※この作品はR-18です。

子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン   作:千佳のはんぺん

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牡丹の掛け違い

 人生二周目。

 元の人生を勤勉に歩んでいた者にとってみれば、それはそれは生きやすく、驚きも少なく壁に当たることもない人生の焼き直しが出来ることだろうと思う。

 

 反対に、刹那的に生きていた人間が2周目を歩む場合。

 俺みたいな奴が2周目を歩んでいく場合、教養や教養以外でも学びの蓄積が少ないおかげで、発見と壁との衝突の毎日でそれはそれは有意義に過ごさせてもらっているわけなのだが。

 

 中学2年の中間テスト。そんな小さなイベントに、これでもかと言うくらい苦戦しているのは1度成人した人間にとって恥じるべき事ではなかろうか。

 

 

「八尋ちゃん、今回のテストどう? 手応えありそー?」

 

 

 2日間のテスト実施期間が始まる直前の朔月さんのインタビューに、俺は自信満々に答えた。

 

 

「余裕だよ! 私、こう見えても経験値だけは人の倍蓄積してっから」

「そうなんだ……? てっきりテスト前日にカラオケに誘ってくるって事は、今回は捨てたのかな〜って思ってたよ」

「まっさか、転校してきて最初のテストで躓くなんて事しないよ〜! 馬鹿の烙印押されたら学校生活ハードになっちゃうって」

「補習とかだるいしね〜。都子ちゃんも紗理奈ちゃんも勉強出来る方だから、補習組になっちゃうと少し馬鹿にされるし気をつけないとだしね」

「そうなん? よかった〜、備えがあって」

 

 

 なーんて、余裕綽々シャクシャインに雄弁と語っていたが。

 

 なんだろうなあ。詰みかな。

 

 国語、英語、社会、理科は何とかなった。サブ教科無しの基本五教科テストのうち、この四科目は以前の世界で得た知識がニュアンス程度に頭に叩き込まれていたのだ。

 復習無しでも授業だけ何となく聞いときゃバッチリ想起していた分、苦戦することは無かった。

 

 数学が全くもって分からんすぎる。

 

 俺、理文選択では文系の道を歩んでたし。しゃーないよな、理数系出来なくても。

 

 ……いやいや。

 中学課程で習う数学って理系文系関係あるのかな。日常にありふれた分野しかしないだろ、中学時点じゃ。

 中学で習うような数学範囲が出来ない時点で世間一般ではあまり頭が良くない側に分類分けされてしまうのでは。

 

 ……。

 

 頭の中に羅列した文言を霧散させ、真摯に紙面と向き合う。

 

 

「……むむ」

 

 

 紙面を睨む。

 

 流石にマイナスの概念が加わった足し算引き算掛け算割り算は分かる。方程式も比例式も、まあ何となくわかる。ここはいい、ここが10割のテストだったらよかったのに。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 解けるものも1部あったが、ペンが次の問題へと到達するのは亀の歩みよりも鈍重だった。

 

 全然問題の答えに到達できないおかげか耳が研ぎ澄まされていて、気付けば周囲の生徒はペンを置きテストを解き終わってる気配がちらほらと出始めた。

 

 眉間に皺が寄る。筆圧弱い方でよかった、緊張で指に力が入る。

 

 最後の問題まで一応文字を書き終えた紙を見ると、見事なまでに空白が埋め尽くされたエリアと何の手もつけていない綺麗なエリアに別れていた。

 

 我ながら苦手教科すぎる。欠片でも分かりそうな問題に対する執念がすごいものだ。少しでも点を盛りたいという思いが黒ずみとかした文字列からありありと滲み出ている。

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 

「はい、そこまで〜。ペンを持つなお前ら、カンニング扱いにするぞー。後ろの席から順に答案を前に回してけ〜」

 

 

 っぶねぇ〜!!? 俺が全部解き終わったコンマ数秒の後にチャイムが鳴りおった! もしかして俺が1番時間かけてた説あるよな、恥ずかしか〜!!

 

 

「八尋ちゃ〜ん!!」

 

 

 テストを終え、帰り支度をしていたら朔月さんと蝶田ちゃんが席まで来た。

 

 

「2人ともおつかれー! どうだった、今回のテスト」

「うぅ、私社会自信ない〜……」

「ウチも社会自信ない……あと理科も」

「八尋ちゃんは……?」

「うん、ぜーんぶ自信満々!」

 

 

 曇りひとつ無い笑顔で虚勢を張る。多分目尻に有り得ないくらい皺寄ってると思う、そのくらいの力強い笑顔をカマす。

 

 

「かがりんって勉強出来るんだ」

「い、いやあ。どうかな」

「全部自信満々なんでしょ?」

「……へへっ」

「えぇ〜、どっち!? 顔がぎこちないよ八尋ちゃん!」

 

 

 数学以外なら、まあ。にしても平均60点超えてるか分からないラインだけど。

 

 聞いた話と偏見でこの2人はあんまり頭良くなさそうって思ってみたけど、俺だって馬鹿側なんだから今虚勢を張ってると後で痛い目見るかもしれないと思ってしまった。

 

 でも、幼児体型で愛想良くないらしい女子外骨格を持ってて、頭まで悪いとなると。俺ってばまるでいいとこ無しの女になってしまうでは無いか。

 

 折角女になったのに、チヤホヤされたいのに! 文武両道は無理でも前世バフで頭脳明晰キャラを確立したーい!! というわけで。

 

 

「……ロマンと保身。大切なのはどっちなんだろうか」

「何の話?」

 

 

 

 

 テスト期間を満了した俺達はいつものメンツと呼べるメンバーでカラオケに来ていた。

 

 昨日もヒトカラに行ってきたわけだが、人が増えりゃ歌わなくてもいい時間が増えて楽出来るし別にそこはいい。普段あまりオフで付き合いのない都子と菊池さんも来ると言った事が重要なんだ。

 

 都子と遊ぶの、久しぶり過ぎてなんか変に緊張する。

 

 

「カラオケ来るの久しぶりー。3人めっちゃ熟れてるよね〜」

 

 

 前を歩く菊池さんが後ろを振り向きそう言った。

 

 前列に菊池さん、都子、朔月さんが歩いていて、その後ろを俺と蝶田ちゃんが歩いている。

 3人横並びに歩いてたら、他の客にとったら邪魔だろうな〜。

 

 

「よく来るん? カラオケ」

「私はそれなりにだよ〜。他校の子らと遊ぶ時とかカラオケ挟むの多いし」

「小鞠のは、ねぇ?」

「なあに紗理奈ちゃん、含みあるけど」

「なんでもー」

「むー! 都子ちゃーん!」

「先月、部活帰りにここの前歩いてたら中から小鞠が男と出てきたの見たけど」

「げ」

「東中の制服だったなあ。部活サボって、2人だけでカラオケか〜」

「都子ちゃん意地悪言わないでよぉ!」

「「へぇ〜」」

「ふ、2人とも違うんだよ!? 変な事してないから!!」

 

 

 なんにも言ってないけど。変なことしてたんだぁ、とニヤニヤしてあげた。

 

 狼狽してあーだこーだ言い訳を考えてパントマイムみたいに身振り手振りをする朔月さんが可愛くて、面白くてからかいに参加する。

 いいなあ、なんだか青春って感じだ。こういういじられキャラいると、コミュニティの雰囲気も和らいでいいよな。

 

 

「……」

 

 

 隣にいる蝶田ちゃんはクスリともしてなかった。こういう話が苦手らしい。都子も菊池さんも朔月さんも、それを察してあげたのか彼女には触れなかった。

 てっきり「何黙ってんのー?」とでも軽く言うもんだと思っていたんだが、空気は読めるか。

 

 暗黙の了解が理解出来てる辺り、中学生も侮れんね。

 

 

 

 女子連中とガヤガヤ喋りながら指定された部屋に到着し、中に荷物を置いて各々が飲み物を取りに行く。

 誰1人として荷物を見ておく素振りは無い。まあカラオケで物盗られるなんて、こんな時間からなら余程無いとは思うけど、少し不用心過ぎないだろうか。

 

 

「ん、どしたの鹿狩くん」

「荷物見とくよ。みんな戻ってきたら入れ替わりで飲み物取ってくるから」

「……そう?」

「んー。都子も行ってきな〜」

 

 

 てか、大体空気感でわかった。こういう時、残って荷物見るやつってそれもそれで明確に下のカーストって扱いにされるんだろう。無意識下の分類分けって奴だ。

 

 菊池さん辺りはもう自分がてっぺんだと信じて疑ってないタイプだから荷物を見るために残るなんて選択肢は無いだろうし、朔月さんも言いはしないけど俺か蝶田ちゃん辺りは下に見てるだろう。

 蝶田ちゃんは蝶田ちゃんで、グループワークの経験が少なかったとしても本能的にそれを理解していた。だから菊池さんに続いて率先して部屋を出ていった。

 

 意外なのは都子だ。彼女も率先して部屋を出ていく側だと思っていたのだが、何かとゆっくり動く俺と同じように、どちらかというと俺の様子を見ながらやっているような感じで荷物を置いていた。

 

 

「コップ貸して」

 

 

 ふむ。

 てっきり、都子にはガチ嫌われをしていると思っていたが。そういう訳でもないのかもしれない。

 コップを渡すと、都子は何も言わずに部屋から出ていった。

 

 ……?

 

 ……何も言わずに、何も聞かずに部屋を出ていくだと?

 

 おかしいねえ。代わりに飲み物を入れてくるよってノリだよねぇ。本人の希望聞かずに行っちゃう事あるかな?

 

 頭の四方八方にはてなマークを飛び散らせながら首を傾げていたらゾロゾロと皆が戻ってきた。

 

 

「はい、八尋ちゃん!」

 

 

 トンっ、と目の前に置かれた飲み物。なるほど、そういう事か。

 

 

「謀ったね……!」

「あははっ、都子ちゃんの事疑わなすぎー!」

「くそっ、分かってたよ!! どうせ変なもの入れてくるんだろうなって!」

「はいはい強がり強がり。どうする? メニュー聞く? 何入ってるかって」

「聞きたくない気もするけど一応……」

「コーラとメロンソーダとジンジャーエールの3種盛りとなってます」

「いや炭酸。ヤバすぎでしょ炭酸。胃袋爆発するわ」

「ま、飲めないくらい不味いってわけじゃないのは実証済みだし、しんどかったらあたしが飲むよ。いつもぬぼーんってしてる鹿狩の綺麗な顔が崩れるのが見たいだけだし」

「ぬぼーんて、じゃあ計画したのは菊池さんか……」

「いや? 主犯は小鞠」

「小鞠ちゃんかあぁ!」

「あははっ、ほらさっさと飲まないと炭酸が抜けちゃうよー?」

「なんでパンパンの状態で飲むとお思いで……?」

 

 

 まあこれ以上引き伸ばしても面白くなくなるだけだ。折角意地悪をされたなら、最大限熱が高まってる時に昇華しておこう。

 

 

「しゃーない。一気飲みしてやる」

 

 

 わー、と菊池さんと朔月さんと蝶田ちゃんがぱちぱち拍手する。

 

 

「え、ちょっと鹿狩くん、イッキはやめといた方が」

 

 

 何故か制止する都子。しかし既にコップに口はつけてあって、そのまま俺は一気に炭酸の塊である液体を食道に流し込んだ。

 

 

「すごーい、本当に一気飲みしたー!」

「うっ!」

「あれ? 大丈夫、鹿狩?」

「言わんこっちゃない……」

 

 

 大人になってから飲むものなんてコーヒーか酒ぐらいだった。炭酸自体は缶チューハイにも入ってるし、多少なら別に何ともなく流すことは出来ただろう。

 

 ソフトドリンクの盛り合わせ、ごっつ強炭酸やん。

 

 そして、今炭酸が逆流してゲップが出そうになってようやく思い出した。

 そう言えば、少年時代に都子と幸太郎とカラオケに行った時も同じようなことをされて、同じような混ぜ混ぜジュースを飲まされたことがあったのだ。

 

 俺は炭酸に強くはなかったようで。それを飲みきったあと、特大のゲップを出したあとカニみたいに泡を吹いた覚えがある。

 

 全てを思い出した俺と、先の未来が予測できている都子。笑っているその他。

 ああ、俺の花の女の子人生はおしまいか……。

 

 

「仕方ないなーかがりんは。ウチが背中さすってあげるね」

 

 

 馬鹿あああ! 必死にゲップを出したくなくて前傾姿勢で固まってるのに、逆に出そうとしてくるやつがどこにいるか!

 

 

「ち、蝶田ちゃん、大丈夫だから」

「まあまあ、無理しないでかがりん。気持ち悪いんでしょ? ほら、袋」

「吐かないから!! 本当に大丈夫だからやめっ、うっぷ」

 

 

 ゲップじゃなくてしゃっくりが出て、1度空気が口を経由し蓄えられる。

 そして、蓄えられた空気と入れ替わりに、物凄い速度で食道を昇ってくる気圧の気配を感じた。

 

 ああ、ダメだ。ごめん、蝶田ちゃん。臭かったらごめんね。その時は殺してね。そう心の中で唱える。

 

 

「けぷっ」

 

 

 ……ふぅ。

 あれ。思ったより、小さなゲップが出た。

 

 

「ぷっ、あはははっ!! え、かわいいいい! 何今の、なんか可愛いのが出てきたよ今!」

「あははっ! 期待外れだけど確かに可愛かったしまあいいや! ごめんな〜鹿狩、もう意地悪しないからな〜」

「あ、頭を撫でるなあ!」

 

 

 誰にとっても、俺自身でさえも予想外な小さいゲップを笑われ、朔月さんと菊池さんが同時に頭を撫で頬に指を押し付けてきた。都子もクスクス笑ってるし、全員俺をコケにしやがって!

 

 

「……ちっ」

 

 

 あれ。

 若干1名、俺の背後で小さく舌打ちをした人が居たような。なんで? ゲロマニア……? よかったー、今ここが2054年のアメリカじゃなくて。棒でぶん殴られてゲロ捻り出されるとこだった。

 

 

 菊池さんから順に、都子、朔月さんと歌い始め、蝶田ちゃんがノリノリでアニメの曲を入れた所で、菊池さんが俺の横まで移動してきた。

 ノリノリにキャピった声で歌う蝶田ちゃんと朔月さん、合いの手を入れようと頑張っている都子。そんな彼女らに混ざって俺もなんなら歌に参加してやろーと思ってたのに、なんだと言うのだろう。

 

 

「鹿狩ってさ、元男子だったんよね?」

「そうだけど。……また、なんか証拠だせ的な話?」

「じゃなくて。ならさ、男子の気持ちとか分かるよね」

「気持ち? 分かると思うけど、どしたの? 彼氏さんとなんかあった?」

「なんかあったっていうか何も無いんだよね」

「あら倦怠期」

「倦怠期っていうか。もう付き合って1年経つんだけど、最近話が合わないというか。いや、最近なのかな。思えばずっと……」

「ふーむ、なるほどなるほど」

 

 

 菊池さんと笠原が付き合う過程は、マラソン大会で優勝したら付き合ってくれって約束する事から始まるんだったよな。その約束を取り付けたのは菊池さんで、つまり菊池さんから笠原を好きになったという感じになるわけで。

 

 

「そもそもなんで菊池さんは笠原くんの事が好きなの?」

「は? 何いきなり」

 

 

 言葉は厳しいものの、口調に怒気が孕んでる訳ではなく素の疑問という感じで出た言葉だ。よかった、ちびるかと思った。

 

 

「いやさ、菊池さんの実質告白な約束事を笠原くんは受け入れたってことは間違いないんだし、色々話聞きたいじゃん」

「惚気ろって事?」

「それでもいいし。惚気の中に笠原くんとの仲が深まるようなヒントあるかもだし語ってよ。好き好きエピソード」

「……鹿狩って、前から思ってたけど喋り方バカそうだよね」

「うん喧嘩売ってとは言ってないんだけどな」

「そうだなー、惚気かあ」

 

 

 菊池さんは考え込むように右上に視線を泳がせた。普段女子同士で惚気トークしないのだろうか? それか愚痴か。

 でも、菊池さんの性格的にも好きアピ的にも、惚気も愚痴も言ってる感じないしなあ。案外そこら辺はクレバーなのかしら。

 

 

「普段どんなデートするの?」

「デート? 別に普通だけど」

「普通のデートってなにさー! 色々あんじゃんか、ご飯食べたり夜景見たり買い物したり遊んだり!」

「え、えっと。確かに。えーっと」

 

 

 俺が催促すると余計に菊池さんは考え込む。なんで考え込む? 中学生なんだろ、そんなもん空いてる日はほぼデート三昧だろ。家デート派か? それともオフは一人の時間を大切にする派なのか2人とも。

 

 

「……カフェ、行った」

「へぇ、カフェ! シャレてる〜」

「誰とも会わないと思って選んだんだけど……あと、都会の方で服を見るのがほとんど、かな」

「えーいいな。互いの服を選びあったりしてるんだ?」

「いや、自分の服を見てる」

「……ん?」

「あたし、男子の服とかよく分からないし。女子の服も、フリフリ系とかカワイイ系とかよく分からないけど、ラフな感じとか好きだし。海彦はオシャレだから好きなブランドとかあるし、アクセとかも見るし。だから、丁度いいかなって」

「丁度いいって。2人ともプライベートの買い物をしに行ってるの? 一緒にいんのに?」

「そうだけど」

「……店も別々だったりする? さすがにそれはないよね」

「いや、落ち合う時間を決めてそこからは単独行動かな。ご飯とかもタイミング合えば一緒に食べるし、合わなければそのまま1人で」

「わーお」

 

 

 そりゃまたなんと。一緒に行く意味があるのか無いのかわっかんないねぇ。そりゃ楽しくもないだろうし惚気無いやろな〜。

 

 

「一応確認なんだけど、笠原くんの事好きなんだよね?」

「当たり前じゃん何言ってんの?」

「えぇ。じゃあさ、笠原くんにして欲しい格好とかはない?」

「別に。ありのままの海彦が好きだし」

 

 

 全肯定botやん。恋する乙女やん。変化を求めてないですやん。

 

 

「でも仮にもデートしてる訳だよ? お互いに楽しむべきデートタイム、ワガママを言える格好の場よ? 試しにこれ来てみて〜とかしたくなんない?」

「それはまあ、したくないことも無いけど」

「しよーよ。話聞いてるとさ、菊池さんちょっとクレバーに過ぎるよ! もっとキュンキュンラブラブするもんでしょ普通!」

「普通って。あたしそういうの似合わないし……」

「似合わない女子なんかいないって。恋する女の子は可愛いんだぜ? 少なくとも彼氏目線では絶対可愛い!」

「う、海彦は確かにそう言ってくれるかもだけど……周りの目とか、さ」

 

 

 なんだその悩み。職場恋愛かて。たかだか学生同士の恋愛、自由にしたらいいし自由に言わせてりゃいいのに。

 

 

「他人の事なんて気にしなくていいんじゃない。大好きな笠原くんがいるんだし、部活にも全力を打ち込んでるしさ。2つのことに一生懸命になってる菊池さんを馬鹿にできる奴なんて無視しちゃいなよ」

「無視はするよ。けど、裏で言うだろああいう奴ら」

「そりゃあ、羨ましかったら裏でも出ちゃうでしょ」

「羨ましいとかじゃないだろ。あたしの場合は馬鹿にされるの、昔のあだ名ゴリラ女だったんだよ?」

「昔のあだ名でしょ? 今はそんな風に呼ばれてなくない?」

「それはほら、あたしら目立つし」

「1年の最初の頃はまだそのあだ名で呼ばれてたの?」

「……呼ばれてないけど」

「じゃあゴリラ女って言える見た目じゃなくなったってことじゃん。菊池さん綺麗だもん、絶対に今ゴリラ女って呼んだらそいつの目がおかしいってなるし」

「綺麗って、そんなわけないだろ。あたしなんかずっと男子みたいな扱いされてきたんだし」

 

 

 長ぇ〜。この分野においてどんだけ卑屈なんだこの人。いつもとキャラが逆転してるじゃないか。

 

 まあ幼少期から男子と混ざって遊んでた子は男子に同カテゴライズされるのは自然な事だが。

 成長期が来りゃ男女で明確な差が生まれるし、そこで大体が女方面での自分磨きをしていって自信を確立していくものだろうが。

 

 菊池さんの場合、打ち込んでるものが時間の大半を食ってしまうから女としての磨きが余り出来ないクチなのだろう。だから小学校卒業して環境変わるまで男子扱いされてたし、それを引きずって女として魅力がないと思っていると。

 

 でもそんな事言ったら、都子だって似たような境遇で男と遜色ない扱いを受けてたのに今や女子勢のトップに君臨してる。男扱いをされてたからって、女として華開けないわけではないんだ。

 

 なんて、正面切って言うと「元男のくせに」とか言われそうなので言わない。怖い。あと、話に入ってないのにいきなり巻き込まれたら都子も迷惑だろうし。

 

 

「でも笠原くんは、菊池さんを魅力的な女の人って思ってるわけだし他の連中はどうでも良くない? 好きな人からの印象が大事っしょ」

「は、はあ? 海彦があたしを、魅力的なっ、て。なにそれ、何を根拠に言ってんの? もしかして本人とそういう話したん!?」

「してないしてない! 胸ぐら掴まないでよ怖いよ! そうじゃなくて!」

 

 

 びつくりしたあ。いきなり隣から胸ぐら掴まれてちょっとだけチビった、ような気がした。

 

 

「ちょっと2人とも喧嘩? どうせまた鹿狩くんが変な事言ったんでしょ」

「なんでまず私を疑うんだよ都子。喧嘩でもないし」

「本当? 紗理奈」

「喧嘩じゃない喧嘩じゃない」

 

 

 あ、都子に向かって作り笑いしてる。女子の表情変更機能って便利なんだなー、こわぁい。

 

 

「かがりん、次かがりんの番だけど」

「あ、私はいいよ。また都子から歌っていきなよ」

「えー! 八尋ちゃんの歌聴きたいよー!」

「そうだよ! かがりんがどんなの歌うか気になる! アニソンとかボカロとか詳しそうだし!」

「今はパスってだけで後で歌うから、ほら都子。かましちゃえ」

 

 

 俺からマイクを手渡された都子は「そこまで言うなら……」と言いながらピッピとデンモクを触り始めた。そうか、俺が菊池さんと話をしていて歌う曲入れてなかったから流れを止めていたのか、悪い事をしたな。

 

 一応歌い始めるまで適当に今やってるドラマの話を菊池さんに振って場を誤魔化し、都子が歌い始めるとまた俺は菊池さんに元の話をし直した。

 

 

「で、さっきの話なんだけど」

「あ、そうだ。あんた、まさか海彦と2人であたしに隠し事してるんじゃ」

「そんな話だったっけぇ!? 違くて! 笠原くんが菊池さんの事を魅力的な人だって思ってるって話でしょ!」

「うん。それ、海彦本人が言ってたわけ?」

「んーん、知らない。私笠原くんと喋った事ないし」

 

 

 菊池さんがジト目を向けてくる。どういう感情なのか分からないのでスルーしておく。

 

 

「でも気持ちくらいは分かるじゃん。菊池さんは笠原くんに告白して、笠原くんはそれを受け入れたんでしょ?」

「受け入れたわけじゃないでしょ。あたしがもし大会に勝てたら付き合ってって話だし」

「2分の1で確実に付き合うことになるんならそれは告白でしょ。その条件を呑んだ時点で笠原くんは菊池さんと付き合ってもいいなって思ってるよ」

「あたしとぉ……?」

「釈然としない目をしてますけども。じゃあ逆にさ、菊池さんに彼氏がいなかったとして。性格も見た目も好きじゃない人に告白されたら付き合う?」

「付き合わないに決まってんじゃんそんなの」

「そういう事だよ。笠原くんは菊池さんの性格か見た目か、その両方が好きだから付き合ってんだよ」

「……でも、あたしこんなんだし」

「付き合いたくなかったらフッてたでしょ! 告白して付き合うって関門をクリアしてる時点で魅力を見出してるんだよ笠原くんは!」

 

 

 いつまでたってもウジウジウジウジしつこい菊池さん相手に、つい言葉に熱が入る。

 

 

「魅力を見出してるって事は少なからず菊池さんの事を『好き』とか『可愛い』とかって思ってるわけだし、そう思っている彼女の普段とは違うファッションとか見せたら絶対喜ぶよ!」

「そんなこと……」「あるね。絶対ある。断言するね。なんなら菊池さんの方からもっと人前でも2人だけの時でもガンガンにアタックして欲しいと思ってるよ。私は元々男だったんだ、これは真実です」

 

 

 ハッキリとそう言うと、菊池さんは俯く。

 

 

「……あたしには無理だよ」

「いいや出来るね。ジェネリック倦怠期を終わらせる手っ取り早い手段、それは『イチャつく』だよ」

「無理、むりぃ!」

「無理じゃない! シャンとしなさい、私がついてるから!」

「絶対キモがられるし!」

「キモがったら殴ってあげるから!」「それはあたしがあんたを殴る」「一瞬で目が据わったぁ……」

 

 

 本当に全肯定botじゃんこの人。別れた後セフレにされるタイプやろ、何においても笠原にとって都合のいい女すぎる。

 

 

「大丈夫だから、絶対。ギャップだよギャップ。凛としてる美人が彼氏にデレデレってギャップ萌えがあるんですよ」

「ギャップ萌え……」

「そう。笠原くんだって、本当は自分にデレデレする菊池さんを見たいに決まってるよ」

 

 

 それ以前にデートと銘打ってるのに単独行動するという時点で嫌すぎるが。倦怠期っぽいのに突入してると言うが、そりゃ突入するわなって感じよね。

 

 

「紗理奈。次あんたの番」

 

 

 熱弁し終わり、熱を冷ますために新たに補充したメロンソーダを口に流し込んでいると、歌い終わった都子が菊池さんにマイクを手渡した。

 

 

「さんきゅ」

 

 

 マイクを持ち演奏が始まると、菊池さんは少し下を向いた。何か思考を巡らせている気配がする。

 

 

「鹿狩」

 

 

 歌詞パートに入る前の、最後の4小節が流れた所で菊池さんは俺の名を呼んだ。

 隣に座る菊池さんは、少しだけ顔を赤くしながらもこう言った。

 

 

「ありがと。あたし、頑張ってみる」

 

 

 少し恥ずかしさを抑えながらお礼をしてきた菊池さんは、等身大の恋する少女らしい、甘酸っぱくて拍動に染み入るような笑顔を浮かべていた。

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