人間の健一と親切な僕っ娘上級淫魔アランの淫魔界珍道中 作:雑食性生物物部
その後、何時間かアランさんのお父さんについての講義を受けている間に、列車が駅についた。
「ここだよ。降りよう」
アランさんは荷台から俺と自分の荷物を下ろし、俺の腕を引くと電車を出口に向かった。淫魔達に囲まれながらアランさんに腕を引かれるのは少し恥ずかしかった。
「…っとその前に、これを着けてくれ健一」
出口の近くでアランさんに何かを渡された。
「ガスマスク?」
「淫魔界の甘ったるい匂いを長時間嗅ぎすぎるのは危険だ。迷い込んだ人間が忘れられない様、脳裏に刻み込むように出来てる…ほんの気休めだが無いよりは良いだろう。第一顔を覚えられにくい」
言われた通りガスマスクを付ける。ゲームでしかみた事ないけどちょっと息苦しい。そんな俺をみてアランさんはポツリと呟いた。
「……そう言えばガスマスクに罠を仕込んだ淫魔もいたっけ」
「うげっ!?」
「ハハハ!心配いらないよ。それは無害だよ。君が無防備に付けるから、からかっただけさ」
アランさんは軽やかに笑っている。合わせて自分もハハハ…と笑った。
「…しかし本当に無防備だ」
手を繋いで降りる時、アランさんはボソッと言った。
駅構内は見た事ない世界が広がっていた。右も左もスタイルの良い、角と羽を生やした美女たちが歩いている。異質なのはむしろ自分の方だった。
「ここが上位の淫魔も降りる淫魔界の終点の駅だよ。見事な物だろう」
「うん…まぁそうですね」
何と言えば良いのか反応に困った俺は適当に返事をした時、ふとした事に気づいた。
「そう言えば、終点なのに線路が続いてますね。この先は車庫か何かなんですか?」
「さぁ?」
「えっ?」
「その先は上位種の僕よりさらに上の最上位の淫魔達がいる界層だから、僕もよく知らないよ。ここより先には下位層に戻る列車はないからね」
「じゃあ行ったっきり?」
「そう、行ったきり戻って来れないよ。健一もうっかり寝たまま戻って来れなかった所だったね」
「アハハ…ありがとうございます」
しかし、アランさんに腕を引かれながら歩くと奇妙な事に気づいた。終点でしかも戻って来れない列車の車両の中に、自分以外の人間の男がまだ何人か乗っていた。
「あ、アランさん!大変だ!この人達まだ降りてないよ!」
「……あぁ彼等は大丈夫だよ」
「えっ!何でです?!この先帰れないのに!」
アランさんは困ったもんだ、と言う様な様子で深くため息をつきながら言った。
「よくあるのさ。彼等は最上位の淫魔達に見初められた人間達だ。おそらくこの先で彼女達が、彼等を出迎える準備をしてくれるだろうさ」
そして少し車両に近づいて手を触れようとすると、バチっと電気が流れ弾かれた。
「ついでに、この通り最上位様の所に行く車両には、下位の淫魔が手出し出来ないよう結界が張られてる。これで安全に極上の状態で人間達が向かう事が出来るわけさ」
確かに言われてみれば、自分が乗ってた席よりも絢爛豪華なスイートルームに彼等は乗っている。
それを見ると少しだけ羨ましく思った。
「ところでアランさん」
「何だい健一」
「どうも乗ってる人達、皆意識がないかひどく怯えているんですけど…」
「最上位種の淫魔に見初められた彼等に自己決定権があるとでも?」
「あらまぁ…」
そう言った瞬間、列車が静かに動き出した。片道電車に乗った彼等を載せ、列車は線路の先へと消えた。
「行っちゃった…」
「きっと彼女達の良いお婿さんか、四六時中可愛がられる愛玩ペットになれるさ…」
成仏してクレメンス、と心の中で祈った俺はその場を後にした。