とても良い夢を見られた気がする。良い夢だったのは間違いないのに、内容を覚えていないのが悔やまれる。まあ夢ってのはそういうもんだろうけれども。
ゆっさゆっさと身体を揺らされる。目を開ければ息が止まるほど整った美貌が視界いっぱいに広がっていた。
「おはようございますご主人様」
「ふおっ!?」
朝、学園のアイドルに起こされて一瞬で覚醒した。くわって効果音つきで目が開いたね。
でも男子諸君は理解できるはずだ。目の前に絶世の美少女がいたら眠ってなんかいられない。脳内メモリーに焼き付けるためにガン見するに決まっている。
最近童貞を卒業してエロエロ生活を送っている俺でさえ余裕を保っていられないのだ。もし俺が経験値ゼロだったら、興奮しすぎて心臓麻痺を起こしていたかもしれないな。琴音は俺の命の恩人である。
「ご主人様? じっと見つめて……私の顔に何かついていますか?」
「はっ!? い、いやなんでもないっ!」
いやいや見惚れてる場合じゃないな。彩音に怪訝な顔されちゃったよ。
目をパチパチと瞬きして、やっと状況を整理できた。いや、思い出した。
そう、俺は藤咲彩音を買ったのだ。しかも絶対服従のメイドとしてな!
だから彩音はメイド服姿で俺を起こしてくれたし、甘い声で「ご主人様」なんて呼んでくれちゃったりもする。くれちゃったりするのだ!
これは妄想ではない。紛れもなく現実だ。よしよし、彩音をメイドにしたことが夢じゃなかったことに感謝しようじゃないか。
「祐二様ぁー。朝ですよ──」
なぜか小声で俺の部屋に入ってきた琴音。彼女は起床済みの俺と姉の姿を目にして、驚愕の表情を見せてくれた。ゆっくり表情が変わっていくのって面白いな。
そういえば琴音を抱き枕にしていたはずなのに、俺を起こさないように抜け出したのか。メイド服を着ているし、着替えるために部屋に戻っていたのだろう。
「な、な、な、な、なななな、なんでお姉ちゃんがいるの!?」
「ご主人様に朝のご奉仕をと思って」
「なぁっ!?」
琴音の反応が面白すぎる。表情に加えて、声の抑揚や身振り手振りでも感情を伝えてくる。
「祐二様も何笑っているんですか! 今お姉ちゃんが言ったことちゃんと聞いてました? 笑いごとじゃないんですよ!」
なぜか俺が怒られる事態に。俺ご主人様だよ?
話くらいちゃんと聞いてたってば。さっき彩音が言ったことだろ? えーと、ご主人様に朝のご奉仕をって……。
自分で声に出して、ようやく言葉が起きたばかりの脳に沁み込んだ。
「なぁっ!?」
喉から変な声が出た。琴音は大きく頷き、彩音はきょとんと首をかしげていた。
「え、あれ? 俺まだ寝惚けてんのかな? 彩音は俺を起こしに来てくれただけだよな?」
「あわよくば朝のご奉仕もできたらと思っています」
「あ、朝のご奉仕って……具体的にはどんなこと考えてたの?」
「そうですね。男子は朝に勃起すると聞いたことがありますので、まずはフェラチオで気持ち良く目を覚ましていただけたらと考えていました」
「……」
何それ超してほしい! 本気でやってほしすぎて、真顔になったのが自分でもわかるね。
「お姉ちゃん? どこでそんな知識を覚えたの?」
「あら、私だっていつまでも無知じゃないのよ。琴音がエッチなサイトを見ていたのを知っているんだから。勉強する方法なんて、いくらでもあるわ」
ドヤ! と胸を張る彩音だった。なんだろう、まともに会話したことなかったから知らなかったけど、学園のアイドルってこんなキャラだったのか? 接してみないと人はわからないってのは本当なんだな。
「え、え、え……エッチなサイトなんか見てないよ! 祐二様の前でいい加減なこと言わないでよ!」
琴音が顔を真っ赤にして吼えた。俺と二人きりの時では見られなかった、とてもレアな表情だった。
「なるほど。エッチな娘だとは思っていたが、琴音の情報源はネットだったのか」
「お願い祐二様! そんな生暖かい目であたしを見ないでっ。見ないでぇ!」
姉からまさかの暴露であった。俺は初めて一人っ子で良かったって思ったよ。
※ ※ ※
「藤咲さん今日も休みだって」
「ずっと無遅刻無欠席だったのに。何かあったのかな?」
「体調悪いのかも。お見舞いに行きたいよ」
「やめとけって。弱っている時に来られても迷惑だぞ」
「弱っている藤咲さんか……ごくり」
朝の教室。今日も今日とて藤咲彩音の話題で持ち切りだった。
ただ学校休んだだけでも話題の中心である。クラスメートの雰囲気に、冗談でも「彩音は俺の家でメイドやってるぜ」とは言えない。
彩音は荷物の整理整頓が終わってから学園に通うことになっている。環境が変わったし、心を整理する時間を与えるためにも少し間を置くようにと指示した。すべては俺の優しさである。
「なあ祐二。今日も藤咲さん休みなんだってさ。僕と祐二が同じクラスになったから嫌がられて休んでいるわけじゃないよね?」
「卑屈な妄想に俺を巻き込むのはやめろ」
自分のことでもないのに、井出がおろおろしていた。気持ち悪がられるよりも存在を認識されてないって方があり得そうだ。うん、だから安心しろ。
まあ井出くらいクラスの底辺でも気にしてしまうほどに藤咲彩音の存在はでかい。みんなもせっかく彩音と同じクラスになれて期待してたってのに、本人がいないんじゃあ期待が裏返って不安が大きくなっているって感じだ。
その学園のアイドルの状況を正しく知っているのが、クラスで井出と並ぶ底辺の俺だけってのがおかしくて仕方がない。
「まあ季節の変わり目だし、体調悪くなることもあるだろうよ。女子はいろいろと気遣うことが多いだろうしな」
「そ、そうだよね。女の子は大変だもんね」
井出は自分を安心させるように大きく頷いた。よからぬことを妄想しているって顔してんぞ。まあ男子の妄想なんて大抵よからぬもんだろうけどな。
教室の落ち着かない空気が少しずつ膨らんでいるように感じる。この調子で膨らみ続けて、いざ彩音が来たらどうなるんだろうなと、楽しみになってきた。
※ ※ ※
「ただいまー」
「お帰りなさいませご主人様」
「うおっ!? あ、彩音か」
家に帰ると彩音に出迎えられた。というか待ち構えられてた?
俺のメイドとわかっていても、まだ学園のアイドルのメイド姿に慣れていない。玄関開けて、いきなり黒髪ロング巨乳美少女メイドがいたら誰だってびっくりするって。
「お疲れ様でした。鞄お持ちしますね」
「あ、ああ」
ねぎらいの言葉とともに鞄を受け取る彩音。メイドっぽいのか新妻っぽいのかわからなくなるな。なんか顔熱くなってきたし。変に意識してしまうではないかっ。
「俺着替えてくるから」
「はい、わかりました。琴音は部活で遅くなりますし、夕飯まで二人きりですね」
「え、あ、そ、そうだな」
ニコニコと笑顔を見せる彩音。何を考えているのか表情からは読み取れない。
い、いや普通に確認しただけだろ。なんか意識しているみたいで格好悪いぞ俺。
階段を上がって自室へと向かう。なぜか彩音もついて来ていた。
「あの、俺着替えるんだけど?」
「わかってます。ほら、私ご主人様の鞄を持っていますから」
「そ、そっか」
俺の荷物を持っているんだから、それを俺の部屋に届けるのは当たり前か。うん、おかしなところは何もない。何緊張してんだか。井出のこと「キモッ」って言えないじゃんか。
部屋に入る。鞄を部屋に置いて彩音が用事を済ませたので出ていく、こともなくニコニコしながら佇んでいた。
「えっと、何回も言うけど……俺着替えるぞ?」
「着替えのお手伝いはメイドの仕事のうちかと思いまして」
彩音は笑顔でそんなことを言った。それはもう惚れ惚れするほどの笑顔で、当たり前のようにはっきりと言ってのけた。
つまり、これって……ご奉仕させちゃっていいってことだよね?
「へぇ……。じゃ、じゃあ手伝ってもらっちゃおうかなぁ。着替えだけじゃなく、いろいろとさ」
むくむくと欲望が頭をもたげる。股間もむくむくしてきた。
「もちろんです。だって私は、祐二様に絶対服従のメイドなんですから」
彩音はドキッとするほど妖艶な表情で、俺の膨らみかけた股間を凝視しながら言った。
絶対服従の美少女メイドがいれば、ご主人様のやることなんて決まってるよな?
彩音が作り出したエロい雰囲気に、俺の股間は綺麗なテントを張ったのだった。