人間の健一と親切な僕っ娘上級淫魔アランの淫魔界珍道中 作:雑食性生物物部
「やあ、悪いけど相席させて貰ってるよ」
温泉旅館に行く列車の中で疲れて寝てた俺。目覚めると目の前に、見た事ないほど整ったイケメンが足を組みながら、俺の目の前で本を読んでいた。
「…あぁどうぞご自由に」
そう答えて身体を起こすと、窓の外を見た。真っ暗なトンネルの中を列車が走っている。
「今どの辺ですか」
本から目を離し、鋭くそれでいて透き通るような瞳で俺に目を向ける美青年。
「今さっき淫魔界下層の駅を過ぎた辺りだよ」
「…何ですって?」
冴えた耳ざわりの良い声で彼は応えたが、俺は首を傾げた。
「いんまかいかそう?これは温泉地に向かう列車じゃないんですか?」
「僕の言葉に嘘偽りは無いよ。君は間違いなく淫魔界の列車に乗っている」
青年の言葉に混乱してきた俺を見て、嘘だと思うなら見てみろ、と言わんばかりに青年は黙って窓の外を指さした。ちょうどトンネルを抜けた窓の外にはコウモリの羽を生やし、頭からは角を生やした女性たちが飛び交い、生活している風景が広がっている。
慌てて目を擦って青年の方をよく見ると、スーツ姿だが胸の膨らみが見え、帽子からは淫魔の角が生えている。
「じゃあ貴女も淫魔なのですか…?」
「そう。ご明察だよ坊や」
「しまった何処かで寝過ごしたんだ!」
その瞬間電車の乗客たち(一人残らず淫魔達)が、思わず立ち上がってしまった俺の方を一斉に見た。
「立つな…静かにしたまえ」
青年…ではなく男装した麗人は俺の裾を優しく引っ張り落ち着いて座らせた。
「あまり声を上げない方が良い。皆君を狙ってる」
「あぁ…すいません」
それに従って俺も軽く謝ると、麗人は本を閉じ横に置くと、手を組んだ。
「さて淫魔というのが分かってるなら、君は随分不味い状況だよ。今の君は飢えた肉食獣の所に裸で入ってるものだ。極めて君がラッキーだったのは乗ってる席の隣は空いてて真向かいに座るのが僕だった事かな」
辺りからクスクスと言う笑い声と舌舐めずりをする音が聞こえる。
「えっと…じゃあ貴女はこの人達の上司か何かですか?」
「近いな。僕は彼女達よりも上位種の淫魔だからね。位が高ければ手も出さないって訳さ。先に手を出さない限り」
「なるほど…」
「僕が君を襲わなかったのは気まぐれだがね」
ふっと彼女は微笑んだ。その綺麗な表情に俺は思わずドキッとし、誤魔化すように言った。
「ありがとうございます…。えっと間違って乗ったなら戻る電車に乗らないと行けないですよね…」
「ふむ、それが君の次の不幸かな」
麗人がハートの尻尾に引っ掛けた懐中時計を見ると同時に、電車がすれ違った。
「あれが淫魔界で1日一本しかない人間界行きの列車だよ」
俺は思わず口をポカンと、だらしなく開けた。麗人は俺の顎にそっと手をやると口を閉じさせた。
「ここじゃそうやって煽らない方が身のためだよ。何を突っ込まれるか分からないだろう?」
「…ご親切にありがとうございます」
「アランだ。よろしく」
麗人はそう言うと手袋を外して、手を差し出した。
「健一です…」
「よろしく健一」
俺も手を差し出し、軽く握手をした。