子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
中学生の10月は波乱の月である。学校によるが。
我が中学では、なんと10月の前半に小規模のテストが実施され、次に合唱コンクール、体育大会、そして文化祭と、これでもかと学校行事が組み込まれており学生達が息吐く暇もないくらい多忙なのだ。
学力テストを終え、合唱コンクールも終え、下旬に連日行われる体育大会と文化祭までの準備期間、束の間の平常と変わらない学校生活が始まる。
いつもと変わらない学校生活、というのは誤りか。
合唱コンクール前からうちのクラス、2年b組の空気は異様に高い湿度で肌に纏わりつくようになった。
「また休みだねー委員長さん」
クラス委員長である長谷川瞳美が学校に来なくなった。
俺が泣かせたあの日からだ。皆と委員長さんの歯車が噛み合ってないこと、それをわざわざ本人に分かるように言ってしまったが故に、来られなくなった。
大和田先生がクラスメート全員に何があったのか、尋問をかける時間もあった。
そこで俺は槍玉に挙げられて、大和田先生に叱られて謝りに行く事になって周りに攻撃されるようになって、そんな風に未来を空想していたのだが、そうはならなかった。
クラスのほぼ全員が、一貫して委員長さんに非があっと言ったらしい。
『自己中だったから指摘したら逆ギレされた』
『会話にならなかった』
『性格が合わない』
『誰の言葉も耳に入ってなかった』
『ウザかった』
『他人を巻き込むのがいけ好かなかった』
『先生にいい顔ばっかしてて、生徒達を見下してた』
各々口にした内容はいずれも委員長さんを輪の外に弾き出したことに対する動機付けで、彼女が学校に来れなかったことに対しての意見なんて1度も出なかった。
大和田先生に怒られた。クラス全員で。
それに歳だからだろうか。大和田先生は泣いていた、皆それを見て顔を伏せて笑っていた。
大和田先生の泣きながらに訴えた「友達を大切にしろ」だのそういう説教は、今ではうちのクラスの笑いネタの中心だ。モノマネが流行ってるレベル。
……というか、誰も委員長さんを『友達』とは思っていなかったんだ。「友達を大切にしろ」、などという叱りは全くもって筋違いだ。友達を大切にした結果、友達じゃない奴が排斥されたんだから。
「今何してるんだろうねー?」
「さあ。家で1人で合唱してるんじゃない?」
「合唱の意味! それただの独唱だから!」
キャハハハッ、と愉しげな声が教室に入る前から聞こえてくる。クラスメートの、明るめなグループの女子達だ。
おはようと挨拶すると、可憐な笑顔で「鹿狩さんだ、おはよー!」などと明るく挨拶をしてくれた。
表と裏とか、二面性とか、そういう話じゃなく。好ましく思う相手に良い顔し、好ましくない相手に良い顔をしない。ただそれだけ。当たり前の、事だ。
「おはよ」
「おはよーかがりん!」「おはよー!」「はよ」
「おはよ。はい、八尋」
「んぇ? なになに」
「ゴディバのチョコ。あんた甘いの好きっしょ。お土産」
「え! 高ぇやつ!? やったぁ!」
教室に着き、イツメンに挨拶を交わすと菊池さんが高級感ある箱に入ったチョコをくれた。都子達も別々の土産を貰ったようで、ちょっとした菓子交換会になっていた。
朔月さんが自分の横の椅子を手でポンポンと叩いていたので、荷物を自分の席に置いてそこに座る。箱を開け、中のチョコを1個取りだし口に入れると、そのタイミングで八木が教室に入ってきた。
「おはよー! お前ら何食ってんの? 美味そー!」
「わー! 航太髪触んないでよー!」
「あ、分かった! 土産だろ! 紗理奈と海彦、一緒に東京行っとったもんな!」
「無視すんなー!」
朔月さんの髪を指でひょいひょい弄りながら八木が会話に混ざってきた。最近八木と朔月さんの距離が近い、もしかしていい感じ? 前の彼氏とは別れたって言ってたし、恋多き乙女だこと。
「俺にもなんか頂戴やー」
「海彦から貰わんかったの?」
「まだ海彦と会ってない〜」
「先に会ってしまったのが敗因か……」
八木は朔月さん、都子、菊池さんの順でお菓子をせびる。皆結構食べ進めていて残り2個とかだから突っぱねる。
「私のあげるよ」
「え、いいの!? 八尋ちゃんやっさしー!」
「八尋ちゃん!? 呼び方キモっ!」
「おいキモって事ないだろー?」
口が滑ってしまった。だって俺、男の時もこいつと友達やってたし。男友達として付き合いがあった相手に女扱いされるとか鳥肌が立って仕方ない。
「ごめんごめん。ほら、口あけ〜」
「お? ぉあ〜」
指示通りに八木が口を開けて待機を始めるので、手に取ったチョコを食べさせてやった。美味そうに咀嚼している、可愛いので撫でてやった。困惑しとるわ。
チャイムが鳴り、大和田先生が教室に来ると、皆足早に自分の席に戻った。
まだ大和田先生がブチ切れ大叱りをしてから日が浅いから、導火線に火を着ける恐れがある行動は極力慎みたいらしい。
「昨日の日直、日誌ちゃんと書かなかったから今日も続投な。水曜の6限に体育大会の種目決めをするから、それまで時間割は通常通り。連絡は以上」
とだけ言うと、大和田先生は教室を出ていった。まだ気が立ってるのか、表情が厳しかった。
ちょっとした笑いが起こる、もう大和田先生の挙動は全部笑いに変換されるのかもしれない。
「はよ〜っ。あれ、ワダセン居ねえじゃん。あいつ遅刻?」
大和田先生が去ってから佐藤が急いだ様子もなく教室に来た。「遅刻はお前じゃ」と八木に突っ込まれ、また笑いが起こる。笑いのツボが浅い、朗らかなクラスだなあ。
「……馬鹿みたい」
約1名、周囲の笑いに呑まれずずっとノートにガリガリと何かを書き連ねる女子を除けば、このクラスは他のクラスより互いの仲が良いクラスだと思う。
俺の前の席に座る今泉絵里香は、今日も今日とて背中を丸めガリガリ音を鳴らしている。
委員長さんが来なくなる以前からいじめが激化して、来たり来なくなったりを繰り返す今泉さん。よくもまあ定期的に登校できるものだと感心する。
しかし、何を毎日ガリガリと書いているのだろう? 呪詛でも吐き出してるのだろうか。
「ボンバーシュート」
今泉の背中越しにノートを立ち上がって覗こうとしたら、辻井が放った消しゴムが今泉さんの頭に当たった。
テンテン、と床に落ちた消しゴムを、今泉さんは拾い眺める。
「うわー最悪! ボンバーに消しゴム取られた! もう使えんくなったわー汚な〜!」
辻井がそう言うと笠原、それと辻井が仲良い山口って奴と三人で今泉さんの席の周りに来て、口々に「人の物盗んなよ」だの「死んどけ」だの言い始めた。
委員長さんが学校に来てても同じ目に遭っていたかもしれないし、ある意味良かったのかもしれない。不幸中の幸いというか。
「ん? お前なに書いてんの?」
「っ!」
「あ、隠した。何? 俺らの悪口?」
「見せてみー? おい、おーいー」
ノートの上に突っ伏した今泉さんの体に足を当て押し退かす。自分からそんな事をしたくせに、それをやった辻井は上靴を脱いで「うえー」と言いながら汚いものを落とすかのように振って見せた。
嫌がらせのレベルが小学生なんだよなー……って思いたいけど、中学校なんだよなここ。簡素清貧な中学生なんか理想なんですよ、まだまだ僕らはジャリガキだい。
「なんだこれ、気持ち悪っ」
「呪われんじゃねえの?」
辻井達が奪った今泉さんのノートには特に意味のある言葉は書かれておらず、シャーペンで塗りつぶされた黒い落書きみたいなものが沢山描いてあった。
呪怨にもノートに落書きされてる下りが多々あったが、まじで何かしらの呪術を興そうとしてるのではなかろうか。そう思わせるぐらいには不気味なノートだ。こりゃ相当精神イッちゃってる。
「ちょっと、最近やり過ぎだよ〜」
今泉さんの前の席の女子が辻井達を窘める。だが、真剣に注意してる風でなく、あくまでやり過ぎない程度に楽しもうよとでも言うような、ニヤニヤした感じでの言い方だった。
「なんだよ堀口、お前だって面白そうに見てんじゃん。ボンバーの事助けてやればー?」
「えー! 嫌だよ、私に関係ないし〜」
「なら口出しすんなよな」
「あんまりやりすぎるとワダセンにまたなんか言われるだろって言いたいんやろ」
「そうそう! 桂川の言うとーり! あいつ冗談通じないんだし気をつけよー?」
「あ〜……それはだるいなー。おい」
山口が今泉さんの尻を蹴った。倒れ込む今泉さんを避けるように接触した席の生徒達が机を離し、静観している。
「ボンバー? ワダセンにチクッたりしねぇよなー? 変な事したら俺ら、何するかわかんないよ〜」
んな稚拙な脅しあるかいっ。別に言うたらええやんけ、何するかって大した事出来んやろがい。
「……ねぇ、鬱陶しいんだけど」
「っ。竜胆さん、ごめんなさい」
「いいけど。辻井、調子乗りすぎ。他の奴にも迷惑かけんな」
「うっせえな。シラケるから黙ってろよ竜胆」
「は? じゃがいもチビが何を偉そうに。八木のひっつき虫の癖に」
「んだとてめぇ!」
「都子、黙って見てよ〜ぜ。面白いじゃん」
今泉さんが倒れた先には都子も居て、都子は鬱陶しそうに辻井に向かい抗議を始める。
途中、佐藤が口を出してきて都子は舌打ちをして口を閉じるが、尚も文句を止めなかった辻井の顔面を佐藤が掴む事によって強引にその口論は終わった。
喧嘩、強いもんなあ佐藤の奴。昭和みたいな話だが、佐藤の場合は平気で人に暴力振るうから逆らえんよね。
「樹利〜、一服しに行くべ」
「一限からサボってたら学校来る意味ねぇやろが。昼な、昼」
「そか。じゃあよ、海彦〜」
「うん?」
「今泉の鞄の中見てみやぁ」
笠原は今泉さんの鞄の方に目線を向ける。今泉さんはそれを見て取り乱すが、辻井が面白可笑しそうに彼女を抑える。
八木が笠原達に見せようとしていたものはすぐに見つかった。
それは、呪術の書とは異なるもう1冊のノートだった。
「お? おっ、おーおー」
「笠原? なんやのそれ、見せてや」
笠原からノートを受け取った辻井は中身をパラパラと捲って見始めた。そして、爆笑しながらノートを皆に見せびらかした。
「なんだこれ! 自作の漫画ぁ? 絵ぇヘッタクソ!!」
「やめてよぉ!!!」
人の創作物を笑う声が響く。主な笑い声は辻井や山口、そこら辺と仲良い男子連中。女子は、大体は下らなそうというか、引いた感じでガン無視を決め込むか小声で囁きあっていた。
辻井がこっちまで踊るようにやってきたので、俺は立ち上がって辻井の振り返りざまに右拳を伸ばした。
「おりゃっ」
「ぶへっ!?」
やったぁ。渾身の右ストレートが辻井のほっぺにぶっ刺さったぞ。気持ちい〜、人殴んの最高〜。
「な、何すんだよチビ女!!」
「いがぐりチビ男。青春球児が女をいじめるとか、ださすぎキモ男」
「なんだとてめぇ! 調子乗んなよブス!!!」
「調子乗ってんのお前の方だろ。その漫画、返してやれよ」
「誰が返すかバーカ!」
辻井は今泉さんの黒歴史ノートを投げる。放られたノートは八木の方へ飛んでいき、それを彼は上手くキャッチした。
「八木くん、それ返して」
「え〜。やだ♡」
「ならいーや」
「……は?」
呆気なく諦めた俺に、八木はニヤつきを止めてつまらなそうな顔で睨んできた。
「これ、今泉さんへのいじめ動画」
俺はスマホを取りだした。そして、今しがた撮ってた動画をちょっとだけ流して、すぐにゲーム用のサブ端末にその動画を送った。
「ノート渡さなかったらこれ、ワダセンとか2人の親とかに見せつけるよ」
「何言ってんだ、お前」
「難しい事言った?」
「……脅迫かよ」
「うん。わざわざ追いかけ回すとか馬鹿みてぇじゃん」
「それ、貸せ。スマホ」
「先にノート返してあげて?」
「ふざけんな」
「ふざけてないし。てか、もう人に送っちった。早く返してやんないと、取り返しつかない事なるかもよ」
「はあ!?」「ざっけんなお前!!!」
八木と辻井がバキバキに目をかっぴらいて驚いてたから吹いた。そこはおもろいから良いとして。うわー。スマホ取られたー。
いやまあ、人に送ったってのは嘘だけど。家にあるサブ端末に都合よく『あーにゃ』ってテキトーな名前設定しといてよかった。
「ほ、本当に送ってるよこいつ!」
「頭おかしいのかお前!?」
「身から出た錆なんだよなあ」
「くそっ! ふざけんなよチビ女!!」
辻井に思いっきりスマホを床に叩きつけられた。流石にあれは死んだろうな〜、泣いちゃおうかな。
「どうにかしろよお前!!」
「どうにかしろって?」
「送った動画消させろよ!!!」
「無理でしょ。私のスマホ、たった今辻井くんがぶっ壊したじゃん」
「あっ!?」
「どうやって消させればいい? テレパシー?」
「ふ、ふざっ、ふざけんなっ!! 今すぐどうにか」
「だからどうやって? あー、やばいねー。今日中に、何なら今すぐ何とかしないとなのに、今日中にスマホもLINEも直すとかむずいよな〜」
「てめぇええ!」「うるせぇーよー辻井〜」
八木が辻井の腹を蹴った。相当思いっきり。苦しそうに呻きながら辻井が床を滑る。ちょっとおもろい。
「鹿狩さん。送ったやつ、誰?」
「東京在住のアーニャちゃん。高校生」
「嘘つくなよ、なんで東京に知り合いなんかいんの?」
「ついったーで仲良くなった人なんだよね〜」
「……LINE以外で連絡取れないのかよ」
「取れないよ〜Twitterやめたし」
「……お前、何余計なことやってんだよ!」
腹を押えて立ち上がろうとしていた辻井に追い討ちの膝蹴りが入った。いったっそ〜。昏倒してんじゃんこわ〜……。
「てめぇもさ、もう少し考えて行動しろよ。程度の低い事で、なにやってくれちゃってんの?」
「え? ……え、私? なんで責められてんの、悪い事してないのに」
「はっ。この女……空気読めよ少しはさぁ〜」
ポーカーフェイスを気取ってるが、内心焦りまくってるんだろうなあ。八木は目の前にあった椅子を蹴飛ばしこちらに向かってくる。
やば。手が伸びる。俺の髪を掴もうとする八木、流石に辻井みたいに顔面に膝を入れられたくはなかったので慌てて後ろに下がる。
俺の頭があった位置に横から手が干渉してきて、俺を捕まえんとする八木の手を妨害した。邪魔してきたのは佐藤だった。
え、嬉し。なんで助けてくれたか分からないけど。
「ってぇな。何すんだてめえ」
「あー……ほっぺに蚊がいっ」「死ねや!」
わ、わ。八木が佐藤を殴った。殴り飛ばした。そんな迷いなく人って殴れるもんだっけか?
真剣な殴り合いが始まりそうな剣呑な雰囲気なのですが。なにここ鬼邪高? 最後まで立ってなきゃテッペン取れないタイプの学校? 入るなら達磨一家がいいな俺。
「行くよ、今泉さん」
「えっ?」
今泉さんの手を取る。もっちりもちもちのクリームパンみたいな丸っこい手だ。可愛いのに、なんでこんなマスコットみたいな子をいじめるかなぁ。
「鹿狩くん!」
拳や椅子を駆使して殴り合いをする八木と佐藤を掻い潜って都子がこっちに来た。先生を呼んできてほしかったなあ〜。
あ、もう呼びに行ってるのか。大衆の中に朔月さんの姿が見えない、行動派だね。
「ちょっと!」
都子は俺の腕を掴んで引き寄せてきた。まるで、今泉さんから引き剥がすように。なんで?
「なに」
「あんた、変だよ。どしたの急に」
「このまま教室にいたら先生に尋問受けるだろ。めんどいから逃げんの」
「めんどいって……なんで今泉も連れてくの」
「この場で1番腫れ物だから」
「は? 腫れ物だったら関わらなければ……なんでわざわざあんたが首突っ込むのよ。関係ないじゃん」
「んー……」
一々理由を聞きたがるな〜。
別にいいだろ、人にムカついてうっかり殴っちゃって、バツが悪いからその場から逃げたくなっても。腫れ物扱いされてる嫌われ者をどっかに逃がしてやろうとも。ガチャガチャ言われる筋合いないじゃろって。
やだやだ、殴り合いなんか起こるせいで女子の悲鳴が聞こえるや。この騒ぎだ、声が聞こえる範囲内に入ったら先生猛ダッシュで教室に来るだろうな。急いで脱出しなきゃ。
「あ、もう行くわっ」
「ちょっ、鹿狩!」
「ごめん都子。もし先生になんか言われたら早退したって! 2人分!」
「そんな無茶苦茶な……!」
「あでゅっ」
今度こそ今泉さんを連れて強引に教室を出ていく。階段を下ってる最中に教師連中に見つからなかったのは幸運か。
1階の玄関に来たタイミングで一限目開始のチャイムが鳴った。今頃教室はてんやわんやだろうな〜、なんて考えながら靴を履き替える。
「あのっ、鹿狩さん?」
「うん?」
「なんでこんなこと……」
「なんでって? 単にサボりたかっただけー」
「そ、そんな理由!? 私を巻き込まないでよ!」
「いいじゃん。片時でも不良気分になってみよーよ、模範的な学生はストレス溜まるよー?」
「余計なお世話だよっ!」
「あー、待って待って」
青春ドラマならここで思いっきり突き放されて熱い口論の応酬が始まる所だが、生憎とまだ学校内である。思いの丈をぶつけ合う青春ごっこをするにはリスクが高い。
「言い合いは学校出てからにしよ。今は軽く指名手配犯だからね私ら」
「だから私サボりたくなんかないって」
「申し訳ないけど、今教室戻ったら多分引くほど怒られるよ? 佐々木先生の老害さは熟知してるっしょ?」
「う……」
「まじにごめんけど今日は諦めよ? 気分入れ替えて、ダラダラサボろ〜」
てか、こういうポテポテしたオタクっぽいっ子って学校行っても意味無いって思ってるとばかり。想定と違ったな。
学校の連中レベル低いだとか、クラスのヤツら全員死んじゃえ〜みたいなツイートを見た事があった。そういう人ら、他人に巻き込まれる形で学校サボれる機会あったら大喜びしそうよな。
今泉さんはそういう人らとは違うのか、はたまた俺の人間ウォッチングが甘いのか。どちらにせよ、学校に対して表向きは悪い印象を持ってなさそうで良かった。
「うんとこしょっ」
グラウンドには体育をやっている連中。正門はグラウンドからも職員室前からも丸見え。
駐車場を経由する方の入口は中から丸見えの武道場と警備してる誰かしらの目があるかもしれない。という事で。
1時限目に都合よく使用されていなかった体育館を通り、その横のフェンスをよじ登って学校を脱出しスカートをパンパンと叩く。
今泉さん、思ったより重かった。俺は彼女がフェンスを登りきれるよう下から腕がへし折れる勢いで支えてやったんだ。これくらい頭の中で言う権利はあるよね。痩せてくれ。
「本当に出てきちゃった」
「サボりだね〜」
「お父さんに、連絡行ったらどうしよう……」
「お父さん厳しい人なん?」
「……厳しいって言うか、私の事で問題起きたら、凄い怒る」
「わーお毒親ってやつだ」
「……だから、こんな事したくなかったんだよ。お父さん怒らせるくらいなら、学校でいじめられてた方がマシ」
「ふーん。まーでも、そこら辺は一応考えてた作戦あるし。私に任せなよ」
「え?」
「無計画で人を連れ出すほど無責任じゃないってばよ〜」
そう言って肩をポンポンと叩く。
手を払われる覚悟でそんな行動を取ってみた訳だが、小さくなった今泉さんはなされるがままになっていたのでついでに頭も撫でて、顎もくすぐってやった。
猫みたいな音出した。可愛い。流石に嫌がられたけど。
「それで、どこに連れていくつもりなの? こんな朝早く、あんまりお店開いてないと思うけど」
「マックかスタバでモーニングにでも行く?」
「朝ごはんは食べてきちゃった……」
「まあ私もなんだけど。じゃあー……まあ、カラオケならやってるっしょ」
「カラオケ?」
「ん。あ、その前にうち来て」
「え? ……え!? 鹿狩さんの家に? なんで!?」
「私達は学生ですよ? 平日の昼に学校外を歩いてたら何があるか分からないし、擬態は大事っしょ? 服貸すから、制服脱いで遊ぼ〜」
と、提案すると、今泉さんは「え、え〜と」と控えめな声で意見を述べてきた。
「私、鹿狩さんの服入るかな」
「……パーカーならワンチャン? スカートはまあ、バレないっしょ」
「そうかなぁ」
「まあ合わなかったら合わなかったでGUにでも行きましょう! ってなわけで、ゴーラレッツ!」
学校を出る前よりもこちらの意向に乗り気な今泉さんを引き連れ、目指すは無人であるはずの我が家。時刻はAM8:52、親父が出てすぐの頃合だ。
さてさて、流れに身を任せて出しゃばった真似をしてしまった訳だが、明日以降の俺の学校生活は果たして安泰かな?
そんな不安を抱えながらも、一先ずの現実逃避に成り行きで連れ出してしまった今泉さんと会話をしながらいつもとは違う帰り道で自宅を目指した。