やはり俺は孤独だった。 作:悪夢
土曜日。
俺は自室に引きこもって本を読み耽っていた。
「...」
読み耽る、というのは語弊が有るか。
小説を開いているのだが、ずらりと並んだ活字が全然頭に入ってこない。
と言うのも...
「一色...」
...昨日の一色の言葉が頭から離れない。
"今日も彼の部屋に泊まるので、また来週...ですけど...♡"
最後にそう言い残して俺の前から去って行った。
俺は...一体どうして一色とその彼氏の秘め事の話を聞きたいなど言ったのだろうか...
単純な興味だろうか?...それとも、俺に寝取られ願望があったのだろうか。...いや、寝取られというのは少し誤りだな。別に一色と俺の間に先輩後輩以上の関係は無いのだから。
ただただ...俺が変態だったという事だろうか...?
「12時か...」
そろそろ腹が減って来た。しかし、今日も両親は不在で、小町も最近はよく家を空けている。別に一人で居ることが苦ではないが、一人でいると色々と考え事をしてしまう....主に余計な事を。
「何か食べに行くか」
何となく、自炊するのが面倒だった。
簡単に身支度を整えて家を出ることにした。
...................
「はぁ...」
土曜日のショッピングモール。
休日のそんな場所がどのような惨状になっているのかなんて想像に容易い。
ひょっとしたら知り合いに会えるかも?という淡い期待に胸を膨らませて来てみたのだが、よくよく考えたら会いたくない人に会ってしまう可能性もあるわけで。具体的に言うと雪ノ下さんとか。
...幸いなことに、嫌なフラグを回収することは無かったのだが、家族連れとカップルだらけのサイゼで昼食を摂った後でも知り合いに全く会わなかった。...あれほど肩身の狭い思いをしたというのにあんまりだ。
ふと、ある事実に気が付いた。
ああ...俺は寂しいのだ。以前の俺であれば、休日のショッピングモールなどという面倒な場所に行こうなど思わなかっただろう。
しかし、知り合いに会えるかもと淡い期待を持っていた俺は、いつの間にかこの場所に足を運んでいたのだ。
...帰るか。
これ以上ここに居ても疲れるだけだろう。
そう思ってベンチを立ち上がろうとしたその時...
「え...?ヒッキー...?」
柔らかく可愛らしい声。
その声の方に振り返ると、明るい髪色に愛らしい童顔で、破壊力のある身体つきの美少女がそこに立っていた。
「由比ヶ浜...」
可愛らしい私服姿の由比ヶ浜だった。
...清楚なコーディネートながら、ちらりと見える深い谷間に視線が奪われそうになる。
「ど、どうしてこんなところに居るの...?」
心底驚嘆した様子で尋ねてくる由比ヶ浜。
「失礼な。別に人ごみに来れば拒絶反応でぶっ倒れる程貧弱じゃないぞ」
「そ、そこまでは言ってないよ!?」
...ん?
ほんの少し、口調が優しい気がする。...まあ、コイツはアホだが純度100%の善人だからな。
「冗談だよ。ちょっと昼飯を食いにサイゼに来ただけだ」
「そうなんだ...あれ?でも、ヒッキーの家の近くにもあったんじゃない?」
そうなのだ。別にこんなところまで来なくても家の近所にもサイゼは有る。しかし...わざわざ土曜日のショッピングモールなどという魔窟にやって来たという理由が...誰かに会いたかったという女々しい理由というのも情けない話だ。
...それに、一人で居ると一色の話を思い出して右手が股間に伸びそうになってしまう。
「まあ...その、なんだ」
「なあに?」
不思議そうに小首をかしげる由比ヶ浜。...くそ、可愛いなコイツ。
「暇だったから、人が多い場所に行けば同士に会えるかな、と思ってな」
同じく暇人の...知り合いに会えることを望んでいる同志に。
「??」
わざと分かりにくく伝えてみたところ、案の定、よく分かっていない表情だった。
「暇だったってことだよ」
「あ、そうなんだ。ふふっ...それならもっと分かりやすく言えばいいのに」
「っ...!」
柔らかく微笑んだ由比ヶ浜に、少し鼓動が速くなってしまった。
「と、ところで...お前、一人か?」
「あ...えっと...」
何か答えにくい様子だ。
....まあ、コイツは俺や雪ノ下と違って友達が多いからな。
「いや、誰かと一緒なら別に良いんだ。もう帰るところだったしな」
「う、うん。ごめんね?」
「謝られることなんてないぞ。むしろ俺の方こそ話しかけたりして悪かったな...身の程を弁えます」
「もー、またそういうこと言う。めっ、だよ?」
城廻先輩の真似だろうか?
「冗談だよ。まあ、本当に帰るところだったから気にすんな」
そう言って由比ヶ浜と別れようとした...その時だった。
「結衣、お待たせ」
由比ヶ浜が声を掛けられた。
コイツがナンパされるのは珍しくないのだが、下の名前を呼んでいるので知り合いだろう。
「あっ...」
横目で俺を見て気まずそうな表情を見せる由比ヶ浜。
由比ヶ浜に声を掛けた人物は、優しそうな雰囲気の清潔感のある若い男だった。...少し年上に見えるな。
「うん?結衣の知り合い?」
「う、うん。学校の友達。ほら、前に話したでしょ?事故のときの...」
「ああ、サブレを助けてくれた恩人の子か」
おや...?彼氏なのかと思ったが...何というか、距離感が近いな。
「由比ヶ浜、この人は...?」
「え、えっと...」
由比ヶ浜に尋ねたのだが、何故か本人は言葉に詰まってしまい、代わりにこの男性が答えた。
「あ、ごめんね、自己紹介もせずに。俺は
なるほど、距離感の近さは親戚故のモノだったのか。...よかった。
「あ...えっと、比企谷八幡です。由比ヶ浜...結衣さんの、友達?知り合い?...えっと、同じクラスの顔見知りです」
「どんどん距離が遠くなってる!?ちゃんと友達だから!」
由比ヶ浜がちゃんとツッコミを出来て安心した。お兄ちゃん嬉しい。
「はははっ。話を聞くだけで良い人だって分かるのに、その上面白いなんて。結衣にもちゃんとした男友達が居てお兄ちゃん安心したよ」
そう言いながら由比ヶ浜の頭を撫でる千崎さん。撫でられている由比ヶ浜も...
「えへへ...♡」
....ん?
嬉しそうには嬉しそうなんだが...なんとも違和感を感じてしまった。
....まあ、本当に仲が良い親戚のお兄さんなんだろう。
「じゃあ、そろそろ行くね。ばいばい、ヒッキー!」
「またゆっくり話そうよ、比企谷くん」
フリフリと手を振りながら離れていく由比ヶ浜と千崎さん。
気が付かなかったのだが、千崎さんの手には黒いビニル袋が握られていた。
「あれは...」
ちらりと千崎さんが最初に来た方向に視線を向けると、ドラッグストアとリサイクルショップが並んでいた。
ああ...そうか。あそこのリサイクルショップのビニル袋は黒かった気がする。何か買ったのだろう。
「....」
しかし...何か違和感が有る。ただ、それが何か分からない。
もやもやとした気持ちのまま、俺は帰路に就いたのだった。
―――――――――――――――――――
「...」
どうせ誰も居ないはずなので、特に何も言わずに玄関をくぐる。
そのまま手を洗う為に脱衣所へと向かっていたところ...
「うわっ!?お、お兄ちゃん!?」
「うおっ!?小町...なんだ居たのか」
丁度、脱衣所の扉が開いて、中から愛しい妹君が姿を見せた。
「なんだって...居たら不都合なの?そんなお兄ちゃんじゃないんだから」
「おい。俺が居たら不都合なのか?」
「まあまあ、受け止め切れない事実は少しずつ受け入れたらいいんだよ、お兄ちゃん」
ポンポンと優しく肩を叩く小町。...こいつめ。
「あはは、冗談冗談。お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから、安心しなさい♪」
「はいはい。今日も可愛い小町さんですね」
「うわ、テキトーモードだ!」
いつも通りの調子になったのでそのままスルーして自室に戻ろうとした...のだが。
「そういえば...お前、なんでこんな時間にシャワー浴びてるんだ?」
「そりゃあ...垂れてき―――あ、汗かいちゃったから!」
「垂れて?」
「汗、汗だよ............わかった?お兄ちゃん」
じっとりと睨まれてしまった。
「...そうか」
深くは聞かないでおこう。怖いから。
「そういうこと」
そう言い残すと、小町はラフな格好のまま部屋へと戻っている...のだが、何とも足取りが危うい。
「おい、大丈夫か?体調でも悪いのか?」
「あ、ううん。大丈夫だから。ちょっと走り過ぎちゃってフラフラしてるだけ」
「それなら良いけど...気を付けろよ」
「はいはーい」
気のない返事を返して、小町は自室へと消えて行った。
「...まあ良いか」
気にはなったが、気にしてもしょうがないので気にしないことにした。
そして、俺も手を洗って自室へと戻って行った。
階段を上り、自室の扉を開く。
「ふぅ...」
今日は疲れた。普段から運動していないから、ショッピングモールを歩き回ったというだけで疲労している。
ボフッとベッドに横たわり、土曜日の夕暮れ時というのを良いことに惰眠を貪ることにしたのだった。
...................
「ん....?」
何となく目が覚めた。
時間は...そろそろ夕飯時という頃だ。
そろそろ起きるか...
寝起きで重い体を引きずって、良い匂いのするリビングへ向かう。
扉を開くと、小町の姿が食卓に無かった。
リビングを見渡すと、愛しの妹君はソファに腰掛けて電話中だった。
「あ、お兄ちゃん起きて来たから切りますね。...はい。では...また来週」
俺の方へチラリと視線を向けた途端、小町は会話を切り上げて電話を切ったのだった。
「別に俺に気を使わなくても良いんだぞ?」
「...?」
心底不思議そうな表情で首をかしげている。
「小町?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんに気を遣うなんてことしないから」
「おい、ちょっとくらいは遣ってくれてもいいぞ」
「冗談冗談。ホントに気にしないで、大丈夫だから」
「まあ、それなら良いけど」
相手は友達だろうか?...いや、丁寧語だったので年上だろう。しかし、他人と言うわけでもなさそうだ。なぜなら...
「~♪」
電話を切った後でもこれほどご機嫌なのだから。
俺は...なんともモヤモヤとした気持ちのまま、夕食を食べ終えたのだった。
―――――――――――――――――――
夕食後。珍しく小町にテレビを独占されていなかったのだが、これと言ってみたい番組が有るわけでも無かったので俺も自室へと戻った。
...読書の続きでもしよう。
そう思い、部屋に入ろうとした...その時だった。
『...えへへ...そんな..と...♡』
隣の部屋から楽しげな話声が聞こえて来た。
「ん...?」
電話でもしているのだろうか?
『はい...ふふっ...っ!もう...さんの...っち...♡』
...おかしい。
拭いきれない違和感が有る。
電話の相手は...友達だろうか?
いや...何かが違う気がする。
『あ、ちょっと...って...さいね』
ふと、会話が途切れた。そして、静かに扉が開いた。
「お兄ちゃん?そんなところで何してるの?」
「...何のことだ?」
あたかも今来た風に装う。
「質問に質問で返さないで」
「...すまん、本当に分からないんだ。今来たばかりだしな」
「...そう」
短く返事を返すと、小町は部屋へと戻って行った。
「...」
何とか誤魔化せたか...?
盗み聞きしていたと知られ、そのまま嫌われてしまえば...俺は心が折れる自信がある。
フラフラと部屋に入り、文庫本を手に取った。
「...」
集中できない。
小町の電話相手、昼間の由比ヶ浜と千崎さんの関係、一色の恋愛事情。全てが俺の精神を激しく搔き乱している。
チラリと時計を見ると...短針は22時を指していた。
...今頃、一色は彼氏の家だろうか。
...夕食も食べ終え、風呂に入っている頃だろうか。
...それとも...既にベッドに入っている頃だろうか。
...しとどに濡れそぼった膣口に、男のガチガチに勃起した肉棒が当てがわれ...一気に挿入されて―――
「一色...っ...!」
―――気が付けば、右手が股間に伸びていた。
...パンッパンッと肉と肉がぶつかる音が聞こえる程の...激しい抽挿。
...男に抱き着きながら、膣内を蹂躙される一色。
...総武高校の一年生の男子なら...一度は妄想したであろう、一色いろはという美少女の痴態。
...あの可愛らしい声で上げる嬌声は...きっと、耳にするだけで興奮するだろう。
「うっ...ううっ...!!」
止まらない。右手が止まらない。
妄想の中の一色が絶頂したその時―――
「ううっ!!」
下半身の感覚がふわふわと曖昧になった次の瞬間、強烈な快楽が放出された。
「あっ...うあっ...」
パタパタとフローリングを穢す白い欲望たち。
ガクガクと情けなく痙攣している...1人きりの寝室。
「はぁ...はぁ...」
絶頂の余韻と、何ともいえない虚無感を感じながらぼんやりとしていたその時...
ドンッ!
と、隣の部屋から壁ドンを食らった。
「え...?」
『お兄ちゃん、変な声出さないで』
抑揚の少ない、冷たい声。
「わ、悪い...」
脱力していたせいで力の抜けた声しか出なかった。
...しかし、段々と思考能力が戻ってくると、少し肝が冷えて来た。
ひょっとして...俺が自慰行為している音や声は丸聞こえだったのではないか...?
「...」
いや、考えても仕方ないか。
「...風呂にでも入るか」
適当な着替えを持って風呂場に向かったのだった。