人間の健一と親切な僕っ娘上級淫魔アランの淫魔界珍道中 作:雑食性生物物部
アランさんがカツカツとホテルの廊下を歩いていると俺のガスマスクの中で曇る呼吸音とはまた違う、ずらりと並んでいる部屋のどこからともなく喘ぎ声のようなものが聞こえてきた。俺はアランさんにあれが何なのかを問う前に、その喘ぎ声を聞いて天然の温泉のごとく湧き上がってくる劣情を忘れて、血の気が引くのを感じた。
アランさんはとても親切とは言え淫魔、しかも上級淫魔である。もしや最初から俺を襲い搾り殺すつもりだったのではないだろうか。そして淫魔界のラーメンを食べさせて俺の精が熟すのを待っていたのではないか。
「健一?大丈夫かい」
俺を抱きかかえる上級淫魔が聞いてくる。しかし俺は黙って頷くしかできなかった。その為に目的の部屋にたどり着いたと気付くのにワンテンポ遅れてしまった。
アランさんはカバンを降ろして鍵を開けた。俺は部屋の中の空気がガスマスク越しでも分かる、とても澄んだものであることに驚かされた。先ほどまでの淫らな空気に比べても、まるで換気をしまくって綺麗に掃除をして空気清浄機をじゃんじゃん動かした後のごとく打って変わっていた。アランさんもまた「ガスマスク外して良いよ」と言った。
アランさんは帽子やスーツをコート掛けにかけて、俺を柔らかいフカフカのソファーの上に降ろすと、部屋に付けてあった冷蔵庫から何かを取り出して、
「健一、これを飲みたまえ」
と言って俺に何かの小瓶を渡してきた。
「これは……?」
淫魔界の言葉だろうか、小瓶のラベルに書いてある事が読めない。しかしアランさんは「安心したまえ。毒じゃないから」と言ってスーツを脱いでワイシャツ姿になって俺の隣に腰かけた。
俺は恐る恐るガスマスクを外し、瓶を開けて飲んだ。すると先ほどまでぐつぐつと煮えたぎっていた性欲がスーッとしぼんでいくかのように収まっていき、俺はサッパリした気分になれた。俺が思わずアランさんを見ると、
「中身の成分は気にしなくていい。ともかく君を楽にしてあげられるモノだったろう?」
と彼女は微笑んで言った。
その優しい微笑みは本当に輝くように尊いモノで、これまで付き添ってくれた彼女が本当に美しい淫魔であることを思い知らされた。そして彼女が如何に親切であるかを思い出して、少しでも彼女を疑った事を申し訳なく思った。
「さて、僕は少々疲れてしまってね。少しシャワーを浴びてくるよ。テレビでも見て暇を潰しててくれ」
そう言ってアランさんがおもむろにスーツを脱ぎだしたので俺は咄嗟に顔を背け、彼女が背後からクスクスと笑うのが聞こえてきた。
シャワー室へとパタパタと歩く音がし、ガラリと扉が閉まる音がすると俺はそろそろと首を元に戻した。思った通りアランさんはシャワー室で一浴びしているようだ。俺はふーっと安心して一息つくと、チラリとテレビのリモコンを見た。
(アランさんはテレビでも見ててくれって言ってたな。手持ち無沙汰になったから暇つぶしに見てみようかな)
そう思った俺はリモコンに手を伸ばし、テレビのリモコンのスイッチと思われる部分を押した。
『ん゛ほおおおおッッ!♡♡き゛、き゛ぼぢい゛い゛のおおおおおおお!!♡♡』
「ギィャース!!」
何かのテレビショッピングで淫魔にアナルをほじられている人間の爆音の喘ぎ声が流れるとは思わず俺は思わずひっくり返った。勿論シャワー室まで丸聞こえだったようで、遠くからでもアランさんの笑いをこらえる声が聞こえてきて俺は顔が真っ赤になるのを感じた。
俺は死に物狂いでリモコンを触りまくり、恐らく音量調整のボタンである所を見つけてボリュームを下げることに成功した。そして丁度番組の方も徐々に盛り上がりが過ぎてきたようで、俺は少し一安心した。だが、アランさんに爆音で喘ぎ声を聞かれたことを再度認識し、相変わらず顔は真っ赤なままだった。
『ジュルジュル♡チュパチュパ♡ぷはぁ♡♡はぁ~い♡と、このように人間きゅんがイキ終わって元気が無くなった後でも♡この『前立腺シゲキックス』を使用すればオチンポはビンビン♡に復活しまーす♡♡今ならキャンペーンセール実施中でーす♡』
『で、でんわばんごうは♡し、たのとーりで、す♡』
『はーい♡それではまた刺激していきまーす♡』
『ん゛ほ゛ぉおおお♡ま゛だイッちゃうのおおお♡メスイキ決めちゃうのおおお♡♡』
「」
俺はそっと番組を変えた。
『──○○時になりました。淫魔界ニュースのお時間です』
おお!どうやら淫魔界でもそれなり真面目な番組があるようだ。俺は安心してリモコンを置いて、淫魔界ニュースを見ることにした。
『それでは最初のニュースです。本日未明、淫魔界を訪れた人間きゅん主催の下で射的屋が開かれましたが、その内容に非難が轟轟です』
『人間きゅんは本日未明、淫魔界の繫華街で射的屋を開きましたが、訪れた淫魔たちが目にした射的の景品はコンドームと言う意味不明なものと、信じられないほどチープで効き目の薄い媚薬、その他誰が使うんだってくらい小さいバイブ等が並んでおり、肝心の人間きゅんは屋台の店主である人間きゅんしかおらず、その上コルクの弾で人間きゅんを撃たせるという内容に訪れた淫魔たちは憤慨しており、集団で店主を襲う事態となっております。現在淫魔警察が出動しこの粗悪な景品を出した人間きゅんに厳しい取り調べをおこなって──』
「……」
ここが淫魔界だという事を再認識させられた俺はテレビをプツンと消した。
やはり何もする事がない。淫魔界のテレビはもう見る気失せたし、かと言って他にする事もない。そう思ってぶらぶらと部屋の中を見回していた俺はあるものがある事に気が付いた。
部屋の隅に小さなノートパソコンがある。恐る恐る開いてみると人間でも使う事を想定しているのか見慣れたアルファベットが見えてきた。俺はチラリとアランさんのいるシャワー室を見やった後、何となくノートパソコンを起動してみる事にした。淫魔界のインターネットにも何か面白いのがあるかもしれない。
淫魔界のインターネットは見事に淫乱な空気を醸し出していた。何処を見てもエロサイト顔負けのスケベな淫魔軍団しかおらず、売ってるグッズとかも揃いも揃ってエッチグッズばかりだった。
──そんな中、少し興味を惹かれるものがあった。
『淫魔ちゃんねるスレ』と書いてある淫魔界の掲示板であった。それは恐らく人間界でいう何とかちゃんねると同じ系列のものであるとは予想が付いたが、淫魔界にも同じものがあるとは思わなかった。……そこで俺はある一つの考えが湧き上がり、実行に移した。
『淫魔に保護された人間だけど質問ある?』
──これが俺の人生を決定づけるとも知らずに。