ショーン、エマ、ウィルの3人は珍しくビルではなくソフィアに呼び出しされ、お屋敷の離れにある、こじんまりとした研究所に足を運んでいた。白い蛍光灯の光が、無機質な研究室を照らしている。室内には、巨大なモニターやコード類が入り乱れ、奥にカプセルがあるのが見える。。
「こんなところに研究室なんてあったんだな」
ウィルが腕を組みながら、退屈そうに壁にもたれかかる。
「ほんとそれー。というかいきなり私達になんの用事だろ?仕事終わりでもう帰りたいんだけど?」
エマは椅子に座り、スマホをいじりながらあくびをした。
「最近急に白い服の研究員が増えたりしてると思っていたら、こんなロボット開発のような、...ことしていたんだな。よく分からないが...」
ショーンが落ち着いた声で言う。
カツカツとヒールの音を立てソフィアが現れた。彼女は腕を組みながら、ニヤッと笑ってみせた。
「いやー、来てくれてありがと~♪実はあんた達に見せたいものがあるの」
エマがスマホから顔を上げ、「どうせつまんない恋バナかなんかでしょ」と興味なさげに呟く。
「んなわけないでしょ!これこれ!」
ソフィアが指を差した先——奥のカプセルの中に、猫耳を持つ人型のアンドロイドが眠っていた。
「……なんだこれ」
ウィルが目を細め、ショーンも珍しく驚いた顔をする。
「え、なにコレ。猫耳生えてる」エマが少し興味を持ち始めたようにしげしげと見つめる。
「この子はCatGPT。私が作らせたAIアンドロイド。これで次のmecha-1(メカワン)グランプリはいただきね!」
「週刊人狼の出版社がスポンサーをしてる大会か。え、じゃあソフィアちゃんが出場するのかな?」
「そゆこと!」ソフィアが得意げに胸を張る。
「というわけで、本戦で私が優勝するところ見に来てね~!」
「すっごい自信...」とエマが呆れる。
ショーンはカプセルの中のCatGPTをじっと見つめた。
その瞬間——
カプセルの内部がわずかに光を放ち、機械音が響く、
4人は一斉にカプセルを見つめる。
そして、CatGPTが——ゆっくりと、目を開いた。
会場には、さまざまな形のAIが並んでいた。人型のアンドロイド、球体のロボット、ただのモニターで会話するものまで、参加者は多種多様だ。
「さて、次のエントリーは——CatGPT!」
司会者の声が響くと、ステージの中央に立つCatGPTの姿がスクリーンに映し出された。
「ドキドキするね」
観客席からホットドッグを齧りながらエマがつぶやく。
「バクバク食いながら言っても説得力ないぞ」ウィルが腕を組みながらボヤく。
「まあまあ。あれだけ自信あるんだからなんとかなるでしょ」
ステージ上、CatGPTが軽くマイクを持ち上げる。
「どうもにゃん~!ニャーは生まれたてのAIアンドロイド・CatGPTだにゃん!よろしくにゃ〜ん」
観客の視線が集中する中、ソフィアが続けた。
「CatGPTは占いができるAIです!人間の仕草や話し方、表情を分析して、もっとも当たる占いを提供しちゃいます!」
会場がざわめく。
CatGPTが一歩前に出る。
「早速誰か試してみるにゃん?」
観客の中から一人の女性が手を挙げ、ステージに上がってきた。
「お願いします!」
CatGPTの丸くて大きい目がわずかに光り、彼女をスキャンする。
「あなたは……最近、大きな決断をしようとしているようにゃん?」
「えっ……!」
「ズバリ、迷ってるのは仕事に関してにゃんね?」
「……すごい!当たってる!」
観客がどよめく。
「そして、あなたの話し方や目の動きから判断するに、あなたはすでに答えを持ってるにゃ~。でも、勇気が出ないだけ……にゃ?」
「……!」
女性は息をのんだ。
「私は、転職しようと思っていたんです。でも、失敗が怖くて……」
CatGPTが微笑むように言う。
「あなたが本当にやりたいことなら、挑戦してみる価値はあるにゃ。グッドラック!にゃ〜」
女性は感動したように頷き、会場は拍手に包まれた。
観客席では、ウィルが驚いた顔をしている。
「おぉ、ちゃんと上手くいったな」
「まさかここまでやるとはね」ショーンが軽く笑う。
「これ、優勝あるんじゃない?」エマがワクワクした声で言った。
CatGPTのアピールタイムは終わり、満足気な表情を浮かべていたソフィアだったが、なんと予選敗退という結果になってしまった。
「うっそだろお前」
「流石に本選は行きなさいよね!?」
「うるさいうるさい!勝てると思ったんだもん!!」
ウィルとエマにからかわれながら、ソフィアは涙目でショーンの横の端の席に座る。
——次の出場者の名が呼ばれた。
「次のエントリーは……ヴィクター・エルンスト!」
会場の空気が変わる。誰もが知る名家の御曹司が、このコンテストに参加しているという事実に、ざわめきが広がった。
舞台に上がったのは、端正な顔立ちの青年。ヴィクター・エルンスト、18歳。名門エルンスト家の後継者。高価なスーツに身を包み、堂々とした態度でマイクを取った。
「ボクが紹介するのは、“エリシア”——」
ロディが合図を送ると、彼の隣に立つアンドロイドが動き出す。美しく整った金髪、気品あふれる佇まい——彼女は、まるで生きた人間のようだった。
「——お兄様」
客席ではショーンが戸惑いながら語る。
「エリシア・エルンスト...?いや、だが彼女は去年の暮れに自ら湖に身を投げたと記事で見たが......?」
「お兄様、なぜ……なぜ、こんなことを?」
エリシアの瞳がヴィクターを射抜く。
「ボクは……お前を取り戻したかったんだ。お前がいなくなって、毎日夜も眠れず——」
「お兄様、だからといって──」
「死ぬくらい私にも自由を下さったっていいではありませんか」
「絶対に!」ヴィクターが激しく叫ぶ。「お前と離れるなんて有り得ない」
「それは、お兄様のエゴでしょう!」
観客は息をのんで見守っていた。
「ボクは……」
ヴィクターの手が震える。
「ボクは……お前を救いたかったんだ……」
静寂。エリシアの瞳が揺れる。
「お兄様……」
彼女は、そっとヴィクターの頬に手を添えた。
「お兄様の気持ちは、嬉しい。でも……私達はいつかは離れる運命なのです。そうでしょう?」
ヴィクターの目に涙が滲む。
「……嫌だ」
エリシアは微笑んだ。
「お兄様が、前を向いて生きてくださるなら……私は、それでいいのです」
ヴィクターは静かに首を横に振って、エリシアに歩み寄ると、耳元で「自爆しろ」とはっきりと声に出した。その言葉に会場がざわつく。声紋認証が通り、エリシア本人も存在を知らなかった自爆装置が作動した───
爆発は規模自体は大したものでは無かったが、密接な距離にいた青年を吹き飛ばすには充分だった。
そして——この一件がきっかけとなり、コンテストの”倫理的な問題”が指摘された。
議論は続き、結果的にこのコンテストは解散という結末を迎えることになる。
花屋の玄関の掃き掃除をしながらウィルが苦笑する。
「まさかこんな展開になるとはな。...まあ、ヴェルナー家はお終いだろうな」
「貴族のドラ息子と言われ散々悪評があった彼だったが、最期は呆気なかったな。」
ショーンは週刊人狼を読みながら呟く。
「でもー、結局アイツ、あんだけ目立って周りに迷惑かけて、本望なんじゃないの?」
エマの問は、本人にしか答えの出ない問いだった——。