子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
「なんだよ、今日泊まってかないん?」
「言ったじゃん、今日は生理だから駄目」
「それくらい我慢できるけど?」
「キモ。がっつかないでよ」
生臭い白濁液をティッシュで拭いゴミ箱に捨てると、スマホを弄っていた男がウチの腰にまとわりついてきた。
「こら、勝手に胸揉むな」
「いいやろ、花子のデカパイを育てたのは俺なんやし」
「何馬鹿なこと言ってんだか」
脂肪を揉みしだこうとする手を引き剥がし、畳んで置いておいた服のシワを伸ばして身に着ける。
「てか、名前で呼ばないでっていつも言ってるでしょ」
ウチは自分の名前が嫌いだ。名字もなんか古臭くて好きになれないけど、『花子』なんて名前、昭和生まれのおばさんみたいな響きでダサいとしか思えない。
それに、市役所なんかにある筆記書類の見本なんかでよく目にする名前でもあるし。
古臭い上に手抜きとか、名前からして雑魚な人生を歩むことを強いられてるみたいで嫌になる。
「じゃ、ウチ行くから」
「うぃ〜。彼氏くんにもよろしくな〜」
「よろしくしないわよバカ」
下だけ履いて横になった男、中二の頃から付き合いのある高校生の男に口付けをする。この男とのキスは、他の色んな事を無視して二人だけの蜜事を行う合図であり、密事を行う裏切り者達の関係を解消して赤の他人に戻る為の、ウチと彼のスイッチだ。
絡みつく舌から伸びるトロリとした唾液を切って、蝶の瞬きのように刹那愛し合うだけの縁を断つ。
先輩の家を出て、小走りで学校に向かう。
今日は日曜日、授業は無いけど部活は平常運転でやっていて、ウチもイラストレーション部の活動で登校している、事になっていた。
校門の前であたかもそれまでずっと待っていた、と思えるような姿を装う。
部活動で残っている生徒を含め全生徒が強制的に帰宅させられる18時半、その直前の10分間の間に、ウチの彼氏である
「あっ、篠崎くん! おつかれ〜!」
「あはは、ありがとう花」
「えへへ、ぎゅーっ!」
「まだ校門だから、人の目あるからくっつくのは……っ!」
サッカー部に所属する篠崎君は、必ず他の部活仲間達と校門まで喋りながらやってくる。篠崎君とウチはサッカー部じゃ有名なカップルになっているようで、人前で絡んでいると冷やかす声が聞こえてくるのは日常茶飯事だ。
わざとらしく篠崎君に抱きつくと、彼の顔はラズベリーのように甘ったるい朱色に染まった。その様を見て冷やかす人、悔しがる人、羨ましがる人がいて、その輪に囲まれながら、隣歩く篠崎君と笑い合う。
幸せだ。でも、そろそろ飽きてきた。なぁーんて、絶対篠崎君に悟られないようにしないとだけど。
つまらない。
彼氏が出来たら、沢山の人に知られるカップルになったら。それはもう、学園ラブコメみたいに毎日が笑いと驚きとほんのちょっとの甘酸っぱさに溢れた日々を送れると思っていた。
甘酸っぱいかと聞かれたら、まあそうかも、と答えられる日々は送れた。
楽しかったのかと問われたら、それもまた、まあそうかも、と答えられる。
不満はない。篠崎君は浮気しないし、てか周りが篠崎君を見張ってるっぽくてそんなの出来る雰囲気じゃないし。優しいし、カッコイイし、大事にしてくれるし。
……優しいし、カッコイイし、大事にしてくれる。それ、当たり前の事じゃんね。
彼氏の褒め口を挙げる時に真っ先にそれが出てくるとか、ウチって酷い女だなぁと自分に驚いた。
つまりそれって、当たり前の事をクリアしてるだけの、退屈な男だって遠回しに言ってるような物じゃないか。
篠崎君、他のサッカー部の人と違って女の人に耐性が無くて童貞だったから付き合ったのに。
何か過去にあって、それを引き摺ってるんだとしたら。ヒューマンドラマ系の小説みたいに人間関係の縺れに巻き込まれたり、思い合っていてもすれ違ったり相手を想って衝突したり、なんて事があると思ったのに。
篠崎君はただの平々凡々なモブキャラだから、特筆して面白くも怖くも真面目でも不真面目でも無ければ、どの価値観を取っても普通の域を出ない、ぬるま湯みたいな人だから。
だからそこそこかっこよくはあってもモテはしない、ただそれだけだった。肩透かしだ。
「えへへー、篠崎くんの汗の匂い」
「か、勘弁してくれよ花……」
「毎日毎日よく飽きないな〜その夫婦漫才」
「飽きないよ〜! ウチ、一生篠崎くんの彼女だもんっ!」
「っ! はぁな〜!」
「照れてんじゃねえよ篠崎!」「これじゃどっちが彼氏か分かんねぇな〜」
「からかうなや! さっさと帰れお前ら!」
篠崎君がそう吠えると、彼をからかっていた二人は笑いながらウチらとは進行方向の違う道の方へ歩いて行った。
信号を渡り、緑道に入る。他の生徒達も同じ道を経由するので人が多くて、ウチと篠崎君は互いに離れないよう恋人繋ぎで帰路を歩く。
「ねえ、篠崎くん。今日ちょっとお話しようよ!」
二つ目の信号を越えた後、パチンコ屋の駐車場を横断して、歩道に出る前にある自販機で飲み物を買って、木陰のベンチに腰掛けた。
「どうした? 足痛いとか?」
「そうじゃなくて、篠崎くんと分かれるのが嫌だから、ここで話したいなって」
「電話すりゃいいじゃん」
「一回お分かれして、都合あう時間まで待たなきゃならないでしょ。嫌だ、もっと一緒に居たいよ篠崎くん……」
「花……」
篠崎君はウチの言葉を聞き、ようやく意図を汲んで隣に座ってくれた。そうそう、そうして欲しかったのだ。距離が近い方が、臭う筈だから。
「ねっ、篠崎くん」
「ん?」
「ちゅっ」
「むんっ!? い、いきなりだな花」
「いきなりだよー。おあずけされてたんだもん、篠崎くんが部活してる間。ついでにむぎゅー!」
「んんむむんっ!?」
驚いた顔で呆けてた篠崎君の頭を掴んで、自分の胸に押し付けた。
ウチの体に染み付いた"他の男の精液の臭い"、これに気付いたら少しくらい面白い反応をするか。退屈のしない事をしでかしてくれるのを期待して行った行為だった。
篠崎君は胸から顔を離すと、またしても顔を真っ赤にして抗議してきた。
「い、いきなり何するんだよ! びっくりしただろ!」
「えへへー」
気には、してないっぽい。鼻が詰まってるのかな、それとも香水付けすぎて分からなかった……?
うーん、そろそろ潮時かな。篠崎君は良い人だけど、慣れてるからか最近全然感情を揺さぶらせてくれないし。
このまま一緒にいても、元の何も楽しくない灰色の日常が戻ってくるだけだ。さっさと別れて、先輩の女になっちゃおうかな。
「花」
「ん、なに? 篠崎くん」
「いや、なんかいきなり大人しくなったからさ。大丈夫、体調とか悪いのか?」
「んー。ふふっ。ねえ、篠崎くん」
「うん?」
「篠崎くんは、私の事好き?」
「好きだよ、勿論」
「どんな所が?」
「な、なんだよ急に! 外でそんな、恥ずかしい事言わせないでくれよ……」
「ふふ、ダメー。ねえ、どこが好き? どんな所が好き?」
「は、花ぁ……」
「答えないともう口きいてあげませーん」
「えぇー!? じゃあ……笑った時の顔とか、すごく美人で、好き」
「いきなり顔なんだー」
「褒めてるんだからいいだろ!? あとっ」
褒めてる、ねえ。
篠崎君はウチの事を美人と思ってくれてるんだ。ウチの周りにいる子達の方が明らかに美人、美少女の集まりなのに。
1番になれないことを一番最初に褒められても全然嬉しくない。それなら胸の事に触れてくれた方が、気を使ってない"本心"なんだって思えるからマシだ。
嫌われるのが嫌だとか、デリカシーとかそういうのを気にして、当たり障りない事ばかり言ってくるのとか本当に退屈の極みだ。
そりゃあずっと下ネタ言ってばかりの男子は無論気持ち悪いけど、こういう場面で茶化しながらでも下ネタや欲望を素直にぶつけてくる人の方が余裕が感じられていい。
そこら辺の観点から見ても、やっぱり篠崎君は面白みの欠ける人物だなあと考えてしまう。
紗理奈やかがりんが羨ましい。あの子らが付き合ってる不良さん達は、きっと今みたいな質問にもウチが求めるように、突拍子の無いことをするに違いない。
胸をいきなり鷲掴みにされて「ここ以外ねえだろ」みたいな事言われたり、「本当に口きけなくしてやろうか?」みたいな事言いながら壁ドンしてきたり?
いいなあ、エッチだなあ。
そういうのがいい、きっと自分は数ある内の一つでしかなくて、今気まぐれに使われてる消耗品なんだ、みたいな事を考えて、いつ捨てられるかドキドキして毎日過ごすんだ。退屈のしない毎日を遅れるに違いない。
「あと」「ウチはねー! 篠崎くんのぜーんぶが好きだよっ!」
「あ、あはは。そりゃ光栄……」
いつまでも終わらない篠崎君の口を強引に止めて、立ち上がって帰路を歩く。少し遅れて篠崎君も横に並ぶので、わざと手と手をぶつけて恋人繋ぎをする。
「ねっ、篠崎くん。明日も一緒に帰ろうね!」
「勿論だ。毎日だって一緒に帰るよ、花の彼氏なんだからな」
「あはは、じゃあもう小鞠ちゃん達と帰れないなー! けどっ、篠崎くんと毎日一緒に居れるならほんもーっ!」
「ははっ。ほんもーっ! って。なんかアレだな、花と仲良い鹿狩さんっぽい。……花?」
かがりん? なんで、なんでそこでかがりんの名前が出るんだろう。
特定の個人と一緒にいる時間が長くなると、互いの喋り口調や仕草が似てくるっていう、そういうアレなのかな。それで、ウチがかがりんに似た事を言ったって?
……かがりん、なんか幼稚な喋り方するし。なんにも考えてなさそうな所は見てて面白いし、無意識に寄っていっちゃう事もあるのかもしれない。
「篠崎くん。彼女といる時に他の女の子と名前を出すの、マナー違反!」
「そ、そうだよな! ごめん花!」
「ジュースおごり!」
ウチがそう言うと、篠崎君は元気よく返事して少し歩いた先にある自動販売機まで走っていった。
「あ、花ー! 何飲みたいか聞いてなかったー!」
そうだよね。それを聞く前に走っていくんだもん、ビックリしたよ。
「炭酸以外ならなんでもいいよー」
「りょうかーい!」
「……篠崎くーん!」
「? どうしたー?」
「ごめん、今日これから予定あるんだった! ちょっとウチ寄り道するから、先帰っててー!」
「予定ー? 一緒に着いてくよ、もう遅いし」
「大丈夫! おばあちゃん家に寄るだけだから!」
「そう? なら、はい」
篠崎君がウチにジュースを手渡ししてくれた。午後の紅茶、か。美味しいよね。
「じゃあ、気を付けてな。花」
「うんー。じゃね、また明日」
大通りまで篠崎君の後を着いて行って、信号を渡りきったのを見届けてから踵を返す。
大通りから小さな道に入ってすぐの曲がり角を曲がって、歩く。目的はない。歩く。何処に行こうなんて考えてなかった。
歩く。歩く。スマホが揺れている気がした。電源ボタンを長押しする。
「鹿狩。小鞠ちゃんの方が仲良いのに。紗理奈とくっついてるのに。鹿狩。なんで? おかしくない、あいつ、あの女に……」
歩く。歩く。宛もなく知らない道を歩く。篠崎君から離れるように、纏まらない、頭に纏わりつく『不快』を掻き出そうとグシャグシャ思考を混ぜっ返しながら歩く。
あんな、自分で生理の管理も出来ないような子。外も中も子供のままのあんな子が、ちょっとした会話でつい名前を出しちゃうくらい印象に残ってるんだ。
小鞠ちゃんでも紗理奈でも竜胆さんでもなく、かがりんなんだ。
『あははっ、2人とも恋愛ドラマすぎだろ! おもろいなー、そういう恋愛なら私もしてぇな〜!』
奥歯の方からギリって音がした。
あ、アリの巣だ。
「……何やってるんだろウチ。しょうもない」
近くの生垣の枝を折って、アリの巣に木の棒を入れる。グリグリしていると、中からアリが一匹ずつ順に出てきた。
靴で潰す。靴で潰す。気持ち悪い虫。潰しても潰しても湧いてくる虫。潰す。潰す。潰す。
「何が元男だ。嘘つけ、そんなのあるわけないでしょ。そうまでして人の興味引きたいんだ」
靴の裏にどれだけ潰れたアリがくっついてるんだろう。飽きもせず小さな穴なの中から湧き出続けるアリ達を見てると、ウチからのささやかなちょっかいに気付く事すらなく流してきたかがりんの涼しそうな顔が浮かんでくる。
「邪魔だなあ。何しても効かないんだもん、もうアイツもつまんないな〜。最初は面白そうって思ったけど、ぜんっぜん面白くない。どうしたらあの余裕ぶった顔を歪められるのかな〜?」
グリグリとアリの巣に枝を突っ込む。ある程度入った後に力を込めたらポキッとあっけなく枝が折れた。
……ていうか、ここ何処だろ? ボーッと歩いていたらすっかり知らない景色に囲まれていた。ウチ、もしかしなくてもこれ迷子だよね?
ただのアスファルトだったはずの道がレンガタイルになってる。こんな地面すら見たのは初めてだ。
徒歩で行ける圏内ということはそこまで地元と離れてないってことはわかるけど、全部が初めての景色すぎて焦りが出てくる。
「うひゃひゃっ、必死すぎやんね〜」
……? 今なんか、聞き覚えある声がしたような気が。
声が聞こえてきた方まで近付いてみる。その声の主は広く拓けた、陸上競技のトラックみたいな形をしたなだらかな傾斜もある公園のベンチ付近に立っていて、隣に立つ人影と仲良さそうに話していた。
……てかあれ、かがりんだ。じゃあ相手は佐藤君……?
「あれ、笠原君……?」
かがりんと話していた相手は、紗理奈の彼氏である笠原君だった。
かがりんと笠原君。去年も今年も同じクラスだった二人だが、特に深い関わりを持っていたようには見えなかった。
友達の友達、二人の場合は友達の恋人ってだけで、傍から見ててタイプも違うし相性も良くないんじゃないかなと思っていた。
でもなんで二人が一緒にこんな所に。てか紗理奈、確か今日笠原君とデートに行くみたいな話してた気がしたんだけど……。
「うわーっ! 観念した! 観念したーっ!」
!?
笠原君が背後からかがりんを掴み、動けないよう身をくっつけている。
……かがりんのおしりと、笠原君の腰が当たっている。
スマホを取り出し、無音カメラで写真を収める。1連の動作は流れ作業のようなもので、特に意図したものでは無かった。
「ぶふっ! あっはははは!! ギャッハハハハ!!」
かがりんが笠原君の頭にアイスを乗せ、今まで聞いたこともないような愉快そうな、ちょっと汚い笑い方をしている。
写真を撮る。
すぐにかがりんは慌てた様子で近くのコンビニまで走っていった。なにか拭くものを買うつもりっぽい。笠原君は水道の水で頭についたアイスを何とか取ろうと必死に髪をすすいでいる。
二人の雰囲気が落ち着くと、こちらには聞こえないくらいの声量で会話を始めた。仕方ないので、写真だけ撮り続ける。
かがりんが何かを口にし、普段あまり笑わない笠原君が笑う。
笠原君が何か長々と話した後、かがりんは腕を組み考える素振りしながら何かを即答していた。
二人とも、随分と仲良さそうだなー。……や、でも笠原君の方が若干だけど押されてる。かがりん側は特になし、いつも通り。
かがりんは本当になんとも思ってなさそうだけど、笠原君はかがりんに何か思うところがあるっぽいな。
「ひひぇないひひぇない!!」
笠原君がかがりんのほっぺたを摘んでムギーっと両サイドに引っ張っている。楽しそうにかがりんは笑っている。撮る。
鉄パイプで素振りを始めるかがりんと、それを見る笠原君。
デコを出して自分でペチンと叩くかがりん。撮る。
二人は仲良さそうに談笑を始める。紗理奈を、佐藤君を、裏切っている現場なのかは分からないけど。でも、もしこれが、今日撮った写真が学校で広まったりでもしたら。
……面白そう!
「おめでとう。少し佐藤が羨ましいわ」
「!!!!」
少し移動して、薄暗いビルとビルの間にある空間に身を隠しながらスマホだけ出して、言い逃れのできない姿を収めていく。
笠原君がかがりんにチョップした。可愛い声で「あうっ!」と言った。その音声も動画に収めておく。
「ビッグニュ〜ス」
つい、我慢しきれず口からそんな言葉が漏れた。と同時にかがりん達もウチの気配に気付いたようなので、ウチは見つからないよう暗い路地裏にダッシュで逃げる。
「あはっ、あははっ、あはははっ! 何あの二人何あの二人! 出来てんの!? あははっ、出来てなくてもこれはっ、やばいよねぇ〜!!」
面白いものを見た。もっと面白くなりそうだ。これを見た人達が一体どんな反応をして、二人にどんな絡み方をしていくのか、想像しただけでワクワクが止まらない。
「わぷっ!?」
「いって」
行き当たりの角を曲がると、何かに当たって尻餅をついた。
見上げると、そこにはライダースジャケットを着た金髪オールバックの、顎髭を生やしたガラの悪い男が立っていた。
「どうしたー? なんかあったん?
「知らんガキが突っ込んできた。おいお前」
「ひゃっ、あ……」
「なんでこんな所にいんの。家出?」
「や……」
ウチがぶつかった男の他にも、六人も別の男がいて。皆タトゥーが入ってたり、髪が派手だったりしてマトモそうには見えなかった。
「お、JK? 胸デケェじゃん、当ったり〜」
「家出キッズのお仲間でも探してたんかな? 今夜だけなら俺らが泊めてってもいいぜ〜?」
「ねねっ。ピル飲んでる? コンビニゴム雑魚いのしか無くていてぇからさ」
「や、やだ……誰かっ」
やばい、怖い。そんな、路地裏に不良が溜まってるなんて、そんな典型的な事が現実で起きてるなんて思わなかった!
「お前らそんながっつくなよ。こんなキッツイ香水つけてる女、ロクでもねぇかマジのガキかの二択やろが」
「だからいいんやろ? 多分こいつJCだべ、コキ捨てには丁度えぇやん」
「うわっ……駄目だわ。前同じような子とヤった時キツすぎて裏筋切れたの思い出した……」
「有り得ん血ぃ出とった奴な。女側の腟内ぶっ壊れたんかと思ったわ」
「完全にこっちがぶっ壊されてたわ〜」
「ぎゃははっ!! やからあんなキレとったんや! 裏筋と堪忍袋繋がっとるん? お前」
男達が下卑た事を話しながらウチの近くに集まってくる。慌てて下を向く。怖い、怖い!
「だぁから、今日は童貞デーやって言ってんやろ。禁欲じゃ禁欲。女抱く暇なんかねーぞ」
「「うぃ〜」」
「おいガキ、これ」
一人の男がウチのスマホを拾い上げ、下を俯くウチの目の前にそれを出してきたのが見えた。
男の五指には特徴的な書体のアルファベットのタトゥーがある。ヤクザとかギャングとか、そういう系の人なのかな……?
「……ん? あれ」
「お? どしたー?」
スマホを拾ってくれた男の人が、ウチのスマホの画面を見てなにかに気付きそれを改めて眺める。
かがりんか、それとも笠原君か。どっちに関心が言ってるのかは分からないけど、男の人は興味深そうに「くはっ!」と笑う。
「おいおい、八尋の奴、樹利の他にも男がいんのかよ。とんだ尻軽だな〜アイツ」
「えっ……?」
この人、かがりんの事を知ってる……? かがりんの、知り合いなの……?
スマホを拾い上げた男の他に、かがりんの事を知ってそうな人は二人いた。他の人らは「八尋? 新しいペット?」とか話している。
ペット……? も、もしかしてかがりんって、ウチらの知らない所で、この人達に、凄い事されてたりするのかな。
……だとしたら、いよいよなんであんなに普通な顔して生活できるんだろう。
「おい、おーい。何ぼーっとしてんのお前」
「え、あっ」
顎髭の男にスマホを返されて、立ち上がる。目の前の人達が怖くて足が震えるが、引き返したらかがりんと笠原君に見つかるかもしれない。
そう思っていたら、男の人達はウチの行く先を譲ってくれた。
恐る恐る、空いた狭い道の真ん中を歩いていく。
「ちなみに聞くけど、買い物に来たんじゃないんだよね? 君」
「え、買い物、ですか?」
空けてくれた道を通り過ぎようとした所、ニット帽を被った少し痩せたお兄さんに話しかけられた。
「買い物って、なんですか」
「なんだと思う? お金ある?」
「な、ないですっ!」
「そうなんだ。気を付けなよ、一人じゃなかったら君」
痩せたお兄さんは人の良さそうな笑顔で自分の腕に注射を打つようなジェスチャーをしてきた。
……薬物だ。違法薬物、買い物ってのはつまりそれを指していたらしい。
背筋が凍って腰が抜けそうになる。倒れそうになったのを近くにいた別の、両腕に日本のヤクザ映画に出てきそうなくらいびっしりタトゥーを入れた太った人に支えられる。
「暑いねえ」
「えっ? 暑い、ですか」
「おう。脱げ脱げ。もう真夏やろ?」
「へっ!? あっ、やめてくださいっ!」
突然、その太った人に服を脱がされそうになる。
この人、息からだろうか体臭だろうか。まるでバニラみたいな強くて甘い匂いがして、頭がクラクラする。
「やめっ、本当にっ、やだぁっ!」
「やめとけ
「……おー」
太った人にパンツに手を入れられた段階で顎髭の人に止められた。離された瞬間に、ウチは後先のペース配分を考えない全速力でその場を離れる。
「おー、気をつけろよー。あと、八尋によろしく言っといて〜」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」
言葉を返す余裕なんかない。ていうか、恐怖心でそれどころじゃなかった。
直ぐにこの場を離れないと。そんな、女としての本能から出力される意志を頼りに走って逃げているその時のウチにはどんな言葉だって届かなかったに違いない。
あんな人達と知り合いなんて、かがりんって一体何者なのか。今思えばそれをもっとじっくり考えて行動するべきだったと思う。
でも、地元に戻って抱いたのはやはり、『とくダネを手に入れた……!』という高揚感と、それを材料にしたらどんな風に教室の雰囲気が変わるのかという、イタズラじみた未来への好奇心と期待だった。