私にとって会田祐二という男子はただのクラスメートだった。
彼はクラスで目立つこともなく、私も特別仲良くした覚えがなかった。同級生というだけで、あまり接点のないクラスの男子の一人だった。
それでも思い出してみれば、会田くんのことで印象深い出来事が一つだけある。
それは彼に告白されたこと。学校の屋上に呼び出されただけでも驚かされた。だって会田くんが自分から私に話しかけてきたこと自体初めてだったから。
「好きです、付き合ってください」
「ごめんなさい」
だからといって告白を受ける理由にはならなかった。他にも男子から告白されたことはあったし、その人達以上に私は会田くんを知らなかった。
「そっかー。じゃあしょうがないね」
ただ、彼の引き際の良すぎる態度に、内心で首をかしげたのはよく覚えている。
なぜなら今まで私に告白をしてきた男子はなかなか諦めてくれなかったから。「友達からでもいいから」とか「試しに一回遊びに行くだけでも」とか、しつこく接点を持とうとしていた。軽いノリでありながらも、そう言ってくる人全員目がギラついていた。
だからって、会田くんを特別意識したわけでもない。
そういう人もいるんだな。告白はされたけれど、あまり好かれてはいなかったんだな。その程度の感想しか抱かなかった。
実際に、それから彼と接点は生まれなかった。私も自分からかかわろうとはしなかった。
──会田くんとの関係が、あんなにも劇的に変わるだなんて思いもしなかったのだから。
※ ※ ※
お父さんが大変なことになって、家族がバラバラになった。
私は堂本という中年の男性にどこかへと連れて行かれて、何かが変わった。
「藤咲彩音さん。あなたの幸せはなんでしょうか?」
「はい。私の幸せは、ご主人様に誠心誠意ご奉仕することです」
「よろしい。よくわかってますな」
堂本さんが笑った。私は自分の答えに自信を持って頷く。
自分の何かが変わった自覚はあるけれど、それが何かと問われれば答えに窮してしまう。でも、その変化は心地よかった。
メイドとして、ご主人様に気に入っていただけるようにと技術を磨いた。これから私のご主人様になるであろう人に思いを馳せた。
「自己紹介は必要ではないと思うのだけれど……。藤咲彩音と申します。これから会田くん……いいえ、ご主人様のメイドとして精一杯お仕えしますね」
「お、おう。よろしくな……」
ついに、私のご主人様が決まった。
堂本さんに連れて来られた先にいたのは、同級生の会田くんだった。どうやら彼が私を買ってくれたようだ。
さらに幸運だったのは妹の琴音と再会できたことだった。私よりも先にメイドになっていたのは驚いたけれど、姉妹で同じご主人様にお仕えできるだなんて、これほど幸福なことはない。
まずは仕事を覚えて、一刻も早くご主人様にご奉仕させていただくこと。それが私の最初の目標だ。
※ ※ ※
「ご主人様が手を出してくれない……」
会田くんのメイドになった初日。
家を案内された時も、お風呂の時も、今まさに就寝という時間になっても、ご主人様は私に触れようともしなかった。
いつお声がかかるかとドキドキしていたのに、普通に日常的な生活を送るだけで一日が終わってしまった。しかも私に個室まで与えてくださるだなんて……。奴隷のような厳しい生活を覚悟するように教えられていたから、ご主人様の優しさに感動しすぎて頭が真っ白になってしまった。
じゃなくて! ご主人様の優しさは嬉しいけれど、私に手を出してくれなかったのは問題だ。
彼は私に告白したことがあった。すぐに諦めていたとはいえ、私を抱きたいと思うほどには好いてくれているのだと思っていた。でも、それは自意識過剰だったかもしれない。
「だったら、このまま待っているだけじゃいけないわよね」
自分が「学園のアイドル」と呼ばれているのを知っていた。だからすぐにエッチなことをしてくれるだなんて、我ながら思い上がったものだ。
メイドは自分から主にご奉仕しなければ。待っているだけだなんて、私は何を学んできたのだろう。メイド失格だ。
私は自分の部屋を出て、真っすぐご主人様の部屋へと向かった。
「はぁんっ! あっ、あっ、あっ、ああっ! 祐二様すごいよぉ!」
「え?」
思わず足を止める。予想していなかった事態に固まってしまったのだ。
微かに聞こえるのは、映像で何度も観た行為中であろういやらしい声だ。ドキリとさせられながらも、足音を立てないように気をつけながら声の方へと歩を進めた。
「おふ……いいぞ琴音。その調子だ……」
「あっ、あっ、あっ、あんんっ! オチンチンが熱くて硬くて……あたしの内側がゴリゴリって削られちゃうっ」
ご主人様の部屋の前に辿り着くと、声の主はこの中にいるのだと主張していた。明らかな嬌声と、ベッドの軋む音まではっきりと聞こえてくる。
「こ、琴音……なの?」
この家にはご主人様と私、そして琴音しかいない。なら、今ご主人様の相手をしているのが琴音なのだろう。
初めて耳にする妹の声に動揺を隠せない。行為の生々しい音に、私の意識がいっぱいになる。
琴音もメイドとしてご主人様に仕えているのだ。私よりも先にエッチなご奉仕をしていても何も不思議じゃない。私の妹でも、メイドとしては先輩だ。
「でも、今日は私に譲ってくれてもいいじゃない……」
無意識に頬を膨らませてしまった。琴音に対して怒りを覚えるのはいつぶりだろうか?
でもこれは琴音が悪いのだ。私よりも先にご主人様にお仕えしているのだ。メイドとして、これまでご主人様にたくさん可愛がってもらっているはずだ。私の知らない間に、たくさんエッチしたはずなのだ。
妹とはいえ、先輩メイドと言うのなら、新人の私にお役目を譲ってくれてもいいはずだ。
そうじゃないと……ずるいじゃない!
「……琴音のバカ」
悪口がポロリと零れた。メイドになる前は、そんな風に思ったこともなかったのに……。
諦めて部屋に戻ろうと踵を返す。けれど、ひと際大きい嬌声に足を縫いつけられた。
ドア越しでも顔が熱くなる。今のが琴音の声だと、すぐには信じられなかった。
「……っ」
こくりと喉が動く。無意識のうちにドアに近づいていた。
ドアに耳を当てれば、琴音の嬌声がさらに大きく聞こえた。それどころかベッドの軋む音やご主人様の愉悦に満ちた声まで鼓膜を震わせる。
「す、すごい……これが本物の、セックス……」
初めて耳に入る音すべてが、私の身体に熱を灯していく。
熱に浮かされたせいで、いけないことだとわかっているのにドアを少しだけ開けてしまった。
好奇心の赴くまま、誘惑に抗えずにドアの隙間から室内を覗いた。
「いいぞ、琴音のマンコの締めつけは最高だ! 俺が射精するまでそのまま締めつけてろよ」
「はいぃ! 祐二様のオチンチンぎゅってしますっ。たくさん精液出してください! あたしの中で気持ち良くなってぇーーっ!」
幸いにも行為に夢中になっているようで、ご主人様と琴音は私が覗き見しているのを気づいていなかった。
「わぁ……。におい……とても濃い……」
ドアを開けたことにより、聴覚だけじゃなく嗅覚でもヤラシさを刺激してくる。セックスとはどういうものなのか。感覚の一つ一つから教え込まれているような気分になる。
室内が薄暗くて表情はわからない。でも、琴音が見たことのないほど喜びに満ちているのがわかった。
「こ、琴音……あんなにはしたない声を出して……」
口を手で覆う。思わず発してしまった声を漏らさないようにするためか、それとも緩んでしまった口元をはしたなく感じてしまったためか。
「そんなにも……ご主人様にご奉仕するのが嬉しいのね……」
どちらにせよ、琴音が羨ましいと思ったことに間違いはない。私もあんな風に淫らになりたいと求めていたのだ。
琴音が喘ぐ。ベッドが軋む。そして、ご主人様の気持ちよさそうな吐息が私の鼓膜を震わせ、胸を高鳴らせた。
「ん……あんっ……」
無意識に左手で自分の胸を揉みしだいていた。
右手はといえば、ショーツの下に潜り込ませて秘部を刺激していた。私は無意識に自慰行為にふけっていたのだ。
覗きをしながら自らを慰める。とてもいけないことで、とても惨めな行為だった。
胸を痛めながらも行為を止められない。乳首がピンと勃ち、膣奥から愛液が溢れ出てしまう。喘ぎ声を我慢するのが大変だった。
「んく……ふっ……ふんんっ……んくぅっ……!」
それでも、私はご主人様と琴音に見つかることもなく、二人の行為をオカズに果てたのだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
乱れた息を静かに整える。時間が経つにつれて、身体がとてつもなく火照っていたのだと気づく。汗ばんだ肌は廊下の空気ですら涼しく感じた。
なんてはしたない行為に及んでしまったのだろう。そう思うのに、いつか私もご主人様にああやって責めてもらえるのだと考えるだけで膣の奥底から愛液がじゅんと溢れてくる。ショーツはもうぐっしょりになっていた。
「いつか、じゃないわ。今日にでも……」
すでに日付は変わっている。また夜が来れば、今度こそご主人様のお相手をできるようにアピールするのだ。
「琴音、絶対に負けないわよ」
ご主人様と琴音のセックスを最後まで見届けてから、私はそっとドアを閉めた。
そして、私は心の中だけで妹に宣戦布告するのであった。