※この作品はR-18です。

子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン   作:千佳のはんぺん

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まず間違いなく今後一番の黒歴史。月光蝶〜

 最近、友達の様子がおかしい。

 

 体育の授業でバレーかドッジボールか、選んだ方の種目をするっていうほとんど自習みたいな授業をしてから、友達の鹿狩八尋ちゃんが妙に色っぽくなったような気がする。

 

 八尋ちゃんは、友達の輪の中に居てもどちらかと言えば静かで、ふざける時も反応もボソッと面白い事を言うようなそんな感じの子。どことなく大人っぽい雰囲気もなくもないような気がする、考えてる事が時々分からなくなる子である。

 

 言っちゃ悪いけど恋愛とは程遠そうな感じだったのに、最近はそんな事も無くなってきたのかもしれない。

 

 

「八尋ちゃーんっ!」

「うわっ。なにさー小鞠!」

 

 

 給食の時間が終わり、自分の席でスマホを弄っていた八尋ちゃんに話し掛けると、彼女は驚いてスマホを床に落とした。

 

 スマホを拾う八尋ちゃんを目で追って、その画面を覗き見る。……恋愛系のサイトでも見てるのかと思ったが、映っていたのは電子書籍版の漫画だった。

 

 

「何見てたのー?」

「韓国の漫画。読んでみる?」

「怖いんでしょ? 話し掛けただけでスマホ落とすとか有り得ないし!」

「別にビビってねーし。余韻浸ってたら声掛けられて、正気戻ったら指から滑り落ちただけだし」

「怖さで気絶してたんでしょ?」

「気絶なんかするかーい。はあ、トイレ行くわ、ずっと我慢してたのでね」

「漏らさなくてよかったね〜」

「漏らさないよ!」

 

 

 私の方を向き、ふくれっ面になってから立ち上がる八尋ちゃん。うむ、今日もかわいいなあ。戻ってきたら頭を撫でてあげよう。

 八尋ちゃんは私に向けてあっかんべーをしてそのまま前を向こうとする。その時、背後に座っていた男子が急に立ち上がり八尋ちゃんにぶつかる動線上に現れた。

 

 

「あっ、八尋ちゃん!」

「なに? わっ、あ、松前くん……」

「あ、ああ。鹿狩さん、ごめん」

 

 

 八尋ちゃん、ぶつかった松前盾士くんも互いの顔を見合わせると何も言わず顔を逸らした。

 

 ……やっぱり気の所為じゃない。八尋ちゃん、松前くんが近くにいる時とか、松前くんと話してる時にすっごく女っぽい顔をする。少し照れの入った表情をするんだ。

 

 これは、恋だ。私の目が光る、恋バナを察知すると輝き出す小鞠ズアイは抑えきれないほどの光を発しながら八尋ちゃんと松前くんを交互に照らし出している。

 

 いいねぇいいねぇ! ついに八尋ちゃんにも春が訪れたんだ! 恋愛マイスター朔月小鞠の目は誤魔化せないよ! その恋、必ず成就させるよー!

 

 私は、雪解けが始まった八尋ちゃんの近辺情報を探るべく、今日の放課後。とある場所に向かう事を決意した。もちろん部活の方はサボる方向性でっ。

 

 

 *

 

 

「というわけで、インタビューです! わーい!」

 

 

 パチパチパチ。インタビューしたいという問い合わせに快く快諾してくれた松前くんに拍手を送る。

 

 

「朔月さん。君はロリじゃない」

「はい、お決まりの挨拶ありがと〜松前くん! どうぞ、マイク!」

 

 

 松前くんに筆箱を渡してあげたら、ちゃんとマイクに見立てて口元にセットしてくれた。ノリがいいなぁ。

 

 ハンドボール部の練習エリアの横、長い鉄棒とサッカーゴールの間に呼び出し話を聞く。

 

 

「一体なんだと言うんだ……」

「松前くんってぇ」

「はい」

「鹿狩ちゃんと付き合ってるのー?」

「ぶふっ! げほっ、げほっ!」

 

 

 飲み物を飲んでた訳でもないのに噎せた。咳を繰り返す松前くん、どうしたんだろう。風邪かな?

 

 

「なんでそうなる! 僕と鹿狩さんはそこまで関わりないだろ!?」

「そうなんだよ。全然赤の他人だよね。赤のクラスメートだよね」

「そうだよ! そんな間柄の二人を指してなんで付き合ってるって話になるんだ」

「だって最近二人さ? 顔を合わせる度気まずそうにするしさ? 複数人で話したりする時とか、八尋ちゃんと松前くんだけお互いに話し掛けたりしないじゃん?」

「そりゃあ、仲良くないし……」

「二年生の頃は普通に話してたよね?」

「っ」

「ね? でさ、今まで二人とも普通に話せる間柄だったのに急に避けるようになった。怪しいな〜」

 

 

 小鞠ズアイを光らせながら擦り寄るが、頭を手で押さえられて止められる。まだ逃げられるとでも思っているのだろうか?

 

 

「何かあった事は分かりきっているよ! 体育で八尋ちゃんと松前くんがドッジボールを選んだ日、同じ場所から出てきたよね!」

「忘れてなかったのかソレ……」

「ふっふっふ。小鞠ズ脳みそは恋愛の波動(ラブラブオーラ)を察知した出来事は全部記憶するからね! 他の記憶を犠牲にして!」

「だから成績が低いんじゃないのか?」

「学校の成績とみんなのラブストーリー。天秤に掛けたら尊いのは後者だよね」

「自分の人生と他人の恋路を天秤にかけて後者が勝つパターンがあるのか……」

 

 

 勿論である。私は刹那的に生きる快楽主義者、後先考えずに今楽しいことを優先しなきゃ存在が保てないよ。

 

 一度松前くんに渡した筆箱から赤ペンだけ抜き取って、そのペン先を松前くんの口元にやる。

 

 

「というわけで、あそこで何があったのか教えてください!」

「何があったかというと、何も無かったというか」

「嘘だね! 小鞠ズアイは誤魔化せないよ! 松前くん、嘘の目をしている!」

「ナニモアリマセンデシタ」

「手で目線隠しても無駄だよ! 小癪な逃げ方するんじゃない!」

 

 

 地味に声を高くして喋るのも凝ってるし。ノリは良いけどどんだけ誤魔化したいのさ!

 

 

「僕から答えられることは何もないよ。そろそろ部活に戻らないとだし、もう勘弁してくれ」

「えぇ〜! なんでなんで、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃん!」

「本当に何も無いんだよ……」

「本当に?」

「本当に」

「ほんとにほんとにほんと?」

「本当だ。信じてくれ!」

 

 

 じーっ。目を合わせる。嘘じゃないのを証明したいなら目を逸らすな、そんな根性勝負を仕掛ける。じーっ。

 

 

「……」ふいっ。

「あー! 目ぇ逸らした! やっぱり嘘じゃーん!」

「違う違う。異性とずっと目を合わせてるとちょっと気まずくなるだろ!?」

「なんで? ならないよ?」

「僕はなるの! だから嘘をついてるとかじゃなくて! と、とにかく、もう行くから!」

 

 

 逃げられてしまいました。また詰問は後日にしますか。

 元よりあんまり口割ってくれるイメージ無かったし。普段ロリロリ言ってる変な人だしね。

 

 仕方が無いのでもう一人の当事者にもインタビューしてみましょう。今日、八尋ちゃんは特別教室棟の四階のどこかにいると思うので、そこへ向けて足を進める。

 

 急げっ、急げっ、小鞠ズレッグフルアクセル! どりゃああああっ。

 

 

 *

 

 

「本当に申し訳ないんだけど、付き合うとかよく分からないし、無理。ごめん」

「分からなくてもこれから知っていけばいいだろ! 俺、本当に鹿狩の事好きなんだ! 絶対幸せにするから、さ」

「今はやる事あって余裕ないから、誰かと付き合うとか出来ないんだよー……」

「いつも暇そうにしてるじゃんかよ!」

「ん、んー……そう見えるかもだけど!」

「もういいよ!」

 

 

 俺に告白してきた男子生徒は不機嫌そうに階段を下って行った。

 

 この半年間で六度目だ、告白を受けるの。クリスマス前から急にモテ始めた。最初はクリスマスに過ごす相手欲しさに告ってきてるのだろうと思ったが、春から今に掛けてまで定期的にこのイベントが発生している。

 

 モテるのは良い。かなり良い。承認欲求爆上がり、優越感に浸れて気持ちがいい。ただ、男と付き合うなんてまだマインド的に考えられない。

 

 って素直に伝えてるつもりなのだが、どうにも相手にはこの意図が伝わらない。顔の好みとか、勉強とか運動とか、よく分からない話を引き合いに出して、自己否定してはけていく。

 

 何なんだろう、逆ギレ? 告白するんだったら断られるかもって前提も備えていてくれよ。怖いんだよ、校内ですれ違う時とか。

 

 

「あーあ、可哀想。またフッたのかよお前」

 

 

 そして、これまた恒例行事として男が走り下って行った階段を佐藤が逆に上ってくる。なんなんだろうね、人の失恋を楽しんでるのかな。

 

 

「なんで毎回毎回やってくんのお前。時報かなんか?」

「タバコに決まっとるやろが、邪推すんなよ」

「毎回途中から、つーか告白終わってから来るよな」

「気ぃ使ってやってんの。近くで俺がプカプカしてたら邪魔だろうが」

「ふむ。確かに。なるほど」

 

 

 なぁーんだ、偶然か。そりゃそうだよな、ぶっちゃけ他人同士の告白とかどうでもいいもんな。

 

 佐藤は俺の隣までやって来ると優雅にタバコを咥え火をつける。呑気なもんだ、人の気も知らんと気持ちよさそうに吸いよってからに。

 

 肉体リセット入ったから限界来るまでヤニを体に入れないチャレンジしているが、そろそろ一服ぐらいしたいよ。ヤニ切れ症状は来てないけど、今は遠い喫煙の感覚が恋しい。

 

 

「吸うか〜?」

「今はまだ吸わな〜い。吸うようになったらシガーキスでもしようや」

「普通のキスなら今すぐにでもしてやるけど」

「それは一生やらねえな?」

 

 

 軽口を叩きながら佐藤はケラケラと笑った。頭空っぽそうな奴、人生楽しいやろな〜こいつ。

 

 

「てか、お前なんでタバコ吸わないの? 喫煙者なんやろ?」

「未成年なので」

「前自発的に吸いに来てたやんけ体育館横」

「そこで出鼻くじかれたから吸ってないんだよ。あそこにお前がいなかったら今頃プカプカやっとったわ」

「俺のせいかい。じゃあお前が今元気な肺を保ててるのは俺のおかげってことやな。感謝して付き合えよ」

「なあ、そろそろ意味のわかる日本語話さねぇ? お前の日本語、どこから付き合えって話になるのか分からなくて一々身構えるんだけど」

「だっはっは」

 

 

 なんでそこで笑って誤魔化すか。相変わらずイマイチ波長が合わない相手だわー。

 

 

「てかさ、なんで佐藤は私なんかと付き合いたがるわけ? ノリでって言えば済む話なのは分かるけど、それ以外に理由あるなら教えてくれよ」

「言ったろ。顔がいい、匂いがいい、ヤリたい。その三拍子よ」

「それはガチで捉えていいわけ? 最後の一個で友情瓦解してますけど」

「男女の友情っておまっ、だはははっ!!」

 

 

 窓から校庭を眺めながら佐藤が爆笑する。

 不覚にも、笑った後の余韻が綺麗な横顔すぎて少しだけ目を奪われるが、悟られたらどうせ「見蕩れたな。付き合うか?」とか言ってきそうなので視界から佐藤を排する。

 

 

「爆笑すんなよ、男女間でも友情はあるだろ」

「どうかねー? お前はそんな風に思ってんの?」

「そう思わないと俺がお前とかと友達やれなくなるだろ」

「そういう事かよ。じゃあお前、元は男女友情論否定派か?」

「否定も肯定もねぇよ。出会う女全員にヤりてぇ〜って思うような猿とは違うんでな」

「誰の事だ?」

「お前の事だ」

「んだとてめっ、この野郎〜!!」

「チンコ付いてないんで野郎じゃないです女郎です〜。橙色は止まりませ〜ん」

 

 

 佐藤に髪をグシャグシャグシャ〜ってされる。折角セットしたのが台無しだ、まあこの後は幸太郎んちでゲームするくらいなので髪型とかどうでもいいのだが。

 

 

「あーーーーーっ!!!!」

「「っ!?」」

 

 

 突然の大声をぶつけられて驚く。佐藤も同様に俺の頭から手を離して驚いていた。勘違いされないためというのもあるだろうが。

 

 

「八尋ちゃん! 樹利! あーれあれあれあれあれあれーっ、あれーーーっ!?!?!?」

 

 

 朔月さんが指で画角を作って接近してくる。カサカサカサとカニ歩きしながら俺と佐藤の架空写真を何枚も何枚も撮っていた。小鞠ズキャミラだったか、同じようなくだりを菊池さんと笠原のデートを目撃してしまった時にも目の当たりにした。

 

 つまり、俺と佐藤が恋仲かなんかだと勘違いされてるっぽいのか? まさかな、朔月さんとてそこまで馬鹿じゃあるまい。

 

 

「カンカンカンカン!! スキャンダルスキャンダルー!!! カンカンカンカンカン!!!」

「おい、鹿狩。お前の友達やばいな」

「ね。佐藤、お前のクラスメートやばすぎ」

「いつからそんなに熱くなったのさお二人さん! やっ! そういえば前から二人とも距離感近かったよね〜? あらあらあら〜??」

「「お前少し黙れよ」」

「息もぴったり〜!!」

 

 

 この人無敵なのか? ため息を零すと同時に佐藤もため息をこぼした。またシンクロしてまた朔月さんが目を光らせた。厄介だわ。

 

 

「む、樹利! タバコ消してよ、臭い!」

「嫌だよ。後から来たのお前だろうが」

「そういう問題か? 消してやれよ」

「ちっ。しゃーねぇ」

 

 

 佐藤はタバコを消しに、男子トイレに行った。

 朔月さんと二人、ニヨニヨしている彼女に顔を覗き込まれる。左へ行って、右へ行って、色んな角度から顔を観察されて萎縮する。

 

 

「やーひーろちゃんっ」

「はい」

「最近、何か変わった事なかったですか!」

「先日、便秘になりました」

「そういうのじゃないよー! れ、ん、あ、い! 恋愛系の話が聞きたいの!」

「皆無なんだよなぁそっち系の話に関しては」

「嘘! 八尋ちゃんは嘘をついています! 小鞠ズアイは誤魔化せないよ!」

「八尋ズマウスは嘘をつかないよ。よって本当、真実の口だよ」

「ダメ! 嘘です! だって八尋ちゃん、最近松前くんと変な空気になってるし!」

 

 

 わあ。触れられたくない相手との話題を出されて身が凍る。松村の方にも聞きこみ調査を行ってたりしないだろうな。余計な事言ってたらマジあのゴリラ、タダじゃ置かないぞ。

 

 

「松前くんって、ハンドボール部の人? ロリロリ言う人だよね」

「なに素知らぬふりしてるのさ〜、去年からの付き合いだよー?」

 

 

 絶対それ以外の妄想を向けてニヨニヨしてやがる。なんで俺、あのゴリラと勝手にくっつけられてるの。そんなフラグいつ立ったの?

 

 

「私と松前くんの間にはなにもありません。潔白です」

「はい嘘ー」

「ねえ、その一刺しあまりにも強すぎるから辞めない? 何言っても一旦嘘扱いするの、先に優位性奪えるのズルすぎるでしょ」

「だって嘘だもん!」

「根拠述べろー根拠ー」

「だって二人とも気まずそうだもん! 初夜を迎えた男女のよう!」

「ぶふーっ!! がはっ、げほっ、ぐほっ!」

 

 

 噴いた。咳き込んだ。朔月さんは『どうしたんだろう? 風邪かな?』とでも言いたげな顔をしていた。

 

 女子の猥談、時々ストレートすぎてキツいものがあるんだよ。それの一端がいきなり飛んできてびっくりしたわ。

 

 

「初夜ってあんた、そんな風に私と松前くんの事見てたの?」

「うん!」

「なんでそんな元気よく返事できるの……?」

 

 

 まだ全然処女だって。胸は見られたけど。

 

 ……。

 

 胸を見られたので気まずいだけです。なんて、どう説明しても松前が悪人になるか俺がアホビッチ扱いされるかしかない事情を話すのは、なぁ……。

 

 

「なになに、お前松前と付き合ってんの?」

「付き合ってねぇーよ。今まで消えてたのに戻って早々話を混ぜっ返すな」

「だよな? だってよ、朔月」

「茶々入れないで樹利! じゃあ八尋ちゃん、インタビューします!」

「やだなぁ」

 

 

 嫌がる俺を無視し、朔月さんは鞄を置いて中から筆箱を取り出した。マイクのつもりで俺の口元にそれを近付ける。

 

 

「ズバリ! 松前くんと樹利、どっちの方が好きですか!」

「ぶふーっ!!?」

 

 

 再び噴いた。今度は飲みかけてたいろはすを噴いた。ごめんね佐藤、顔面に毒霧攻撃しちゃった。ハンカチを渡すと、佐藤は何も言わずにいろはすを拭い始めた。

 

 

「何聞いてんの!? 本人前にしたらどっちにも答えづらい質問しないでよ!?」

「えー? 樹利、耳塞いでて」

「俺も気になるな。鹿狩が俺と松前、どっちを選ぶのか」

「ねぇ。なんで少女漫画みたいになってんの? 私ついさっき人をフッたばっかなんだけど?」

「爽やかスポーツ筋肉イケメンと、危ないやさぐれ不良イケメン、果たしてどっちを選ぶのかな!?」

「松前くんは尻に(ロリコン)が付くし、佐藤は頭に(女癖)が付くし。選べる物件が軒並み事故物件なのですが」

「おい誰が事故物件だこら」

「お前は間違いなく事故物件だろ。貢ぎ女量産するタイプだろ。目に見える地雷すぎるわ」

 

 

 朔月さんがずいっと身を乗り出し「じゃあっ!」と大きな声で言ってきた。なにやら確信を得たらしい。勝手に確信しないでほしいものだ。

 

 

「松前くんの方が好きって事でいいのかな!? ファイナルアンサー!?」

「ん〜。You know, the answer is inside of me、つーことで勝手に決めつけないでね〜。どっちもこっちもないよ別に」

「む〜! 八尋ちゃん、ずっと樹利とばっか居たのに最近松前くんともいい感じっぽいから何かあるのかと思ったのに!」

「そうなのか?」

「そうでもないよ。元から松前くんとはただのクラスメート、友達って呼べる間柄じゃねえし。最初っから何も動いてないっつーの」

 

 

 全く。ただでさえアイツの話する度にあの羞恥プレイが脳裏を過ぎるから忘れたいってのに。なんであれからやたらと松前関連で縁が出来るんだ? 現代の縁結びの神様、愛読書はToLOVEるだろ。

 

 

「じゃあ俺の方が好きって事でいいのか?」

「お前の事も好きじゃねえよ! 自惚れんなタコ!」

「っ……ぶははっ! 必死になり過ぎだろお前、こりゃよっぽど神経使ってたと見える。朔月、あんま鹿狩の事いじめてやんなよ?」

「いじめてないよ! 樹利でしょ、八尋ちゃんの事いじめてたの」

「俺だって別にいじめてねぇよ。とにかく、恋愛する気ない奴に恋愛絡みの話を無理やり持ちかけるのはしんどいやろっちゅうの。散れ散れ、あんまりサボりすぎると都子に怒られんだろ」

「あっ、そうだった。もう1時間経ってるじゃん!? やばーい殺される! じゃあね二人ともっ!」

 

 

 空き教室の壁掛け時計で時間を確認した朔月さんは一目散に階段を駆け下りていった。

 よくこうして1時間だけバスケ部以外の子と交流する朔月さんだが、1時間を超過して喋っていると都子に長めのお説教をされる事になっているらしい。上手く機嫌を取れたらいいな、祈っておく。

 

 

「さて、私は先帰るけど。佐藤はどうすんの? まだ残んの?」

「ああ。航太が終わるまでは時間潰す」

「そっか。じゃあな」

「おー……いや、待て」

 

 

 ガシッと肩を掴まれた。

 

 

「? なに」

「鹿狩って、俺の事嫌いか」

「はあ?」

 

 

 深刻そうな顔で何を言い出すのかと思えば、割とガチで意味の分からないことを訊いてきた。

 

 

「嫌いだったらつるまないでしょ」

「さっきお前、俺の事嫌いだって言ったじゃねえか」

「いつ言った!? 好きじゃねえとしか言ってねえけど!?」

「それ嫌いって事じゃないのかよ?」

「ちっがうねぇ!? 好きじゃないイコール嫌いにならないだろ! てか、アレは別にそういうんじゃないし……」

「なんだよ、じゃあどういう意味なんだ?」

「は、はあ〜? ……マジで言ってんの?」

「マジで言ってんの。どういう意味で好きじゃないってんだよ」

 

 

 え、えぇ〜。困ること訊くなよこいつ、言葉の綾だろ。

 あの流れがあったから咄嗟に出た言葉ってだけであって、別に好きとか嫌いとか、昔はともかく今は考えてないよ……。

 

 

「恋愛として、見れないから、そこが、好きじゃないって意味だろ。普通」

「恋愛として見れない? 俺が?」

「お、おう」

「なんで?」

「なんでって、そりゃ友達だし……友達として好きな相手を、恋愛として好きってなったら、色々終わるだろ」

「いいんじゃねえの?」

「よくねぇだろ。男友達として見てる相手だぞ」

「俺はそんなの気にしねえよ?」

「はいぃ!?」

 

 

 頭のおかしい発言をしてきたので目を剥いて佐藤の顔面を凝視してしまった。こいつ、人が驚く様を見て爆笑してやがる。趣味悪すぎだろ。

 

 

「俺はお前の事を女として見てる」

「ノリだろ、いつもの」

「ノリじゃねえよ」

 

 

 逃げようと思ったが腕を掴まれ、振り払おうとしてもそれも無理で壁際に追い詰められる。

 

 

「……お前、なんでいきなりとち狂ってんの。私相手にレイプとか、絶対将来黒歴史になるからな」

「そんな事しねえよ。てか、そっちこそなんで本気で逃げようとしないんだよ。全然力入ってなかったぞ」

「女の子なんでね!」

「女でもちんこ蹴れば男から逃げれるだろ」

「そ、それは、痛い、だろ」

 

 

 上履きが滑って、壁に背中をつけたまま尻もちを着く。すると、目の前に佐藤がしゃがんできてその顔が視界を支配した。

 

 

「男とか、女とか、そういう話どうでもいいだろ。俺を見ろよ、鹿狩」

「嫌だ、見ない」

 

 

 顔を逸らすが、頬を掴まれて顔面の向きを軌道修正させられる。

 

 やっぱり、こいつの顔は綺麗だ。まつ毛長いし、目鼻立ちもハッキリしてるし、美形ハーフ顔って言葉をストレートに表現しているような造形をしている。

 髪色は、顔の雰囲気に合わせて染めたんだろうか。白に近い金髪が靡く度に覗く瞳と目が合う度、胸に痛みに似た衝撃を覚える。

 

 

「俺は佐藤樹利として、鹿狩八尋の事が好きだ。それ以外の要素はどうでもいい、お前だから好きなの。理解出来る?」

「出来ねえ! 離せよ!」

「嫌だ。お前マトモに俺の事見てくれねえもん、もう逃がさねえ」

「そんな……」

 

 

 なんでいきなりモード反転ビーストになっちゃってんだよ。欲望の赴くままな男になっちゃってるじゃん。誰? こいつに酒飲ましたの、残念シラフでした。ヤバすぎるだろ……。

 

 

「だ、大体、お前彼女いんじゃん! 俺と付き合うってなったら浮気だぞ!」

「お前に見てもらいたくて作った彼女だもん。俺が独り身を卒業したらこっち見るかなって。そんな事無かったけどな」

「で、でも彼女は彼女だろ!?」

「別れるよ。で、お前と付き合う」

「言ってる事ぐちゃぐちゃすぎ! そんな横暴が許されるかよ!?」

 

 

 そう言うと、佐藤はハッと笑って狼のような獰猛さを含んだ笑顔を作った。

 

 

「そんな横暴を働かせたくなるくらい、他の女が見えなくなるくらいお前の事を食いたいわけ。言ってる事おかしいか?」

「おかしいわ! 結局性欲かい!」

「性欲だけでここまですると思うか?」

「す、するんじゃねえの! 知らんけど」

「ははっ。男友達としての、それか幼馴染としてのか? とにかく、今までの関係を守る為に必死だねぇ」

 

 

 佐藤は笑う。そして、鼻と鼻がぶつかりそうなくらい顔を近付けて、低い声で囁くように言った。

 

 

「んなもん、ぶっ壊しちまえ」

「え、んむっ!?」

 

 

 えぇー……。キスされた。

 

 

「ぷはっ、佐藤!? てめっ、レイプしてんじゃねえかバッ、ぅぶっ!」

 

 

 唇と唇が接触し、佐藤の手が、俺の頭を撫でる。必死に抵抗するが流石に慣れているようで、佐藤がキスの仕方、角度を変える度に頭にビリビリよく分からない電流が走って、抵抗する気力を削がれていく。

 

 

「んっ、佐藤! んみゅっ、ぁ」

 

 

 長い、長いキス。しかしがっつく事はなく、俺の唇に触れている相手の唇はあくまで相手を労わるように優しかった。

 

 というか、至近距離で目が合うのがやばい。ドキってする。目だけで佐藤は俺に笑いかけてみせ、その目を見る度に心の一番外側の壁をバリバリと破壊されていく感覚がした。

 

 

「むぁっ……佐藤っ、やめ……っ」

「やめねえ。ずっと今まで触れないようにしてきた、でもここで触れた以上絶対俺の物にする」

「んんんっ!?」

 

 

 耳の穴に指の先端が入ってきて、それが出し入れされて背中にゾワゾワとした感覚が上る。顎が上がる。僅かに上を向いた俺の唇を佐藤が味わい、腰にも手を回され、服の下から触れるか触れないかぐらいの力加減で撫でられる。

 

 佐藤に弄られる部位の全てがグズグズに溶けるように気持ちよくなっていく。相手がキモいおっさんなら心が折れるだけで済んだのに、端正な顔立ちの佐藤なせいで破壊されるのは男であるべきという自我だけだった。

 

 

「んっ、ん……」

 

 

 段々目を開けているのが億劫になり、目を閉じる。視覚が遮られると、より感覚が鋭くなって唇での接触に耳や体が熱を帯びてくる。

 

 

「っ。ここまで本気になったの、実の所お前が初めてなんだぜ。鹿狩」

「そ、そうなんだ。変わった趣味ですにむっ!? んっ、んんんっ!! はっ、んぅ!? ちょっ、いきなりキスっ、すんな!」

 

 

 死ぬほどキスが上手いのは良いとして、性欲が中学生過ぎるだろ。唇を合わせる度に長いキスを要求されて脳みそが焼き切れそうになる。舌を入れてこないだけマシだが。

 

 

「鹿狩」

「なんだよ」

「キスしたな。俺達」

「ぁ、はぁ!? お前から無理やりしてきたんだろ!?」

「嫌だったか?」

「嫌に、決まってんぅっ!?」

 

 

 やばこいつ。なに、本気で堕としに来てない? これ。会話の合間に長めのキスを挟んで女側からの同意を引き出そうとする常套手段じゃんこれ。え、食らう側になるとか思いもよらなかったんだけど。

 

 

「やっぱお前、可愛いよな。俺が今まで見た女の中で一番可愛い」

「ば、馬鹿だろ。そんなわけな、ひやっ!?」

 

 

 耳たぶを指で弾かれた。クニクニと耳たぶを弄られて、変な心地良さに腰が砕ける。

 

 

「あっ……」

 

 

 やめて欲しいと目で佐藤に訴えようとしたら、彼の顔をマトモに見てしまった。

 胸の鼓動が早くなる。今まで思ってたよりもずっと佐藤の顔の作りは魔性めいていて、その表情に食われそうって考えた上で、体から拒絶する意志が抜けていくのを感じた。

 

 唇を指でなぞられる。その後に佐藤の口が近付く、殴ってでも拒否らなきゃ尊厳もクソもないのに、全然抵抗する気が起きなかった。

 

 

「んっ、ぅ……」

「……っ、嫌だったら、言えよ」

 

 

 そう言いながらも強引に、リードと言うより少しだけ貪るように、唇の隙間をこじ開けて佐藤の舌が口内に侵入してきた。

 自分の舌に佐藤の舌が重なる。外周をなぞるように周り、舌から離れたと思えば口内上部にある膨らみや頬の裏側を舐められて、くすぐったさと気持ちよさが程よく伝わってくる。

 

 

「んっ、んっ……は、ぅん……」

 

 

 マッサージ中の微睡みに落ちる感覚だろうか、泥沼に沈んでいく感覚だろうか。抗いがたい力に全身が溶けていくような感じがして、いつの間にか完全に佐藤を受け入れてしまっている自分がいた。

 

 佐藤の身を突き放そうとした手は、今は佐藤の制服を摘んで離さないようにしていた。

 佐藤を蹴り飛ばしてやろうとしていた片足は、佐藤の腰に乗ったまま気持ちよさに震えてビクビクしていた。

 そして、この現実を見たくなかった筈の俺の目は、暗闇の中にある快感を経て恐らくは媚びるようなトロンとした形で佐藤を見上げているのだと思った。

 

 今はただ、目の前の男に全てを委ねたかった。後先など考えること無く、ただ佐藤のさをこちらが貪るつもりで深い口付けに応えていた。

 

 

「八尋、好きだ」

「っ!? んっ! あっ、だっ、んぁっ」

 

 

 不意に言い放たれた言葉に。その前に着いていた自分への呼び名に。脳みそがキャパシティオーバーしたかのように火花を散らした。バチンッ、と強い刺激が脳を焼いて、その電気信号は下半身にまで波及していた。

 

 呼吸が乱れる。最早こちらからキスをせがんでいた。どころか、股まで擦り寄せている。

 

 

「佐藤……」

「八尋」

「ぅあっ、名前、呼んじゃっ」

「……八尋」

「っ!」

 

 

 またイッた。シチュエーションのせいもあってか名前を呼ばれるだけで脳が気持ちよくなる。

 分かってた、普段から表面上嫌いという体なのに自分から関わりにあっていた相手にここまで求められれば、どうなるかくらい分かっていた。

 

 勘弁してほしい。もう心がグズグズになりすぎて目から涙が溢れている。佐藤からの愛情表現を欲している、その証拠に佐藤の首周りに手を回していた。

 

 

「さとう」

「俺の事、樹利って呼べよ」

「やだ……」

「呼べって」

「うぅ……」

 

 

 それは、関係性を壊す行為の提示であった。

 呼び名一つで俺と佐藤の関係性は壊れる。ただの幼馴染で、ただの悪友から"異性"になる鍵。

 

 もしその鍵を使ってしまったら。もし佐藤の事を名前で呼ぶようになったら。後はもう、俺は佐藤に対しては女でしか居られなくなる。

 

 朔月さんの言ってた事が事実になる。それは彼女からしてみればめでたいことかもしれないが、今の俺の人生に優先順位を作るわけにはいかない。

 

 大切な物がブレたら、またバタフライエフェクトが起きるかも知らない。起きなくても手で掬えるものには限りがある。

 

 俺は、幸太郎と都子を、掬いきれなくなった時に手から零してしまう役割にしたくはない。だって、アイツらを救うためにこの世界で人間をやり直してるんだから。

 

 

「……」

「……八尋」

「わ、たし」

「好きだ」

「んぅっ。あっ……ん、ぅ……」

 

 

 また深いキスをする。もう探ったり様子を見たりすることの無い、ただ互いを求める為だけのキスを、互いが能動的に行っていた。

 

 唾液交換により遺伝子を与え受けて、細胞の節々が目の前の男を欲していた。

 魔力か何かあるのではなかろうか? もうロクに物を考える事も出来なくなっていた。

 

 

「ふはっ。八尋」

「……ん」

「呼んで。名前」

「…………」

 

 

 そっと佐藤の顔を見る。ああ、駄目だ。顔が赤くなって火照っていくのがわかる。

 

 

「……樹利。好き」

「……ぷっ。名前を呼んで、とは言ったけど、好きって言えとは命令してねーよ?」

「……うざい。命令とか知らねえ。自分の意思」

「あ、あ……そう? そっか…………お前、本当に可愛いな」

 

 

 腹を蹴った。樹利はちゃんと悶絶してくれた、嬉しい。苦しめ変態野郎め。

 

 

「いってぇ〜……クソッ、可愛い女っつって蹴るやつがどこにいるんだよ」

「いいじゃん、ご褒美っしょ?」

「俺はMじゃないんだよな。じゃあ、八尋」

「あっ! んっ……!」

「なあ。思うんだけど、名前呼んだだけでイく奴普通にヤバくない?」

「それはっ、我ながら思うけど……! 今日はもう名前で呼ぶなっ。ほとぼりが冷めないから……」

「え?」

「え? な、なんだよ」

 

 

 キョトンとする樹利、顔がラッコみたいでおもろい。間抜けだ。

 

 

「今日うち来ないん? 親いねぇけど」

「は、はあ!? え、いや、なんでそんな」

「お前、俺の事好きなんだろ? 俺もお前の事好き。彼氏彼女やんね?」

「そ、そうだね……改めて考えると、変な感覚だわ」

「ハハッ、確かに。で、彼氏彼女ならどっちかの家に行くのは自然だろ」

「えぇー……? 初日だぞ。まさかお前、付き合って初日で女連れ込むとかそんな、クラブ帰りじゃねぇんだからさ……」

「来ねえの?」

「……どうせお前体目的だろ」

「おう、連れ込もうとしてる時点で」

「よし! 分かった! 別れよう、うん! じゃあな樹利! また!」

 

 

 帰ろうと樹利の体を押しのけようとしたら、また腕を掴まれて捕まってしまった。

 

 またキスされるのだろうか。目の前のよく見える位置に樹利の顔があると変に濡れてくる。するなら早くして欲しい、そんでもって俺を解放しろ。

 

 

「八尋」

「あんっ! ……なんだよクズ」

「しねぇの?」

「へっ? いやだから、いきなりは!」

「いきなりでもいいだろ。俺はそれくらいお前のことが好きだ」

「……好きじゃない。それ、性欲」

「性欲も勿論あるけど、お前を抱きながら寝たり、一緒に飯食ったりしたい。な、お前と二人だけの時間を過ごしたいんだよ」

「……なにそれ。なんのセリフ、ずるい」

「オリジナルだっつの。……で、どう? しねぇ?」

「…………する」

「プッ、ふふふははっ! 来るか来ねえかじゃなくて、するかしないかの方に了承するんだな! ノリノリじゃねえかよ!」

「あっ……死ね!」

 

 

 記憶を失うキノコか薬品辺りあれば即がぶ飲みしたくなるような会話を交わし、俺と佐藤はその後共に帰宅した。

 人生でこんな日が訪れるとは思わなかった。出来るだけすぐに全部忘れたいが、この出来事はきっとこれからも忘れられない物の一つになるんだろうなと重い気持ちになった。

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