやまあ、俺ももっと学園全体のことわかってないといけないかなと思って。学園の敷地ってけっこう広いじゃん?」
「祐二。まさかお前……」
井出の目が細まる。ば、ばれたのか? 俺はビクビクしながら次の言葉を待った。
「一人ぼっちで飯食う場所探してるのか。大丈夫だ、友達なら僕がいる! だから便所飯なんて考えるなっ」
「は? いや……」
「もしクラスが違っていたとしても、僕は祐二のところに行っていっしょに飯を食うぞ!」
「……井出も俺しか友達がいないんだな」
「お互い様だろ?」
その通りだった。基本俺たちはコミュ障である。
こんなところで自分のスクールカーストの底辺具合を再確認してしまった。悲しい。
でもな、井出よ。俺とお前は確かに同じ位置にいるが、学園最上位。もうトップと言ってもいい藤咲彩音は俺に従順になるしかないメイドなんだぜ。
それを秘密にしながら、内心ほくそ笑むのであった。
「あー、あとこれ貸してやるよ」
「ん? こ、これはっ!?」
一つのDVDを手渡される。その内容はいわゆるアダルト的な物だった。
「祐二の好きなメイド物だ。最新作なんだぜ」
「おおっ。ありがたやありがたや」
彩音がいてもこういうのは別腹なのである。小躍りしながらDVDを受け取った。
「けっこう良かったよ。ほんとこういうメイド僕も欲しいよ」
「そだなー」
俺はすでに手に入れてるがな。
「あー! リアルでエッチしたいー。こうなったら可愛い女子のあられもない痴態を盗撮してそれをネタに脅して性奴隷に……!」
「AVの見すぎじゃね?」
「いいじゃないか。僕たちみたいなのは風俗にでも行かないと下手したら一生童貞だよ? それでもいいのかよ!」
ごめんな。俺もう童貞卒業してんだよ。しかも相手はあの藤咲彩音。なーんて言ったらこいつどんな反応すんだろうな。
あー、言いたい。誰かに言ってこの優越感を思う存分満たしたい。
しかし、いくら井出だとしても綱渡りすぎる。もし情報が広まれば俺の人生が詰みかねない。
なんという葛藤か。心の中で頭を抱えて振りまくる。
思考の渦に飲み込まれそうになっていると、いつの間にか井出が真面目な顔をしていた。
「なあ、ぶっちゃけた話。男の性欲は十代が一番強いんだぜ。そんな貴重な日々をオナニーだけで発散するのはどうなんだよ。死んでいく精子だって浮かばれないよ」
もっともらしいこと(?)を言いだした。とりあえず相槌を打っておく。
「だからさ、一発勝負するべきだと思うんだよ」
「勝負って? 可愛い女の子に告白しまくるのか?」
「バカだなぁ。そんなの僕たちが相手にされるわけないじゃないか。祐二だって藤咲さんに告白して身に染みてるだろ」
「う……」
それを突っ込まれると痛い。俺は口ごもってしまう。
井出は身を乗り出す。近い近い。
「だからさ、相手が断れないようにしてやるのさ」
「まさかお前……」
「くっくっくっ。着替えでもトイレでも女子の痴態を盗撮してやるのさ」
井出の目はマジだった。血走った目からはもう前しか見えていないようだった。これが犯罪者の目か。
彩音が俺のメイドでなかったらこの話に乗っていたかもしれない。それほどには井出の気持ちはわかるつもりだ。俺も元は同じ立場だったから。
だけど、今の俺には彩音がいる。こんなことで危ない橋は渡りたくはなかった。
「そ、そうか。まあ、がんばれよ」
しかし、止めるつもりもなかった。俺が危険じゃなければどうぞご勝手に、だ。
「なんだよ。祐二は手伝ってくれないのか」
「俺に盗撮とかの技術はないからな。それにやっぱりリスクは怖いよ。まあ、危険がないことなら手伝ってもいいけどよ」
「そうだな。無理強いはできないことだからな。何かあれば言うよ」
井出はあっさり引いてくれた。自分でも無茶をしようというのはわかっているのだろう。
「じゃっ、早速家で準備でもしようかな」
立ち上がって井出は言った。完全にやる気らしかった。
友達が犯罪行為に手を染めようとしている。だけど俺に止めるなんてできない。
だって俺も犯罪者みたいなもんだから。それくらいの自覚はある。だからこそ、こっそり細々とやっていきたいのだ。
まあ、でも。
「なら、俺は学内を探索するよ。よさそうな場所があったら連絡する」
「おおっ! ありがとう心の友よ!」
彩音とエッチする場所を探すついでならいいだろう。
俺たちは軽く拳をぶつけ合ってから別れた。向いている方角が違っていても、俺たちはともに性欲に支配されたオスなのだ。