子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
女体に変貌を遂げてから、学校生活を始めてから初の進級を迎え、晴れて俺は中学三年生になった。
クラス替えによって人間関係がリセットされるのをかなり危惧していたがそれらは杞憂となり、何故か奇跡的に2年次に仲の良かった都子、朔月さん、菊池さん、蝶田ちゃんとまたクラスメートになれた。
また前回の世界で分岐した。俺は本来、都子と朔月さんとは違うクラスになる筈だったのだが、関わる人間に変化が出た影響だろうか。中三の頃のクラスの様相とは打って変わった面子が教室に揃っていた。
「おはよー!」
「おはよー小鞠。遅かったね」
「弟が全然起きて来ないからさ〜! 全く、いつまで経っても子供なんだから!」
「
「私も運動部ですけどぉ!」
「ほぼ幽霊みたいなもんでしょあんた」
「心外!」
猫のようなじゃらしあいをする都子と朔月さん。菊池さんと蝶田ちゃんももう打ち解けて二人で会話するようになり、俯瞰して四人を眺めるポジションに収まるようになった。いや〜、あぶれもの。
「あ、そうだ! 八尋ちゃん、今週末ひま?」
「暇だよ〜」
「じゃあ家来てよ!」
俺の肩に両手が乗っかる。背後から肩を掴んだ朔月さんに体をグワングワン揺らされる。テンション高いなー今日も。
「いいけどなんで?」
「うちの愚弟がゲームのリベンジしたいって!」
「おっけー、コテンパンのボロ泣きさせちゃお〜」
「お手柔らかにね」
言葉とは裏腹に頬を摘まれて引っ張られる。ブラコンお姉ちゃんだ、微笑ましい。
「小鞠の弟くんと知り合いなんだ八尋」
「ちょっとね」
「かがりん、ショタコン?」
「二個下の相手でショタコンにはならんでしょ」
「最近まで小6だったんだよ?」
「そんな目で見た事ないでーす!」
「いつまで経っても彼氏作らないのって、そういう事だったんだ。八尋……」
「ちっが……おい蝶田ちゃん!!」
デカい声を出すと二人は「冗談冗談」と笑った。
なんか、三年生に上がってから蝶田ちゃんの印象が大分変わった。校内でやたら注目を集めるグループに属してるからなのか、少し雰囲気が大人びている。都子と同じ方向性だ。冷たい令嬢タイプじゃないからこちらの方がより男ウケ良さそう、メガネが良く似合いますね。
というか、俺を除くこの四人はなんでどんどん垢抜けていくわけ? 中学生の素朴で飾りっけのない幼さがもう僅かにしか残ってないよ。みんな美人の枠組みに入った顔になってる、おかしい。やはり男か???
「なんか遠い所見てる。どうしたん、鹿狩くん」
「君が一番おかしいよ。なんでモデルなんかやってんだよ都子」
「え、何? 嫉妬?」
「当たり前じゃ! くそー!」
「鹿狩くん、相変わらずちんちくりんだもんね」
「一部分だけ凄い成長してるけどね……」
そんな事を言いながら、肩にあった朔月さんの手が胸に伸びた。胸を鷲掴みされる。
「ちょい!?」
「生意気にブラなんかして! 何カップなったのさ!」
「でぃ、D……」
「成長しすぎでしょこの数ヶ月で!? 転校してきたばっかの頃は私よりもペったんだったのにぃー!」
「その頃からBはあったよ……」
「嘘だー!」
嘘だ、と言われましても。ていうか俺の身体がかりんちょりんだから胸ばっかり目立ってるだけなんだよな。
「もう! 都子ちゃんも確かEカップあったよね!? おかしいよ!」
「わ、急に矢印向けられた」
「別に小鞠だって無いわけじゃないじゃん? あたしと同じBカップっしょ確か。走ると普通に揺れるくない?」
「八尋ちゃんに先を越されたのが悔しいの! 私より小さかったのにぃー!」
「いやだから、会った時点でカップサイズ同じでしたけど」
「いつの間にか越されたー!」
聞く耳持たないや。どんだけこだわってんだよそこ。佐藤にも最初胸のこと液晶って言われたし、微塵も膨らみが無いように見えたんやろな。
「蝶田は胸何カップなん?」
「え、それ言わないとダメなやつ……?」
「気になるー。あんた昨日の身体測定終わった後すぐ彼氏のクラス向かってったじゃん。覗き見れなかったし教えてよ」
「覗き見ないでよ〜。ウチは、その……」
胸のサイズを尋ねた菊池さんの耳元に口を近づけた蝶田ちゃんが、そっと自分のカップ数を彼女に教えた。
それはそうと、朔月さんはいつまで俺の胸をこねり回してるのだろうか。ブラが痛むのでやめてほしい。
「Gカップゥ!?」
「ちょっ、紗理奈ぁ!!?」
蝶田ちゃんから聞いた答えをそのまま大声で叫ぶ菊池さん。相当な驚きである、しかしそれはこちら側も同様だった。
「Gカップ!? じ、じ……G!? 花ちゃんそうなの!?」
「爆乳の域じゃん。どうやって潰してるの?」
答えを聞いた他の女子勢が大袈裟な反応を見せる。蝶田ちゃんは恥ずかしそうにしながらも、証拠の提示を要求する我々に仕方なさそうにリボンを外し、セーラー服のジッパーを少し下げて中を見せてくれた。
「こうやって、胸を潰して隠してるんだよ……」
少し前のめりになり、中シャツの首周りの部分を引っ張った蝶田ちゃんの胸元には確かにサラシと思しき物が巻かれていた。
「へぇ〜、本当に巨乳なんだ。なんで隠すの?」
「竜胆さんだって分かるでしょ、揺れると痛いし恥ずかしいんだよ……ウチ、そういうのをアピールするキャラじゃないし」
「う、裏切り者! 花ちゃんも裏切り者だぁ!」
「わー! やめてよ小鞠ちゃん!」
朔月さんが蝶田ちゃんの事をポコポコと八つ当たりし始め、困ったような顔であははと笑う蝶田ちゃん。ううん、平和平和。
「かがりん、助けてよ〜」
「いいなぁ……」
「かがりんもそっち側かい」
そりゃまあ、妥当に羨ましいよ。美人お姉さんに成長したいもん。俺からしてみれば四人とも憧れの対象である。一人取り残されるのはコンプレックス育成環境が整いすぎです。
っと、忘れていた事を思い出したので席を立つ。
「佐藤」
「なんだよDカップ」
「盗み聞いてんじゃねえよ」
都子達以外にも2年次からの延長で同じクラスメートは当然何人かいる。特に関わりが深かったのは今泉さんと佐藤である。
佐藤に借りていたジャージを返却する。雨を忘れた時に「これ被ってけ」と言われ渡されたものだ。
「コレ、ありがとね」
「おう。……てか、お前ら少しくらい声抑えろよ」
「あん?」
声。何の話だろうか。普段から結構なボリュームで会話してるし今更ではないだろうか? 佐藤は俺に、口に指を当て周りの声を聞くようジェスチャーしてきた。
他のクラスメート達の会話に耳をそばたてると、なるほど、さっきの会話が男子にも女子にも一定の波及を及ぼしていたらしい。ヒソヒソと胸の話をしてる声が聞こえてくるし。
なんか哀れだな、蝶田ちゃん。
*
新クラスになってから初の体育の授業はまだ何をするのか未定とのことで、今日はドッジボールかバレーボール、どちらか好きな方に参加し行うという授業が実施された。
俺が選んだのはドッジボール。女子の大半はバレーボールを選んだのだが、定員の概念が存在するしドッジボールの方が個人的に好きなのでこちらを選んだ。
「うぉらっ!」
「クソッ! いってぇな〜佐藤!」
自軍のエース、佐藤が放った球が敵軍の笠原の腕を打ち払った。
流石の怪力は健在のようで、佐藤にボールが渡る度に次々と相手の数が減らされていく。これは勝ちコースまっしぐらか。
「よっしゃ。残りは雑魚残党ばっかだな」
「少しくらい手ぇ抜けよお前」
「あぁ〜? 抜いてるっつーの。守られてる分際で口出すなよな〜鹿狩」
「余計なお世話じゃ、人が捕球しようとするのを邪魔しやがって。目立ちたがり屋かお前」
「可愛くね〜事言うなよ。お前の事は俺が守ってやっからよ」
「ぎんもぢわりぃ〜。そのノリまだ消えてなかったのかよ。彼女も居るんだから、他の女にうつつ抜かしてんなや」
「いいんだよ、見られてねぇじぃっ……!?」
もうここから負けるわけないだろって思って相手を無視して話してきたら、目の前に立っていた佐藤の腹にボールが深々と突き刺さった。
4秒近くぶっ刺さっていた、どんな威力の球が飛んできたんだよ。ミサイルか。
誰が狙撃したのか確認してみたら、穿ち抜かれた佐藤のその向こう側に、松前
松前盾士。よく知らないが、よく教室でロリについて語っているのを目撃した事のある大男。記憶に残るのは「ストライクゾーンは2歳〜9歳までの女の子」という言葉。うん、危険人物だ。
「さっすがハンドボール部主将! あの佐藤が一撃かよ!」
「ははは……。怪我ないか、鹿狩」
「あたかも庇ったようなセリフやめろ。俺とお前とでどっちが盾になるとか無い位置に立ってたろ」
佐藤は肩を落として外野の方へ歩いて行った。それにしても、ハンドボール部主将ってなんだよ。球投げ競技の申し子みたいな肩書きを持ってるのが相手なの、控えめに言って絶望が過ぎるだろ。
「覇ッ!!!」
重厚なテノールが響き渡る。なんと豪胆そうな声か、敵として現れれば魂が震え上がりそうなほどの気合いの余波が身体を抜けていく。
否、抜けていったのは確かな質量を持った物だった。
「ぐぎゃあっ!?」
俺の横を一筋の光が通り抜けた。益荒男の放った一撃は背後にいた男子生徒の顔面を抉り抜いていた。
当たったわけでもないのに息を飲んだ。戦車砲でも撃たれたのか? 当てられたオタクくん、動きませんけど。
「とんでもない一撃だな。ほれ、松前。もう1発だ〜」
球を拾った外野の笠原が呑気な声で球を松前にパスした。なにあいつ、サイコパスなの? 小動物とか虫とかに強めの力で接するタイプ?
「再装填……対象、補足。照準、固定。威力、最大」
あ、やばい。あのキラーマシン俺を見ながら照準がどうたら言ってる。命乞いくらいはする時間与えてくれるかな。いや、無理そうだ。メガネの反射で目が見えないもん、あれ自我ないやつだ。
「敵対存在、排除スル」
ズバァァァアン! という大きな音を立て、松前が放ち俺が命からがら交わした球が地面を轟かせた。
テンッ、テンッ。とボールが転がっていく。笠原が手にしたソレは、再び松前の手へのパスされた。
「ひ、ひぃい〜!」
もう怖くて足が震える。そんな様子を見せてみたら、松前はメガネの鼻の部分をクイッと上げて人間の瞳を見せた。
「鹿狩さん」
ボールを手に収めた松前が声を掛けてくる。
「なんですか」
「僕はね。偽物、贋作、模造品。そういったものに強い憎しみを抱いている」
「……なんて?」
「僕はね。偽物、贋作、模造品。そういったものに強い憎しみを抱いている」
「聞こえなかった訳ではなく。何の話?」
「君はロリじゃない」
宣告された。何が始まった? まだこっち全然人居ますけど? なに決戦風な空気感出してんのあのゴリラ。
「だが、皆事ある毎に君を指し"ロリ"という呼称を使う。"少女"ならまだ百歩譲って認める事は出来るが、齢14の君が"ロリ"を名乗るのは、僕しては許し難い事なんだ」
「名乗ってないな。周りが勝手に言ってるだけなんだよな」
「確かに君はかなり魅力的なまでに小さい。身長もまだ140あるかも怪しいだろう」
「うるさいよ。140はあるわ流石に」
「顔も悪くない。朔月さん達によく揉まれるのも納得できる、傍目から見ても立派なモチモチの頬にプルプルそうな唇、スベスベな肌ツヤ。子供の肌を如実に表す美しさをしているとそこまでなら評価もできるよ」
怖すぎるんですけど。思春期入って順当に時々肌荒れしてるのに何を誇張して綺麗扱いしてんのこの人。
保湿ケアも皮膚科も行ってない天然物だと思われてんのかな俺。いつかでかいニキビ出来たら見せつけてやろう。
「それを私はどう受けとったらいいの? 別に子供扱いとか本音はどうでもいいし、松前くんが望むなら皆にそういう扱いしないでって言うくらいなら出来るけど」
「そういう所が頂けない!!」
「なにがぁ!?」
ダンッ! と何故か足元にボールを投げる松前。ボールはスライムのような形状になるまで地面に押し付けられた後、強烈な反動を以って体育館の天井まで上がり、再び松前の手に収まった。
「外面上の君はロリをクリアしている! だけどね、その性格がダメなんだ! 諦めが良すぎるというか、物分りが良すぎるというか! 物事を冷めた目線で見ている所がダメ! クーデレロリでも心の奥底では子供らしさを残してるものなんだよ。君のは真逆! 子供っぽい外見なのにお構い無しじゃないか! 目に輝きが無いんだよ!」
「おーおー畳み掛けるなぁ」
「そういう減らず口をポンポン言うのもね……! むしろもっと必死になったり、短気な方がまだマシだよ! 心広く受け取るのはロリに非ず! ロリは聖人足り得ないんだぞ!」
「ロリではないので……」
まだこっちのチームに残存勢力は存在するが、球の威力を見てからみんな松前の見える範囲に立とうとしない。
必然的に俺だけが狙われる形になった訳だが、相手は興奮してるみたいだし生きて帰れるかな。顔面にめり込むような球が当たったら即死するぞ俺。
「これから僕は、全霊を以て君を討つ」
「死刑宣告やめてくれませんか」
「大丈夫、全霊と言っても当てはしない。ただ、軽く髪を擦らせる程度だ」
「狙って出来るわけないやろそんなこと」
「出来る! 君の珠肌を傷付けはしない!」
「気持ち悪いなぁ」
「君は、僕の球が当たりそうって思って怖がってその場にしゃがみこむんだ。頭を手で庇いながら。それで、弱々しい声で『助けて、お兄ちゃん』と言うんだ。まずはそこから始めていこうか」
「まずはどこから指摘しようか。あんまり仲良くない同い年の女子相手に言ってるって自覚持とうね」
「おえっ! おえぇぇぇ!! お、同い年の女子とか、そんな気持ちの悪い事を言うなぁ!!」
「謝るからCTで脳みその検査だけ受けてきてよ。多分ほとんど影で何も映らないだろうけど」
松前は持ち前の筋肉に似合わず跪いてゲロを吐くフリをしている……と思ってたのだが、ガチでえずいてるっぽいな。
すごいや、本当に同い年の女って概念で嘘偽りない吐き気を催してるのか。家帰る度に母ちゃん見て吐いてそうだね。
「じゃあ松前くん。私に当てる気は無いんだね?」
「付近には投げるが、当てる気は無い。なぜなら僕は、君の」
「いい! もういいようるさいうるさい!」
「むっ? いいぞ、ちょっとロリっぽいぞ今の」
「なんでだよぉ!? とにかく、ノリでも当てる気はないっつってこっちに投げてくるって事は、頭の方狙ってくるって事だよな!」
「ふむ? ……まあ、そうなるな」
「よーし」
今の肉体じゃ放たれてから動いても跳ばなきゃ回避しきれない。跳んでも回避し切れるか分からない。でもそれは、どこを狙われるか分からなかった場合での話だ。
回避するという選択肢を捨てる。
松前だって、まさか本当に俺を最後まで当てるつもりないわけではないだろう。そういうゲームなのだ、いつか敵になる相手は先に潰しておくに限る。
「ほら、来なよオタクゴリラ」
「っ!!! ロリは! そんな事! 言わなぁぁい!!!」
挑発に乗った松前の指がボールに食い込む。え、食い込む? えぐ。
大きく弧を描き、カタパルトから射出するような仕草で投げられた殺意の塊に、こちらから向かうように走る。
着弾の時はすぐに来る。予想より肉薄する速度が速くてギョッとしかけるが、対応できない球じゃない。
「よっ」
喩えるならアッパーで顎を打ち抜く感覚で。片手で下からしゃくり上げるように球の衝撃を殺し、左腕の脇に抱え込んで捕球する。ゲボ吐きそうな威力が胸に当たるが、まあ実際はそこまで痛くないので問題ない。
俺は球を拾った勢いのままチームの境界線を示す線まで来るとジャンプする。見よう見まねの、ハンドボールで言う所のジャンプシュートの姿勢になる。
「そんな、馬鹿n……!?」
俺が投げたボールは、俺を受け止めようとしてくれた松前の股間にクリーンヒットした。狙い通りだ、俺のジャンプタックルを避けようとしなかったのは予想外だったが。
蹲る松前の横に軽やかに着地し、松前の前でしゃがんでやる。
「大丈夫?」
「なわけないだろうが……!」
涙目で抗議する松前。哀れ。本当は投げずにボール持ったまま顔面にぶち込もうと思ったけど、こっちがアウト判定食らいそうと思って慌てて投げたのが仇となった。
「保健室行く?」
「いらん……見学する」
「ごめんね〜。肩貸すよ」
「いらん……君はロリじゃない」
「ねえそれキャラなの? 素なの?」
「素だ」
「ヒュゥ、気持ちわりぃや。ほら」
どうせ中二病の一種なんだろう、松前も素は普通の人間なんだ。手を差し出す。松前は困惑しながら手を伸ばそうとしなかったので、強引に掴んで引っ張ってやる。
「か、鹿狩さん!」
「よいしょ」
両腕を掴んで強引に背負い込み、肩を貸すというより巨大ぬいぐるみを運ぶような感じで松前を連行する。
「重いだろ! 別にそんな重症を負ったわけでもないんだし、気にしないでくれ!」
「気にするよ。倒れてたじゃん、ちゃんと金玉本体に当たったんだろ?」
「……くっつきすぎではないか。その、僕、相当汗かく方だぞ」
「女子か」
「ベタベタだぞ!」
「体育館の中じゃ皆変わんないでしょ。私も鬼汗かいてるし……あ、もしかして私、臭い?」
「いや、どちらかといえばいい匂いが……」
「キャラ作りも大概にしなよ。そんなわけないでしょーが」
「ほ、本当だ!」
「本当だとして嗅ぐなよ人の匂い」
「嗅ぎたくて嗅いだわけじゃない! こんな近くにいたら人の匂いなんか自然にっ!」
「はいはい。ここでいい?」
体育館の舞台の上、垂れ幕の前部分に当たる段差に松前を座らせ、俺もその横に腰を下ろした。
「ふいー。暑っついねえ」
「すまない、世話をかけた」
「付き添いならサボってても怒られないからね〜」
「そういう狙いか。つくづく君は……いや、むしろロリっぽいのか? 打算的なロリ、あるな」
「人の事ロリロリ言ってますけど。そんなに子供に見えます私?」
「見た目だけならそれは勿論。去年も何度かそういう話した筈だが」
「マジ? 気持ち悪すぎて記憶消してたかも。全然覚えてないや」
「ははっ。良くも悪くも人間関係アッサリしているからな、君は。ロリとして見たら即落第だが、いいんじゃないか? 八方美人は腐っても美人だ」
腐らせるな、人の事を。失礼な奴だな。
「ロリとして落第なら見出そうとするなよ。同い年だぜ? 対象に入る余地ねぇでしょ」
「鹿狩さん。ロリと言っても色々あるんだよ。君みたいなタイプはロリババアというジャンルがある。年齢が高いからと言って、評価できない訳では無い。余程レアだから、裁定に時間は要するけどね」
「本当に頭からつま先までキモいね。絶望プリッツの申し子だ」
「くっ、ロリからの罵倒……! 悪くない!」
「だぁから! ……はぁ」
疑わない綺麗な目。凄いわ、目ん玉虫に犯されてないかこいつ。インフェクションみたいになってんだろ中身。
こいつの言うロリって、所謂妹扱いみたいな感覚なのだろうか? 仮にそんな感覚だとしたら、俺は松前に明確な侮りを受けている事になる訳だが。
……気に食わない。思えば、みんな俺の事を子供扱いしてくるが、その筆頭は確かにこの男のようにも思えなくもない。
みんなボール遊びに夢中でこっちなんか気にしない。ここは一つ、こいつをからかってやろうか。いい加減ロリキャラ扱いされるのも少しムカついてきた、大人の知能を駆使して女の色気を叩き込んでやろう。
「ねえ、松前くん」
「なんだい?」
「ここ熱気がモロに来て暑くない? 裏行こうよ」
「裏? 構わないが」
松前を連れ体育館の校歌が張り出されている壁の裏、二階部分に上がる為の階段や備品が置かれたスペースに入る。
埃っぽいが、暗所である為涼しくはあった。
梯子の下、4段程度の階段の前にある台の上に松前を座らせる。人が居れるスペースは手狭な為、彼を先に入れる必要があった。
気付かれないように、ブラのホックをプチッと外して回収する。縛りを解放し、脅かす準備を整えておく。
台に座る松前の、少し前の空間に身を捻じ入れようとする。
「狭いな……鹿狩さん。僕、汗臭くないか?」
「大丈夫だよ。うんしょっと」
階段の後方には跳び箱が置いてあり、その上にはマットらしき物が積まれている。階段を足場に陣取るとすれば、マットの形に合わせて体を前に傾ける形になる。
「うぉっ!? おっ、おー……?」
至極当然、胸が松前の目の前に来る。ビビったよな、押し付けられると思ったよな。
「せ、狭いな。退こうか?」
「いいよいいよ、どうせサボりなんだ。バレにくい方が都合良くない?」
「それはそうだが、あの」
「? なに」
「だから……」
「だからなに?」
下でなにやら小さな声でごにょごにょ言っている松前が愉快だ。ロリ相手にそんな反応しないだろう?
「どうだよ、松前くんよ。大人の魅力に充てられた気分は」
「鹿狩さん……」
「うむ? どうしたや? いいんだぜ、固唾を呑んでも。ほれ、ゴクリといってみろよ」
ズルッ。
……ズルッ?
胸が直接当たらないように、少しつま先立ちになって松前の頭上辺りに胸が来るよう立っていた。それが、靴滑らして思いっきり前に倒れ込みそうになる。
慌てて跳び箱に手を着いてコケを回避するが、松前の顔面いっぱいに胸を押し付ける形となった。
「ふん、もっふ……」
「あ、ああぁぁあっ! ご、ごめっん! いでっ!」
焦って勢いよく引いた後頭部を跳び箱に強く打ち付けた。脳が揺れるくらいの激痛に頭を押えてしゃがみこもうとしたら、柱に設置されていたフックかなんかに体操服の袖口が引っかかった。
「っ!? おぱっ!」
「おぱっ? ……ぅあっ、ぱぁぁぴゃあぁあっ!?」
松前の素っ頓狂な反応がかえって一瞬状況を混乱させた。
ああ、体操服がフックに引っかかったせいで捲れ上がれば、ブラを外していた俺の片乳房はボロンと外部に露出されてしまうのか。
片乳房を隠そうとしゃがもうとすればもう片乳房も露出され、テンパって尚もしゃがもうとしたせいで体操服に頭部と両腕を拘束され動けなくなった。
暗闇の中、状況を整理する。
俺は女子生徒。松前は男子生徒。
松前の目の前に、それも少し動けば体が触れ合ってしまうほどの至近距離に俺は居て、俺は両胸を何も身に着けていない状態で松前にそれを突き出している。
変態もいい所だ。痴女でしかない。誘惑ですらない、公然に猥褻物を陳列してしまっている。
胸を見せつけるイソギンチャク、と言った所か。
「殺してくれ」
「大丈夫! 見てないから!」
うん、こちら側からも見えないからその言葉になんの意味もない。状況的に今すぐにでも死にたくなっているのだ、見てる見てないとかどうでもいい。
「松前くん。どうすればいいと思う? これ」
「こ、これって……?」「見るなぁ!」「見てなぁい!」
「うわぁぁぁあ自力で抜け出せないぃいい!」
「ほ、他に誰か呼んでくるよ!」
「まーてまてまてまて!!!」
姿の見えない筋肉ゴリラを両足で挟んで行動を阻止させる。
「何をするんだ君はっぁごめんごめん! 見てない見てない!」
「見ただろその反応はぁ!! 他の人まで呼んだらいよいよ自殺するぞ! 松前くんだって考えてみろ、この状況! どう見たって私がレイプされてる現場だぞ!! 冷静になれ!」
「冷静になるのは君だ!? そんな事言ったって」
「目を瞑ったまま解け!」
「無茶を言うなあ!?」
「それしか方法が無いでしょうが! いいからおら、手ぇ伸ばせ!」
「わ、わかった! わかったから!」
揉まれた。
「おい」
「ごめんごめんごめんごめん!!! でも何も見ずに解くのはやっぱり無理だ!」
「言いながら指を埋めるな、早く胸から手ぇ離せ! うぅぅぅ! クソッ! もういいから、見てもいいから早く解け!!」
「見るって、そんな無茶な」「じゃあこれが見つかっていいと!? はい、停学でーす!」
「クッソ……なんでこんな事に……」
いや全く仰る通り。ごめんなさい、元凶は俺です。でもね、自分じゃどうしようもできない以上、もう頼るしかないんだよね。
「じゃあ……恨まないでくれよ。鹿狩さん」
「いいから早く」
「早くって……はぁ」
ため息混じりに、恐る恐る目を開けようとする松前の気配を感じる。
「ゴクリ……」
「唾飲むなよ!!」
「無茶言うなよ! 初めてなんだ、女の子の胸を生で見たのは……」
「よかったですね!」
「き、綺麗だな」
「はぁ!? なにが!」
「胸の形、とか。色、とか」
「死ねぇ!」
思いっきり足を上げたら硬いものにゴリッと当たる感触がした。これまた人体の硬さ、恐らく再び金玉にクリーンヒットしたのだろう。
「がはっ! はぁっ、はぁ……」
「ひっ!? お、おい、顔近づけんなよ!」
そして、前のめりに倒れた松前が俺にほぼ覆い被さる形となり、耳のすぐ横で松前の息遣いが感じられた。
胸に松前の胸板が押し付けられる。体温が高く、蒸気を発しているかのような熱に包まれて、こちらの息も荒くなっていく。
「ま、松前」
「今は無理だ……!」
早く退けやって思ったが、金玉蹴りあげられて再起不能になっているのか。なら仕方ない、けど、汗で濡れた男の筋肉質な身体が密着してきて、なんか変な気分になるから離れてほしい。
「松前っ……!」
「はぁ、はぁ……」
「っ……息、止めろ! てか、足退けろ……!」
腕が痺れてきて力を抜いたら、股に松前の太ももが当たった。よく鍛えられた太もも、その立派な筋肉の硬さにグイッと押し上げられるように股を支えられ、気付けばまたつま先立ちになるように立たされる。
気持ち悪い。変な汗が出る。自分は何も見えないのに相手に見せてはならない場所を見せつけてる状況に、自分より大きくて筋肉もしっかりしていて絶対勝てないであろう相手に押し込められている状況に、何故かムラついてる自分がいた。
吐きそうだ。流石に情緒が女すぎる。女の中でもマゾ寄りの人なら興奮するような状況に、体の奥が燻る感覚を覚えてる現状に理性が拒絶反応を示していた。
「はぁ、はぁ……んっ」
「ん……? 鹿狩さん?」
「なんだよ……」
「呼吸が荒くなってるけど、どうした?」
「っ、この姿勢が辛いんだよ! 早く、解けって」
そう言って解いてくれようとしてくれるのは有難いのだが、グイグイと太ももを押し付けてくるのはわざとだろうか。変な所に擦れてやばい。色々な事が重なりすぎて、自分で弄ってる時より、刺激が……。
「んっ……!」
「!? ど、どうした!」
「ぁ……はぁ。な、なんでもないから!」
さいーあくだ。松前があまり女に疎いのが幸いしたが、もう、死にたい。なんでこんなエロエピソードを人生年表に追加しなきゃならないの?
俺なんかした? 何でちょっとからかおうとした程度で人前でこんな恥辱受けなきゃなんないんだよ。
「おっ、解けたぞ。鹿狩さん」
「うん、ありがとう……」
フックから体操服が外され、開けた世界。松前はちゃんと目を瞑って顔を背けてくれていた。
ブラを付けて体操服を着直す。
松前の腕を掴んで引き、着替え終わったと示す。
「着替え終わったか」
「うん」
「……」
「……」
互いに何も言えなくなる。なんだこれ、生き地獄じゃん。
松前は何も言わずここから出ようとするが、それを妨げる為に腕を掴む。驚いた顔でこちらを見てくる彼に、精一杯の睨み顔を作る。
「今日あった事、ぜってぇ秘密な」
「そ、それは勿論。こんな事他の人には……」
松前と目が合った途端に顔をプイッとされた。人の顔見て生乳でもフラッシュバックさせたんだろう、とんだパブロフの犬だ。
そのタイミングで体育教師が集合の合図を掛けたので外に出ると、朔月さんが何を勘違いしたのか俺と松前の所に躍り出てきてニヨニヨしてきたが。二人で何も無かったと説明し事なきを得た。
何も無かったというのは真っ赤な嘘だったが、他者にバレてはならないという思いだけは一致していたようなので口裏を合わせる必要は無かった。
その日の夜、いつもより捗ったのは言うまでもなかった。