やはり俺は孤独だった。 作:悪夢
翌日。俺は普段通りに登校して、普段通りに寝たふりで休み時間を過ごし、普段通りに人のいない場所でパンを齧っていた。
「...」
通り抜ける風が心地良い。
...さて、パンも食べ終えた今、暇になってしまった。
普段の昼休みであればひと眠りする所だが、今日はどうしたモノか...
今日の休み時間は本当に眠ってしまったり、授業中に居眠りをしてしまったので目が冴えている。
「ん?」
普段は他人の声が聞こえないこの場所。しかし、今日は例外らしい。
「...うん...うん...わたしも。うん...凄く良かったです。うん...ふふふっ」
甘く蕩けるような声。相手の声が聞こえないので電話をしているのだろう。
その口調は...親しい仲、それも恋人に向けられるようなものだった。おそらく、校外の恋人にでも電話をしている...のだと思う。
問題は...まあ、問題と言う程の事ではないけれど、その声に聞き覚えがあるという事だ。
「一色...?」
一色いろはの声だった。最初に確信が持てなかったのは、その声色があまり聞いたことが無い質のモノだからである。
媚びるような猫撫で声でも、素の一色のフラットな声色でもなく、甘く柔らかく優しい声だったのだ。
「うん...うん...ふふふっ...わたしも...♡」
建物の影からちらりと彼女を見る。
一色は、壁に背を預けながらスマートフォンを耳に当てていた。その笑顔は本当に幸せそうで、誰が見ても恋をしている表情であることが理解できた。
「....」
別に一色とは深い仲にあるわけでは無いが...少しだけ複雑だ。
比較的仲の良い後輩の一色。別に好かれたいというわけではない。しかし、あまり他人に見せない素の性格を見せてくれた仲だと思っていたが、やはり恋人にはもう一つ違う表情をみせるのかと思うと...なんとも言えない気分になる。
「はい...じゃあ、また。...愛してます」
そう言って電話を切った一色。...敬語が混ざっているので年上の恋人なのだろうか?
彼女はしばらくの間、スマートフォンの画面を笑顔で眺めていた。
...あまり覗くのは悪い。そう思い立ち去ろうとしたその時―――
「うおっ!?」
「...っ!」
ガシャンと、大きな音を立ててしまった。
どうやら立てかけてあった看板を倒してしまったらしい。
一色も音に反応してこちらに勢いよく振り返った。
「せ、先輩...」
「よ、よう」
なんとも気まずい空気。
覗き見をしていたことは事実なのでここは正直に話すしかないだろう。
「...悪い。覗くつもりは無かったんだ」
「いえ...」
お互いに視線を外している。
「先輩は...お昼ご飯ですか?」
「あ、ああ」
一色は俺の手に持たれたビニル袋を見て気が付いたようだ。
「....聞こえてました?」
「...何のことだ?」
...その質問には答えにくい。
「誤魔化さなくても良いですよ。その...こんなところで電話していたわたしも悪いですし」
「...そうか」
ちらりと一色に目を向けると、少し頬を染めた彼女が俺を真っ直ぐに見ていた。
「まあ...その、なんだ...お前はモテるから気を付けた方が良いかもな」
俺はともかく、目立つ容姿の一色に特定の恋人が出来たことにショックを受ける男子は少なからず存在するだろう。
「確かにそうですね~...ひょっとして、先輩も嫉妬してます?」
「いや...俺は...」
「あ~照れてますね~?」
いつも通りの口調。少し小ばかにしたような、甘えたような口調。
いつも通りの一色いろはだった。
そちらがそのつもりなら...こちらも気になった事を聞かせて貰おうか。
「そういうお前はどうなんだ?」
「へ?」
きょとんとした表情になる一色。...やっぱり可愛いなコイツ。
「お前こそ顔が真っ赤だぞ?」
「そ、そんなこと...」
珍しく余裕のない返事を返す一色。
どうやら、彼氏との会話を聞かれていたのはそれなりに恥ずかしいらしい。
「その...なんだ、さっきの電話は...か、彼氏か?」
何故だかわからないが...少し複雑な気分だ。
出来る事なら違うと言って欲しかった。
親兄弟の類と言って欲しかった。
「....そう...です」
...しかし、嫌な予感程よく当たるもので、結論は俺の推察と変わらなかった。
「そう...か。ひょっとして...昨日の帰りに迎えに来ていたのは...」
「...見ていたんですね。はい、昨日はそのまま一緒に帰りました」
一度話し始めると、案外簡単に語り始めた。
「でも、結構遅い時間じゃなかったか?あんな時間からデートに行くものなのか?」
「いえ、昨日はそのまま彼の家に泊まりましたので」
再び驚愕してしまった。
平日に恋人の家に泊まる...高校生でそんな事が許されるのだろうか。
コイツはあざといビッチ風な面もあるが、きちんとした教育を受けた真っ当な家庭で育っていたはずだ。そんな奔放な交際を両親が許すのだろうか?
「そ、そんなこと...親御さんは許しているのか?」
「...先輩。先輩だから正直に話しますが、少し踏み込んだ質問が過ぎると思いませんか?...まあ、わたしの心配をしてくださっているコトは分かっていますけど」
少しジトっとした目で見られてしまった。
「す、すまん...」
「あ...ごめんなさい。わたしも言い過ぎました」
お互いに謝り合ってしまった。
「それと...一応、彼と付き合っているのはわたしの親も知っていますので大丈夫ですよ。...お父さんは複雑な顔してましたけど」
それはそうだろうな。小町が同じことをしても絶対に親父は首を縦に振らないだろう。
....逆に言えば、それほど信頼を得ることが出来るほどの人物なのだろう。
「そう...か」
仲の良い後輩に彼氏が出来ただけ。...それだけの事のはずだ。
「はい。...ひゃっ...!」
突然、一色は股の辺りを抑えて悲鳴を上げた。
「ど、どうした!?」
「い、いえ...っ...なんでもありません...っ!」
真っ赤になっている一色。これは...ただ事ではない。
「そういうわけにもいかなだろ。ほら、保健室行くぞ」
一色の手を取って連れて行こうとしたのだが...
「ま、待ってください!」
頑としてその場を動こうとはしなかった。
「一色?」
「だ、大丈夫ですから...」
真っ赤な顔で汗をかきながら言われても説得力が無い。
しかし、この反応で考えられるのは...
一つは催していた"ソレ"が我慢できなかった場合だが、先ほどまで普通に会話していたのでその可能性は低いだろう。
もう一つは女の子の日のアレだろうが...一色の性格からして対策をしていないとは思えない。
...やはりわからない。
「本当に大丈夫か?なんでも力になるぞ?」
「えっと...その...」
言葉に詰まっている一色。どうやら、伝えるか伝えまいか悩んでいるようだ。
「その...先輩は下ネタ大丈夫な人ですか?」
「まあ...人並みには」
突然どうしたのだろうか...?
一応、普通の男子高校生なのでその手の話題に興味が無いわけではない。
...しかし、先ほどの会話の流れからして嫌な予感しかしない。
「絶対にこの話をナイショにできますか?」
「喋るなと言われたら喋らねぇよ」
かつて、内緒の話を広められて痛い目に遭ったのは俺も一緒だからな。
「じゃあ...話しますね。まず、今の状況について」
「あ、ああ」
凄く、嫌な予感がする。
しかし、聞かずにはいられない。
「その...垂れてきちゃったんです」
「...何が...垂れて来たんだ?」
彼氏が出来たという報告。
垂れて来たという報告。
...昨日は彼氏の家に泊まっていたという発言。
その答えは予想がついた。しかし、理解はしたくなかった。
「昨日...彼に
「....え?」
聞き間違えだ。きっと聞き間違えだ。
「だからぁ...ふふふっ。先輩、ひょっとしてこのテのお話苦手でしたか~?」
にやり、と笑みを浮かべる一色。それはいつもの生意気な笑みではなく、淫靡で妖艶な笑みだった。
「そういうわけじゃねえよ。その...ちょっと驚いただけだ」
動揺を悟られないように、出来るだけフラットな声を出す。
「ふふふっ...じゃあ問題ありませんね...♡」
一色はゆったりと俺に近づいて来た。
...思わず半歩後ずさりしてしまった。
「もう...彼ってば、わたしがとろとろになるまで責め立てるんですよぉ?もうワケわからなくなっちゃって...何度も何度も
ズキズキと胸に激しい痛みが走る。
別に一色に恋をしていたわけではないが...何となく、こいつは俺の事をある程度特別扱いしてくれている、と思っていた。しかし、それはあくまでも何でも話せる仲の良い先輩止まりであったことをまじまじと痛感させられた。
「お、おい...そういうことは...っ...」
「あれれ~?先輩...どうしちゃったんですかぁ?」
興奮で潤んだ一色の瞳。
俺に向かって歩んできたとき、かすかにクチュリと粘質な音が聞こえた気がする。
「お、俺は...」
短いスカート、小柄ながらメリハリのある柔らかそうな身体。
...この制服をはだけさせて、この愛らしい顔を快楽で歪ませて、この可愛らしい声で淫らな歌声を上げ続けたのだろうか。
小柄ながらもはっきりと主張している胸や尻を揉みしだかれ、年上の男根で鳴かされたのだろうか。
「え...?まさか...後輩の痴態を妄想して勃起しちゃったんですか?」
少し引いたような表情。
向けられるのには慣れているはずだった軽蔑の顔。
全ての事実が鋭い刃物の様に全身を貫いているようだ。
「そ、そんなこと...」
「まあ、どっちでも良いですけど」
冷たくもなく、からかっている色も無い、フラットな口調。
それがかえって距離を感じた。
そして...一色はくるりと俺に背を向けて歩き出そうとしている。
しかし...
しかし......
何故か続きを聞きたくなってしまった。
「い、一色...その...っ...」
「先輩?」
俺の問いかけに振り返った一色。
「そ、その...」
「なんですか?早くお手洗いに行きたいんですけど」
にやりと笑う一色。
どうやらコイツはコイツで話したいようだ。
....チラリと一色の脚に目を向けると、確かに内ももの辺りに何らかの粘質の液体が垂れている。
「...ふふふっ。そんなに気になるんですか?」
「...ああ」
「そうなんですね~...どうしようかなぁ...」
にやにやと笑みを浮かべながら横目で俺をみる一色。
「い、一色...」
俺は隆起した股間を隠そうともせずに縋りついた。
「ふふふっ...冗談ですよ。でも、もう時間が無いのでまた後でお話ししてあげますね。...我慢できなかったら一人でシてもらっても良いですよ?その代わり...」
一色はスマートフォンを取り出して俺の姿をパシャリと撮影した。
「な、何を...」
「保険、ですよ。わたしもそれなりに恥ずかしいお話をしましたので。まあ、先輩なら言いふらしたりしないって信じていますけど」
最近のスマートフォンはカメラが非常に高性能だ。...股間の影がはっきり見える程に。
人通りの無い校舎の裏。股間を膨らませた上級生の写真など、一色の使い方によっては俺の学校生活は完全に崩壊させられる。
...俺は、もう一色に逆らえない。
「それではまた。あ、でも...」
再びニヤリと笑う一色。
「...今日も彼の部屋に泊まるので、また今度...ですけど...♡」