「ムーッ! ムーッ!」
ベッドの上の湊友希那は精一杯の声を出した。
しかしその声は言葉になっていなかった。
当然だった。今の友希那は、口元と後ろ手にされた両手首に貼り付けられたガムテープによって、声と身動きの自由を奪われていた。ガムテープは固く、貧弱な友希那がどれだけ力を込めても解けなかったが、しかし友希那は、その程度で諦めるような女ではなかった。両手を休むことなく動かし、ぎらついた瞳で眼前を凝視しながら、言葉を発し続けた。
友希那の眼前には男が居た。ベッドの前で立ちながら、拘束を解こうとしている友希那を見つめていた。
男は全裸で、全身に汗がまとわりついており、腹がぷっくりと出ていた。その腹や、四肢にも濃い体毛で茂っていたが、しかし頭部に髪の類は無く、その体躯は脂で、てかっていた。さらにニッと歪んでいる口元には唾液が垂れており、瞳の中に浮かぶ性欲の輝きを隠そうともしていなかった。
目の前の友希那に己の情緒の全てを引け散らかしている男は、縛られた乙女を見つめてハァハァと呼吸を垂らしていた。
「うへへっ。友希那ちゃーんっ」
男は楽しそうに呟きながらベッドに乗り上げた。酸っぱい汗まみれの太ましい両足がマットレスに沈み、そのまま男は友希那に接近した。
(な、なによっ……、こっち来ないでっ!)
友希那は迫り来る男をぎゅっと睨んだ。目線で威嚇しているつもりだったが男は少しも怖気づかずに友希那に手を伸ばした。足同様に汗にまみれた太い両腕がパジャマを着ている友希那の両肩に触れた。男はそのままか細い女体を引き寄せてがっしりと抱き着いた。それは友希那の体躯を包み込むというよりは、体躯に己の肉体を擦り付けるようなねっとりとした具合だった。友希那の柔らかい肉体を全身で感じた男はそのまま「うふーっ!」と奇妙な声を上げた。
(うっ……!)
その瞬間、友希那の鼻梁に汚臭が突き刺さった。汗のような酸っぱい臭いの中に、独特の青臭さが混ざった激臭だった。嗅いでいると鼻が故障するような強烈な悪臭で、全体的にぶよついた男の体躯を全身で感じた――感じざるを得なかった――友希那は、自身のパジャマという衣服に汗がじんわりと浸食してくる不快感を得ながら静かに呼吸を止めた。が、しかし、すぐに困難な窒息感がこみ上げてきたため、結局呼吸を再開した。一回息を吸うだけであの臭いが脳にまで到達し、不愉快な目眩が脳をガツンと揺るがして吐き気すら感じた。
「これ、せっかく付けたけど、取っちゃおうね……」
男は友希那を離すと口元に自分で貼り付けたガムテープを剥がした。ビリッ、という肌からテープが剥がれる音が鳴り、ひりついた痛みが覆った。
「んはっ……! あなたっ、何をして――」
友希那は開口一番に男に怒声を放とうとした。
「いただきっ!」
しかしそのプルンと震えた唇を、男がすかさず奪った。
「――んんんんっ?!」
友希那は目を見開いた。何よりも不快な感触だった。未知の柔らかさで、しっとりと湿っていた。
(なっ……、キス……?)
しかしそんな物理的な不快感よりも、友希那の脳裡に襲ってきたのは精神的な嫌悪感だった。『キス』という乙女の永遠の喜びを、特別な体験を、名前も知らない汚らしい男に堂々と汚されていた。友希那もれっきとした女性であり、接吻への憧れは確かにあった。自分もいずれ華やかな恋愛をし、その果ての頂として接吻をするのだと信じていた。しかし今おこなっているのは、発生しているのは、強制的に仕向けられているのは、どこまでも理不尽で、身勝手で、自分にとって、どうしようもなく都合が悪い仕打ちだった。夢見た『いずれ』の幻想はどこかへ消え、今感じているのは、どこまでも続く深い怒りと嫌悪感だけだった。
(嘘っ……。どうしてっ)
男は友希那のいたいけな唇を、まだ誰の肉体も触れていない無知で未熟で新鮮な唇を、我が物顔で貪り、ただ一方的に愉しんでいた。触れ合った唇はその場でぶにぶにと蠢き、友希那の柔らかい肉にまとわりついていた。
(……や、やめてっ! こんなの、嫌っ!)
友希那は顔を動かして男から逃げようとした。しかしその瞬間、男が左右から頭部をがっちりと掴んでしまった。これで友希那はもうどこにも逃亡することができず、男の自由で独りよがりな口の蠢きを、男が飽きるまで味わうことになった。唇同士が隙間無く触れ合い、理不尽に食べられる度に友希那は背筋から上がってくる寒気を感じた。それは友希那が、細胞の次元で男のことを嫌悪している証拠だった。しかしどうすることもできなかった。友希那の頭部は掴まれており、腕は後ろで拘束されているため、完全に自由を奪われていた。
男は舌を突き出した。唾液でぬめめっており、唇よりも温かい感触の蠢く物質を、ついに友希那の口内に押し進めた。唇を退け、歯列を舐め取って強引に開かせるともう男の自由の時間だった。舌や唾液から香る生ごみのような口臭が入り込んでくると、それはそのまま吐き気となって友希那を苦しめた。
男にとって友希那の口内とは何よりも極楽の聖地のようだった。さらにその中に滞在する友希那の舌は、これまで音楽のためだけに使ってきた舌は、男が己の唾液で汚すにふさわしい格好の餌食のようだった。舌と舌を強制的に絡め、そのままぢゅるりと吸うと、互いの唾液が混ざり合い、それまで感じたことのない不愉快な感触だけが脳裡に上がっていった。
(うううっ。不味いっ……)
自分の大切な商売道具を、汚されていた。それは間接的に、友希那の今までの音楽の歴史を汚しているということだった。これまで素晴らしい音楽を奏でてきた舌は、今は男の快楽のためだけに無理やり使われていた。すでに舌には男のぶよついた感触が記録され、今後どんな音楽を生み出したとしても、その根底には男とのこの最悪なひと時が潜んでおり、友希那が少しでも油断すれば、その忌まわしい地獄の記憶が顔を出して情緒を苦しめるはずだった。
ようやく男の顔が離れた。しかし二人の口の間には、もうどちらのかもわからない唾液の糸が何本も引いていた。さらにその口周りには、やはりどちらのかもわからない唾液がべっとりと付着しており、二人の接吻が、男の一方的な無理やりの、口だけを使った強姦が、とてつもなく激しく、情熱的なものであるということを示していた。
「友希那ちゃんっ。僕のここ、もうこんなに大きくなっちゃった……」
男はなぜか恥ずかしそうに呟き右手の指で自分の腰を指さした。友希那は控え目にそれを見た。
「ひっ――」
勃起していた。
男の陰茎は、先ほどの接吻によって膨張していた。友希那にはそれなりの性知識があり、勃起のことも知っていたが、男の股間の竿はありえないほどに大きくなっていた。
(男の人のって、こんなに大きくなるものなの……?)
それは全体的に浅黒く、しかし先端の丸っこい亀頭の部分は鮮やかな牡丹色だった。竿の部分には血管が幾筋も浮き、亀頭の先の穴からは透明な粘液が滲み出ていた。
男の陰茎は逞しくその存在感を示しており、びくびくと震えていた。それは竿が、この友希那の自室という男にとっての幸福の空間の中で最高潮に興奮し、さらに友希那の肉体というご馳走を強請って、激しく起動しているということだった。
「友希那ちゃん、舐めてくれる、よね?」
「は、な、舐める……?」
友希那は視界の中で震え続ける陰茎を睨みながら思考した。舐めるとは明らかに、この陰茎を、ということだった。それはどう考えてもおぞましい行為だった。男性器とは尿や精液を放出する汚らしい部位だった。それに舌を這わせるということは、先ほどの不条理な接吻よりも侮辱的な行為だと友希那は思った。嫌だった。そんなもののために自分の大切な舌を使いたくはなかった。それは先ほどの接吻よりも生理的嫌悪が大きかった。
「い、嫌、よ……」
友希那はひねり出した声で反抗した。何が何でもこれを舐めるのだけは嫌だった。
「……は? 何言ってんの?」
すると男の棘のある声が帰ってきた。その冷たい声質に驚いた友希那は男の顔を見た。
そこでハッとした。
男の顔に怒気が浮かんでいた。それは一瞬だけ見ただけでも理解できるような、はっきりとした憤怒だった。例えるなら燃え盛る火炎のようで、脳裡でメラメラと繁栄しているであろう怒りの感情が、友希那にははっきりとわかった。
しかし友希那はそれでも、男の怒りの火炎を目の当たりにした今でも、従うつもりはなかった。
「い、嫌よっ。こんなもの、舐めたくない!」
「ふざけんなっ」
男の右拳が頭部に飛んできた。友希那が反応して防御するよりも前に、その硬い拳は友希那に激突した。ゴッ、という鈍い音が鳴り目眩が襲った。
「痛いっ!」
「おい友希那。お前は僕のオナホだ。わかるか? オナホは言う通りにするんだよっ」男の声はやはり冷たかった。しかしその声質の中には、確かな怒りの感情があった。「ほら、舐めろよ」
「わ、私は――」友希那はもう一度抵抗しようとした。しかしその瞬間、男が拳を振り上げた。
もう殴られたくはなかった。
「……わかった。舐めるわ」
友希那は俯きながら呟いた。暴力的な男に完全に敗北し、意思と舌の全てを明け渡した瞬間だった。
すると男がベッドに寝転んだ。脂にまみれた肉体がシーツに触れた。男は両足を投げ出した大の字で、友希那が普段使っている枕に頭を落としてから自分の竿を指さし、「それじゃ、よろしく」とだけ発した。
友希那は数秒思考してから男の股間の辺りに顔を埋めた。陰毛が顔面に触れて少しくすぐったかった。
そして眼前にはそそり立つ陰茎があった。友希那の舌を今か今かと待ちわびているらしい竿は、なおも大きく震えていた。
(うっ……。く、くさいっ! なんなのよこの臭いっ……!)
陰茎からは、先ほど嗅いだ独特の青臭さを数倍強めたような悪臭が漂っていた。それは友希那の鼻梁に入り込み、脳まで到達するとねっとりと滞在して神経を不安にさせた。
陰茎を近くで見ると、そのおぞましさがひしひしと伝わってきた。血管が浮き出し、大きく膨張している竿が恐ろしいとさえ思った。今からこんなものに舌を這わせるのだと考えると、途端に背筋に悪寒が走った。
「はやくしろよ」
男が急かした。友希那は口を開いてそこから舌を出した。唾液でぬめめっている赤色の先端が陰茎の根本に触れようとしていた。しかし友希那は、あと一歩のところで踏みとどまっていた。やはりこんなものを舐めるのは嫌だった。
「……おっせぇなぁ」
男が勢い良く両足を動かした。太ましい両足をたたんで友希那の後頭部をがっしりと掴み、ぐっと自分の股間に近づけた。足で完全に包囲された頭は窮屈な感覚を得た。友希那の視界では眼前の竿が素早く自分の方に接近してくるような具合だった。
そして舌先はすでに竿に触れていた。
それは思ったよりも温かかった。さらに硬く、しかしそう思っていると中からぶよついた感触も現れ、不思議だった。
「そうそうっ。そうやって舐めてねぇっ……」
男の足は後頭部から離れなかった。友希那は瞳に涙を浮かばせながら舌を動かした。音楽のためだけのはずだった舌を、こんなもののために使いたくはなかった。しかしこのまま抵抗することもできなかった。そのため友希那は悔しさを感じながら男の陰茎を舐めた。根本に舌を触れさせ、そのままゆっくりと上に向かうと男の腰が跳ねた。先端の丸みを帯びた亀頭に舌を這わせるとさらに腰が震えた。
「いいぞぉっ。もっと激しくだっ、ちろちろーって、やってみろ」
男の命令が聞こえてきた。友希那は言う通りに竿の部分に舌を触れさせ、そのまま高速で震わせた。
「おおっ、気持ち良いっ! 友希那の舌っ、最高だぞっ!」男がさらに叫んだ。「よし、次は咥えてみろ!」
「く、咥える……?」
友希那は陰茎から舌を離して上を見た。男のにやけ顔があった。
「そうだ! 友希那ちゃんの最高級の喉で、僕のちんぽしごくだよっ!」
「それはっ……」友希那は嫌だった。舌だけではなく喉まで使われるのは最悪以外の何でもなかった。さらにこんなにも大きなものを喉にまで達するほどに飲み込むということは、それ相応の窒息感も味わうということだった。友希那の脳裡に先ほどの接吻の苦痛が過った。
「い、嫌……」
「はぁっ?」男が叫んだ。と同時に友希那の後頭部の両足を自分の腰に押し付けた。挟まれている友希那の頭部はより深く男の腰にめり込んだ。鼻先に亀頭が触れ、同時にあの臭さが激しく入り込んできた。男はそれでも友希那の頭部を押し込むのをやめなかった。次第に亀頭が口に達し、男がそのままねじ込むようにすると強制的に陰茎が友希那の口に入った。
「んんっ! んごっ……」
男の長い陰茎はすぐに友希那の喉に達した。硬い異物の感覚がそのまま苦痛となって流れていた。
「おーっ、友希那の喉まんこ、やっぱあったかいなぁ……」
男の声が聞こえてきた。自分の大切な喉に『喉まんこ』などという蔑称を使ってきたことに腹が立ったが、今の友希那にはどうすることもできなかった。
やがて男が友希那の頭部を動かし始めた。口内で堂々と滞在する竿が口と喉を同時に犯し、それはまるで肉の壁をごりごりと削るような具合だった。口を使われている友希那は完全に抵抗することができなかった。両手はいまだに縛られており、大きな陰茎のせいで顎を自由に動かすこともできなかった。男はさらに足の動きを速めて友希那の口を堪能していた。自分の頭部を物のように使う男のことが心底憎く、殺意すら浮かぶ勢いだったが、やはり今の友希那にはどんな抵抗もできなかった。
「あー、駄目だっ。もう出るっ!」
男の叫び声と共に、友希那の頭部が腰の一番奥まで押し込まれた。両足をぐっと接近させ、がっちりと掴まれた。口周辺に男の陰毛が触れ、体臭がより強く鼻梁に触れた。口内の竿は喉の最奥地まで到達し、喉に栓がされたような窒息感が襲った。
しかしその窒息感が、どうでもよくなるほどの新たな衝動が口の中に襲った。
「イくっ!」
男の叫び声と共に、口内の陰茎が激しく震えた。
「んんんんんんんっ!」
それは陰茎の先端から吐き出された衝動だった。竿とはまた違った熱量を持っており、なにより粘り強かった。
それは友希那の喉に流され、べっとりと絡みついて不快感を与えた。
それとは精液だった。友希那の喉を身勝手に使用し、独りで勝手に気持ち良くなり、その果ての最後の結果として、友希那の口の中に射精していた。喉という友希那にとって何より大切な商売道具に、精液という汚物の味と感触を記憶させていた。
「ううっ、ふうっ……」
男が友希那から足を離した。友希那はすぐに陰茎から離れた。汚物の集合体である男の腰から、一秒でも早く離れたかった。
しかし友希那の中にある不快感は少しも拭えていなかった。口の中で異質に存在感を放つ精液はどこまでも不愉快で、それは舌に絡みつき、歯にへばりついてなかなか離れなかった。友希那は最初、それをすぐに吐き出そうとした。しかしそれを見つけた男が「待て!」と叫んだため、自分のシーツの上の垂らそうとしていた口を引っ込めた。
「全部飲めよ。オナホなら、それぐらい当然だろ?」
男は平然とした口調でにやけた。
友希那は一瞬躊躇してから精液を飲み込んだ。口の内部で自由にへばりつく精液を舌で丁寧に絡め取り、そのまま唾液と一緒にゴクンと嚥下した。しかしねっとりとした精液はなかなか喉に落下してくれなかった。そのため友希那は何度も何度も唾液を飲み込んで、それでなんとか男の欲望を食道に流した。
「舌、見せろ」
男は再び友希那に命令した。友希那は今度は少しも躊躇せずに男に口を開いて舌を見せた。そこには何も無く、友希那が完全に精液を飲んだことがわかった。
「よし」
男がにやけながら、友希那の頭部をがしがしと撫でた。
男の次なる命令で、友希那はベッドの上で寝転んだ。後ろ手に縛られた手が下敷きになり痛みが走ったが、男はそんなことなど完全に無視して友希那のパジャマのズボンを脱がした。両手を縛られているため友希那は無抵抗で自分の衣服を剥がす男を睨んだ。今ほど眼力で人を殺せれば、と思った日はなかった。
露出した友希那の下着は黒色だった。
「うひょーっ! 友希那ちゃんは黒か! 僕、黒のパンツって好みなんだよね!」男は友希那の太腿を撫でながら叫んだ。「ぼっ、僕のために黒を履いてくれたんだよね? ありがとね、友希那ちゃん」
(そんなわけないじゃないっ。ふざけないでよっ……)
もちろん、男などという劣等生物に見せるために履いていたものではなかったが、そんな友希那の独白を察することすらしない男は、エヘエヘエヘと呻きながら下着に手をかけた。
(やっぱり……、全部脱がすのね……)
にっこりと笑う男を前に、友希那はとてつもない悔しさを感じていた。このまま下半身の全てを男に牛耳られ、飽きるまで自由に弄ばれるのだろうと考えると、怒りで自然と両手をぎゅっと握りしめていた。友希那はそのまま両手を激しく動かしたが、ガムテープは依然として手を離してくれなかった。
するすると布切れを剥がすと、ついに友希那の秘部が外気に触れた。控え目な陰毛の下に滞在する、友希那の、女としての頂の亀裂を見た男は、さながら獲物を前にした肉食動物のような活気で自分の陰茎を持ち上げた。竿は一度射精したというのにその盛りを喪失してはおらず、いまだに大きく、硬く立ち上がっていた。
「それじゃあいくよ……」
男は呟きながら腰を友希那に接近させた。そして竿の位置を微調整し、その先端を膣口に触れさせた。
「いっ……」股間に触れた異質な熱に友希那は短い悲鳴を上げた。愛するどころかつい先ほどまで他人だった未知の男のおぞましい性器が、どういうわけか自分の大切な部位に触れているという現実に、強烈な理不尽さを感じていた。友希那は再び後ろ手の拘束を解こうとした。この緊急事態に何の対処もできない自分が悔しかった。しかしガムテープは固く、やはり友希那の両手を離してくれなかった。
友希那の脳裡にあるのはこの後の強引な性行為だった。このまま好きでもない相手と初めての体験をし、自身の生物としての神秘に身勝手に、無許可で精を付着させられ、肉体的にも精神的にも汚されるのだと考えると、今までの人生の中でも経験したことのない屈辱と殺意が湧き、目の前で恍惚とする男が、人間を超えた何か魑魅魍魎の類なのではないかと思えてきていた。
「友希那ちゃんと僕、ついにセックスするよおっ」
男が呻きながら腰を突き出し、己の欲望を友希那という獲物の中に刺し込んだ。
「いぎいっ……、痛いっ! 痛いいっ!」
その瞬間股間の辺りから一気に放電するような痛みが走った。それは火炎のようでもあり、とにかく身体の内側から迸る異常な激痛だった。
「ううっ、入るっ……! 友希那のナカに、全部入るうっ!」
無理やり一つになったことで膣に侵入してきた竿は、そのまま友希那の穴を開拓しながら進み、一気に奥まで到達すると男が湯舟に浸かった時のような低い声を漏らした。
「いい痛いっ……。なにこれえっ……」
「ふふふ。友希那ちゃんってやっぱり処女だったんだね……。ライブとか見てると、やっぱり処女かなーって感じがしたんだよねっ」
男はにやけながら、友希那の、苦悶に満ちている顔を愛おしそうに見つめた。
「な、なによそれっ! 意味がわからない……」
友希那は愕然とした。男は音楽活動をする自分を最初から性的な目で見ていたようだった。それは真摯に音楽を続ける自分への何よりも強い侮辱だった。自分が何日も頭を悩まして作り上げたライブパフォーマンスも、男にとっては己の性欲を駆り立てる『要素』でしかなかったようだった。友希那は深く落ち込んだ。そしてこの男のように、自分のことを最初から肉欲の目でしか見ていない人間が他にも居るような気がしてならなかった。
「ぐふふっ。照れなくて良いよっ。僕たちはやっぱり祝福されたカップルなんだっ。それじゃあ動くよっ……」
男は宣言してから腰を動かした。ゆっくりと引いてから勢い良く突き出すと、その瞬間に友希那の下半身に痛みが走った。それは身体が内側から真っ二つに裂けるような感覚の痛みだった。身体の全ての細胞が悲鳴を上げ、膣に入り込んでいる陰茎という異物を嫌っていた。
「ふっ、ふうっ……。友希那ちゃんのまんこっ、最高だぞっ……!」
男は調子が乗ってきたのか腰の動きを速めた。硬い陰茎が膣の柔らかい肉に擦れる度に打ち上げられる痛みが轟いた。そして友希那はこの痛みの中で悲しみにくれていた。痛いだけの性行為が自分の初めての体験だと思うと、自分の女としての栄光に永遠に消えない傷が付けられたような気がしていた。この深い不名誉は接吻の時と同様に、今後そういう相手が現れ、性的な展開に発展した時にひょっこりと顔を出し、幸福だった友希那の人生を逐一揺るがして脅かすはずだった。
「もう嫌あっ! 抜いてよっ! どうしてっ、どうしてこんなことするのおっ……」友希那は泣き叫びながら両手を動かした。しかしガムテープは離れてくれなかった。
「ふふっ。それは聞けないお願いだなっ。僕ができるのは、このまま友希那ちゃんのおまんこを味わって、そのまま中出しするってことだよっ!」
「ナ、ナカダシ……?」
「そうだよ! 友希那ちゃんの新品まんこに、僕の精液たっぷり注射するんだっ。そうすれば友希那ちゃん、妊娠してママになれるよ!」
「妊娠っ……。妊娠って」少ない性知識だけの友希那だったが、それでも『妊娠』はしっかりと知っていた。それはこの男との子供を腹に宿すということだったが、どう考えても不条理だった。愛など微塵も無い、性欲だけの豪胆で不本意な行為の果てに、その相手の子供を生み出すなど、生物として完全に敗北した、少しの希望も無い暗澹たる体験でしかなかった。
「い、嫌よっ! 妊娠なんて、そんなの嫌! 放して! 今すぐどいてえっ!」
「駄目駄目っ! 友希那ちゃんはこのまま、僕のちんこでしっかり妊娠するのっ」
「やだあっ……。そんなの嫌あっ……。妊娠なんてっ、ナカダシなんてしないでよおっ……」
友希那は泣きながら男に訴えた。しかしその悲鳴は、むしろ男の性欲を加速させるだけだった。練り上げられた蠕動が、男の竿にしつこく吸着していた。しかし心地良さなどは少しも無く、ひたすらに続く激痛だった。
「友希那ちゃんっ。僕はライブで君を見た時から、絶対に襲おうって思ったんだ。だからそれからライブには毎回参加して、かっこよく歌う友希那ちゃんを前に、一体どうやったら襲えるだろうーってことだけを考えてたんだっ……。たくさん計画して、何度も行き詰って、でも今日、こうして一つになれたっ! これってもう、神様が僕たちの関係を祝福してるってことだよね! ぐふふっ! うふふっ!」
男は腰を振りながら、友希那を見つめて叫んだ。
「なにそれっ……」
友希那は停滞している思考の中で、音楽をやっていたことを後悔した。もし自分が歌を始めなければ、音楽という舞台に立たなければ、この男に襲われることなどなかったのだと思うと、あの日、音楽で生きていくという決意をした自分自身を強く憎み、この道を歩んできた今までをひどく後悔した。
「友希那っ! 友希那ーっ!」
男が唐突に叫びながら友希那に被さった。男の脂で湿った肌色が、パジャマ越しに伝わってきて不快だった。体臭も相まっていよいよ本当に吐いてしまうのではないかと思ったが、しかし喉にこみ上げてくる吐瀉物は無かった。男は友希那にしがみつきながら腰をさらに速めた。大きく開かれた友希那の両足の中心で、猛る竿が出入りしていた。
「友希那っ! イくぞっ! 友希那の中に出すぞっ! 僕の精子で子供孕めえっ……」
男が友希那の耳元で叫んだ。
「や、やめてっ……。ナカダシ、は……、駄目よっ。お願いだからっ、お願いだから、言うことを聞いてえっ」
「いいや、中に出すっ……! 友希那のこと妊娠させるっ!」男は宣言してから友希那に腰をぴったりと合わせた。「おらっ――」
奥まで到達した陰茎の先端から、激しく飛び出す感触を、友希那は腰の位置でしっかりと味わっていた。
「ああっ……、ああぁ――」
友希那は目を見開いて絶句していた。膣とその先の神秘に侵入してしっとりと濡らしていく不快な触感は、友希那の胎内にこびり付いて消えなかった。
「ううっ……、友希那まんこっ、中出しっ……」
男はさらに友希那に腰を擦り付けて呻いた。それは男の欲望を細かく具現化した射精であり、友希那の優秀な音楽遺伝子をたっぷりと食い潰して生物的な上下関係を叩きこむ嗜虐的な感覚だった。男から満を持して解き放たれた精子は、そのまま友希那という母体の内部を進み、卵子を探して駆け巡った。もちろんこの射精は、認めた者同士の親愛に満たされた行為の果ての発射ではないため、今まさに友希那の卵子を求める精子も、知り尽くした胎内を温かく進むような微笑ましい具合ではなく、ただ性欲を解消するためだけの、暴力的で一方的な進軍だった。
それはもはや、友希那という奇跡の乙女に理不尽に植え付けられた寄生生物に近かった。性欲だけが取り柄の男の微細な分身はそのまま主人の欲望に従って友希那を内側から汚し、絶対に消えない烙印をしっかりと擦り付けた。
「ふうっ……」満足に放出を終えた男はそのまま友希那から上がり、陰茎を抜いた。しかしその陰茎は少しも萎れておらず、まだまだ友希那の胎内という極上の獲物を愉しむつもりのようだった。
男の男根という栓を失ったことで逆流した白濁の精液が、すっかり強引に切り開かれた膣口から垂れ出し、そのままベッドのシーツにしっとりと着地した。
友希那はというと、先ほどの拷問にも近しい強姦によってすっかり体力を使い果たし、さらに、純潔という乙女にとって最重要な要素を喪失したことによる精神的な落ち込みから、完全に脱力していた。自分の一番の果実を無遠慮に味わい、蹂躙した諸悪の男が、それでも全く枯れようとしない竿を持ち、二度目の強行に挑もうとしているにもかかわらず、友希那はもう、指一本すら動かすことができなかった。純粋な光をすっかり喪失した瞳からは透明な涙が溢れ、それは表情という色を奪われた頬を伝って、ベッドのシーツを湿らせていた。
しかし男は待ってくれなかった。友希那の情緒など少しも考えておらず、ならば何を思考しているのかといえば、それは己の粘り強い性欲についてだけだった。汚れを知らない友希那に手垢まみれの素手で触れ、乱暴に汚し、その乱れすら貪り、それでもまだ満足しきらない獣のような激しい性欲を、くたくたに萎れてしまった友希那にぶつけようと睨んでいた。
男はにやけながら友希那の股を開いた。すでに力は無く、友希那の両足は簡単に左右に退けた。抵抗すらできない友希那の性器は、もはや男の所有物だった。
中心に存在する友希那の膣口からは、先ほど植えつけた精液が、どろりとした白濁の粘液として垂れていた。それは男という野犬の精一杯のマーキングだった。乙女である友希那の所有者は男であることを、他ならぬ友希那自身に示し、思考の至る箇所に男を登場させる役割を担っていた。
男はそのまま股間の竿を持ち、その肥えた先端を、湿った肌の質感の膣口に触れさせてから、一気に腰を突き出した。
咥え慣れてしまった竿の感触が、確かな不快感の熱を纏いながら、ゆっくりと、ねっとりと、友希那の情緒を刺し貫いていった。