クラスメートに弱みを握られ恥ずかしいことを要求されちゃう件 作:チャンドラ=グプタ
私の名前は
女子バレー部のキャプテンを務めている中学二年生。
今日はこれから拓海先輩とデートをする予定……なんだけど、私の気分は鉛玉のように重かった。
拓海先輩とは中学一年生の時に一度付き合ったことがあり、一か月と持たずに別れてしまった。
理由は私が優香のことを好きだったのと……拓海先輩がデート中、いつも身体を触ろうとしてきて、気持ち悪かったのが原因である。
隙あれば拓海先輩は私の脚や胸を触ろうとし、何度もキスを迫られた。
何度か自宅デートにも誘われたが、下心が丸見えだったので、強く断った。
元々は拓海先輩から告白されたことで始まった交際だったけど、我慢できずに私の方から別れを切り出した。
強く引き止められることもなく、あっさりと別れることが出来てホッとしていたのだが……初詣の日、私は拓海先輩との再会を果たしてしまった。
「明里、頼む。また俺と付き合ってくれ」
拓海先輩は私を呼び出し、復縁を迫ってきた。
当然、私は一度断った。
しかし、拓海先輩は私にとある写真を見せてきたのだ。
その写真には見るからに柄の悪そうな高校生くらいの男の人達が映っており、その中には拓海先輩もいた。
柄の悪そうなその連中は拓海先輩と仲の良い暴走族のグループのようで、交際を断ればお姉ちゃんや優香達に危害を加えると脅してきた。
みんなを守らなくちゃ――そう思った私は拓海先輩と復縁することに決めたのだった。
私はパジャマを脱ぎ、ピンク色のトップスを着て、青色のミニスカートを穿いた。
ちなみにミニスカートは拓海先輩から穿いてきて欲しいと言われたもので、一体何をされるのか考えると不安になるのだった。
「宏君……!」
不安感に駆られた私の口からは自然と宏君の名前が出てきた。
宏君に助けを求めたところでどうにもならないと思っている。
それでも……あの時の私は不安な今の気持ちを宏君に知って欲しかった。
あの時、もっと直接的に助けを求めていたら……いいや、もう遅い。
私は心を無にして、拓海先輩との待ち合わせ場所に向かうのだった。
「やぁ。明里。おはよう」
「おはようございます……拓海先輩」
待ち合わせ場所のいちょう公園では、既に拓海先輩が私のことを待っていた。
私服姿の拓海先輩は普通にカッコ良いと思ったけど、これから身体を弄ばれると考えると、全くトキメキを感じなかった。
これから起こりうる憂鬱な未来を想像してしまい、ギュッとスカートの裾を握りしめた。
「すみません……待たせちゃって」
「いやいや。俺も来たばかりだから大丈夫だよ」
拓海先輩はニコリと白い歯を見せた。
屈託のないその笑顔の下には獰猛な一面が隠されているような気がして、何とも言えない不気味さを感じる。
「それじゃ予定通り、サオンに向かおうか」
拓海先輩が自然と私の手を脱ぎろうとしてきた。
「キャ!」
私の手が拓海先輩の手に触れた瞬間、悪寒が走り、思わず拓海先輩の手を叩いてしまった。
ヤバイヤバイヤバイ――恐る恐る拓海先輩の表情を確認すると、相変わらず拓海先輩は優しく微笑んでいた。
逆にそのことが不気味で私は一刻も早くこの場から逃げ出したいという衝動に駆られた。
「ごめんごめん。急に手を握ろうとして。やっぱり嫌だったよね?」
「い、いえ……ちょっと驚いてしまって。私の方こそ、すみませんでした」
「謝らなくても良いよ。その代わり……ちょっと付いて来てもらえるかな?」
嫌な予感がしながらも私は「はい……」と返事をした。
拓海先輩が案内したのは公園内にあるトイレだった。
目の前に佇むトイレはかなり寂れていて、年季を感じた。
「いやぁ……デートが終わるまでは我慢するつもりだったんだけど……我慢できなくなっちゃった」
「ひ……!」
拓海先輩が私の太腿を軽く撫でてきた。
まるで脚に虫が這い回る様な感触にゾクリと鳥肌が立つ。
「や、止めてください……こんなところで」
「いやぁ……実はこの数日間、ずっとオナ禁しててさ。随分溜まっちゃってるんだよねぇ。このトイレ、普段は誰も使ってないから一緒に入ろう」
「で、でも……」
只でさえ拓海先輩とそういうことをするのに抵抗があるというのに、こんな汚いトイレでするなんて物凄く嫌だった。
「あんまり抵抗すると……明里の大切な人が傷ついちゃうかもよ?」
拓海先輩の言葉に私は思わずハッとした。
そうだ……私は優香達を守るために拓海先輩と復縁したんだ。
私の身体を弄ばれるくらい……大したことじゃない!
「わ、分かりま……」
「おい、誰が傷つくって?」
男子トイレから出てきたのは……何と、宏君だった。
「お、お前は……確か初詣の時にいた……どうしてここにいる?」
「ある人物からの指示でな。二人がここに来るだろうから待機してろって」
ある人物? 一体、誰なんだろう。
一方、拓海先輩はうんざりとした様子で大きく溜息を吐いた。
「何だかよく分からないけどさぁ。俺達は付き合ってるんだ。悪いけど君は帰ってくれるかな?」
私はハラハラしながら二人のやり取りを見ていた。
宏君、一刻も早くここから立ち去って――そう思いつつ、もしかしたら宏君が助けてくれるかもなどという、甘い考えを持ち始めていた。
「断わる。話は聞いてた。あんた……明里を脅して復縁させたんだってな?」
空気がピリついたのが私にも分かった。
拓海先輩は明らかにイライラしていて、これ以上刺激して欲しくないと思った。
「脅したなんて、人聞きが悪いなぁ。けど、知ってるなら話が早い。あんまりしつこいと……君も只じゃ済まないよ?」
「そ、そうだよ……宏君。私なら……大丈夫だから」
私は宏君に対して虚勢を張った。
だって、宏君が傷つく姿を見たくなかったから。
「嘘付くなよ。明里、震えてるじゃないか」
「そ、そんなことは……」
「拓海さん……俺と決闘してくれないか?」
「はぁ……決闘?」
「ちょ、ちょっと……宏君、何を言ってるの?」
「ああ。俺とあんた、ステゴロのタイマンをして、俺が勝ったら明里を解放する。負けたら俺は明里から身を引く。勝負はどちらかが参ったと言うまで……どうだ?」
突拍子もない宏君の提案に、私は頭を抱えそうになった。
決闘なんて、わざわざ拓海先輩が受けるはずがない。
仮に受けたとして、こう言っては何だけど……宏君はかなり運動音痴だ。
必ずしも運動神経=喧嘩の強さって訳じゃ無いとは思うけど、背丈だって拓海先輩と一回りも違うし、勝ち目なんてある訳無いのだ。
「決闘か……面白い。受けて立つよ」
「え? た、拓海先輩……決闘受けるんですか?」
「ああ。売られた喧嘩は買う主義だ。その代わり……宏だったか? 怪我しても文句言うなよ」
その言葉から徹底的に宏君を痛めつけるつもりなのが伝わった。
せめて宏君にはすぐ降参して欲しいと思った。
「勿論……言いませんよ。それじゃ、早速始めましょうか」
宏君はボクシングの構えのようなファイティングポーズを取った。
「どこからでも掛かって来い」
こうして宏君と拓海先輩の決闘が幕を開けたのだが――
「はぁ……お前、めっちゃ弱いんだな」
結果はどうなったのかと言うと……予想通り、あっさり宏君が倒されてしまった。
始めに宏君が拓海先輩にパンチを放つも、あっさりと受け止められ、お返しとばかりに拓海先輩は宏君のお腹に拳を沈めた。
蹲る宏君に容赦なく拓海先輩は蹴りを決め、トドメとばかりに鼻を強く殴られた。
宏君の鼻から血が流れていて、見ているこっちが辛くなってきた。
「勝負は確か参ったって言うまでだったよな? ほら、早く言えよ」
拓海先輩は胸倉を掴んで倒れている宏君を強引に起こした。
私は慌てて拓海先輩の元に駆け寄った。
「もうこれ以上は止めてください! お願いですから……」
「…………そうだな。これ以上は時間の無駄だな」
私の懇願を聞き入れてくれたのか、拓海先輩は宏君から手を離した。
宏君は尻もちを突き、何故か満足そうに微笑む。
「く、くく……掛かったな」
「あぁ!?」
宏君の謎の態度にイラついたのか、拓海先輩が声を荒げる。
次の瞬間、思いもよらない人物が登場する。
「いやー、ボコボコだったねぇ。宏君」
女子トイレから出てきたのは、私の思い人――鈴木優香だった。
優香は手にスマホを倒れている宏君に向けていた。
「優香……まさかお前、撮影してたのか……?」
「ええ。拓海先輩が宏君をボコボコにしてるところ、しっかり撮影させてもらいましたよ。あ、スマホを破壊しても無駄ですから。データは既にクラウドに保存してあるんで」
「ぐっ……!」
拓海先輩が苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
暴力をしている動画なんて、流出したら炎上……下手したら高校の進学も危うくなることだろう。
拓海先輩はお姉ちゃんが通っている高校に推薦で入学する予定であるが、優香の撮影した動画が高校に渡りでもしたら推薦の話は無しになることだろう。
「お、お前……俺には悪い先輩と付き合いがあってだな……」
「あー。もしかしてこの人達のこと?」
優香が素早くスマホを操作し、私達に画像を見せてきた。
スマホにはどこかの廃工場で十人前後の男子高校生が倒れている様子が映っていた。
「んな……! い、一体……誰にやられたって言うんだ?」
「さぁねぇ。けど、この人達はもうアテにはならないよ。あ、けどさ。もしも動画を消して欲しいなら、今度は私と決闘してくれない?」
「な、何……決闘だと?」
「ちょっと、優香……何を言ってるの!? ダメだよ、そんなの」
優香の運動神経は折り紙付きだ。
けれど、さすがに年上の男子と喧嘩なんて、勝ち目があるはずない。
「心配しないで、明里。本当はこのままでも明里を助けてあげられるんだけどさぁ……さすがに宏君をここまでボコボコにしておいて、只で済ませたくないんだよねぇ」
初めて見る優香の怒りに身体がビクッとなった。
いつも飄々としている優香がここまで怒るなんて……
「け、決闘のルールは……さっきのと同じで良いんだな?」
「勿論。拓海先輩が勝ったら、動画は消すし、明里から身を引く。私が勝ったら、明里や私達には一関わらない……でどう?」
「良いだろう。その条件で……受けてやる!」
「さっすがぁ! それじゃ、どこからでも掛かっておいで」
優香は拓海先輩に対して煽るようにちょいちょいと手招きをした。
やっぱり優香の考えが理解できない。
宏君に暴力を振るった動画を撮った時点で弱みを握った様なものだ。
わざわざ決闘なんてする必要が……
「オラァ!」
拓海先輩が力強く放ったパンチを優香はあっさりと人差し指で受け止めた。
バトル漫画で見るような芸当に拓海先輩も困惑してる。
「随分とよっわいパンチですねぇ。宏君もさぁ、もうちょっと鍛えた方が良いんじゃない?」
決闘中だというのに、優香は顔を宏君に向けた。
当の宏君はバツが悪そうに「ごもっともです……」と呟いていた。
余りにも舐め腐った態度に怒りが湧いたようで、拓海先輩の顏がみるみるうちに真っ赤になった。
「な、舐めるなよぉ!」
優香はラッシュの雨を顔色一つ変えずにヒョイヒョイと避けた。
拓海先輩は疲弊したようで、ぜぇぜぇと息を切らしながら優香との距離を取った。
「す、すごい……!」
優香の動きに私は感動してしまった。
一緒にバレーをやっていた時から優香のことを凄いと思っていたが、やっぱり優香は常識という範囲では収まりきらない人間なのだと改めて認識する。
「さてと……それじゃ、私もそろそろ攻撃しようかな」
優香が腕を軽く回す。ゆっくりと歩いて拓海先輩との距離を詰めていった。
拓海先輩もかなり警戒しているようで、両腕を構えて攻撃に備えていた。
「ほりゃ!」
パンチ……と思いきや、優香は拓海先輩に金的を決めた。
「うっ……!!」
文字通り急所を攻撃された拓海先輩は膝を崩し、体勢を崩した。
間髪入れずに優香は拓海先輩の後頭部を掴むと顔面に膝蹴りを入れた。
強烈な攻撃を二度も受けた拓海先輩はバタンと仰向けになって倒れる。
「あちゃ~。ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
拓海先輩は白目を剥いていた。
宏君は「し、死んでないだろうな……」と心配そうに呟く。
私が拓海先輩の脈を測ると、正常に動いているのが分かった。
「気を失っているだけみたい。二人とも……本当にありがとう」
「二人だけじゃないけどね……もう出てきて良いよ、早希」
女子トイレから「は~い!」という明るい声と共に出てきたのは私の友人、伊藤早希だった。
私を助けるために三人もトイレに隠れていたなんて……
「早希。私と拓海先輩の決闘動画、撮れた?」
「勿論! しっかり撮れてるよ!」
早希は撮影していた動画を再生した。
決闘までのやり取りから拓海先輩に膝蹴りを決めるところまでしっかりと撮られていた。
「女子に負けたなんて知られたら、拓海先輩も恥ずかしいだろうからね。撮っておいて正解だったよ」
「まー、優香に喧嘩で勝てる人なんてそうそういないだろうけどね」
「いや、いるよ……少なくとも一人ね」
優香はどこか遠い目をした。
一体、誰だろうと思ったが、ひとまず今は置いておくことにした。
「み、みんな! ありがとう。私を助けてくれて」
私がお礼を言うと、早希がプンスカと怒った様子で憎たらしいほどの大きな胸を揺らしながら私に近づいてきた。
「ありがとう……じゃなくて、ごめんなさいでしょ! 一人で全部抱え込んで……もう。本当に心配したんだから……」
早希がボロボロと泣き始めてしまった。
泣いている早希のことを見て、私はまるで心が締め付けられるように辛くなった。
「ご、ごめんなさい……私がみんなを守らなきゃって思ったの。でも、間違いだったね。みんな……こんな強いのに……!」
気づくと自分の目から涙が溢れていた。
私は本当に愚かな人間だ。
みんなのことを信用しないで……本当は自分よりも強い心を持っているのに。
「ねぇ……明里」
「な、なぁに……?」
「私……さっき、カッコ良かったでしょ? これからはヒーローって呼んでも良いからね!」
優香はグッと親指を立てた。
いつも通り過ぎる優香の態度に自然と笑みが零れるのだった。
「あはははは! 確かにね、ありがとう。私のヒーロー……」
「お、俺も……頑張ったんだけど……」
「宏君も……すっごくカッコ良かったよ!」
私が手を上げると、宏君はハイタッチをしてくれた。
続けて優香と早希ともハイタッチをした。
三人のヒーローによって、拓海先輩の呪縛から解き放たれた私はみんなを自分の家に招待した。
しかし、後に私は気づくことになる。
実は四人目のヒーローがいたことに……