気怠い朝は──霹靂の如き報せによって砕け散る。
「ほぎゃーっ!!」
悲鳴が上がる。
すぐさまメグルの目は醒め、トイレに駆け込む。
そこには──わなわなと震える恋人の姿があった。
「お、おい、どうしたんだ!?」
「ふぃるふぃー!?」
振り返った彼女は、いつもよりも更に蒼褪めながら胸を隠す。
「おい、どうした。何があった……? いやにデカい声が出たじゃねえか」
「出たんだ」
「何だよ、ゴーストポケモンか何か──って」
彼女は腕を退ける。
家の中なので下着も付けずに白いシャツを着ていた彼女だったが──その胸の頂点部が水で濡れたように染みている。
「お前、それって……!?」
彼女のどたぷん、と大きな胸の上で主張する突起部分。
そこから分泌されている液体に違いなかった。メグルの中には一つの仮説が浮上する。
確かに避妊薬を飲んでいたとはいえ。確かにヒャッキの民とこっちの人間では子供が出来にくいとはいえ。幾ら何でも盛り過ぎただろうか──と。
「朝、おっぱいが張ってて……おかしいなあ、と思ってトイレで試しにぎゅってしてみたら……出ちゃってぇ……!!」
「まさか、とうとう──デキちまったのか!?」
「い、いや、ちょっと待って、検査薬使うから……!! でもおかしいんだ、だって……
それからしばらくして。念には念を押し、検査薬を使うも結果は陰性。子供は出来ていなかったようである。
ソファに座り、興味深そうに母乳を分泌する彼女の胸を眺めるニンフィア。
そんな彼女を他所に、メグルは部屋の隅に重ねられていた古っぽい書物を漁るのだった。
※※※
──事の始まりは先日の夕方に遡る。
「その本って……」
「ああ。サイゴクから送られてきたんだよ。テング団の拠点に放棄されてたみたいでさ、ヒャッキ地方の事とかが分かる資料だから回収されてたらしい」
「へーえ……で、それが何で此処に?」
メグルのアパートにいつものようにやってきたアルカは、目をぱちぱちと瞬かせながら、テーブルの上に置かれた古っぽい書物の数々に目を通した。
いずれも、アルカにとっては見慣れた字で書かれたもので、懐かしさすら覚える。
「字は似てるんだが、崩れてて中身が読めなくってな」
「むしろ似通ってるのが奇跡なくらいだよ。違う世界の書物なんだから。んで、これは医学書で……これは昔の
「ああ、どうやらベニ大学の本命は、そのポケモンの本らしい。勿論、お前がイヤじゃなければ……なんだけど、解読手伝ってくれないかってさ。他の本はオマケだ」
「いいよーっ!」
「良いのかよ!?」
「本に罪は無いからね。それに、またヒャッキの方からポケモンという名のトラブルがやってこないとは限らないでしょ?」
その日は夜通し、本の解読に明け暮れた。
そうこうしているうちに、もう日が出かけていた。メグルはニンフィアを抱き枕にし、アルカも彼の腕に抱き着いたまま眠りについたのだった。
……アルカの胸に異常が出たのは、その次の昼であった。
※※※
ソファに座りながらアルカとメグルは医学書を読み漁る。
「妊娠してねーのに母乳が出る項目……」
「あるのかなぁ……そんなの」
「こっちの人間にもホルモン異常で起こることがあるらしいけど、お前はヒャッキの人間だからな……先にそっちの原因を探さないと」
「うん……んうっ!?」
ちろちろ、とニンフィアがシャツ越しに彼女の乳頭を舐っていた。
恨めしそうに睨むと、悪戯っ子のような顔をリボン姫は浮かべてみせる。
「ニンフィアぁ……!? オモチャじゃないんだよ!?」
「ふぃるふぃー♪」
「おい、アルカ! 何か……それっぽいページがあったけど」
「え!? 本当!?」
──結論から言えば。
アルカを襲った母乳の原因は──発情期に伴うものだった。
ヒャッキの民の性質として、何度か発情期状態で性交すると、ホルモンが分泌され、身体が母体となる準備を整えるために妊娠していなくとも乳房が更に大きくなり、それにともなって母乳が分泌されるようになる──らしい。
これがこちらの人間ならば高プロラクチン血症を始めとした疾患を疑うべきなのだが、どうやら向こうの人間はそうではないらしい。
そもそもこちらの人類とは進化の歴史が若干異なる事、そして過酷なヒャッキの環境で進化したので生存本能もそれに伴う生理活動も強いのだ。
通年的に発情できるにも関わらず、
また、他のページを読み進めた所、ヒャッキの民は男も当然性欲が強く、発情期になると人によっては一週間近く盛りが収まらない場合もあるらしい。
テング団の連中もムラムラしながら戦ってたのかなとか考えると、妙にシュールに思えてしまうメグルであった。
さて、諸々のページを読み終えた後、思い当たる節はアルカにも十二分にあった。
(た、確かに最近またブラが合わなくなったって思ったけども……!)
「要するに本来なら発情期で確実に妊娠するはずなのに妊娠しなかったから……体だけ母体になる準備が進んでるってことか」
「母乳自体は周期的に起こるもので……3日くらいで収まって、半年くらいしたらまた分泌されるってのを繰り返すっぽい。セックスを控えたら収まるらしいけど」
「……」
「控えるか? これのために」
「無理」
即答であった。とはいえ、このままでは日常生活の中、ブラジャーが母乳で濡れてしまうなど不都合なことが起こりかねない。
「うーん、取り合えず毎朝搾るしかないよね……ネットで調べてみるかあ」
などと言ってスマホロトムを起動するアルカ。
しかし──それに対しメグルは一言。
「……勿体ない」
「……は?」
困惑を隠せない様子で、アルカは自らの胸を腕で隠す。母乳が出ているという事実だけでもかなり恥ずかしいのに、それを勿体ないと言ってのける彼氏の正気を疑う。
「ちょ、ちょっと何言ってんの。まさかおっぱいが欲しいとか言い出すんじゃないよね。赤ちゃんじゃないんだから……変態の所業だよ!? 死ぬ程恥ずかしんだよボク!?」
「男は皆変態だ!! 授乳プレイは人類の──夢だッ!!」
「決め顔で言う事じゃない!」
「ふぃるふぃー……」
力強くメグルは宣言する。これだけは言える。この世の普遍の事実であった。こんな事を堂々と宣言する相棒に、ニンフィアはジト目で睨む。
しかし、永遠の恋仇の胸が面白い事になっているのも事実。張って上向いた乳首をはむはむと口唇で刺激すると母乳が出てくるので、面白がってニンフィアは口を離さない。
「んっ、ぅ……ニンフィア! これは、君のおっぱいじゃないんだよ!」
「ふぃー♪」
「やれやれ困った奴だな……戻れニンフィア」
狂暴リボン姫をボックスにぶち込む。
以前よりも輪をかけて大きくなった胸と、白っぽい液体が染み出している乳頭。どうやら病気の心配はないらしいが──
「安心してアルカのおっぱいがうんと楽しめる」
「ねえメグル、隠さなくなったよね性癖を」
「今更隠す必要はねぇからな」
「それもそうだ……」
かく言うアルカも、様々な性癖をメグルにぶちまけてしまった後なので、彼の事は何も言えない。
「どの道搾らねえと色々支障が出る。溜まったら痛くなるんだっけか確か」
「むぐ……分かったよ。いっつもボクの欲求を沢山発散させて貰ってるし、今日はメグルの好きにしてもいーよ」