人間の健一と親切な僕っ娘上級淫魔アランの淫魔界珍道中 作:雑食性生物物部
役所を出た俺たちは淫魔の繁華街?というかストリートを歩いていた。アランさんに言われた通り、なるべく下を向いて目を合わせないようにしていたが、通りすがりの淫魔から「可愛い〜♡抱き締めてあげたい♡」「お持ち帰りしたいな〜♡」とか聞こえてくると俺は思わず一層アランさんに身を寄せた。その度にアランさんからブツブツと何やら声が聞こえてきたが、よく聞こえなかった。
「健一、済まないが寄っていく所があるんだ。少し我慢してくれないかな?」
「あ、はい」
ストリートを少し歩いていると、アランさんがある建物の前で立ち止まった。
見上げると、どうもソープだとかキャバクラ?みたいなものしかないストリートには少し似つかわしくない雑貨店のようだった。
「雑貨店ですか?何か買われるんですか?」
「いや、既に買ったものを引取りに来たんだ。大したものじゃないよ」
アランさんはそう言うと、俺の事をじっと見て来た。
「あの……どうかしましたか?」
「ふむ、通りに置き去りにするのも危ないかと思ってね」
「嫌な事考えますね」
「なに、ここの店の店主が少々厄介なのでね少し失礼するよ」
アランさんはそう言うと、ファスナーに繋いでいた俺を持ち上げて抱き抱えた。
「アランさん!?」
「こらこらじっとしたまえ。この方が安全なのだよ」
アランさんはそう言って軽く暴れる俺を抱っこしたまま、店内にはいりこんだ。
「人間きゅんの匂いっ!!!!!!」
アランさんが扉を開けた瞬間、一人の淫魔が飛びかかってきた。アランさんが躱してくれなきゃ俺は今頃彼女の腕の中に囚われていただろう。
「やあ、ミスズ。例のもの取りに来たよ」
「イテテ……何だアランじゃん……そして可愛い可愛い人間きゅん♡♡♡♡♡」
思い切りヘッドスライディングを決めたミスズと呼ばれた淫魔は、ハァハァと荒い息遣いで俺に近寄ってきてアランさんに手で止められた。
「ちょっとぉ!何で止めるのよぉ!」
「この子は僕の保護対象だよ」
「るっさい!こちとら溜まってんのよ!撫で撫でさせろぉ!お腹をワシャワシャさせろぉ!お股の匂いを嗅がせろ!」
ゴチン!とアランさんの力強い拳骨がミスズさんに落ちた。
「それで少しは冷めただろう」
「いったぁー……アンタ昔から力づくよね…」
ミスズさんは頭を抱えながらフラフラと立ち上がった。
「大体君には推しがいるだろう。確か人間界の地下アイドルって奴で名前は確か……」
「涼太きゅん!!!」
ミスズさんがそう叫んだ名前は少しだけ聞き覚えがあった。確か学生時代からコツコツと活動を続けてきた地下アイドルだ。
「でもたしかその人って……」
「分かる!?人間きゅん!そうなの引退しちゃったの!あんなに握手会にだってコンサートだって通ったのに!アタシ一人しかいなかったけど」
ミスズさんはとても残念そうに語った。
「でも良いの♡それってつまり涼太きゅんがアタシと添い遂げる気になったって事だよね♡ アイドル辞めちゃうくらいアタシの所にお婿さんに来たかったんだよね♡♡♡」
俺はその言葉と涼太と言う地下アイドルの名前を聞いてふと思い出した事があった。
「あれ?確かその涼太ってアイドルさん、一般人女性と恋愛したいって言ってたような──」
「は?何それ聞いてないんだけど」
その一瞬でミスズさんの目から光が消えた。
「い、いや本当ですよ。ほらネットの記事に書いてます」
俺はスマホを取り出して涼太ってアイドルの記事を探し出してミスズさんに見せた。ミスズさんは鬼も真っ青な表情でハイライトのない目で記事を眺めた。
「は?マジで何それ。お姉さんは涼太きゅんが迎えに来てくれるって信じて、こんなにも我慢の限界になるまで禁オナして待ってたのに裏切りじゃね?現役時代からずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと涼太きゅんの事推して愛して来たのに涼太きゅんは他の女にうつつを抜かすとか許せないんだけど」
ミスズさんはそんな事をブツブツと呟いていたが、ある時ふっと笑って、
「そっかあ……♡涼太きゅん♡♡私にお迎えに来て欲しかったのかぁ……♡♡そうだよねぇ涼太きゅんと知り合いの一般人女性って私しかいないもんねぇ……♡♡♡結ばれるのは私しかいないもんねぇ♡♡♡」
とミスズさんは言って指パッチンをした。すると何処かで見た事ある顔の人間の男が天井から召喚されて、ミスズさんにガシッとお姫様抱っこされた。
「み、ミスズさん!?その羽根と角は!?」
「やっほぉ〜♡♡涼太きゅん♡♡また会えたね♡♡ちょ〜っとお・は・な・ししよ♡♡」
「ねぇミスズ、例のものは?」
「そこの棚の上!!」
そう言ってミスズさんは奥へと引っ込んだ。
「あ〜あ、健一やっちゃったねぇ」
「や、やっぱり今すぐミスズさんを止めた方が良いんでしょうか……」
「止めるってどうやって?非力な人間の力でミスズを止められると思う?彼女も一応上級淫魔だよ?」
アランさんは「ま、いずれこうなってただろうけどね」と言ってため息を付いた。
そうして、アランさんは棚の上に置かれていたスーツケースを取ると、俺を抱き抱えて言った。
「なぁに悪い様にはならないさ。さっ行こうか」
そう言って雑貨店を立ち去ろうとした。その時奥から「あ────ッ♡たしゅけてぇ♡♡♡」と先程の涼太と言う元地下アイドルの、悲鳴に似た喘ぎ声が聞こえてきた。
「──なあ、健一」
「……なんですかアランさん」
「こう言う時、君たち人間は言う言葉があるのだろう?教えてくれないか」
俺はその問いに答えるように、ただポツリとだけ言った。
「成仏してクレメンス」