どっちかと言えば二人自身にフォーカスしたお話。直接暴力を受ける描写は無いけど、虐待があった過去とか傷の描写に注意。
──アルカは所謂両メカクレである。
前髪に隠れて、普段は目が良く見えない。
一方の彼女は髪の隙間から視界を確保しているらしく、全く困った事が無いらしい。
そもそもこちらの人間よりも五感が優れ、身体能力に長けたヒャッキの民なのだから当然なのであるが。
目がダメなら耳で、耳がダメなら鼻で、それもダメなら第六感で感知を行うような連中で、アルカも端くれとはいえその一人なのである。
さて、これはこれで表情豊かな口元や、普段は青白い頬の色の変化で表情が分かるので可愛らしくはある。
しかし、前髪の下の可愛らしいルビーの真ん丸な目がなかなか見られないのは、メグルにとって不満ではあった。
一方、彼女が髪の下をなかなか見せない理由も分かるし、知っている。
──虐待痕の1つが、額に大きく刻まれているのだ。
過去に叔父から受けていた暴力で、額をパックリと割ってしまったことがあるらしい。それ以来、傷跡が残ってしまっており、本人もそれを見せたくないのか隠しているのである。
何度も憤り、その叔父が生きているなら殺してやろうとも思ったが、既にもうこの世にはいないと聞き、メグルは怒りのやり場を何処にもやっていけなくなってしまったのを今でも覚えている。
結局の所、深く深く傷となって刻まれてはいるが、もう過去は過去でしかない。
二人にもどうすることもできない。
どうせ消せないならば、アルカは上書きすることを選んだ。
かつては酒に走ってしまったり、無理矢理押し隠して殺していた記憶。
過去の酷い暴力の記憶を、大好きな恋人に愛してもらう事で和らげてもらうことにしたのである。
「それでさー。アカデミーの制服って、布地が薄いから落ち着かないんだよね。かと言って着込むと、おっぱいがキツい」
「……」
「今、まあだろうな、って思ったでしょ」
「すげーなよく分かったな」
「だってずっと揉んでるじゃん。ボクじゃなくておっぱいが好きなんでしょ、スケベ」
「アルカのおっぱいが好きなんだよ」
「ふぅーん……」
チョロい。正直面倒くさいところも多々にある彼女だが、望む言葉を言ってやるとすぐにこうして悦ぶのだった。
彼女の望む言葉も何も本心であるのも事実。
「でさ、パルデアは日差しがきつくてきつくて……日焼けしちゃうし長袖着るしかないんだけど暑いんだよ」
「かと言って隠さないとお前の肌、すぐに真っ赤に腫れちまうもんな」
「そーなんだよー……」
アルカの肌は青白い。
ヒャッキは長らくまともに太陽が当たらない環境が続いたからか、民全員がこのような肌色をしているのである。
普通の人が見れば病気ではないか、と疑うほどに青白い。
彼女の言う通り、日差しにはあまり強くなく、すぐに真っ赤になってしまうのだ。
かと言って着込むと暑い上に蒸れてしまうのが難点であった。
しかし──それでも袖が短い服を彼女は着たがらない。
「──後、傷も隠したいしね」
──虐待の痕は、背中から腕にかけて広がっている。
暴力の痕の数々。蹴られたり、切られたり、焼かれた痕跡が今も残っている。
彼女の繊細な青白い背中は、既にボロボロになっている。
カブトプスがまだカブトだった頃、無意識に背中に背負っていたのは、背中を本能的に守ろうとしていたからだ。
前、そして彼女の秘所が守られていたのは、将来的には娼館に高く売り飛ばす算段だったからじゃないか、と彼女は明け透けに語る。その前に叔父は狂い、アルカは逃げ出すことになるのであるが。
(最悪だな……ヒャッキ……アルカがこっちに身を置いてくれて本当に良かった)
本来なら誰かと温泉に入るのも好きではないらしく、以前イッコンタウンの温泉でヒメノに乱入された際は内心本気で取り乱していたらしい。背中を隠すので精一杯だったようだ。
今でも、2人っきりの時にメグルが背中に立つと、びくりと肩を震わせるくらいなので、恐怖の記憶は筋金入りだ。その度にメグルは怖がらせたのを平謝りするのだった。
「でさー、今度から課外授業が始まるんだよね。ボクもジム巡りしようかなーって。ほら、パルデアって化石があんまり見つからないじゃん? だから、こっちを目標にしようと思うんだ」
「そうかそうか、お前ならチャンピオンまで行けるんじゃね? 強いし」
「ふふーん、トーゼンだよ。だってボク、トレーナーとしては君の先輩なんだもんね!」
借家で久々に二人っきりの時間を過ごす。
ソファに座るメグルの膝の上に、アルカが座り、背中を預けていた。
髪ごしに彼女のルビーの瞳が少しだけ見え隠れした。
抱き締めると、彼女の体温が伝ってきて心地いい。アルカも、懐いた子猫のように体をこすりつけて「んー♪」と甘えた声を出すのだった。
丁度、顔にサラサラの赤毛が当たる。シャンプーの匂いが漂ってくる。彼女は──何処をとっても魅力的で愛おしい。
そんな恋人を抱き寄せると、応えるように手を握り返してくる。この瞬間が一番幸せだった。
「……んー、どしたのー?」
「いや、好きだなーって」
「えへへー……ボクも」
「ふぃるふぃー……」
当然、面白くないのはそんな激甘空間に放り投げられているニンフィアであった。アルカの膝元で丸まっている彼女は、不満そうに鳴くとリボンでメグルの顔を叩く。
ここでおっぱじめたら一生恨むからな、と言わんばかりだった。
以前、突発的にアルカが発情した時、交合しているところをたまたまボールから出て出歩いていたニンフィアに目撃されてしまい、怒りのハイパーボイスで行為が中断されてしまったことを思い出す。
正直、彼女には本当に悪い事をしたとメグルは思っていた。ニンフィアが自分に重い重い好意を抱いてくれているのは主人としてよーく知っているからである。
「ごめん、ニンフィアも好きだよ」
「フィッキュルルルルィィィ!!」
「あーあ怒っちゃった」
「悪かったって! 叩くなって! 痛い痛い!」
「これじゃあボクが浮気相手で、君が正妻みたいじゃんかニンフィア。言っとくけど、メグルの彼女はボク! ボクなんだからねっ!」
「キュルルルル」
苛立ちを隠せない様子でニンフィアはアルカを睨み付ける。相も変わらずこの1人と1匹は仲が悪い。
相棒だから当然なのだが、未だにニンフィアはメグルを諦めていないようであった。
「それにダメだよ、叩いたりしたら。うっかり痕になったらどうするのさ」
「ふぃー……」
「ごめんな」
そう言ってメグルはアルカを膝から下ろし、ニンフィアを構ってやることにする。ブラッシングしてやると機嫌が治り、そして徐々に眠くなってきたのか欠伸をするのだった。
「……大人しくしてたら可愛いんだけどなあ」
「本当だ」
「フィ?」
「あ、いや、いつでも可愛いぞお前は」
「ふぃーあ♪ ……ふぃー……」
そのうち、くぅくぅ、と寝息が聞こえてくる。
そこでボールの中に戻し、ボックスの中に彼女を転送した。
「これで良し、と」
「すっかり扱いが手慣れてるね……」
「こうでもしないとあいつ、勝手にボールから出てくるからな……ったく、お前が居ない時とかべったり構ってんだぞ」
「ひょっとしてニンフィアと居る時の方が時間が長い?」
「そうなるな」
「ふーん……」
「……もしかしなくても妬いてる?」
「妬いてる。だって、メグルってニンフィアとの方が付き合い長いし。ボクの方が居られる時間が短いの、なんかヤだ」
君もアカデミーに入れば良かったのに、と彼女は愚痴る。
入ったところで同じクラスになれるかどうかは分からないのであるが。
再びアルカを膝の上に乗せると、ニンフィアの乱入で鬱憤が溜まっていたのか、彼女はべったりと身を寄せてきた。
「時間の長さ短さの問題じゃなくて、重要なのは中身だと思うけどな」
「……んー、じゃあ……する?」
振り向きざまの軽いキス。
うっとりとした顔でアルカは笑みを浮かべていた。
すっかり、性的な快楽の虜になってしまっており、彼女自身も期待が抑えられないようだった。
「……シたいです」
「……♪」
もう一度、キス。今度は舌を絡ませる。
すっかり癖になってしまっているのか、終わったころには二人とも酸欠気味だった。
※※※
──メグルの身体は傷だらけだ。
そうなるだけの激しい過酷な旅だったことをアルカは知っているし、間近で見てきた。
野生ポケモンに攻撃された傷、修練の途中で出来た傷、戦いの中で出来た傷、そして──中にはアルカを庇って出来た傷も無いわけではない。
鍛え上げられたことですっかり筋肉質になった体を愛おしそうにアルカは口づけしていく。
ごつごつとしていて、そこには無数の古傷が刻まれていた。
それを愛するようにアルカは口づけする。
すっかり彼は歴戦のトレーナーになっていた。
顔。胸、太腿。体のあちこちに口づけをしていく。
背中に虐待痕がある自分と比べても遜色ない程に、彼の身体は切り傷、擦り傷だらけだった。
「……カッコいいよ。素敵だよ……ちゅ」
「くすぐったいな……傷にキスされるの……」
傷を労わるようにアルカは傷跡に口づけしていく。何となくこそばゆかった。
すっかり二人とも服を脱ぐことに抵抗が無くなってしまっていた。
そんな矢先──思ってもみないことをアルカは言い出した。
「……君も、してみる?」
「え?」
「ボクの傷を……君の唇で上書きしてほしいって言ったら、ヘンかな?」
すい、と彼女は前髪をめくりあげた。
横一文字の大きな傷が刻まれていた。
ずきり、と胸が痛む。何度見ても慣れるものではない。
彼女にとっては忌むべき証なのだろう。
だがそれでも──
「君に口づけしてもらったなら、この呪いの傷も……祝福に変わるんじゃないか……って、ラブロマンスの読み過ぎかな」
「……変えてやるよ。全部。俺が刻みなおしてやる。この時間の記憶に」
「ん……」
──メグルは、額に口づけする。
額が捲れたことで、彼女の真ん丸なルビー色の瞳も露になった。
こうして見つめると、自分よりも年上なのに幼さが残るなあ、と感じる。
年齢が判別する前は道理で「おにーさん」と呼ばれていたわけである。
彼女の視点から見れば、成人に近い青年が年上に見えてもおかしくないのだろう。
それがとても愛おしいのであるが。
額の傷を労わるように、そして祝うように口づけする。
この忌まわしい過去の傷が、この幸せな時間に塗り替わることを祈って。
「ん、ん、くすぐったい……っ」
恥ずかしそうに言った彼女は──そのまま再びメグルと見つめ合う。
いつもは露にならない目を見られているからか、とても恥ずかしそうに一瞬目を逸らしてしまったが、すぐに無理矢理唇を奪われた。
唇に集中しながらも、くちゅくちゅと音を立てながら、手は互いの陰部を愛撫している。
蜜壺に指を入れると、既に粘りを纏った汁が溢れ出していた。
剛直を摩れば、既に先端からはカウパーが漏れ出している。
周期的な強烈な発情は訪れていないものの、それでも普通の人間並みの性欲はある。
長い長いキスが終わった頃には、すっかりアルカは蕩け切っていた。
「……ね、メグル。背中も……お願い」
普段は誰にも見せない傷だらけの背中を──彼女は曝け出す為にベッドにうつ伏せに倒れる。
覚悟はしていたが、言葉を失う。
壮絶、としか言いようがない。
抉ったような痕、焼き切ったような痕もあった。
だが、その一つ一つが愛された記憶に上書きできるように、と願って彼は口づけしていく。
肩甲骨から、細くくびれた腰を愛おしく撫でまわしながら、最後には柔らかく丸い尻に触れると彼女は甘い声を漏らす。
「んっ……そこは──ひゃっ」
蜂腰に手を回す。
既にいきり立った剛直が、彼女の丸尻を擦っていた。
強烈な発情は周期的なものらしく、今日の彼女は穏やかに「いいよ」とメグルのそれを受け入れた。
「あはぁっ、挿入ったぁ……後ろから入れるのって、なんか違う……」
「俺もだ……なんか、違う気がする」
「でも、これはこれでコーフンするよね……」
尻を持ち上げると、既に熟れ切った秘部が誘うように開いており、メグルは躊躇なくそこに剛直をねじ込んで見せる。
すぐさま甘い嬌声が部屋に響き渡る。ぱちゅ、ぱちゅ、と淫靡な水音も奏でながら腰と腰がぶつかり合った。
動物同士の交尾の姿勢ではあったが、二人は穏やかに互いの身体を求めあっていた。
「んっ……きもちー……」
「あ、うっ……」
後背位は初めてだったが、なかなかどうして本能がくすぐられる。
もしもこれがアルカの発情周期と一致していたなら大変なことになっていたかもしれない、とメグルは確信する。
メグルの方も盛り上がってきて、彼女の腰を持ち上げるなりガンガンと激しく突き上げていく。
アルカも艶っぽい声が増していく。
ぶるんぶるん、と揺れる大きな双丘を鷲摑みにすると、より膣中がしつこく絡んできた。
「ケダモノみてーに求め合うのも悪くねえけどさっ」
「あうっ……んっ……」
「こうやって、素のお前とエッチするのが一番落ち着く……」
「そうだね──ボクも、そう思う……」
指で、大きな乳首を弾くと、更に彼女は身をよじり、快楽から逃げ出そうとする。
綺麗なうなじに口づけをし、ベッドに彼女を押し込んだメグルは、精液を奥に送り込むべく、何度も何度も突く。
「出そう? そろそろ出ちゃう?」
「うん、ヤバいかも……」
「えへへ……元気な赤ちゃんの素、いっぱい出してね……とぷとぷって……出して……」
「ッ……お前、それ反則」
アルカの方も、それを求めるかのように尻をぐいぐいと押し付けた。
柔らかい感覚が下腹部に当たるだけで、より興奮と快楽が増していく。
慈しむように背中にキスをしてやると小さく悦ぶような声が聞こえてきて、子袋が嬉しそうに震えるのが分かった。
充足感に満ち足りていく中、二人は快楽を極まらせていく。
射精感が込み上げて、彼女の奥に──注ぎ込む。
「ひゃうっ、ああああううううっ」
「うぐうううううッ」
奥に流れ込む精液。その感触でアルカもまた一瞬遅れて大きな絶頂に至った。
がくがくと震える彼女を抱きかかえて、注ぎ込んでいく。
そして、押し出された柔らかいペニスを、緩くしごくと──まだ中に残っていたのか、彼女の背中を白濁が汚した。
それを見届けると、疲れからかメグルは愛しい彼女の隣に倒れ込んだ。
「ねえ……折角だし、発情モードの時の方が良かったと思わない?」
「毎回そうだったら俺死んじゃうから」
「あっははは……だよねぇ」
もう一度唇を重ねる。
互いの身体に触れあいながら、穏やかに時間を過ごした後──アルカは口を開いた。
「1つだけ傷で困ってることがあるんだよね」
「1つだけか?」
「いや、すっごく重要なの! こんなに僕、傷だらけだとウェディングドレスとか着れないなって思うんだ。あ、いや、結婚はまだ先だけどね!? ……でも、1回着てみたかったなって思うんだ」
照れくさそうに──しかし、努めて真面目に彼女は言った。
「結婚式なら白無垢もあるけど……やっぱそっちに憧れるのか」
「憧れる。ヒャッキには無いし。お姫様なんてガラじゃないけど、1回体験してみたかったよ」
そう彼女は語る。
そんな幸せの可能性の1つを奪った傷をつけた卑劣漢を、やはりメグルは許せそうにない。
「……でもさ、この1つ1つが君に愛してもらった記憶になるなら、悪くないってね。変かな?」
「ずぅっと……そう思ってもらえるように努力するよ」
「にしし。大好きだよっ」
嬉しそうにアルカは微笑みかける。
傷は──時に、思わぬ絆を繋ぎ、幸福を運ぶ時もあるらしい。