派手な見出しが目に入る。
“疑惑の御曹司貴族の息子 華麗なる一族の贅沢三昧生活に迫る”
“必見!罠師に聞く猫ログと猫又に聞く狩り日記”
ショーンが愛読する雑誌『週刊人狼』の今週のラインナップだ。発売日の朝に行きがけのコンビニで買い、店番中にブラックコーヒーを啜りながら読むのが毎週火曜日のささやかな楽しみである。
連載中の小説も読者投稿も一通り読み終わり、新聞の山に一緒に重ねようと椅子から立ち上がると、おもむろにエマが話しかけてきた。
「店長それ好きだよね、面白い?」
「うーん、エマにとってはどうだろ、おじさんが読むような記事ばかりだよ」自嘲する。目の前の少女は実際はショーンより遥かに歳上なのだが、彼は直ぐにそれを失念してしまう。
「読み終わったんだよね?私も読んでもいい?」
「勿論」
そのままエマに手渡す。その時手がうっかり触れて、エマは嬉しい気持ちを気取られないように何とかこらえた。
顔にやけてなかったかな?それにしても店長今日も素敵だなぁ、とぼんやり考えながらパラパラページを捲ると、真ん中辺りでふと指を止めた。(なんだ、店長はああ言ってたけどこんなのもあるじゃない)記事のタイトルは「イマドキの純愛が強かに勝つ為の愛する人へのアピール17パターン」思わず姿勢を正して読み出した。
“読者諸君は愛されてみたいだろうか?恐らく愛の証のピンクのハートなんて必要ないという方は一部の人外を除いてなかなかいないだろう。ここでは街角で実際に純愛や愛されたもて男達の生の声を集めて作った17の愛されテクを紹介していく。───”
食い入るように読んでいきあっという間に読み終わってしまった。これを店長に実践すればエマの恋心に気づいてくれるかも?と淡い期待に胸を弾ませる。しかしその瞬間気づいてしまった。あ、たった今店長もこの記事読んでたんだ
。店長が読み飛ばしてる可能性はなくもないが、エマが記事を参考にしてると気づかれたらこんなに恥ずかしいことは無い。
その時、カランカランと店のウェルカムベルが鳴り、ウィルが駆け込んで来た。
「おはようございます!」
「おはようウィル、ギリギリ間に合ったね」
店長が苦笑する。ウィルが時計を見ると、針は出勤時間の5分前を指していた。
「良かった、なんだ余裕で間に合ったな」
「ちょっと!まだまだ新人なんだから時間に余裕もって出勤してよ!」
エマはつい感情的になりぷりぷりと怒る。こいつはいつも何においてもだらしない。今日こそガツンと言ってやらないと。そしてハッとなった。
“パターン9、愛する人に感情的に大声で話す「本当に好きな人にはわざと挑発したり些細な事で怒ったりします、嫌われないように注意ですけどね」素直になれないAさん”
慌てて店長の方を見ると、特に何も気にしてない風に見えたが、刹那、目が合ってしまった。しまった、完全に墓穴を掘ってしまったと後悔する。
ウィルはいつもだったら売り言葉に買い言葉で喧嘩に発展するが、気をつけます、と素直に返す。そして昨日借りた漫画返しますね、と少女漫画を返した。あと、これも面白かったです、とアニメのDVDも手渡した。エマは青ざめた。
“パターン14 愛する人に恩を売る「始めは奢ってくれるとかだったんですよね、何かと世話してくれてて。あ、これは気があるなって笑」匿名希望さん”
店長はエマを一瞬ちらと見て、コーヒーと一緒に言葉を飲み込んだようだった。ああ、ダメだ、なんでよりによってこの馬鹿後輩はこんなにKYなんだ。とエマは恨めしげに睨む。
「あ、そうだ店長、今度の定休日、映画行きません?店長が観たいって言ってた洋画、予告編見てたら俺も見たくなっちゃって。偶然2人分チケット手に入ったんで」
「いやいやいやいや、エマと一緒に見たら?」店長はぶんぶんと頭を横に振り断るが、ウィルはえっ?店長あんなに見たがってたじゃないですか、見ましょうよと続ける。
“パターン1 愛する人をデートに誘う「説明要りませんよね?王道ですが殿方にも可愛らしい女性にも1番これが効果的です」純愛のMさん”
“パターン5 愛する人の話をよく覚える「これは俺もよくやってる事なんですけど、なんでも相手の言ったことを覚えておいてプレゼントしたり話題にするんですよ。周囲にも聞こえるようにアピールするのが肝です」匿名希望さん”
エマか店長の方を見てみると、店長はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干し「あ、おかわりついで来ようかな、君たちもいる?」と張り付いたような笑顔でいつになく早口で喋っている。……店長?なんで店長が慌てるんだろう。というか返事してあげなよ。
そんなこんなで開店時間が近づいてきた。花屋ETERNAL開店時間だ。
────2人とも可愛いな、とウィルは見えないように1人でついニヤける。この間街角インタビューを受け、純愛に愛されたことがあるか、だなんて聞かれたものだから、答えたついでに雑誌名と発売日を聞いていたのだ。店長がいつも読んでる雑誌だったので今日立ち読みしてたらうっかり遅刻しそうになってしまった。ウィルは口笛を吹きながら花屋としての表向きの仕事を適度に手を抜きながらルーチンを済ませていく。