子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
「ちょっと私トイレ行くー」
1時間くらい経過した所で催したので、財布とスマホだけ上着のポッケに入れて立ち上がる。
トイレから1番遠い画面のすぐ近くに座っていたので、菊池さんの前を片手立てて「ごめんねごめんね〜」と言いながら通ると、芸人みたいだなと笑われた。寒いノリ扱いされなくてよかった〜。
「じゃあ私も行くー!」
「ウチも〜」
「えっ」
えっ。
朔月さんと蝶田ちゃんが、俺と連れションをする気満々に立ち上がる。
……いや、今までも何度かあったけども。授業中に抜け出してトイレで雑談した事は。けど、今回はガチおしっこ想定なので、付いてこられるとかなり困ってしまう。
「いやあの、私」
「2人とも。鹿狩くんは元男だよ?」
俺が何か言うより先に、都子がそう言ってくれた。よかった。こちらの膀胱事情を察してくれたらしい。ナイスが過ぎる。
「ん? うんー、そだったね」
あれっ?
「……小鞠?」
「えーと。それ、さ」
「うん?」
「……いや、いいや。さ、とっとと行こー2人とも」
朔月さんは都子の事をあえて無視するように、俺と蝶田ちゃんの腕を掴んで足早に部屋を出た。
都子は朔月さんの反応に「は?」と高圧的かつ呆気に取られたような声を出していたが、何故かそこで菊池さんが「まあまあ」と言いながら、出ていく俺達を追おうとした都子の邪魔をする事で追うことは叶わなかった。
「え、ちょいっ、朔月さん!?」
困惑しているこちらの事など気にする様子をもなく、トイレに入ると1番奥の個室に無理やり引っ張られ、便座に座らされる。
目の前に女子二人。逃げ場を無くすように仁王像宜しく立ち塞がっている。なにこれ、何が起こってるのこれ。
「よし。これで逃げられないね」
「逃げる? 一体何のこと……?」
逃げなければならないような事柄に身に覚えがないので、俺は蝶田ちゃんの方を見る。
彼女は彼女で困惑しているような顔で首を横に振っていた。どうやらついてきたはいいが現状を理解出来ていなかったらしい。本当に催してたって事か。
「えーと……」
「八尋ちゃん、女の子だよね」
「え? えぇ、まあ」
「でも昔は男の子だった。手術で女の子になった、そうだよね」
「まあ、えぇ」
そうですね。何を今更って感じではありますが。
「言われるだけじゃ腑に落ちないなって思ったの。その話!」
「え。腑に落ちないとは」
「紗理奈ちゃんはね、男が完全な女になるのなんて絶対無理って言うの。でも都子ちゃんは、八尋ちゃんが元男だって言って絶対曲げないじゃん? 絶対無理と実際の話が食い違ってたら、どっちが本当か分かんないじゃん?」
「はあ」
「それに、八尋ちゃんは確かに可愛いけどおっぱいも無いしさ。実は可愛いだけで本当は男子の体っていう事もあるかなって思ったんだよね」
「男の娘ってこと?」
「うん、男の子って事!」
イマイチピンと来てなさそうな様子で質問する蝶田ちゃんに朔月さんは自信満々に答えた。多分2人の頭の中にある認識は食い違ってると思う。発音は一緒だったけども。
「だから、確かめないとってなって!」
「繋がらない繋がらない。だからに繋がらないよそれは」
「どこかおかしい所あった?」
「どこから説明したら分かって頂けるかな。ちなみに、確かめるって何をどうするつもりかな」
「じつぶつをみる!」
「はいレッドカード。退場〜」
とりあえず朔月さんを個室から追放する。残った蝶田ちゃんと向き合う。近っ。
「朔月さんどうしちゃったの。明らかやばいこと言ってるよ」
「ね。こんな流れになるとは思わなかったよ……」
「女子同士ってこうなん? その……お互いのやつを見せ合うみたいな」
「ウチはした事ないけど……お姉ちゃんは昔、そういうのをした事あるとは言ってたかも」
「ケースバイケースかぁ。嫌だなあ」
「いいんじゃない? 実際かがりん、体は間違いなく女の子なんだし」
「私の身になって考えてほしいんだけど、蝶田ちゃんだったら友達にココ見せる? 見せないでしょ」
「見せる理由ないし見せないよ」
「そういう事」
「でも、小鞠ちゃん気になってるんじゃん?」
うーん、と考える素振りで顎に人差し指を当てながら言う蝶田ちゃん。
考える素振りをしてんだから考えてほしいものだ、気になってるからって自分の性器を見せてたまるか。
「八尋ちゃーん、開けてよー!」
「嫌だよ、私今からおしっこするから外出ててよ!」
「え、かがりん今するの? ウチいるよ!?」
「あなたも早く出なさいよ……」
「でも、今出たら小鞠ちゃんが」
「……確かに!」
おかしな話だよ、なんで同じ個室に入ってくるのか。トイレの個室は個人で入る想定だから個室なのにさ。
「大丈夫! チラッと見て確認したらもう見ないからー」
「何も大丈夫じゃなーい!」
「いいじゃん! それにさ、ここで体もちゃんと女の子って証明しといた方が後々トラブルにならないと思うよー?」
「トラブルとは」
「体育の着替えの時間とかさ、皆ちょっとだけ八尋ちゃんに見られないようにしてるじゃん? 気にしない子もいるけどさ」
「そりゃまあ、元男ですし」
「昔の事は仕方ないにしてもさ。やっぱ女子だから実態が分からないと怖いじゃん? ちゃんと体は全部間違いなく女子ですって証明されないとさ、女子の格好してるだけの男子って可能性が潰れなくて怖い思いしてる子もいると思うんだ!」
「一理あるね」
「蝶田ちゃん!? ダメだよ、私の味方して蝶田ちゃん」
「いやでもさ、かがりん。ウチの友達も言ってたんだ、女装の可能性はまだ消えてないよねって。もしそうなら怖いかもって」
「んなバカな……学校お墨付きのオフィシャルトランスセクシャラーなのに!?」
「そういうのの正式な書類とかって皆に公開されたわけじゃないしさ。疑いが晴れないと信用しきれないよね」
「そんな事言われても……てか、蝶田ちゃん私のやつ見たじゃん!? ちゃんと女だったっしょ!?」
「うん、間違いないね」
「それを説明してやってよ!? 怖がってる子がいるならさ!」
「嫌だよ……なんか変態みたいじゃん……」
「うぐっ」
確かに、クラスメートの生殖器の話をクラスに流布するってどんな内容であれ気持ち悪いな。でもそれを言ったら、俺がこの場で朔月さんに見せても同じ感じで周りに共有されないだろうし、見せ損にならないか?
「私もね、実はそういう不安があって八尋ちゃんとの距離感に戸惑ってたんだ」
「というと」
「ほら、私つい衝動的に人に抱きついたりしちゃうじゃん? 仲良い子とか可愛い! って子いると居ても立ってもいられなくてさ」
「ウチにすら抱きついてくるもんね……」
「可愛いんだもんっ! 八尋ちゃんにもそうしたいけど、都子ちゃんの話が頭によぎると体が止まっちゃうんだよね……」
「ふむ」
「でも、八尋ちゃんって私よりも小さくてぷにぷにしてるのに表情だけクールっぽくて、なのに言ってる事天然っぽくてもう可愛くて限界なの! ずーっと八尋ちゃんの事を力いっぱい抱きしめたかったの!!」
身の危険かな。俺はぬいぐるみじゃないよ。
てか菊池さんも言ってたけど、俺の発言って別に普通だろ。なんだ、バカっぽいとか天然とか、そんなキャラじゃないわ。
「だからここでいっちょ、今まで以上に仲良くなる為にさ! 一肌脱いでほしいの!」
「脱衣だけにってね」
「やかましいよ。上手くないし」
ボソッとボケる蝶田ちゃんにボソッと指摘してやった。落ち込む蝶田ちゃん。ギャグセンス脳死すぎ。
「てか、そろそろ膀胱まじで限界だから一旦出て……!」
そんなこんなしていたら腹の下でリリリ、と質量が降りてくる気配がした。全力で我慢してはいるが、男の時よりも耐える感覚に手応えがなくて留められている実感がしない。
制服やパンツを汚したくもないし、蝶田ちゃんが出たら速攻脱げるように腰の位置に手をかけてはいるが、このままでは時間の問題だ。刻一刻とダム決壊のカウントダウンは進んでいた。
「んー、でもこれ開けたら小鞠ちゃん入ってくるよね」
「もちろん乗り込むつもりだよー」
「乗り込むつもりだよー、じゃねぇえ。まじでそういうノリ良いから、一旦許して。しんどい、から」
「だって。どうするの? 小鞠ちゃん」
「はあ、わかったよー。じゃ、何もしないから出てきなよ花ちゃん」
音姫の向こう側で確かに諦めを含んだ朔月さんの声がした。よかった。どんな映画でも、拷問シーンが進展もなく冗長だと駄作認定を受けるからな、耐え忍ぶ時間は終わりのようだ。
蝶田ちゃんが鍵を開け扉を押した瞬間、俺もパンツとスカートを下ろし便座に座り直した。
「やあ」
「えっ……止まっ」
「ごめんね、かがりん……」
「うっ、うぅうううぅぅぅ……」
恥ずかしさで顔を手で隠す。耳まで熱くなってるのが伝わり、余計に恥ずかしくなる。
それまで全力で我慢してくれていた膀胱は、俺が放尿のGOサインを出すとウォーターカッターばりの勢いで尿を射出した。
ブシャアアア! と勢いよく出ている時よりも、最後ら辺のちょろっ、ちょろって最後の一絞りしてる時の方が恥ずかしかった。上手く説明できないが、ああ頑張ってるなあって思われそうな感じで、こう、胸とか指とかがムズムズする。恥ずかしい。
「水、流して……」
顔から手を退かせないので、俺はそのままの姿勢で頼むとどちらかが無言でレバーを引いて水を流してくれた。俺はこのトラウマを一生引きずるし、仮に謝られても水に流す気はサラサラないが。
「あはは、いい事あるよ。八尋ちゃん」
「一生分の悪い事が過ぎ去ったんなら何が起きてもいい事だよ」
「大袈裟だな〜! でも、これで心置き無く八尋ちゃんにスキンシップ出来るよ!」
「拭くから一旦出てこっか……」
意気消沈した俺の言葉に2人はそろそろと個室を出ていった。濡れたまたぐらをトイレットペーパーで拭い、トイレに投入し改めて流す。
パンツスカートを履き直し個室を出て、手を洗うために洗面所の蛇口を捻る。
「かがりん、どう? メンタル回復した?」
鏡越しに蝶田ちゃんと目が合う。あはは、と目を逸らし笑うと彼女は「こりゃ重症だ」と言った。
こんな事があって軽傷で済む奴がいるのだろうか。人によっては真面目にトラウマになってるだろ。
「小鞠ちゃん、流石にやり過ぎだったんじゃない?」
「だったかなあ。ごめんね〜八尋ちゃん」
「今後トイレに来る度今日の事がフラッシュバックするよ……」
「本当にトラウマになってる!? ああん許して八尋ちゃん悪気は無かったんだよぉ!」
わ〜っと手を伸ばし近付いてきた朔月さんに謎抱擁をされる。
なるほど、確かに今までなら頭を撫でられる程度はあれど抱きつかれる事など無かったし、壁が1枚とっぱられたのは事実らしい。女の子って柔らかいね。
「かがりんって、胸は大きくない割に良いお尻してるよね」
そして、こちらの事を個室の扉に背中を預けて観察していた蝶田ちゃんが急な感想を発してきた。ライバルキャラみたいな立ち姿で言っていいセリフじゃないだろ。
「悪口ですか?」
「そんなつもりじゃないんだけどさ。1回触ってみてもいいかな?」
「だめに決まっておろう」
「えー! じゃあ揉むのは……?」
「もっとだめ」
「えー! じゃあじゃあ、叩くのは!?」
「なんでいいと思った……? ダメに決まっとるがな。てか、放尿見られた上に尻まで手付けられたらいよいよだろ!?」
「そう言わずに〜」
「うぎゃっ!?」
抱きつかれたまま、密着した朔月さんに尻を撫でられて可愛くない悲鳴を上げてしまった。朔月さんから離れ、彼女を睨みながら対峙する。
「いきなりなに!? 女認定してから大胆すぎだろ!」
「ぐへへ。私実は、男よりも女の方が……」
「ゆ、百合女子!?」
「? よく分からないけど、私的に八尋ちゃんはかなり"アリ"なんだよね……!」
すっごいニコニコな笑顔で朔月さんが手をワキワキさせる。ギャルから変態にジョブチェンジした彼女はもう留まることを知らない様子だった。
スパァン!!
「いだぁっ!?」
朔月さんと論争を繰り広げていたらいきなり蝶田ちゃんに尻をぶっ叩かれた。スカート越しなのにいい音鳴るから生尻だったら楽器にされていた説まである。
「何すんだよ!?」
「今だよ小鞠ちゃん!」
「は? ひやぁ!?」
今度は後ろから尻をむんずと掴まれた。精密すぎる連携にアッパレと言ってやりたい。
「わあ、いい丸さ〜。なんか可愛いなぁ、八尋ちゃんのお尻」
「セクハラですけど!? 離しなさい!」
「女同士じゃーん。ねえ、花ちゃん?」
「そうそう。女同士ならセクハラになりませーん」
「女同士でもセクハラ自体は成立すると思いますけどねぇ!?」
「あはははっ! この際だしかがりんのカップ数も測っちゃお〜」
「こら!? 手で分かるもんじゃないだろそれ! やめっ、揉むな!!」
しばらく2人に身体を揉みくちゃにされ、息も絶え絶えに抵抗し2人のエロモードをようやく断ち切ることが出来た。
およそ10分程度の格闘だった。
何故、同級生の女子二人に放尿を見られて尻を叩かれ胸を揉まれたのだろう。
俺、ガチの前世で国家転覆でもさせたのだろうか。それくらいの悪事はしてないと、この不快度と釣り合いが取れない。
「じゃあウチもトイレしてくるし、2人は戻ってなよ」
「ここで待ってるよー。一緒に部屋戻ろ、飲み物も入れ直したいし!」
蝶田ちゃんが個室に入り音姫が鳴り出す。まったく、たかだかトイレに行くだけだったのにどっと疲れた。それに、部屋に戻ったら絶対都子から何かしらの質問を受ける羽目になるだろうし。だるいなぁ。
「本当に八尋ちゃんって肌綺麗だよね〜。白いし。羨ましいなあ」
一息つくのかと思いきや、すぐに朔月さんは話を振ってきた。今度は美容系の話題だろうか? あんまり引き出しがないぞ、そういう女の子女の子してる話題は。
「肌白いのに関しては、ずっと入院してて包帯巻いてた年単位の引きこもりだったっていうのが大きいんだろうけどね。あのちゃんみたいなもんよ」
「あのちゃん?」
まだあのちゃん大バズりしてないのか。相変わらず未来人ムーブ脱せられねえな〜。
「肌質も入院の影響かもね〜」
「へぇ〜。いいな。私、油断してるとすぐにニキビ塗れになっちゃうんだ。メイクでどうにか隠せるけどさぁ」
「そうなの? 見た感じじゃ分からないや」
「今は肌の調子がいいけど、去年とかすごくてさ。元々発育が早い方だったから、小学生の頃とかもう本当にコンプレックスだったよ」
「へぇ意外。やっぱ可愛いって努力の賜物なんやね〜」
「都子ちゃんや紗理奈ちゃん、それに八尋ちゃんみたいな天然物もいるとそうとも限らないな〜って思うけどね! じぇらじぇら!」
「2人はまだしも私はそれこそ作り物なんよな……何にせよすごいよ。男子にも女子にも人気だしさ、朔月さんって」
「えへへ、そうかなあ」
と、こうなったなら褒められ殺されてデレデレするのが漫画とかの定石だと思うのだが、何故か俺が朔月さんによって両頬を引っ張られた。ぐにーって。なんで?
しかしまあ、よくこんなに高いテンションを維持出来るものだ。脳みそが加齢を重ねてしまっている俺にはカロリーの高すぎるキャラ作りをしていて朔月さんに対し尊敬の念が尽きない。
疲れないのかな、なんて思ってしまう。折角のマンツーマンタイムだし、ちょっとしたトークとして聞いてみようかな。
「朔月さんって、いつも明るいし人懐っこいしすごいよね。私みたいな根暗には眩しいわ」
「え〜? 別に明るくないよ私!」
「明るいでしょ。イツメンの中でも司会進行問題提起係はいっつも朔月さんじゃない?」
「あははっ、遊ぶ時とかはそうかもしれないけどさ。普段はあの二人が物事を決めてると思うよ? 主体的に動くとか私には無理だも〜ん」
「そうかなあ? 何が起きても割と面白おかしく茶化したりするし、明るいのは絶対あると思うよ?」
「それはさー。人前なのに楽しそうにしてなかったらさ、人生ぜんっぜん楽しくなれないじゃんね〜」
「ふむ?」
あまりよく分からないけど、本人がケラケラと笑いながら言ってる様子を見るに深く考えて発してるわけではなさそうだ。いわゆる『人生楽しんだもん勝ち!』って感じなのかな。
「おまたせ〜」
他愛のない話をしていたら蝶田ちゃんが個室から戻ってきた。
「何の話してたの?」
「八尋ちゃんのお尻の柔らかさについて話してた所だよ!」
「してないねぇそんな話。朔月さんって明るくて良いねぇって話だよ」
「恋バナとかじゃないんだ。普通こういう場でする話ってそういうのじゃない?」
「八尋ちゃんにそれらしい事があったらここに来るまでに気付いてるよ〜」
「ごめんなさいね。話題に事欠く人間で」
手を洗いながら蝶田ちゃんが「かがりんはずっと純粋無垢であれ〜」と言って笑っていた。
どうやら蝶田ちゃんは早速大人の階段を登ってしまっていたらしい、だから心無しか最近少しドライな感じがしてたのかな。前のガツガツした感じが少し緩和されてるんよな。
「八尋ちゃんにもすぐにそういう相手出来ると思うけどな〜」
「出来ないよ。私は男を好きにならないし、セックスも痛そうだから一生しないもんね〜」
「とか言いながらあっさり彼氏作って処女じゃ無くなりそうな雰囲気あるけどね。かがりんみたいな子の方がって話、よく聞くし」
「私みたいな子の概要を詳しく」
「小さい、男と話す時の距離が近い、可愛い系、性欲強そう」
「性欲強そう!? 私そんな風に見えてるん!?」
「「うん」」
「どーこを見てそう思った!」
「たぬき顔だし涙袋大きいし泣きぼくろあるし」
「さっきも言ったけど背が小さいし、基本受け身でボディタッチに嫌な顔しないし、よく食べるしね」
「どっちも偏見だけど特に後者、蝶田ちゃんの偏見が個人的意見すぎる」
「八尋ちゃんなら絶対イケメンな彼氏捕まえれるよ〜。でも、性格的にDVしてくる人に好かれそうだなあ……」
「きっと避妊しないような奴に好かれるよね」
「ぞっとしない話しかせんやん君ら……」
体を抱く仕草を取ってブルブルしてると、少し笑った後に朔月さんに「そろそろ戻ろうか」と言われ、彼女を先頭にトイレを出た。
蝶田ちゃん、下ネタとか恋バナジャンルの話は不得意なのかと思ってたけどそんなことも無いのかな。普通に処女が云々言ってきたし。
彼氏が出来た影響でオープンになったとかならエッチで良いね。
「わ、ここ無料で綿あめ作れるって! こんなサービス知らんかった!」
「ホントだ〜。やってこやってこ!」
飲み物を入れ終えて部屋に戻ろうとしたらカウンター横の空間にある機械に2人が釘付けになった。
お祭りの屋台とかにある綿あめを作る機械だ。機械の脇にある容器にざらめ糖が入ってたらそれを投下し、綿あめをタダで作れるってやつだ。
ざらめ糖がちゃんと装填されてるのを見たのは小学校ぶりだ。今日はあんまり学生の客来てないのかな?
ちなみにこれ、綿あめが出来上がるまでちょっと時間が掛かる。ざらめ糖を砕いて糸状にするまでと、突っ込んだ割り箸に糸が巻き付く時間がかかるから数分は時間を使うことになる。
順番待ちしてる時まあまあ長い時間暇になるんだよな。
俺は手が空いてる方の蝶田ちゃんの肩を指でつんつんと突いた。
「ごめん、すぐ戻るから飲み物持っててくれない?」
「ん? いいけど、かがりんどうしたの?」
「自転車の鍵閉めたか見てくるよ。気になってさ」
「そっか」
テキトーな理由をでっち上げてコップを渡し階段を下る。
ほんの一瞬の完全な暇な時間、タバコを吸うのに丁度よすぎる完璧なタイミングだ。このベストタイミングを逃したらまたしばらくタバコの存在を忘却しそうなので、無意識的に早足になる。
「よし、今日はスカートにちゃんとある。なけなしのセッタ!」
親父から盗んでから一切手付かずだったタバコの確認も取り、俺は店に出てから一応都子達に見つからないようにとカラオケの横のコンビニまで行ってそこの喫煙所を利用する事にした。
ふへ、ふへへ。
久しぶりの喫煙、大人の頃ぶりの喫煙だ。別に禁断症状に苦しんでるわけではないが、久しぶりにやる娯楽はやっぱり心が高鳴るよな! 煙を吸うあの感覚、早く味わいたくて五臓六腑が会いたくて震えている。
「いてっ」
「あ、すいません」
タバコを取り出し、カラオケ方面から背を向けるために体の角度を変えたら思い切りそこに立っていた人に肩をぶつけてしまった。タバコにばっか目線が行っていたせいで視野が狭まっていた。
相手が半グレや不良だったりしたら命からがらの大ダッシュ逃亡をしないとならない。ゆっくりと、相手を刺激しないよう伺うように顔を見上げ見る。
「大丈夫っす。……けど、中学生がタバコ吸うのは良くないっすよ」
「えっ」
「着てる制服、俺も同じとこ通ってます。……? あ、学校にはチクらないんで大丈夫す。てかチクるも何もって感じだし」
「……」
「……あの? だから、チクらないですって。無言で何見つめてるんすか、別に怖くないですよ」
「……幸太郎?」
「へ? はい、白幸太郎です、けど。知り合い?」
「幸太郎だああああ!?」
なんか、喫煙しようとしたら私服姿の幼馴染、白幸太郎と再会した。
なぜ平日の夕方なのにスウェットとサンダルという私服、というかダル着なのか。そんな疑問はあったが、ずっと会いたがってたのに会えていなかった幼馴染との再会を前にしてそんな疑問は消え失せ、俺はタバコを仕舞った。
そして、幸太郎の肩に手を回しグイッと彼の顔を近付けると胸を軽くドンッと叩いた。
「久しぶりだなー! どこで何してたんだよお前、前の家行っても反応無かったしさぁ!」
「うわあああっ、いきなり何するんすか!?」
「は? 何言ってんのお前」
「近い近い近い近い! それに、いい匂いが直に……いやキモイな間違えた! あの、胸当たってますから!!」
「胸? ……あ」
ワイ、女体やん。忘れてた。そりゃ困惑というか、ドキドキしてしまうよな。知らん女子やもんね、相手。
俺は幸太郎から手を離す。彼は若干名残惜しそうな顔をした、欲望に忠実だなあ。
「いきなりごめん! 聞いてくれ、俺の名前は鹿狩八尋。お前の幼馴染なんだ」
「……はい?」
「俺の名前は鹿狩八尋。お前の幼馴染なんだ」
数秒間フリーズした幸太郎は腕を組み、クールな表情を作った後にこう言った。
「……おどれは壊れたテープレコーダーか」
「ナイスツッコミ。で、それは置いといて。どうも、鹿狩八尋でぇーす」
「……都子から聞いた話本当だったんだな」
「話自体は聞いてたのか。すまんね〜、中々連絡取れなくて」
「そんな話あるわけないし信じてないんやが」
「それが自然だわな!」
やはりそうなるよな、と分かりきってた現状。あるわけないもんね、友達が性転換してるとか。不審者扱いしてこないだけマシか。
とりあえず今後連絡を取り合いたいので連絡先だけ交換し、幸太郎を解放する。
こういう時の動きは早急に。ダラダラと意味の分からない感じで話を延ばしたら信用を勝ち取るのは難しくなる、これは布石だ。
にしても、ここだけ見たら逆ナンパだなあ。他の連中に見られなくてよかったなあと心から安堵した。
「見ちゃった♡」
見られてた。幸太郎に一方的に迫って、連絡先聞いて、ばいばーいって笑顔で手を振る所。寄りにもよってそういう話題が好きそうなギャルに見られてしまった。
「朔月さん、話があるんだ」
俺は力強く朔月さんの両肩を叩き、出来るだけ笑顔を作る。朔月さんは何故か俺の笑顔を見て、小声で「あ、死んだ」と呟いた。なんでだろうね、真相は闇の中である。