逃亡生活を続けながら目的地を目指して旅を続けている私たちは、古びた小屋の中で夜を過ごしていた。
「ちょっとリン、近いって」
「んん~……蛇は気温が低くなると温もりを求めて暖かいモノに擦り寄ってしまうので仕方ないのです」
おそらく何かの作業に使われていたと思わしき小屋の中で、私はちょっと困ったことになっていた。
ここ最近冷え込んできたせいか、夜になると彼女……蛇籠リンが纏わり付くように擦り寄ってくる。
……彼女の行為自体はそれほど問題でもない。
「はぁ~……瑞鬼ちゃんあったかい……」
「……っ」
問題は、この娘が擦り寄ってくる姿に衝動を掻き立てられる私の精神の方だった。
自在に動く白蛇を思わせる綺麗な白い髪と、そのか細い外見からは想像もつかないくらいに力強い腕で、リンは私を逃すまいと拘束している。
暖を取るためだろうことは解っている。……解っているのだけれど……その白くきめ細かい肌を見ていると、無性に傷を付けたくなってくる。
綺麗な首筋に口付けて牙で肌を破り、その生命の源たる赤く熱い液体を嚥下してしまいたい……。
それはきっと血液パックに詰められた粗雑な物資などとは比べ物にならないほどに芳醇で甘美な味わいに違いない。それが、その熱が、少し振り返るだけで手の届く範囲にある……。
私は自身のウチから今まさにあふれ出ようとしていた熱を抑えるために自身の手首に牙を立てた。
「……ッ、フー……フー……ッ、ンく……」
……気を落ち着けるために自分の血をゆっくりと口に含み、飲み下す。
自身の血ではほとんど意味もないけれど、少なくとも頭は多少冷静になる。
「……まぁたそんなことしてる」
「リン……」
気が付くと、リンは優しい目で私の行為を観察するように見つめていた。
「大変そうだよね、抑えるの」
「別に……」
私はそっけない返事をしてしまった。
……擦り寄ってくるリンの姿に欲求を刺激され、一人で自身を鎮めるためだけに行う行為。
それがなんだか人に知られてはいけないことのように感じられてしまって、少しだけ気恥ずかしい。
「ふーん?」
「……」
爬虫類のように縦に開いた瞳孔が、ジッと私を見つめている。
……その瞳を見ていると、背筋にゾワゾワとした感覚が走るのを感じてしまう。
「よーし、じゃあ他ならない瑞鬼ちゃんの為に、ちょっとだけ手伝ってあげよう」
「は?何を……きゃ」
私の身体中に巻き付けられているリンの白い髪が力強く動き、私の肢体を瞬く間に拘束する。
そして私は抵抗の余地など微塵もない程完璧に、拘束されて床の上に寝かされてしまった。
……いや、それは別にいいんだけど……さっき凄い女の子みたいな声を出してしまったことが恥ずかしくて、ちょっと顔が赤くなってしまった。
「あ、瑞鬼ちゃんもしかしてちょっと期待してる?」
「してない、いいからさっさとコレ解きなさい」
「良いの?解いても」
リンは言いながらスルスルと衣服を脱いでいく。
露わになっていく肌が月明かりに照らされて、怪しい色気を感じさせる。
……いけないとはわかっている、わかっているんだけど……どうしても抗えずに視線が彼女の肌に吸い寄せられる。
「っ……はぁ……はぁっ」
「私、知ってたよ?ちょっと前から瑞鬼ちゃんが無理してるって」
「そ、れは……」
無理をしていないと言えばウソになる。
本音を言えば彼女を襲って血を吸ってしまいたい。
だけどソレはいけないこと。血液パックなどから摂取するのとは一線を画する。
生きてる人から奪ってはいけない……私が本当に人間じゃなくなってしまう。
だから私は堪えないといけないんだ。
「そっか、瑞鬼ちゃんはやっぱり強いね。」
「……っ」
「ね、瑞鬼ちゃん……」
全ての衣服を取り払った姿で、リンがゆるりと私の上に覆いかぶさる。
そして、耳元で囁くように呟いた。
「今はね、ここに瑞鬼ちゃん以外の"人"はいないよ?」
蛇が獲物を品定めするかのような視線に不覚にも身体が再び熱を帯びていく。
「……だからね?素直になれるまで私が可愛がってあげる」
「っ」
あぁ……食べられるな、私……。
私の身体を支配する捕食者を前にして、私は意識を保つのがやっとだった。