※この作品はR-18です。

クラスメートに弱みを握られ恥ずかしいことを要求されちゃう件   作:チャンドラ=グプタ

33 / 49
IFルート、伊藤早希――実現確率33%

 鴉の鳴き声が聞こえてくる夕暮れの黄昏時。

 この俺、柏木宏(かしわぎひろし)は自宅のリビングで料理をしていた。

 

 今日の献立はキーマカレーにサラダ。

 いつも妻の帰りが遅いため、夕飯の支度は基本的に俺が担当している。

 

 最初は料理するのに苦労していたが、今ではカレーを作るなんてことは朝飯前である。

 もっとも、今は夕食前なのだが。

 

 今日はちょっと凝って、クミンにコリアンダー、チリペッパーといった数種類のスパイスを使ってカレーを作ることにした。

 野菜を細かく刻んだ後、フライパンで材料を炒める。

 フライパンにスパイスを加えると美味しそうな匂いが鼻孔を突き抜ける。

 

 三十分ほど時間を掛けて、キーマカレーを完成させた。

 サラダは冷蔵庫にあったありあわせの材料で作り上げた。

 

「たっだいまー!」

 

 玄関から妻の声が聞こえてきた。

 リビングにやってきた妻に対して、俺は「お帰りー」と返した。

 

 愛すべき妻の名は伊藤早希(いとうさき)

 俺と早希は中学時代からの同級生であり、お互いが社会人になった去年の秋に籍を入れた。

 

 早希は保育士をしているのだが中々に激務らしく、ここ数週間ずっと残業続きであった。

 今日は比較的、早い帰宅である。

「いやー、今日は久々に早く帰れたよ……あー! 今日はカレーなんだね」

「うん。ちょうど完成したところだから一緒に食べようか」

 

 テーブルに出来上がった料理を並べ、二人で食卓を囲むことにした。

 普段は俺が先に夕食を済ませることが多いのだが、久々の二人での食事である。

 

「ん! このカレー、なんかいつもと違うね。すっごく美味しい」

「分かる? スパイス使ってみたんだよね」

「えー、すごい! 宏君、どんどん料理の腕上がってるね。シェフになれるんじゃない?」

「はは……さすがにそこまででは無いよ」

 

 ふと俺はかつての友人、鈴木優香(すずきゆうか)のことを思い出した。

 優香には何度か料理を振舞ってもらったことがある。

 

 俺の腕は優香には到底及ばないだろう。

 それくらい優香の料理は美味であった。

 

 優香は今どこで何をしているのだろうか。

 

「あ! 今、他の女の人のこと考えてたでしょ?」

「え!? いや、その……」

 めっちゃびっくりした。どうして分かったのだろうか。

「宏君とは付き合い長いからね。宏君の考えてることは大体、顔を見れば分かるよ」

 女の勘ってやつか。末恐ろしいものである。

 

「ちょっと優香のことを思い出してさ。あいつ、今何してるのかな……」

 

 かつて、俺と優香は奇妙な関係性を築いていた。

 優香とはエッチをしたことがあり、早希と三人でしたこともある。

 

 そんな関係が終わったのは間違いなく俺と早希が付き合い始めた時だ。

 段々と優香と連絡を取ることが少なくなっていき、今では疎遠となってしまった。

 

「優香かぁ……結婚した時に連絡してみたんだけど、『おめでとう』って返信来たよ」

「そうなんだ。他に何か連絡は来なかったのか?」

「今何してるのって聞いたら、『世界を冒険中』って返ってきたよ」

 

 かっこいいな、おい。

 もっとも優香ならそれくらいしていても全くおかしくはないのだが。

 

「優香に会いたいなーって送ったらさ、『そのうちね』ってだけ。ちょっとそっけないよね」

「確かにな。冒険中ってことは仕事はしてないんだな」

「まぁ、口癖みたいに『働きたくない』って言ってたからねー」

 

 高校時代、優香は「私は投資で生きていく」だの、「今はビットコインが熱い!」だの、お前は本当に女子高生かと思わずツッコミたくなるような発言をしていた。

 結構儲かってはいたようで、確定申告の書類を授業中にこっそりと隠れて書いていた。

 

「明里はプロバレー選手になったし……なんだか随分と遠い存在になった感じだな」

 

 俺と早希の同級生である中川明里(なかがわあかり)は高校卒業後、県外にあるプロバレーチームに入団した。

 そこのチームで活躍しており、今ではテレビにもよく目にするようになった。

 

 とある雑誌には美人過ぎるバレー選手という記事で明里の特集が組まれていた。

「本当、すごいよね! 日本代表選手に選ばれたりして」

「ありえるかもな」 

 

 高校卒業してからは明里とも疎遠になってしまった。

 

 俺も早希もかつては明里に恋枯れていた時期があったのに、結果的に結ばれたのは俺と早希である。

 人生とは本当にどうなるか分からないものだ。

 

「ねぇ。今日、久々に……しない?」

 

 早希が俺にウィンクを飛ばしてきた。

 これはエッチしたいという早希の合図。

 

 ここ最近は夫婦の営みが疎かになっており、アッチの方も大分溜まっていた。

 

「うん。良いよ。お風呂終わったらしようか」

「やったー! 今日はたくさんするから、覚悟しておいてね!」

「お、お手柔らかにな……」

 

 

 

 夕食後、早希が湯船にお湯を貯めてくれた。

 

 入浴を済ませると、寝室で早希の入浴が終わるのを待っていた。

 すぐにエッチに移れるよう、俺はバスターブを着ている。

 

 早希を待っている間、俺はスマホに保存している写真を眺めていた。

「優香、明里……」

 

 それはかつて俺と優香、明里、早希の四人でエッチしたときの様子を収めた写真。

 中学時代に優香が撮ったもので、オナニーする時にいつもお世話になっている。

 早希と付き合い始めてから何度も消そうと思ったのだが、どうしても消すことが出来ないでいた。

 

 優香と明里の若々しい裸体は俺にとって今でもかけがえのないオカズである。

 最低だと言われれば全くもって否定はできないが、もしも出来るのならまた優香や明里とエッチしたい。

 

「おっ待たせ~」

 

 早希が寝室にやってきた。俺は慌ててスマホの電源を落とした。

 

 身体にバスタオルを巻いており、胸の部分は山のように大きく盛り上がっている。

 早希はベッドに腰を掛け、俺に身体を寄せてきた。

 

「えへへへ……久々のエッチ、楽しみ。スマホで何見てたの? エッチな動画とか?」

 当たらずも遠からずといったところである。

 さすがに中学時代の4P写真を見ていただなんて言えない。

 

「ち、違うよ。ちょっと新作ゲームのチェックしてて……」

 

 4P写真を見る前、大人気ゲーム『ヒトデドーン』の新作情報をチェックしていたため、完全に嘘というわけでもない。

 

 今年の冬に最新作であるヒトデドーン5が発売されるとのことだ。

 とても楽しみである。絶対に買うぞ。

 

「そうなんだ。ふふ……まぁ、そういうことにしておいてあげるよ」

 

 早希は身体に巻いていたバスタオルを床に落とした。

 バスタオルで隠されていた早希のダイナマイトボディが露わとなる。

 

 暴力的なまでに大きく重量感のある二つの果実は全く垂れることなく、ツンと上を向いている。

 中学時代にGカップあった早希のおっぱいは更に大きくなり、Iカップにまで成長した。

 

「おお……やっぱりデカいな」

「もー、見慣れてる癖に。ほら、宏君も脱いで」

 

 早希に促され、俺はバスローブを脱ぎ捨てた。

 早希の爆乳、一切毛の生えていないパイパンまんこを目の当たりにしたことで愚息は元気いっぱいになった。

 

「おや。宏君のちんちん、元気になったね……」

「あ……早希……!」

 

 早希が手で愚息を摩ってきた。

 エッチが大分ご無沙汰だった為か、早希の手コキがめちゃくちゃ気持ち良く感じた。

 

 俺はお返しとばかりに早希のおっぱいを揉みしだいた。

 二十歳を過ぎてもこのおっぱいは中学時代から全く変わることのないハリと弾力である。

 

「ん……! 宏君の揉み方、すっごいイヤらしい……」

「中学の時も大きかったけど、今はもっと大きくなったよな」

「ふふ……だーれかさんが散々揉んで育ててくれたからね」

 

 確かに早希と付き合ってからは、俺がこのおっぱいを独占している。

 しかし、成長期に早希のおっぱいを揉んでいたのは俺だけでなく『あの二人』もであった。

 

「まぁ、否定はしないけどな……」

 

 人差し指で突起物を弄るとすぐに乳首がコリコリと硬くなった。

 早希は気持ち良くなっているのか、息を荒くしている。

 

「そんなにおっぱいばっかり触って……本当、宏君はおっぱい星人だよね」

 早希は両手で俺の頭を掴むと、自身のおっぱいへと誘導した。

 

「むっぐ……!」

 顔全体に圧力と柔らかい感触を感じた。鼻で大きく息を吸い込むと、甘い香りがしてくる。

 ボディソープと早希の体臭が入り混じったその匂いにクラクラした。

 

 俺は口を開け、早希のおっぱいにしゃぶりついた。

 

 ハリも弾力も中学時代のままであるが、乳首の色は綺麗なピンク色からベージュ色に変化を遂げている。

 色が変わったことに関しては俺が散々味わった結果であり、そう考えれば達成感のようなものを感じる。

 

「よちよち。ほら宏君、たーんとおっぱいを味わってね」

「早希、キスして……」

「はい、はーい」

 

 早希が俺にキスをしてくれた。早希の唇はぷっくりと柔らかい。

 早希の口に舌を挿れ、生温かい粘膜の感触を味わった。

 

 キスをしている間、俺は早希の髪を撫でた。

 いつもは髪をツインテールにしている早希だが、いまは髪を解いている。

 

 金色の髪はサラサラとしていて触り心地が良い。

 もはや逆に触り心地の悪いところを探す方が難しいところだ……

 いや、そんなところはないな。うん。

 

 だが、触り心地が最高のところは決まっている。

 

 右手で早希のおっぱいを揉み、左手でゆっくりと早希の秘所を撫でた。

 一切の毛生えていない早希の秘所は滑らかで、赤ちゃんのような肌触りである。

 

 割れ目に沿って秘所を撫でていると、トロトロとした愛液が出始めた。

 

「宏君。そろそろ挿れて欲しいな……」

 

 早希が挿入を求めてきた。

 その期待に応えるべく、俺はベッドの上で仰向けになる。

 

 早希は蠱惑的な表情で俺に跨った。

 

 秘所と愚息を密着させ、腰を前後に動かし素股で愚息を刺激してきた。

 やがて早希は愚息を掴んで亀頭を割れ目に当てがり、ゆっくりと腰を下ろす。

 

 ズブズブと肉棒が早希の膣内に沈んでいった。

「あ……んン……! 宏君のちんちん、挿入っちゃったぁ……!」

 

 早希が上下に腰を激しく動かすと、結合部分からグチョグチョと淫音が奏で始めた。

 幾度となく俺に挿入された早希の膣内は俺を気持ち良くするための完璧なオナホと化している。

 

 久々のエッチのせいか、想定よりも早く射精欲が押し寄せた。

 

「早希……気持ち良いよ。ごめん。もうイキそう……!」

「そんなに気持ち良いんだ。ふふ……良いよ、そのまま中に出しても」

 

 恐らく早希はまだイく直前までには達していないだろう。

 出来れば早希と一緒にイきたかったが、我慢できそうに無いため、ひとまず一発目の射精をさせてもらうことにした。

 

 両手で早希のおっぱいを鷲掴みにし、下から突き上げるように激しく腰を動かす。

 

「早希……早希! あ……い、イく……!!」 

 

 ――どぴゅどぴゅ、ドピュドピュドピュ!!

 

 俺は思いっきり早希に膣内射精(なかだし)した。

「宏君くぅん……気持ち良いよ……!!」

 

 早希は蕩けるような表情で精液を膣内で受け止めた。

 最後まで出し終わると、愚息を膣内から抜いた。

 

「ちょっ、早希……!」

 早希が俺に倒れこんできた。おっぱいの質量もあってか中々に重かった。

 

「えへへへ……やっぱり宏君とのエッチは良いな」

 まるで飼い主に甘える犬のように、何度も何度も俺にフレンチキスをしてきた。

 

「そうだな……けど、まだしたりないんじゃないか?」

「まー、そうだけど。ちょっと休憩ね。あんまり激しくすると宏君も疲れちゃうでしょ?」

「さすが、よく分かってるな」

 

 交際期間も含めれば、俺と早希の付き合いは大分長い。

 お互いの良いところも、悪いところも知り尽くしている。

 

 俺が早希と付き合おうと思ったのは、早希となら恋人として上手くやっていけそうと思ったからである。

 

 実際、その選択は間違いじゃないと思っている。

 だが、早希の方はどう思っているのか、俺はずっと聞けずにいた。

 

「なぁ、早希……」

「なーに?」

「早希は良かったのか? その……俺と結婚したこと」

 

 俺が訊くと、早希はぷっくりと頬を膨らませた。

「えー、もしかして宏君は嫌だったの?」

「ううん。俺は今すっごい幸せだよ。けどさ……中学校の頃の早希って明里のことが好きだったじゃん? 本当は明里と結婚したかったんじゃないかとか思ってさ」

 

 早希の本心を聞くのが怖かった。

 知らない方が幸せだと思っていたのである。

 

 けど、今は違う。

 ちゃんと知りたいと思った。

 

 この先、結婚生活を続けていく上で起こりうる未来はそう――子供の誕生である。

 

 前から早希に子供を作りたいと言われていた。

 早希の本心を聞かないまま、人生の一大イベントを迎えることはできない。

 

「確かに中学校の頃は明里のことが大好きだったよ。けどね……高校生になった時、ふと思ったんだ。明里はいつか遠いところにいっちゃうって」

「……」

 

 ゆったりとした口調で話す早希の言葉を俺は黙って聞いていた。

 

 同じ部活の仲間として、明里の凄さを目の当たりにした早希だからこそ気づいたのだろう。

 

 明里はバレーボール選手として更なる高みへ……つまり、プロになることに。

 

「私、結婚するならずっと一緒にいてくれる人が良いって思ったの。だけど、それは優香でも無いって思ったんだよね。ほら……あの子、自由気ままだから」

「まぁ……確かにな」

 世界中を冒険するような奴である。早希のお眼鏡にかなわないだろう。

 

「宏君はエッチだし、ちょっと浮気性なところもあるけど、私のことを大切にしてくれるって思ったんだ」

「そうだったのか……ありがとうな、早希。教えてくれて」

「どういたしまして。それでさ、宏君。前にも少し話したんだけど……そろそろ赤ちゃんが欲しいなって」

「うん。俺も……早希との子供が欲しい。今日は排卵日なのか?」

「ううん。安全日だよ。ただ、これから妊活しようと思うから宏君にも協力して欲しい」

「そっか。分かった! 今のうちに子供の名前、考えておかないとな」

 

 男だったらやっぱりかっこいい名前にしたいな。

 よし、いくつか候補を考えてくとしよう。

 それと姓名判断の本も買わないとな。

 

「実はさ。女の子だった場合の名前、考えてあるんだよね」

 

 初耳であった。それにしてもなぜ、女の子の場合限定なのだろうか。

「え、どんな名前なんだ?」

「それはね……」

 

 

 

 早希が妊活を始めてから約一か月後、早希の妊娠が判明した。

 

 早希の負担を減らすべく、基本的に家事は俺が全て担当することにした。

 仕事と家事の両立はかなり大変ではあったものの、これから生まれてくる赤ちゃんのためと思えばさほど苦ではなかった。

 

 早希の出産を控えていたある日の仕事中、病院から連絡があった。

 もう少しで赤ちゃんが生まれるとのことであった。

 予定日より三日以上も早い出産である。

 

 俺は上司に事情を話し、早退させてもらうことにした。

 病院に向かうためにタクシーを探そうと思ったが、近くにタクシーは見つからなかった。

 

 くそ、何だってこんな時に……

 

 電話でタクシーを呼ぼうとしたその時だった。

 

 ――ブロロロロロロ!

 

 けたたましいエンジン音と共に黒いバイクが颯爽と俺の方に近づいてきた。

 風に吹かれ運転手の綺麗な黒髪が靡く。

 

 バイクが俺の前で停まると、運転手はヘルメットを脱いだ。

 

「久しぶりー。宏君……だよね?」

「ゆ、優香……」

 

 なんと、その人物は鈴木優香であった。

 久々の再会に俺はタクシーを探している最中であることを一瞬忘れかけた。

 

「やっぱり宏君だ! 実は先週までラスベガスにいたんだけど、ギャンブルでお金溶かしちゃってさ。お金が貯まるまでしばらく日本にいようと思うんだよね。早希は元気?」

 

 どこかでゆっくり話したいが、今は病院に行くことが先決だ。

 

「元気というか……今まさに赤ちゃんが生まれそうで」

「え、赤ちゃん!?」

 

 俺は今の状況を説明すると、優香はヘルメットを被った。

「そーゆうことね。なら、後ろに乗りなよ、宏君」

 優香はパンパンとバイクのシートを叩いた。

 

「いや……でも俺、ヘルメット無いし」

「そんなこと気にしている場合? もし警察に見つかっても逃げ切ってみせるから安心して!」

 

 優香は自身の胸を強く叩いた。

 

 ふむ……胸の大きさは中学時代と比べて、それなりに大きくはなっているな。

 Dというところか。

 

 当然だが、早希よりは小さい。

 

「ほら、早く乗った乗った! それと、早希より小さくて悪かったね」

「それじゃ、お願いします……」

 

 どうやら考えを読まれていたようだ。

 俺がバイクに跨ると、優香はバイクにエンジンを掛けた。

「ちょっくら飛ばすから、宏君。しっかりと捕まっててね!」

「え、ちょ……うわ!」

 

 バイクが急発進した。冷たい風が顔を撫でる。

 俺は振り落とされないようにガッチリと優香の腰に捕まった。

 

 交通法など何とやらとばかりに優香は次々と前にいる車を抜き去った。

 抜き去った車に何度かクラクションを鳴らされたが、優香はどこ吹く風という様子だ。

 

「宏君もついに父親になるのかー。なんか信じられないな」

「俺もあんまり実感無いよ……早希と子供をしっかりと養っていけるか、正直不安なんだ」

 

 早希には言えなかった不安な気持ちを俺は吐露した。

 

 何も考えず楽しく過ごしていた中学時代とはもう違う。

 社会人として毎日仕事に通い、帰宅したら家事を行う毎日。

 

 充実しているが、いつの間にか俺は誰かに弱音を吐くことが出来ないでいた。

 

「そっか。まぁ、宏君なら大丈夫だよ。なんたって……私が見込んだ男子だからね!」

「あははは、何だそれ。けど、まぁ……ありがとうな」

 

 ふと背後から『ウー、ウー』というサイレンの音が聞こえてきた。

 振り返ると、パトカーがこちらに接近してきていた。

 

『そこのバイク。止まりなさい! 繰り返す。そこのバイク。今すぐ止まりなさい!』

 警察がバイクを停めるよう呼び掛けてきた。

 ここで捕まったら取り調べに時間を取られ、出産に立ち会えなくなることだろう。

 

「宏君! 逃げるよ。しっかりと捕まってて!」

「お、おう……」

「アクセル全開! 振り切るぜ!」

 

 優香はバイクの速度を上げた。

 

 信号の手前でハンドルを左に切ると、建物と建物の間を通り抜けた。

 

 バイクがガタガタと上下に激しく揺れて、めちゃくちゃ怖かった。

「よし、宏君! あと、もう少しだよ」

 

 優香が前方を指さした。

 

 数メートル先に長い下り坂があり、その坂の下には病院がある。

 バイクから大きなエンジン音が鳴り響き、一気に加速する。

 

「おい、優香……まさか」

「イエス!」

 

 ふわっと宙に飛んでいるような感覚が身体を満たす。

 いや、実際に飛んでいた。

 

 どうやらバイクでジャンプをしたようである。

 

 下半身に強い衝撃が走り、気づけば病院の前にいた。

 

「とうちゃーく! さ、宏君。行ってらっしゃい」

 

 し、死ぬかと思った……というか、別にジャンプする必要無かったよな。

「優香は行かないのか?」

「うん。警察を巻かないといけないからね。宏君は心配しないで早希のところに行ってあげて」

「ありがとう。恩に着るよ!」

 

 俺はバイクから降り、早希のもとへ向かうことにした。

 

 病院の扉に入る寸前で、俺は振り返った。

 優香はグッと親指を上に突き出していた。

 

「頑張れー、パパ!」

「ああ! 後で必ずまた連絡するからな」

 

 ありがとう、優香。

 

 出産という大事な機会に間に合わせてくれたこと。

 

 俺と早希を巡り合わせてくれたこと。

 

 優香とは恋人関係にはなれなかったが、友人……いや、悪友とでも呼ぶべき存在である。

 

「悪い、早希! 遅くなった」

 

 俺は早希のいる分娩室に入った。

 看護師の人達が苦しそうにしている早希に声を掛けてくれていた。

 

「宏君。ううん……来てくれて、嬉しい」

 

 早希が嬉しそうに微笑む。

 顔にびっしゃりと汗をかいていて、何とか早希の力になりたいと思った。

 

 看護師の人からの助言を受け、俺は早希の背中を摩った。

 

「もうすぐ、生まれるんだな」

「うん。私と宏君の子供……」

 

 俺は早希と付き合ってからの日々を思い浮かべた。

 

 高校の卒業式前日、俺は早希に告白された

 

 あの時は本当に驚いた。

 てっきり、明里と付き合うものだと思っていたからだ。

 

 お互いに通う大学は別だったものの、同じ県に住んでいたため、交際は順調に続いた。

 喧嘩したこともあったが、エッチすれば大抵は早希と仲直りできた。

 

 社会人になってからは同棲を始めた。

 お互いの両親への挨拶も済ませ、去年の秋に早希と結婚をした。

 

 早希と過ごした日々は俺にとって大切な宝物だ。

 

 そして、早希と親しくなるきっかけをくれたのは間違いなく優香である。

 

 長い時間に渡って早希は陣痛に苦しんでいたが、医師と看護師の人達の力を借り、無事に出産することができた。

 

「出産、おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

 

 早希は生まれたばかりの赤ちゃんを抱きかかえた。

 我が子を愛おしそうに見つめる早希はまさに母親そのものである。

 

「お父さんもどうぞ、抱いてあげてください」

 

 俺は赤ちゃんを抱きかかえ、生まれてきた我が子を見つめた。

 この子がどんな風に成長するのか分からないが、早希似の美人になって欲しいというのが俺の思いである。

 

「これからよろしくな……優里」

 

 この子の名前は柏木優里(かしわぎゆうり)

 

 早希の提案で、女の子だった場合は親友二人の名前を一文字づつ使わせてもらうことにしたのである。

 

 妻の早希と娘の優里と共に温かい家庭を築きたい――父親になったばかりの俺はそう心の底から願うのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。