※この作品はR-18です。

子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン   作:千佳のはんぺん

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フランケンシュタインは薔薇が割とすき

「ぜってぇーーーーー〜〜嫌です」

 

 

 何事も話し合いを円滑に進めるコツは状況を整え、交渉相手と自分の双方が余裕を持って会話に望める時である。

 松前医師が労働時間外に病院に来て俺を迎えてくれたという前提を考慮し、とりあえず1度仮眠を取った後に彼とカウンセリングの時間を取ってもらい、第一声に俺はそう口にした。

 

 

「ええと、八尋くん……? 嫌というのは」

「性転換手術、っつーか全身バラしてパズルして俺の脳みそ突っ込む手術、ですよね概要は。そんなん死んでも受けたくないです」

「昨日の反応を見るに、その話を飲み込んだものかと思っていたんだが……」

「実は俺記憶喪失でして、そんな提案を受けてたことも父親がそれを受諾したことも母ちゃんがそれを望んでた事も知らなかったんすよ。で、昨日それを初めて聞いたんすよね」

「ふむ……」

 

 

 松前さんは俺の記憶喪失発言にさして大きなリアクションは見せなかった。

 これは明らかに戯言を言って逃れようとしてると思われてるな。話半分程度に耳を傾けてるのがありありと伝わる。

 

 

「考えてみてほしいんですけど。いきなり全身バラして他人の臓器を継ぎ接ぎしてフランケンシュタインにさせられるって話聞いて、なんの引っ掛かりもなく『はい、分かりました』っていう人類います? 居たら変態でしょ」

「フランケンシュタイン、というのはメアリー・シェリーの怪奇小説かい? 変わったものを知っているんだね」

「知らんすよ作者とか。はぐらかさないでください。普通にタマヒュンしたんでこの話はなかった事にって話なんですよ」

 

 

 俺の訴えに対し、松前さんは腕を組み目を見つめ黙っている。あの目は……俺からなにか引き出そうとしているのか? まあ俺の記憶喪失発言なんて信じるわけないし、いきなりここで駄々をこねた本当の理由を聞きたがってるのはわかるが。

 

 

「君の言い分もわかるが……君に生きてほしいお母さんからの頼みだ。それに対する最適解がこのような形なのは申し訳の立たない所だがね」

「俺、記憶喪失なんでその、なんでしたっけ? 細胞だか遺伝子だかがオシャカになってるんでしたっけ? それについてイマイチ自覚ないんすよ。自覚症状ありゃ少しは乗り気にもなれるんすけど」

「君はまだ11歳だったね。君の病気は強いストレスを感じるようになってから症状が出始めるから、まだ若い内は予兆も来ないよ。だからといって放置は出来ない。病症というのは、自覚出来るようになった段階まで来てしまったら手遅れ、というのも珍しくないんだよ」

 

 

 そんな事言われても、以前の俺はそれらしい症状なんか1度も感じたことないし。酒の飲みすぎで尻から血が出たりタバコの吸いすぎで痰絡んだりするくらいだったぞ。自分で分かる身の不調なんて。

 

 

「お医者さんの言葉は信じた方が無難なのは分かるんすけど、話がグロすぎなんすよ。もっとこう、妥協出来るラインはないんですか?」

「妥協、というと?」

「薬とかで症状を抑えたり、みたいな」

「君の症状は前例が世界で見ても10件もない稀有な物だ。十分な資料もないのに特効薬なんて作れないよ」

「特効しなくても、抑制剤的なのも無理なんすか?」

「無理だ、断言して悪いけどね。抑制作用がある物を数年かけて探るという方法もあるが、ご両親の協力がある以上そういった使い方は出来ないな」

「チッ……だからってモツも骨肉も捌かれるのはぜってー嫌です。体入れ替える過程で1回活け造りにされるとか冗談じゃねえ」

「君ね……そうは言うが元の肉体の組織は極力減らさなければ治まらない症状だと資料には書いてあるんだ。発症すれば癌以上の速度で全身に転移する。そんなの嫌だろう?」

 

 

 それもそれで嫌だが、今身体をバラされそうになってるっていう現実に直面しているのが1番嫌だ。数年以上先に癌の進化系に掛るって聞いた方がまだ心中穏やかになれる自信がある。

 

 

「はあ……てか、その理論で言えば脳みそを移植しても脳みそ発信で全身ボコボコになっちゃう可能性あるんじゃないんすか」

「ああそれは大丈夫だよ。病の原因は遺伝子異常との事だが、脳は内部変化が著しい器官で、異常な部分も成長と共に薄れていったと報告にあるからね」

「初耳ー。変化が著しければセーフって話なら全身セーフでしょ。常に細胞分裂してんじゃん、人間」

「それは違うよ。異常箇所も分裂し成長に合わせて大きくなるんだ。脳の作りとは根本が異なるんだ」

「へー」

 

 

 そうなん? ガチで初耳なんだが、体の成長と脳の成長の仕方って違いとかあるの? 同じだろ、人体だし臓器だし。

 

 

「……どうしても納得したくないんですけど。絶対にバラされなきゃならないんですか、俺」

「言い方何とかならないのかね。安心してくれ、術中は麻酔で何も感じず、起きれば全てが終わっているよ。怖がることは無いんだ」

「怖いでしょ。1回俺、瓶詰めの脳みそにされるわけでしょ? 考えただけで気絶しそうだわ。つーかそんな事やっていいのかよ、絶対国際法のなんかに触発してますよそれ」

「この手術は前例のないものだから、海外の様々な医療機関とも共同の試みになっている。八尋君が思っているより関与している人間は多いんだ、安全面等は保証するよ」

「はぐらかすのが医者の仕事なんすか? 法に触れてるでしょって言ってるんすよ。知らないっすよ、何処の誰と金でつるんでガキをバラす会を作ったとかそんな話は」

「……少し、休憩しようか。飲み物を入れてくるよ」

 

 

 松前さんはそう言って立ち上がり、カウンセリングルームから出ていった。扉を隔てた隣には確かシンクとポット、紅茶やコーヒーなどのパックが入った箱と食器棚にパン詰まりの、謎の薬品がズラっと並んでいたはずだ。

 

 ……。

 

 飲み物に催眠薬を入れてくるか、大人を多数呼んでくるか、かな。俺の様子を見りゃ、何をどう理路整然と語った所で話を聞く気自体サラサラないってのには気付くもんな。

 

 

「……ふむ」

 

 

 扉を机で塞ごうとしたが、同じような事を考えた前任者が居たのだろうか、それとも偶然か。扉はあちら側の部屋向きに開くように設計されていて、障害物を設置しても押さえにならない事に気付く。

 

 窓の外には鉄格子が掛かっていて、天井は高くて通気口まで届かない。

 カウンセリングルームだと思っていたこの空間は精神病かと思うくらい、内側からの脱出が徹底的に対策されていた。困り果てた、隙を見て逃げようと思ったのに。

 

 仕方がないのでとりあえず不貞腐れる事にした。俺はズボンの腰紐を引き抜き、部屋にあったかったいベッドの上に横になり、薄い毛布を被り丸くなる。

 

 

「お待たせ〜っと、おや? どうしたんだい、八尋君」

 

 返事はしない。あわよくばそのまま怪訝に思った松前さんがこちらに来て軽く叩いてくれるのを期待しながら、息を殺す。

 

 

「……子供の君には相応な覚悟を強いてしまったな。そうだよね、辛いよね。八尋君」

「……」

「それでもどうか、分かってほしい。お母さんとお父さんの願いを。僕の事を嫌いになってもいい、だからどうか、君に生きるのを選んでほしいんだ」

「……」

「反応無し、か。しかし、昨日に引き続き今日を逃すと、しばらくここまで大掛かりな手術は出来なくなる。頼むよ、八尋君。皆が君の未来を祈っているんだ」

「……」

「八尋君……」

 

 

 足音は1人分、大丈夫だ。大人は多分松前さんしかいない。

 松前さんの声が近くなる。何を喋っているのかは全くもって分からないが、俺は勢いよく声のする方へと飛び込んだ。

 

 

「わぶっ!?」

 

 

 驚いて仰け反る松前さんにそのまま毛布を覆いかぶせ、上から腰紐で首元辺りを縛り毛布を固定する。これならしばらくは自力で動けないはずだ。

 

 

「な、何をするんだ八尋君!?」

「逃亡しますわ。怖いんで」

「八尋君!? 待つんだ、話はまだ!」

「何千年分話したって平行線でしょ。人類終わるまで水掛け論っすよ。無駄な事は省きましょーや」

 

 

 カウンセリングルームの扉を締める。流石精神病患者仕様、防音はバッチリのようだ。

 

 記憶通りのよく分からんキッチンぽい部屋。何か使えそうなものが無いか探ってみるが、子供の身長じゃ上棚には手が届かないし手が届く範囲にも有用そうな物は見当たらなかった。

 

 睡眠弾が装填されてる銃とかありゃ攻略も楽なんだけど、ゲームじゃねえしな。身軽な方が脱走しやすいだろうか。

 

 てか、あたかもスパイになったつもりで気を張ってはいるが、別に今の状況下なら病院から抜け出すのなんて訳なくね? スタッフ全員が全員俺を血眼になって追うわけもなし、ただの子供Aとしてただ抜け出せばそれだけでミッションクリアなのでは。

 

 

「ま、念には念を」

 

 

 使う場面が来て欲しくは無いが、一応机の上にあった松前さんの物と思しき荷物の数々からキーケースを拝借する。

 どうせ本当に重要な場面で使う鍵はベルトフープとかに垂らしてあるだろうからここにある鍵は家の鍵とか倉庫の鍵辺りだろうが。1つは車の鍵だし。役に立つかは微妙だが、もし立ったなら僥倖という事で。

 

 

 鍵を入手し、病院の廊下を歩く。あくまでただの一般の子供として。

 待て、平日の早朝の病院の廊下を平然とした顔で歩く私服の子供ってなんだ? 有り得るのか? そんな存在。

 

 自分の事ながら違和感に気付き、前を早足で歩く看護師さんを見る。

 彼女も俺の事を不思議そうに凝視するが、何か他に用事があるようで特に何も声を掛けないまま通り過ぎて行った。若い看護師だった。

 

 

「あら? 君、そこで何しているの?」

 

 

 げ。1人行けたから油断してたら先程の人より少しお姉さんな看護師に声を掛けられた。ぐぬぬ、困ったぞ。立ち止まるべきか、否か。

 

 いや、絶対立ち止まるべきだ。ここで無視をかましたら流石に不信感を持たれる。くそっ、イヤホンさえあればスマホに挿して音楽聴いてるフリできるのに……!

 

 

「君、何年生? 今日学校は?」

「え、と」

 

 俺の脳の引き出しに『入院するレベルの子供がかかる病気』の知識がない。どうする、とりあえず元気になったから帰ろうとしてるって伝えてみるか? 100パーセント止められるだろそんなの、父親に連絡されて終わりだわ。

 

 ……! そうじゃんか、ここから運良く逃げ出せたとして、その後どうするんだよ俺!

 

 もういい加減これが夢だと主張するのも無理なくらいこの世界にいる。となればこれは多分タイムスリップに近しいものになるだろうし、元の時代に帰れない可能性が高くなってくる。

 もしこの時代で生きていくってなった時、どう生きていくんだ? 病院と親から逃げて、どっかに拾ってもらう?

 

 

「おーい、大丈夫? どうしたのかなー?」

 

 

 いや、待てよ待てよ。何普通のように飲み込んでんだ、頭おかしくなったのか? 俺は。

 

 元の時代に戻れないってなんだよ。嫌だろ、なんでまたこんなにクソみたいな人生を繰り返さないとならない? ふざけんな、またドブみたいな思いを山ほどしないといけないのか? この街で?? ふざけんなよ。

 

 

「……君、もしかして」

 

 

 オカルトなんかこの世にはねえんだ。タイムスリップ何かあってたまるか。もう二度と幼馴染の死ぬ話なんか聞きたくねえ。葬式なんか行きたくねえ。壊れてくアイツらの家族も、周りの連中も、アイツらを笑う倫理終わってる連中も、もう嫌だ。勘弁してくれよ。

 

 

「!? ちょっと君、血が!」

「へ? ……はっ?」

 

 

 足元を見ると、腹でも裂かれたのかってくらいの血が何処かからドバドバ出ていて、瞬く間に俺の足元が血溜まりと化した。

 なんだこりゃ? どっから出てるんだ?

 鼻をグシッと擦ったら、じっとりと濡れた感触がした。目をゴシゴシと擦ったら、視界が赤黒くなって、右側だけ見えなくなった。

 

 え、なにこれ。どういうやつ?

 

 指先の力が抜け、背中がなにかに持ち上げられているような軽くなる感覚がした瞬間、平衡感覚が無くなった。

 

 

 床に頭がぶつかった時、重低音がしつこいくらい反響したのを、今でも覚えている。

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