子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
「とりゃっ! よいやっ! てやっ!!」
「成長してるねぇ。今泉さん筋いいよ!」
「ホント!? やたっ!」
「でもまだまだだねぇ」
「あっ、あー!!!」
響き渡る今泉さんの悲鳴。Yon loseと流れるゲーム音声。静かに、しかし確かな勝利に酔いしれる幸太郎。そして、幸太郎のベッドの上に胡座をかいて漫画を読む俺。
佐藤と付き合ってから頻度は減ったが、最近の放課後の過ごし方のベーシックはこれだ。
学校で速攻帰ろうとする今泉さんを拾い、一緒に幸太郎の家に行く。夕方までゲームしたり漫画読んだりして時間を潰す。懐かしき青春の日々である。
「相変わらず容赦ねーなー。今泉さんに嫌われちゃうよー幸太郎くん」
「き、嫌わないよ! 幸太郎さん、優しいし。説明分かりやすいし……」
「そう? ムカついたら遠慮なくブチキレちゃっていいからね」
「お前は俺のなんなんだよ」
「幼馴染は特殊な権利を有するのだ」
ふんぞり返ってそう答えてやってから漫画に目線を戻す。ふむふむ、トレパネーションね。頭蓋骨に穴空けるのね、めちゃ頭良くなるんやったらやってみたいわ。
「鹿狩さんはゲームしないの? 代わるよ?」
「んー。私は漫画に専念したいね〜」
「何しに来てるんお前……」
「愛しの幼馴染くんが寂しいかな〜と思って遊びに来てやってるんですよ」
ドタンタン! 大きな音が鳴ったため漫画を置いて目線を上げると、幸太郎がすっ転んだ姿勢で俺の事を見ていた。
「お、おおお前、愛しのとか言うなよ! 恥ずかしいだろ!」
「恥ずかしくねぇだろ。こんな完全無欠美少女の幼馴染やってんだ、胸張れや」
「完全無欠ぅ?」
「なんですか? 幸太郎くん??」
文句ありげな幸太郎に見せつけるように、漫画の積まれた本棚の上から二番目に差し込まれた冊子の束を叩いた。
この裏にはヒロインが俺と酷使している『向日葵の再会〜男だと思っていた幼馴染が〜』が隠し入れられている。
幸太郎は俺に言った。「後生だから今泉さんにだけは言わないでくれ!」と。
俺は優しい、優しい上に幼馴染を愛している。死の未来から救う為に日々頭を悩ませているほどだからね。そんな幼馴染の頼みくらい、聞いてやるのも吝かではないというものだ。
ニィーっと笑う。吝かでは無いが、言論統制の材料に使わないとは言っていない。幸太郎よ、君はこの部屋にいる限り俺には逆らえんよ?
「私は完全無欠の美少女。そうですね? 幸太郎くん」
「いや、それは同意し兼ねるな。性格に難アリ、スタイルもちんちく……って程でもないが、完全無欠からは程遠いし」
「次の漫画どれ読もー」
ガサッと冊子をいじると、床が揺れるくらいの勢いで幸太郎は土下座した。
「幸太郎さん!? ど、どうしたの?」
「うん、なんだろうね今泉さん。重力魔法でも受けてるのかな、動けないや」
「男だと思っていた幼馴染が」
「鹿狩! 食べたいものない?? コンビニぐらいならダッシュで買い出し行くけど!!!」
「3種のチーズ牛丼食べた〜い」
「ん片道20分!!」
「そういえば今泉さん、ミスド好きだったよね。ミスドのドーナツもいくつかお願いねっ」
「二つ隣町ッ! 駅まで片道37分からの8分徒歩6分っ!! 鬼かなあ!?」
「向日葵の再会」
「行ってきます!」
幸太郎はジャージから外用ジャージに着替えて、財布を持って猛ダッシュで駆けていった。着替える時に廊下に脱ぎっぱなしになった服を纏めて部屋に回収しておく。
「ったく、横着癖は直らんの〜幸太郎は」
「随分、仲良いんだね」
着替えの整理ついでに部屋の片付けもサービスでやってる最中、今泉さんが背後から声を掛けていた。今泉さんは今だにゲームをピコピコ一人でプレイしている、個人練習の精が出ますね。
「ま〜幼馴染だしね。そりゃマブよ」
「幼馴染だから仲がいいの?」
「ん? 急に深い質問してくるな」
ゴミ箱の中をチェック。すごいな、オナティッシュが一個もない。英雄じゃん。別のゴミ箱でも持ってて、そこに突っ込んでんのかな?
「もしさ、鹿狩さんと幸太郎さんが幼馴染じゃなかったとしたら、今みたいに仲良くなれてたのかな」
ゲームしながらなのにしっかり頭使える思考ゲーム提示してくるの面白すぎるな。折角の計らいなので考えてみよう。
幸太郎との出会い、家が近所だからという理由で通学班を組まされ、そこで出会う。都子も同様。都子と幸太郎のグループに俺が参入する形で、二人と仲良くなった。
「んー……小三までは出会う事さえ無かったろうね。幼馴染じゃなかったとしたら」
「小三? なんで?」
「それまで違うクラスだった。あと、多分そうなったら私は樹利とずっと幼馴染続けてる事になるから、一歩引いた関係性になる時点で深く関われるとも思えない」
「樹利……さんですか? 女の子?」
「んん? 男だよ、佐藤っているだろ。アイツアイツ」
「佐藤って不良の? あの人とも幼馴染なんだ……」
「まあねー」
てか、幼馴染どころか今じゃ彼氏ですけど。あんな大々的に皆に交際を言いふらしたってのに、リアクション薄いんだな。そんなもんか。
「逆に、今泉さんが幸太郎の幼馴染だったらどうなってたんだろうね」
「逆にって、何が逆になんです?」
「そこ突っかかられたの初めてだ……私の代わりに今泉さんが幸太郎の幼馴染だったら、どうなってたと思う?」
言い方を少し変えて言い直すと、今泉さんは考える素振りを見せた。手は止まってない、よく並行で思考できるな。
「……幼馴染居たこと無いからわからない」
「妄想でいいじゃん。現実じゃねえんだもん、現実味なくてもいいんじゃない?」
「うーん……幸太郎さんが幼馴染、かあ」
お、手が止まった。妄想ゲームに本腰入れてきたな、俺も漫画読むのを一旦やめるか。
「もし幸太郎さんが幼馴染で、もし隣の家だったら、窓越しにお話とかしたいな……」
「おー。いいね。CDの貸し借りとかね」
「したい! そういうのすごい憧れる!」
いいなぁ、平成初期感溢れる妄想だ。窓越しで会話、な。
虫とか入ってきそうだから窓なんか開けたくないけどな、日陰になるからジメジメゾーンでしかないし。
「他には?」
「一緒に登校したい、朝とか起こしに行くの! 幸太郎さんは朝弱いから、中々起きないからっ!」
今はアレだけど、幸太郎バチ早起きだけどね。まあ妄想世界にそんな茶々は無粋なのでシーッする。
「具体的にどう起こすの? チャイムだけじゃ起きてこないかもよ?」
「そしたら部屋まで来て起こすの! 朝だよーって、布団を剥ぎ取る!」
「全男の夢だねぇ」
昔から関わりのある女の子に朝起こしてもらうとかもうエッチやん。たまらんやん。制服姿でな。朝勃ち隠す為に脳みそフル回転だわな。
「他にはほかには?」
「えーっと、えっとね。色んな所遊びに行く! カラオケの練習はお互いに誘うのが当たり前だし、同じ店で買い物するからお互いに癖を分かりきってて、勝手にカゴに入れちゃったり。で、被ってるってなってちょっと揉めるの!」
「揉めるんだ……」
全部が全部円満なわけじゃないのね。些細な事で喧嘩する可能性もアリと。リアルだな。
「でも、帰り道でクレープ屋さんの屋台とかあって。二人でクレープ食べて、口を聞かないってなってたのがいつの間にか普段の日常会話をするようになるの」
「ふむふむ」
「小学校まではずっと仲良くて、中学も初めの頃は仲良いんだけど、でも男女の事を意識して段々話さなくなっていくの」
「うん」
「でも、高校生になったら何かのきっかけでまた話すようになるの! 同じ高校に進学するとか、そうじゃなくてもバイト先で出くわすとか、信号待ちで顔を合わせるとか! それで、また子供の頃みたいに仲良く遊ぶようになるんだ」
「……うん」
「それで、気が合うな〜ってなって、当たり前だろ、幼馴染なんだしってなって。でも、幼馴染のままじゃ嫌だみたいな、なって……それで付き合うの!」
「……」
「それでね! 大人になってもね、付き合いは続くの! もしかしたら、恋人としては別れちゃうかもしれないけど、それでも縁は……って鹿狩さん!? なんで泣いてるの!?」
「……? あら」
言われて気付いた。涙がホロリ、いとエモし。頬に零れた雫の跡と目尻に溜まった水滴を服で拭い、普通顔を作る。
「いい話しすぎて感動してたよ。さながらのび太の結婚前夜だわね」
「そ、そんなに感動するような事話してないよ……? 幼馴染テーマの漫画ならよくある、ありふれた流れだと思うけど……」
「んーん。そのありふれた感じが良いんだよ。すっごく」
「?」
ハテナ顔をする今泉さんにそれ以上の説明はしなかった。都子と幸太郎は死ぬ運命にある、だなんて話したら脳みそのシワが少ないんじゃないかって思われちゃうからね。
アホめいた発言はしない方が良いのだ、人間社会で生きていくならな。
「ちなみにさ。今泉さん、幸太郎の事好きっしょ?」
「え!? はぅいえあっ!? な、なななんの事っととととででででででっででですっ!?」
「今DJしてた? 才能でしょその音のカッティング」
「あぅ……恥ずかしい……」
あぅて。ハム太郎みたいな声出たぞ今。可愛かったな。
「で、好きなんでしょ?」
「ち、ちちっ、違いますけど!?」
リンゴみたいな朱色に顔を染めた今泉さんについ笑ってしまう。それで誤魔化してるつもりなのだろうか、誤魔化せるとしたらその世界は色の無い白黒の世界だよ。チャップリンが大股で闊歩する世界だよそこは。
「私がここに来なくなった期間も遊びに来てたんでしょ? 幸太郎に会いに」
「ちっ、違いますから! 私は、ただ……あぁあの、ゲームの練習を!」
「買えばいいじゃん。中古屋さんに安く売ってるでしょ、それ最新作じゃないし」
「そ、それは……じゃあ、えーっと!」
「今考えてるやん。今用意してんじゃんか、動機」
「うー! 今用意してもいいじゃないですか! 理由なんてないし!」
「理由も無しに幸太郎に会いに来てたの?」
「うん! そう!」
「じゃあ恋やん」
「こっ、は、へ……っ?」
おっ。ボンッて音が鳴って煙が立った、みたいなシーンが過ぎるくらいの急速さで赤みが増した。これからのあだ名はりんごちゃんにしてもいいんじゃないかな。
「認めたら? いいじゃん幸太郎、顔良いやん」
「そ、それはそう……けど、顔とかじゃないから。そんな理由で人を好きにならないよ……」
「そんな理由でも人を好きになるに足る理由だと思いますけどね。じゃあどこに惚れたん?」
好きな事前提で話しているが、今泉さんは否定しない。気恥しそうに指をモジモジしながら俺の目をチラチラと見ている。俺は幸太郎では無いのでそんな反応をされても困るが。
「……好きになった理由とか、決め手とかは無くて。一緒に過ごしてると、楽しいくて。幸太郎さん、優しいし、私の事を見下したりもしないし」
「わっかるー。幸太郎って気に入った相手にはとことん優しいもんねー。よかったね、気に入られてんじゃん?」
「えぇっ、そうなんですか!?」
「そうだよ〜」
いや知らんけど。実際の幸太郎は誰にでも割と平等に接するタイプやし。でもそんな事言ったら馬に蹴られて体ベッコベコにされそうなので言わないでおく。
なんなら幸太郎のイメージを更に善いものにしておいてやろう。女に親しみを持たれて嫌な男なんて居ないもんね〜。
「で、でも、そんな良い人ならきっとモテるよね。私なんか眼中にもない……」
「なんで? アイツ引きこもってんじゃん? 普通に考えて競争率低くね?」
「そっ、それはそうだ、けど」
「アイツと親しい女連中は皆彼氏持ちか今の生活に満足してるから、登校拒否ってる幸太郎が入る余地無いよ。安心しな」
「……1番身近な人が残ってるもん」
「? ごめん、よく聞こえなかった。なんて?」
「なんでもないですよー!」
聞き返すとそう返された。こわ、悪口でも言われたんかな今。もしそうなら俺もう女性恐怖症になるかもしれん。二面性持つのがオーソドックスになるの怖すぎるもんね。
「まあ私としては、いい加減幸太郎に引きこもり止めて欲しいし。今泉さんさ、連れ出してよ。アイツのこと」
「え、わ、私が……?」
「んー。好きなんでしょ? アイツの事」
「……うん」
「じゃあ頼んじゃうわ。恋もシャカリキで応援するし、アイツを射止めて外に連れ出してやって!」
「そ、そそ、そんなぁ……」
「頼んだぜっ! まずはもうちょい目立つ努力から始めよう〜なっ!」
グワシッ! 手を掴んで、わし掴んでブンブンブンッ! て振り回してやった。女子の恋を応援する女子ムーブがあまりよく分からないからニッコニコ笑顔を作る。多分スマイリーくらいのガチガチな笑顔になっているだろうな、胡散臭いかなぁ〜。
「……ごめん鹿狩さん。無理だよ、私には」
「うん? あれれのれ。今の流れで無理だよってなるのマジ? なんでぇ?」
目が回った。あれ、元気いっぱいに恋を応援したら行けると思ったんだけど。
「うっ、うぅ……私には、無理だよ。無理なのぉ……」
「えっ、泣いてる!? 今度は今泉さんが、なんでっ!?」
なに、この家ターン制で女を泣かせる呪いにでも掛かってんの? とんだヤリチンハウスだな。
「……私、ね」
「うん?」
「私の体、汚いから……」
「うーん? なんで?」
体型の話だろうか? 違ったらクソ失礼だけども、今泉さんが自己嫌悪抱くとしたらきっとそこだよな。汚いっつっても多分処女だし、少し太っちょって所が1番目につくもんな。
「……私は、汚いの」
「汚いか〜?」
「汚いの。……だから、私が幸太郎さんと付き合うとか、無理」
「汚いの定義とは〜? 処女じゃないってのが汚いに入るなら私も巻き添え食らってますが〜?」
「……そんなの、そんな程度の事じゃないよ」
程度の事? 女にとっての膜の有無って割と大事なんじゃないの? そう思うに足るくらい初めての時痛かったんだが。俺が痛みに過剰に弱いだけか?
なぁんて考えていたら、今泉さんが服を脱ぎ始めた。
「ちょっ、何してんの! どしたどした!」
「……黙って見てて」
「はぁ……」
大分真剣な顔をして言ってくるので、とりあえず部屋のドアが外から開けられないように寄りかかって座る。
しゅるしゅると制服を脱いでいく今泉さん。出てくるのは厚めの肌着、太って見えるのってこの着膨れが原因なんじゃないのかしら。
「ん? 怪我してんの、今泉さん」
「……」
今泉さんは答えない。肌着の下には包帯でぐるぐる巻きにされた肢体があった。ミイラみたいだ。
しゅるしゅるしゅるしゅる。巻かれた包帯を長い時間をかけて解いていく。
てかこの人、全裸になる気なのか? 好きな男の部屋で裸になるのか、やるねぇ。そういう性癖だったりするのカナ?
なんて思ってる合間に、包帯が完全に今泉さんの体から取り払われた。
「見てよ、鹿狩さん」
そんなことを言いながら披露する今泉さんの体を見る。
腹や足の付け根、鎖骨の下や脇腹。人目に付かない部位に残る打撲痕。蚯蚓脹れ。特に腹は酷い、蓄えられた脂肪が不規則な隆起と埋没を繰り返し変形している。
鉄パイプで何度も腹を打ち殴られたような、凄惨な傷。赤紫色に沈着した斑点はもう取れそうにないくらいに拡がっていて、粘着質な暴行の足跡をこれでもかというくらい残していた。
打撲による傷も酷い。けど、もっと酷いのは火傷の跡だ。
タバコを押し当てられたであろう跡が、肌着で隠せる範囲に散りばめられている。10や20じゃ利かない、数えるのもおぞましい程の火傷跡。
それに、やけに範囲の長いケロイドが下腹部から右脇腹まで横断していた。何をすればこうなる、拷問にでも掛けられたのか?
自傷でついたと思しき傷で左手首と両太ももが多数の切り傷跡に塗りつぶされていたが、それも霞むほどの惨状に、空いた口が塞がらなかった。
「……ね? 汚いでしょ」
何も言葉を返せない。でも、何か言わなきゃ。何を? 何を言った所で今泉さんは傷付くのでは、でも何も言わなかったらそれはそれで、ここまでした勇気を踏みにじる行為になるのでは……。
「誰に、やられたの……それ」
震える声で吐き出されたのは、相手の事を思いやった一言でもなんでもなく、この惨状を生み出した奴が誰なのかという独りよがりな好奇心の言葉だった。
なんで、そんな事を口にしたのか。分からない。何も分からないから、思考出来ないから反射的に出てきたのがソレだった。最悪だ。
「誰にやられたって? そんな事気になるの、鹿狩さんは」
「き……に、ならないって言ったら、嘘になるね」
「お父さん」
即答された。怒りも、悲しみも、喜び、憂いも、何の感情もない氷漬けの死骸のような目で俺を射抜いてきて、提示された彼女の答えは『自分の父親』であった。
こういう時、感受性豊かな人を気取るのならゲボでも吐いとく所だったのだろうか。吐き気なんて全くしなかった。頭から指の先まで、冷気が吹き込んでいくような悪寒はあったけど、それ以外に感じたものは特になかった。
「……ありがとう、鹿狩さん」
今泉さんは俺に感謝の言葉なんて投げてきた。何も理解出来なかった俺は捻ることもなく「な、なんで?」と言うことしか出来なかった。
「少し前にね、私をいじめてた辻井居たでしょ? アイツに体を見られたの。レイプされそうになって」
「……っ」
あの、クソチビ野郎。本当に救えない奴だな……流石に怒りを覚えて拳を振り上げた。床を殴りつけても、そんなに痛くはならなかった。
自分の感じる痛みが柔いでると錯覚できるくらいに、今泉さんの事を哀れんでしまっていた。
「辻井はね、私の体を見て吐いたの。自分が乱暴しようとした女の、手を出したらどうなるかっていうのを見せつけられて、その日に食べた給食を全部戻してた。滑稽で笑っちゃったけど、それなりに傷付いたんだ。辻井の事、殺したくなるくらい」
笑えない。冗談じゃ無いだろうから全く笑えない。
下を向く。それ以上は今泉さんの体を見てられなかった。もし自分が同じ目に遭ったら、なんて想像をしないよう薄情だが今泉さんの姿に俺の視神経が拒絶反応を起こしていた。
「こんな体で、恋人なんか出来ないよ。幸太郎さんも、きっと私の体を見たら戻すと思うもん」
「そうかな……」
「そうだよ。鹿狩さんが珍しいの。それか男の人がこういうのに弱いのかもね。大体の人は、私の体を見たら吐くんだもん」
「……幸太郎は、友達の酷い姿を見たら怒りはするけど吐いたりしない。汚いなんて思わないよ」
「本人でもないのに断言するんだね。それも幼馴染だから? いいなぁ」
「ごめん。でも、幸太郎は……幸太郎は、本当に良い奴なんだ。身内贔屓かもしれないけど、アイツは……」
「ありがとう、鹿狩さん。もう服着るね、そろそろ帰ってくるだろうから」
目線は床の一点を見つめているから、音だけで今泉さんが制服を着直すのを感じた。
軽い話題のつもりだったのに、トラウマにしかならなそうな出来事を目の当たりにしてしまった。なんでこうなった〜?
いけるか俺、今泉さんの顔面見れるか〜? 久しぶりに放課後の日課に身を落としたと思いきやこのザマかね、勘弁してほしいや。
「鹿狩さんはいいね、可愛くて」
かる〜い調子で言われた言葉がマジで深いボディーブローとなり腹にぶっ刺さった。勘弁してほしい。
その後、幸太郎が帰ってくるまでそれ以上会話を交わすことは無かった。
これからも仲良しを続けられるかなぁと不安になる。
事情を知らないマンが1番場を回せるじゃろうということで、場の清涼剤は幸太郎のコミュニケーション能力に任せよう。唯一の男だしね。ラブコメの主人公ポジションに立って頑張ってほしいね。