やはり俺は孤独だった。 作:悪夢
1.違和感の放課後
薔薇色の輝く青春。
キラキラとした...まるで物語のような甘い恋愛など、俺には縁遠いモノだと思っていた。
しかし、この奉仕部に入った...正確には入れさせられたその時から、俺の青春は始まったと思っている。
最近まで気が付かなかった...というより、無意識のうちに自分には好意を向けられていない、女性は警戒すべきと思い込んでいたのだが、どうやらそうでもないらしい。
由比ヶ浜の優しさは...俺には特別なモノを向けてくれている気がするし、何といっても...あの氷の女王雪ノ下雪乃が俺に笑顔を向けてくれているではないか。
あの一色は、俺には本心で話してくれるし、何と言ってもスーパープリティな妹の小町からも愛されている。
ああ...俺は何と幸せ者なのだろうか。
ふわふわとした心地で、希望を持って奉仕部の扉を開いた。
「...おう」
「こんにちは」
「やっはろー!ヒッキー!」
クールな猫。人懐っこい犬。それが2人のイメージだ。
「遅いですよ、先輩」
亜麻色のセミロングに小柄な体躯。
現生徒会長も何故かそこに居た。
「なんで当たり前のように座ってるの?お前も奉仕部だったの?」
「先輩酷いですぅ~私も仲間に入れてくださいよ~」
「はいはい。いろはすは良い子ですね~」
「むぅ!」
適当にあしらうと頬を膨らませて分かりやすく拗ねてしまった。
「はぁ...」
「あはは...」
呆れたようにため息を吐く雪ノ下と、苦笑いを浮かべる由比ヶ浜。
(....?)
雪ノ下が冷たいのはいつもの事だが、由比ヶ浜の表情にふとした違和感を感じた。
「由比ヶ浜...何かあったのか?」
「....え?」
なんというか...影がある気がする。
別に下心があるわけでは無いが、その...一応奉仕部の仲間なので部員の精神的な負担が有れば力になりたい。
...こんな風に素直に思えるようになったのもこの3人と小町のおかげかもな。
「あ...その...ううん、大丈夫。ヒッキーに相談する程のことじゃないから」
あはは、と再び力なく笑う由比ヶ浜。
「...そうか。無理するなよ?」
「うん。ありがとう、ヒッキー」
本人が話す気が無いのであれば無理に聞くことは無いだろう。
...妙なのは雪ノ下も同じだ。
雪ノ下にとって唯一の友人と言っても本当に過言ではない由比ヶ浜の事であるのに、俺が尋ねた際に全く反応しなかった。
考えられる要因としては...由比ヶ浜と雪ノ下が仲違いをしている。もしくは既に相談済みで事情を知っている。もしくは雪ノ下の方が思い悩んでおり表情が出やすい由比ヶ浜から情報封鎖のほころびが出来た...のかもしれない。
何にせよこの二人に何かあれば力になりたい。
「...」
ふと、もう一つ妙なことに気が付いた。
「一色?」
「....あ...は、はい?どうしましたか?」
ぼんやりと視線を漂わせていた一色。いつも気を張っている一色いろはらしくもない油断した表情。
ボーっとしていた彼女は俺の問いかけにワンテンポ遅れて反応した。
「いや...お前も変だぞ?何かあったのか?」
「あれれ~センパイってば私の事が気になっちゃうんですか~?思春期ですかぁ~?」
直ぐにいつもの調子でからかい始めた一色。
....いつもの一色か。
「お前の好きに解釈しろよ。...まあ、無理はするな。いつでも相談に乗るからな」
「も~センパイったら...優しいですね」
最後に優しい声でふわりと微笑んだ一色。
...その笑顔に頬が熱くなってしまった。
「...おう」
赤くなっている所をからかわれる...そう思っていた。
「...ふふふっ...」
「え...?」
しかし、一色は笑わなかった。いや...笑顔といえば笑顔だった。慈愛に満ちた...優しい表情だ。
...その後も、何とも妙な雰囲気のまま時間は過ぎて行った。
これと言った依頼も無く、ただただ時間だけが過ぎていく。
...何故か生徒会室に戻ろうとしない一色もいつも通りの内に入れてしまっても良いだろう。
そして、俺が読書に夢中になっていると...
「...」
「...うん」
「...はい」
一色と由比ヶ浜の声が聞こえた。
「ん?」
顔を上げると、雪ノ下が俺の方を向いていた。
「ごめんなさい、今日は少し用事が有るの。比企谷くん、戸締りよろしく」
「おう」
「ばいばーい」
「ええ。また明日」
「はーい」
雪ノ下は由比ヶ浜と一色に手を振り、部室を後にした。
「あ...」
次に由比ヶ浜のスマートフォンに着信が入った。一瞬、目を見開いた由比ヶ浜。慌てた様子でスマートフォンを手に取って耳に当てた。
「も、もしもし?...う、うん...ほんと?...うん。すぐ行くね」
...迎えが来たのだろうか?
「結衣先輩、ひょっとして...」
「う、うん。その...あ、あたしも帰るね。じゃあ、鍵お願いね、ヒッキー」
「お、おう。気を付けてな」
「うん!ばいばい、いろはちゃん、ヒッキー」
気持ち、足取りが軽い由比ヶ浜。...思い悩んでいたように見えたのは杞憂だったのかもしれない。
「...」
「...」
再び静かな空間に変化した。
俺はおしゃべりな方ではないので普段通りだが、一色がこれほど静かと言うのは...それはそれは不気味だった。
「...」
今度は一色のスマートフォンに通知が入った。
机の上に置いていたので俺も見えてしまったのだが...
『着いたよ』
と、簡素なメッセージだった。
名前までは見えなかった....というより他人のスマートフォンをジロジロ見るのはマナー違反だろう。
「...」
一色はそのメッセージに返信をして、普段より少し大きな荷物を持って席を立った。
「迎えが来たのか?」
「えっと...まあ、そんなところです」
「...?」
なんとも歯切れの悪い返事。
別に学校まで親御さんに迎えに来てもらうのは珍しいことではないだろう。
それに、これほどの美少女なのだから親としても心配だろうに。
「じゃあ...また明日です、先輩」
「おう。気を付けて帰れよ」
「はーい」
これまた由比ヶ浜と同じで軽やかな足取り。
それにしても...こいつらは俺と一緒で自宅、ないしは自室がそんなに恋しいタイプだったのか?
ふと気になって窓際まで歩く。
丁度、校門が見える位置なので、親が迎えに来ている生徒の姿が見える。
その中には、スタイル抜群で目立つ容姿の由比ヶ浜や、そこに居るだけで男子生徒が集まって来る...はずの美少女である一色の姿が見えた。
....しかし、周りに他の生徒の姿は無かった。代わりに、真っ赤なオープンカーとシルバーのスポーツカーが停まっていた。
2人はお互いに手を振り合い、それぞれの車の助手席に乗り込んでいった。
「あいつらの親御さん...結構派手な車に乗ってるんだな」
ふと、気になった放課後だった。