※この作品はR-18です。

子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン   作:千佳のはんぺん

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暗礁に乗り上げる

「そして、第一次世界大戦が終息すると当時のアメリカが世界一の経済大国に台当してくるわけですね〜。アメリカはね〜、第二次世界大戦でも買っちゃうし、この頃から世界的に見てかなり目立つ大国になったんですよ。すごいですよね〜。ですが、このあと1929年に世界恐慌という」

 

 

 歴史の先生、喋り方が間延びしてるし声も優しいから気を張ってないと眠り転けそうになるんだよな。

 丁度前の世界でも全くもって興味を持てなかった授業範囲に差し掛かってるんだ、気合い出して板書書き写さないとな〜。

 

 左手で頬杖をつくのを辞め、一度背中をグーッと伸ばす。前髪伸びてきたな、邪魔くせぇや。指でちょっといじる。

 

 

「……んっ?」

 

 

 前髪を摘んで形を整えようと動かしていたら頭上からなんか降ってきた。なんぞこれ。取って見てみたら、それは小さくちぎった消しゴムだった。

 

 振り向くと、数人の女子が俺から目を逸らしてきた。

 あれま、嫌がらせだ! 効くぅ〜! 心が悲しくなっちゃうにょ〜。

 

 朔月さんも菊池さんも俺より前の席にいる。きっと消しゴム投石戦法を見ていたら怒ってくれたかもしれない。えーんえん。煙々羅。JCの嫌がらせは巧妙だわね〜。

 

 しかしこれ、鬱陶しいな。

 全然気付けんかったけど、ちょっと髪いじっただけで落ちてくるとか相当頭に消しゴム乗ってんちゃうやろか。

 デカめのフケを大量に乗っけてる人みたいになってない? 大丈夫かしら。

 

 

「はぁ……」

 

 

 誰がやったか分からないけど、とりあえず無視の方向性で頑張ってみるか。犯人決めつけて消しゴムぶつけても本人は素知らぬふりするやろうし、それどころか徒党を組んで「思い込みで人に物投げるなんて酷い!」なんて言われそうだし。

 

 もし違ってたらそれこそ最悪やしな。

 もう開き直って、疑った相手を泣くまでビンタして周りの子脅かすしか無くなっちゃうよ。流石にそれはその子、無罪なのに可哀想すぎるのでやらないが。

 

 

 

 

 

「落下する物体には一定の加速度が掛かる。これを重力加速度と言うんだが、まあこれは中学でやる範囲では無いか。位置エネルギーの計算の公式は」

 

 

 理科の先生、喋り方がスネイプ先生みたいで気を張ってないと眠り転けそうになる。

 丁度前の世界でも微塵も興味を持てなかった授業範囲に差し掛かってるんだ、気合い出して板書書き写さないとな〜。

 

 てか、学校通わなくなってから授業受け直してぇな〜って思った事もあったけど、実際受けてみると退屈で退屈で仕方ないな。物事に集中出来ない先天的疾患持ちなのかもしれん。

 

 ? 肩をトントンってされた。

 

 振り向き、すぐ後ろの席の女子から手紙を貰う。一期一会って書いてあるイラストの紙が可愛いね。懐かしい。

 なんだろう、女子からのラブレターかな??? だとしたら最近モテ期だな〜俺!

 

 

『クソ泥棒猫』

 

 

 わけなかった。ラブレターなわけ無かったわ。

 

 おいぃ……消しゴム真珠湾攻撃の次はれっきとした宣戦布告やん。なんかトイレから戻ってくる時に机の中漁られてるのちょっと見えたし。

 

 えっ、所謂いじめって半日でここまで表面化してくんの? このまま昼休憩迎えるのちょっと怖すぎる、給食にミミズでも入れられたりするんちゃうー……?

 

 どうしようか、これこのまま無視で大丈夫か? 適切な回避方法はなんだ。おっけーぐーぐる、敵意剥き出しの中学生との和平交渉に有利な条件ってなに。

 

 てか今日佐藤はどうしたんだよ。笠原もいねぇし。なに、あの不良連中今日は学校サボって何してんの? 中三だぞ、時期考えろよ。

 

 

 

 

 

「今日は災難だったね、鹿狩さん」

「んー……」

 

 

 給食の時間となり、机を合わせて向かいに座る今泉さんに励まされる。隣の席だからね、俺が消しゴム投げつけられたり、俺が認知してない嫌がらせ等を隣から見ていたのだろう。

 

 変に声を掛けてヘイトが今泉さんの方に集まる、みたいな事にならなくて良かったと本当に思う。家庭でも虐げられてるっぽいし、学校でくらい平穏に過ごして欲しいものだ。

 

 朔月さんと菊池さんは席が離れている。いつもなら配膳されるまでの時間こちらに集まって駄弁ったりするのだが、今日は二人とも俺の方に話に来る事はなかった。安易に近付けない雰囲気だもんな。さみしさみしですよ。

 

 

「ねえ、鹿狩さん。笠原君? と一緒にいたのって本当なの?」

 

 

 自分の席に給食を運び一息、というタイミングで今泉さんから話題を振られた。今それか〜。

 

 

「ん〜……本当だけど、何も変な事は無いよ。マジに」

「マジにですか?」

「マジに。バイオの敵じゃないよ」

「私、バイオハザードした事ない……」

「とにかく、私にそんな度胸無いし! なんで勘違いされてるのか分からないけどさ……」

 

 

 出来れば触れて欲しくなかったんだが、純然たる好奇心を責める訳にもいかない。溜息混じりに、今泉さんからの激写浮気疑惑トークに応え、ちゃんと否定しておく。

 

 と、俺の言葉を受けた今泉さんは俺の机の上のノートとかを退かしてくれながら意見を述べた。

 

 

「でも、あんな写真が出回ったら勘違いされてもおかしくは無いと思うけどな。鹿狩さん、男子と距離近いもん」

 

 

 まあ仰る通り。てか、盗撮なんか出回った時点で誰かしらの恨みを買ってるって風に間接的に解釈するのが人のベーシックやし、それらも相まって放蕩イメージに拍車が掛かってるんだろうな、今の俺。

 

 今泉さんにまでそんな風に思われて避けられたら本格的に悲しくなっちゃうので、とりあえずお茶を濁しておくことにした。

 

 

「女子とも距離近いだろー? おりゃーむにむに」

「ににむにむっ!?」

 

 

 今泉さんのドデカほっぺを揉みしだいてやる。可愛い〜、なんか枕にしたいわこの人のほっぺ。とか、絶対口に出せないけど腹肉とか。

 

 

「そんな感じで笠原君にもボディータッチしたんだね〜、鹿狩さん」

 

 

 今泉さんがこれ以上ロクに喋れないように、頬肉がシャーベットになるくらいモチャモチャに揉みしだいてやっている最中、なんかクラスの女子が話に入ってきた。

 

 ……確か、名前は柳瀬川(やなせがわ)菜摘(なつみ)。前の世界でも今の世界でも微塵の関わりのなかった女子だ。……よく見たら顔面可愛いな、たっかい位置でツインテールにしてるのアニメキャラみたいでおもろいわ。

 

 

「や、柳瀬川さん……」

「やあ今泉。久しぶり〜」

 

 

 柳瀬川さんはそう言いながら今泉さんの元まで歩み寄ってきて、その頬に指を立ててグイッと押し付けた。

 

 痛そうに今泉さんの顔が歪む。仲は見るからに芳しくないようだ。

 

 

「ねえ、鹿狩さん」

「……なに?」

「私ぃー……の友達がさ、笠原君と小学校の頃からの付き合いあって仲良いんだけどぉ。笠原君ね、最近鹿狩さんの話ばっかしてるんだって」

「は?」

 

 

 アホか。んなわけあるかい。なんで昨日今日でつるみ始めた相手なのに過去関わりがある事にされてんだ。ある事ない事精査せずに悪評流す作戦か? 荒すぎだろ。

 

 

「さっきは何も無いって言ってたけどさ〜、二人が一緒に居る所を見たって子もいるよ〜?」

「……はぁ。証拠あるんすか、それ」

「日常生活を普通に過ごしてるだけなのに証拠とか、そんなのある訳なくない? 敢えて言うなら、その子の記憶が証拠って所かなぁ」

「じゃあその子ってのは誰なんですか。直接お話したいので教えて頂きたいな〜」

「あはは。怖いなぁ鹿狩さん。何する気? まさか脅して黙らせる、なんて野蛮な事はしないよねぇ?」

 

 

 一々喋り方がイラつくわァこの子。帰り闇討ちでもしてやろうかな。

 

 

「するわけねぇ〜だろ。いつどこで何を見たのか、それを私の記憶と擦り合わせないとなって。だから」

「だーかーらー。鹿狩さんの記憶に合わせるって、事実を揉み消すって意味でしょ〜? 笠原君との浮気の事実を! 揉み消すって事だよねぇ〜!」

「声でかいなぁ……」

「声でかいって何ー? やましい事があるから私を黙らせたいの〜? そうなんだ、やっぱり笠原君と何かあったんだねー!!」

 

 

 やーばこいつ。頭良いなあ、菊池さんにわざわざ聞こえる声量で虚言吐き散らしてんじゃん。賢ぇ〜、俺も誰かをいじめたくなったら同じように周りを味方に付けられそうなこと大声で言ってやろー。

 

 

「やめてよ菜摘ちゃん! 八尋ちゃんはそんな事しないって言ってるじゃんっ!!」

「えー? それは小鞠ちゃんが、個人的に、鹿狩さんと友達だから、憐れだからって庇ってやってるだけでしょ〜? こっちは友達の口から鹿狩さんと笠原君のそういう系の話を沢山聞いてるからぁさ。どっちを信じるかって言われたら、仲良い方の言葉を信じるに決まってるよね〜?」

「そんなのっ」

 

 

 いかん、これ朔月さんに攻撃の矛先が向く流れだ。急いで軌道修正しなければ。

 

 

「そもそもちゃんと、目や耳で確認できる証拠も無しに悪人判定されても困るんだけど!!」

「だーかーら、友達から聞いたんだって。私の友達が嘘吐いてるって言いたいの?」

「嘘吐いてないって言いきれないでしょーが。私を嫌ってる奴なら、私を陥れるための嘘だって吐くでしょ!」

「は? 鹿狩さんを陥れる? やだやだ、人聞き悪ーい。そういうの自意識過剰って言うんだよ? てか、本当の事だからそういう風に抵抗してんでしょ? 私は悪くないって言いたいだけなんでしょー」

「ねえなにこの人、会話IQサボテンとタメなんだけど」

「はあ? なにそれ、今私の事バカにしたよね」

「やっばい心の声出ちゃった」

 

 

 面倒くさすぎて脳みそ極力停止して喋ってたら思考内容がそのまま口を通して出てきてしまっていた。あーあ、柳瀬川さん、ちゃんと不機嫌顔になっちゃった。それならいっそ俺の事ぶん殴ってくれ。君も巻き添えだ。

 

 

「言い返せなくなったからって人の事サボテン呼ばわりとか人として終わってるよね。前々から思ってたけどさ、そういう所マジ嫌われるからやめた方がいいよ! いつもいつも偉そうにしてさ! 鹿狩さんって何様のつもりなの?」

「んー……」

 

 

 何様って。困ったな、めんどいなぁ……。

 

 

「偉そうになんかしてないし。てか話ながいよー……」

「話長いって、なにそれ!? その態度なに!? あんた、菊池さんに酷い事してるって自覚あんの!? 開き直っちゃって子供みたいにさ!!」

「子供みたいにガチャつく人にそんな事言われても」

「はぁ!?」

「そんな怒んないでよ、言い返しただけじゃん」

「言い返して良い立場だと思ってるわけ!?」

「ダメなの?」

「ダメだろどう考えても!! あんたみたいな嫌な奴にそんな資格ないから!!」

 

 

 嫌な奴って。あーいや、この流れは100俺が余計な口出したのが悪いな。朔月さんも引いてるし、菊池さんも泣いて……泣いてる? え、なんで、俺の立ち振る舞いに起因して泣いてるのか!?

 

 ど、どうしよう、励ましに行きたいけど席を立てる空気でも無いし、てかこっちもヒートアップしてるせいで口止まんないし……。

 

 

「あんたは黙ってりゃいいんだよ! 私に言い返すとかマジ空気読めてない!!」

「でもここで私が言い返さなかったら、かえって惨めになんない? 柳瀬川さん」

「なんで私が惨めになるわけ!?」

「人に挑発吹っかけてんのに無視されたら、自分の方が下だなってなるやん。ちゃんと誠意を持ってレベル落としてあげた私に、感謝してほしいくらいなんだけど?」

「かん、しゃ? は? 感謝?」

 

 

 お? なんかぎこちないロボットみたいになっちゃった。今までの人生、いじめてきた相手にここまで言い返された事無かったのかな? 傲岸不遜は僕の得意分野なのでね、任せてくれ。いつでも学びの機会を授けてしんぜよう。

 

 

「み、みんな聞いた? こいつ、感謝とか言い始めたよ。頭イカれてる……」

 

 

 おい、みんなは禁句だろ。この状況で同意求められたら頷くしかないだろ、禁止カード初っ端展開するとか暴れん坊かコイツ。

 

 予想通り、柳瀬川さんの言葉の後少しづつ、音が積み重なるように俺を批難し、否定する言葉が増えていく。

 

 うーん、逆ギレしすぎたわ。存外世渡りが下手だな、俺。先行きが心配です。

 

 

「か、かがりん」

「蝶田ちゃん?」

「なにあんた、邪魔しないでよ」「まーまー」

 

 

 会話に横槍を入れてきた柳瀬川さんにドードーと落ち着くよう仕草で表したらとっても睨まれた。怖い。今日はスカートの下パンツ1枚なのであんまり脅かさないで欲しい。吸水性バツなので。

 

 

「どうしたの、今は」

「こ、これ」

 

 

 蝶田ちゃんは、何かと思えばまたスマホを見せてきた。今度は動画? だ。また匿名の誰かから送信されたっぽい。

 

 蝶田ちゃんが恐る恐る再生する。なんでまた再生するんだ、この人俺の事嫌いか? 絶対ろくでもない内容だろ……。

 

 

『と私ら友達やったから、その流れでちょっと素が出やすいのかも』

 

 

 おいー……。マジでろくでもない代物が、またしてもクラスの隅々まで聴こえそうな大音量で流れた。

 

 なんなの、ねえなんなのこの人。焦りながら「あっあっ、音大きかった!」とか言ってますけども。悪意は無いから尚更責めれん。なんなのこの人ー……。

 

 

「これ、笠原君の話だよね」

「とも限らないんじゃないかな、だって……」

「あれー? でもこの動画、笠原君も映ってるよー??」

 

 

 近くに居た、柳瀬川さんとも違う女子が蝶田ちゃんからスマホをひったくり皆に見せつけた。

 

 

「鹿狩さん、やっぱり前から笠原君と仲良かったんだねぇー!」

「いやだから!」

『と私ら友達やったから』

「っ!」

「言ってんじゃん自分で。友達だったんでしょー? 菊池さんに隠れてさ〜」

「隠してないし! てかそれも誤解で!!」

「もうさ、苦しいだろお前」「いい加減認めろよ。見てるとムカつくんだよ、お前みたいな女」

 

 

 男子からも野次を飛ばされた。多勢に無勢か。一発殴ったら機関銃で撃ち返されるみたいな状況です。オワオワリ。

 

 

「だからっ!」「謝れよ」

 

 

 近くに居た男子がボソリと言った言葉が何故か透き通るように耳に入った。

 

 菊池さんを見る。彼女はやはり悲しそうに、でも強く怒りを孕ませた目で俺の事を睨んでいた。

 

 

「八尋」

「わ、私は……」

「人に嘘吐いて、人の大切な人を取って、友達を傷付けて、また嘘吐いて。もう、言い逃れできない物まで出されたのに、それを棚に上げて他の奴には証拠を出せってしつこく迫って。あんたが、そんな奴とは思わなかった」

 

 

 言い逃れって、なんでこんなので俺を悪と断じてくるん? ちょっとマジ視野曇りすぎじゃないかなあ……。

 

 

「てか、笠原ともヤってんだろお前」

「っ!?」

「ちょっ、何言ってんの男子!!?」

 

 

 教室の隅の方でそんなことを言い出したのは、以前俺がフッた男であった。

 朔月さんが流石にそれはと声を上げてくれるものの、水を得た魚か、その男に便乗し蝶田ちゃんからスマホを奪った女も口を開いた。

 

 

「そういえば前、二人で放課後体育倉庫に入っていったのを見た!」

「ちがっ、アレは大縄とかボールとかを返しに行っただけ! 係の仕事!!」

「佐藤と所構わずくっついてる女がよく言うわ。そんな分別ないだろお前」

「っ!? お前少し黙ってろよ!!?」

 

 

 俺が怒鳴ったらビビってくれるかと思いきやそんなことはなく、鼻で笑った後その男は挑発するような笑みを浮かべた。

 

 

「焦ってんな、図星だもんな、痴女」

「こいつ……っ!」

 

 

 あーあー、変な事言うからまたしても皆ヒソヒソと噂話し始めちゃった。も〜、今は給食の時間ですよ。こんな状態で担任が来たら困惑しちゃうでしょうが。

 

 

「あ、あの……」

「ん? なに、本田」

 

 

 救世主現るか!? あまり自己主張をしない、大人しめな女子である本田という子がそこで挙手をした。

 

 

「前に、松前君と二人で体育館の階段の所に入ってくの、見て。そこで鹿狩さん、松前君に胸を見せてなかった?」

「は?」

 

 

 え、なんで知ってんの。見られてたのかよ、アレ。

 

 

「おい、それ本当かよ松前!?」

「あ、あぁ。まあ……」

 

 

 いやいやいやいや、なんで当然のように「ああそうだな」って頷いてんだよ!? ありゃ事故だろ、お前の口からそう言わないとまた俺が言い訳してるって扱いされるだろー!?

 

 

「嘘、そんなの嘘でしょ!? ねえ、松前君!?」

「さ、朔月さんっ! いやでも、あれは事故で」

 

 

 朔月さんが詰めた事で松前が何とかちゃんと説明してくれそうになるが、その松前の言葉を食って掛かったのは柳瀬川さんだった。

 

 

「事故で胸なんか見せる? ブラは? 鹿狩さんのサイズでブラをしない事なんて有り得なくない? てか、体操服着てる時よくブラ透けてるし」

 

 

 透けてるの!? いや、他の女子も透けてる時多いからそりゃそうか。意識した事無かった……。

 

 

「下着を見せてたって事じゃないん?」

「いや、下着じゃなくて、おっぱいを見せてた……」

 

 

 あーあーあーあー……。皆の目が不審者を見る目に……。

 

 

「ほ、本田さん! なんでそんな事言うのさ!?」

 

 

 たまらずそう叫ぶと、本田さんは柳瀬川さんを見て、すぐに俯いた。なるほど、脅されたか……。

 

 ん? するってーと、柳瀬川さんも以前からそれを知っていた事になるのか? それならなんで今問題にしてくる? もしや、本格的に俺を潰す為にずっと温めていたとか……?

 

 

「……最低だね。あんた」

 

 

 まとまらない思考に目を回していると、菊池さんが俺に呪詛を掛けてきた。

 

 首の後ろに、ザリザリと嫌な幻聴が流れている。冷たい感覚が背中にまでじんわりと広がっていく。

 

 菊池さんは、もう俺の事を人とも思ってないような冷たい視線で刺してくる。

 

 

「こ、小鞠……」

 

 

 絶対悪手なのに俺は朔月さんに助けを求めた。ちょっともう一人じゃ対処出来る気がしなくて、少しでも味方が欲しかったのかもしれない。

 

 朔月さんの手を取る。が、朔月さんは俺の顔を見ないまま、指でそっと俺の指を剥がして、小さな声で「ごめん」と言って離れた。

 

 

「え、小鞠……?」

「…………不潔だよ。八尋ちゃん」

 

 

 嘘でしょ。不潔って、朔月さんはそんなの気にするようなキャラじゃ……。

 

 ……朔月さんを勝手に頭の軽いギャル扱いして、勝手に男を食ってるって思い込んだのは俺だ。本人は一度だって、自分から男漁りしてるだなんて言った事はなかった。

 

 朔月さんは意外と生真面目だ。見た目に依らず感性は学校が掲げる健全な青少年に殉じてる節もある。

 なら、今の朔月さんにとって、俺は如何に浅ましい存在に見えてるのか。想像に容易い。

 

 

「え、えーと、かがりん」

 

 

 蝶田ちゃんの方を向く。

 

 

「言いたい事は色々あるけど。まず、紗理奈に謝ろうよ」

「……えっ」

「その、苦しいよ。かがりんの言ってる事。それに……松前君の事もあるし、正直信用できない」

 

 

 ポッキリ。です。

 

 あー。ダメだ。完全にメッキが剥がれちゃった。これは無理、口開いたら絶対碌でもない事喚き散らす。

 

 

「っ!? 待ちなさいよ!!」

 

 

 俺は机の横に掛けてある鞄を取り教室を出ようとした。柳瀬川さんに鞄を掴まれ阻止される。仕方ないので鞄を離し、教室を飛び出した。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!!」

 

 

 無理、無理だ。後ろを振り返ることなどせず、前にいる生徒や教師を気にすることも出来ず、俺はただガムシャラに学校から抜け出す為に走る。

 

 

「ちょっと君! 待てって!」

 

 

 後ろから腕を掴まれた。生徒指導部の先生って奴だ。如何にも厳しそうな仏頂面の強面の先生で、筋肉もしっかりとしている。

 

 

「離してください!!」

「ダメだ! 君、何年何組!」

「お願いだから、離してください!」

「どうしたんだ……」

 

 

 呆れたようにため息を吐かれ、わざわざ目線を合わせるためにしゃがまれる。小さな子供をあやす様に。そんな事をされてるのが無様で、俺は一層力を入れて腕を引き剥がそうと暴れた。

 

 結局その後、近くの教室の先生らも巻き込む形でカウンセリングルームに連行されてしまう事となってしまった。

 

 

 

 *

 

 

 

 なんだか廊下が騒がしい。事件でもあったのだろうか?

 

 

「なー。そういえばお前、最近彼女と仲良くやれてんの?」

 

 

 隣を歩く笠原にそんな事を聞かれる。氷だけになったアイスカフェラテを窓から投げ捨て、指に付いた水滴を笠原の顔面に付けてやった。

 

 

「何すんだよ!?」

「お前如きが俺らカップルに口出しとか生意気すぎなんだよ。仲良くやれてるに決まってんやろ、一昨日やってバッコバコよ」

「おー。そりゃよかった。……ちなみに、アイツの喘ぎ声可愛い?」

「あ? なんだよ狙ってんのか? 肋骨でいいか?」

「いぃでででででっ!?」

 

 

 人の彼女の喘ぎ声なんかを聞いてくるやつは肋骨握りの刑だ。

 ったく、菊池紗理奈が居ながら八尋にも手を出そうとか、命知らずは怖いねぇ。ま、あんな貧乳気ぃ強筋肉女じゃちんこもハッスルしねぇわな。そこら辺は同情してやるが。

 

 

「ちなみに声は、最初だけ可愛い」

「最初だけってなんやねん」

「アイツ感度イカれてんだよ。馬鹿みてぇに弱えの。穴突っ込んで暫く置いてる間は可愛いんだけどよ、いざ動くぞって時にゃ甲高い声か志村けんみてぇな馬鹿声か、動物みてぇな声しか上げねえ」

「志村けんみたいな喘ぎ声の女、よく居るよな。あれどうなってんやろな」

「さぁ〜? 気持ちよさで力抜けてんじゃねえの? 知らんけど」

「紗理奈はマグロだから羨ましいわ〜、感じやすい女」

「お前が下手くそなんちゃう」

「シメるぞ佐藤てめぇ」

「冗談やろ」

 

 

 ようやく教室に着いた。全く、中三にもなると昇降口から教室までが一々遠いのが腹立たしい。二年の教室前を経由すると変に怖がられるし、中三が一番出入口に近くなるよう改善してほしいものだ。

 

 

「なんか教室騒がしくね?」

「おー。そういや、1階の廊下もいつもより妙な感じだったよな」

「どっかのキチガイが迷い込んだんじゃねーの?」

「やったらこの教室の騒ぎは、そのキチガイに誰か刺されたとかしたりしてな」

「刺されるなら一階の、一年の誰かの方が確率高そうやけどな」

「相当恨み買ってる奴なんちゃう? うちのクラス、美形クラスって他クラスから呼ばれるくらい顔面良い奴集まってんじゃん。恨み買ってる奴多そうやけど」

「俺らの身内だったらどうするよ?」

「下でとっ捕まってるキチガイの腸引き摺りて来なきゃなんねーな」

「こ〜わ。お前鹿狩にゾッコンすぎだよな。ちょっとキモいぞ」

「殺されてえの?」

 

 

 軽く小突き合いをしながら教室に入ると、いつも通り、少し教室が静かに……。

 少し所か、全員が全員黙った。黙ってこちらを見ている。

 

 

「……は? おい、紗理奈、なんで泣いてんだよ」

 

 

 そして、異常に気付いた笠原がいち早く菊池紗理奈の方へ駆け寄っていく。何があった?

 

 

「樹利!!」

「おー、朔月。どうした?」

 

 

 朔月が慌てた様子でこちらに走ってきた。尋常じゃない様子だ、マジに誰か刺されたりしたのか? 救急車、は呼んでるか。じゃあ俺に出来る事……運ぶ系か?

 

 

「怪我したのはどいつだ? 保健室まで持ってきゃいいのか」

「な、何の話?」

「は? だから、不審者が」

「不審者……?」

 

 

 違うか、良かった。じゃあ尚更なんだと言うのだろうか。

 

 

「じゃあなんだよ。どうした、どいつも間抜けな面して」

「八尋ちゃんがっ! 八尋、ちゃんが……」

「ん?」

 

 

 八尋? そういえば八尋の姿は見えないな。でも、荷物はあるから登校してるっぽい、何処に居……。

 

 

「まさか、八尋のよく分からん病気が再発したとかそういう系か!?」

「ち、違くて!」

「じゃあなんだよ!? 勿体ぶらずさっさと言え! つーかアイツ何処にいるんだよ!!!」

「八尋ちゃんが……」

 

 

 そう言いながら、朔月はゆっくりと、控えめに、笠原に向けて指を差し向けた。

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