子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン 作:千佳のはんぺん
「はぁ……はぁ……」
俺の指は、もう二度と精密な動かし方は出来ないと言われた。
関係ない。バットを握って、その上からテーピングとギプスで巻いてしまえば握力が無くても腕に固定出来るのだから。
八木も、坂巻も、木下も、佐藤も、笠原も。鹿狩の報復に参加してくれなかった。腰抜けだ。ボコされてビビってるだけの雑魚と面倒事に巻き込まれたくない雑魚。全員及び腰になりやがって……!
ずっと考えていた。俺から野球を奪った鹿狩にどうやって復讐するか。アイツには
……なら、アイツが知りようもないタイミングで奇襲を仕掛ければいい。
「俺らの跡を付けてるやつ、俺らと別で鹿狩を追い回してるやつ、遠目に監視してる奴。そんな奴いたら必ず教えろ、いいな」
「「は、はい」」
「声がちいせぇなぁ。返事ぃ!!」
「「はいっ!!!」」
同い年の不良共が使い物にならないなら後輩を使う。散々世話をしてやった、俺に借りのある一年と二年の後輩を数人呼び出し、俺は様々な場所にソイツらを待機させた。
後は鹿狩の学校帰り、一人になるタイミングで拐うだけという状況なのだが、鹿狩の奴中々一人になりやがらねぇ。何なんだ、あの二人の女。
「二人とも、待って……」
「遅いよ鹿狩さん。門限過ぎて怒られたらどうするわけ?」
「本当だわ。マジ使えね〜。しっかり歩けよ」
鹿狩をいじめてる連中か。偶然帰る方向が一緒だったから荷物持ちをさせてると、遠目で見る分にはそんな感じに思えた。
もどかしい。苛立ちが募り食いしばった歯に若干の痛みを感じた。
「ちっ。一々変な角で曲がりやがって。めんどくせぇ」
鹿狩とあの女をいじめる二人の女は適度に駄弁り小突き小突かれながら、小さな横道を見つける度にそちらへ曲がり効果の薄いショートカットを使う。
曲がる度に気付かれないようタイミングを図り移動しなくてはならない。なんでこんな面倒な移動方法を取るのか、さっさと孤立してくれ。焦りにも似た黒い感情が熱に代わって頭に蓄積されていく。
クッソ。ルートが変わる度に待機組に場所の移動を支持しなきゃ行けねぇし。なんでこう上手くいかねぇかな……!!
「……っ! す、すいません辻井先輩!」
「……あ?」
「今俺、あの子と目が合った、ぽいす」
「あ゛ぁ!? 何やってんだよテメェ使えねえな!!」
「すいませゴアッ!?」
平謝りしている後輩を思い切りバットで殴り倒す。クソっ、悟られたか……!?
「……辻井くん?」
焦って角の向こうを覗き見ると、鹿狩と目が合った。いつの間にかあの二人の女はいなくなっている。彼女は不思議そうな目で俺を見ている。
「よぉ鹿狩。こんばんは」
「こんばんわー。退院したんだ? おめで、と……」
鹿狩の目が俺の顔から下に落ちて、右腕の所で止まる。俺の手に固定されたバットを確認したんだ。
「……おい二階堂。拐うぞ」
「うす」
「え、誰? 何っ!?」
ロープを持たせた後輩の姿を見ると、鹿狩は焦った様子で身を翻し走り出した。意外と速い、けどそれも女子の中でという話だ。毎日ランニングをしてる俺らを引き離す事は出来ない。
「ねえ何っ!? 来ないでよっ!!」
「ははははっ!!! あの時の余裕はどうしたぁクソ女ぁ!!」
「きゃあっ!?」
バットを振る。鹿狩は頭を抱えながら前に倒れ俺の攻撃を躱した。
「逃がさねえ、逃がさねえぞ鹿狩。殺してやる、殺してやる!」
「ひいぃぃっ!!」
鹿狩は震え上がり、熊でも見たかのような顔を俺に向けて逃げていく。フォームが崩れている、俺に殺意を向けられていると理解したらしい。
「来ないでっ!!」
「はははっ!! もっと喚けよオラ!!」
狭い路地裏を逃げる鹿狩を一心不乱に追いかける。雑居ビルの間を抜け、フェンスを抜け用水路のような小川を越え、高架下のホームレスの溜まり場になってる公園の横の緑道を走り、また建物同士の狭間にある通路に入る。
「はっ、はっ! あの女っ、どこに向かってるんすかね!」
「知らねえよ! 何も考えてねぇだろっ!!」
「おかしくないすか!? 交番のある方をガン無視しましたよ!? てかどんどん人気のない方行きますし、追われてるにしては逃げ方が変というかっ!!」
「信号待ちしてる余裕無かったんやろ! 案ずるなや、アイツも恐怖で判断力鈍ってんねん!! そら、行き止まりやぞ!!」
ビル同士の細い隙間から続いた細道はやがて、隣接する飲食店のゴミ置きの為に過ぎない空間にぶち当たった。
左右に抜け道はなく、正面には使われているかも分からない、窓の割れた古ビルの背面の壁しかない。
完全なる行き止まり。鹿狩は詰んだのだ。
「ああぁっ! ヤダっ、ヤダァ!!」
鹿狩は追いついてきた俺達から逃げたい一心で、何も無い壁に必死に背中を擦り合わせていた。
「よぉ。見てくれよ鹿狩ぃ。この手ぇ」
「はっ、はっ! 来ないでぇ!!」
「お前のせいで人生おしまいだよ。なぁ。どうすんの? どうすんだよ!!」
バットを思い切り、店の敷地内と外を区切る鉄柱に打ち付ける。薄暗い空間に金属音が鳴り響き、鹿狩は恐怖から逃れる為か頭を抱えてしゃがみ叫びながら震えていた。
弱々しい、初めて見る鹿狩の女らしい姿だ。気分が良い。この犯して、孕ませてから両足を折って立てなくしてやろう。人生を徹底的に破壊してやる。
「ごめんなさい、ごめんなさい! ごめんなさいっ!!!」
蹲り小さくなりながらも、俺の方を向いて懸命に謝っていた。
背中にバットの先を当て、少し押すと力なく鹿狩は横這いに倒れ込んだ。
黒い瞳が恐怖に潤んでいる。俺がコイツに好き放題された時とは形勢逆転している。この様子なら反撃される事もないだろう。
「二階堂。お前女を抱いた事は?」
「え。……いや、まだっす」
「そうか。じゃあコイツで初体験済ませとけよ」
「えっ!? 俺がっすか?」
「文句あんの?」
二階堂を見る。コイツ、ここまで来といて腰が引けるのか。八木達と同類かよ。
バットを鹿狩から離し、振り向いてその先を二階堂の顎に当てる。グイグイと押してやると、二階堂は小声で「すんません」と繰り返した。
「いいじゃねえか、この女可愛いやろ。抱けよ」
「……うす」
俺の圧に負け、二階堂は渋々といった様子で鹿狩の元まで近付くと、スカートを掴んだ。
「や、やめてください。許してください……!」
「抵抗するなよ鹿狩〜。つい手が滑って、お前の頭割っちまうかもしんねぇぞ?」
「ううぅっ! うあぁぁ!! うわあぁんっ! ひぃっ!?」
声を上げて泣き始めたからバットを1発振り下ろす。鹿狩は顔をズラしてそれを躱し地面にバットが跳ね返されると、ビクッ! と大きく震えた後目線をバットに集中させた。
「騒がなきゃ、今は何もしねぇよ。考えて行動しような、鹿狩」
「……たすけて」
「たすけてだぁ? ははっ」
空いた左手で鹿狩を殴る。口の中が切れたのか、半開きになった口から赤い唾液が零れ落ちた。
そこから鹿狩は抵抗する素振りを見せず、二階堂は鹿狩の服を緊張した手で恐る恐る脱がし、下着と靴下だけの状態にされる。
「ざまあねえな。じゃ、さっさと済ませろよ二階堂。俺ちょっと小便してくるわ」
「……ス」
「ちなみに、コイツの事哀れんで手ぇ抜いたら半殺しやからな。徹底的に犯せよ、分かったな」
「ウッス! 了解っす!」
「よし」
二階堂が鹿狩を犯し始め、二人の荒くなる声を確認すると足早にその場を離れる。
この閉鎖的な空間の、鹿狩達がいる場所とは離れた建物の窪み。そこには鳩の死骸に群がるネズミの姿があったが、俺が近付くとネズミ達は側溝から逃げていって無惨な鳩だけがそこに残った。
「……やっぱり勃たねえか」
ズボンのチャックを下ろし、下着を下げて中身を出す。以前までなら、女を知るまでなら少しの事で固くなっていた筈なのに、一度女を知って以来俺は勃起が出来なくなってしまった。
……俺の初体験は、先輩の彼女だった。不良とツルむようになってすぐの頃、ある女に気に入られ、先輩の家で宅飲みして寝落ちした後に、夜這いされた。
全然気持ちよくなかった。あの女は気持ちよさそうにしていたが、好きでもない女に、好きな女が居る時にそんな事され、頭の中が酷く混乱した。
その後ろめたさから俺は柳瀬川とあまり会う事が出来なくなった。和解した今でさえ、あまり話せていない。
「……もう二度と、アイツとそんな関係になれる可能性も無くなったんやし。切り替えるべきなんか……?」
放尿しながら考える。もう、俺には野球なんか出来ない。柳瀬川と交した約束も反故となった。アイツとの繋がりが断ち切れてしまったんだ。
もし仮に俺の不干渉のきっかけが、柳瀬川との繋がりによる物から来るとしたら。いい加減、その枷を解いてもいいのではなかろうか。
「……んな事出来るわけないやろ。クソが」
左手で壁を殴る。解くとか解けないとか、そういう話じゃない。そんなスイッチを押す感覚で感情を切り替えられるのなら、とっくの昔にこんな不自由で不器用な生き方から卒業出来ている。
「ダメだよ〜。人様の建物に小便なんかひっかけたら」
「……鹿狩?」
背後から鹿狩の声が聞こえてきた。あの憎たらしい、棒読みの無感情的な鹿狩の声が。
振り向くと、やはり平気そうな顔をした鹿狩が立っていた。服装は変わらず下着姿だが、靴だけはちゃんと履き直していた。
「なんだ? お前、露出癖とかあんのか」
「うんー。私露出大好き。いくいくー」
おどける様にそう言っているが、声は単調だ。……それに、手には手頃なサイズの石が握られていた。敵意を向けているのは明らかだった。
「てめぇ、二階堂をどうした」
「殺した」
「……ハッ。そんなデタラメが通用するとでも思ってんのか」
「この石で頭潰れるまで殴った。そんで奇襲を仕掛ける為に服を着るのも惜しんでコッチに来た。どう? 辻褄合わない? 服装と言い持ち物と言い」
鹿狩の表情は変わらない。ただ俺を眺めるように軽い口調で言い放つ。あまりにも反応が淡白なせいでそれが本当に起きた事なんじゃないかと思わせられる凄みがある。
だが、無理だろ。あんなに脅えていた女が、鍛えてる男をどうやって一人で殺せるんだよ。それはいくらなんでも無理筋だ。
「お前がどんな手を使って二階堂を消したのか知らねえけど、奇襲出来なかった時点で失敗やぞ」
「失敗? 何の話かしら?」
「正面から俺と殴りあって勝てると思ってんのか? お前の武器はそんな石ころ1つ、こっちはバットを持ってる。どう考えてもお前が不利やろが」
「確かに。てかバットズルくない? 外してよ、それ」
「ざけんな。もういいわお前、逝っとけやタコ!!」
チャックを上げてつま先を叩き、思い切り踏み込んでバットを頭目掛けて振り回す。
「ぐあっ!?」
体の外から閉じるように振るったバットに対し、距離を詰めて頭を寝かせて躱した鹿狩。伸び切った俺の腕を右肩に擦らせながら腕を伸ばし、鹿狩の手に握られた石が俺の顔面にぶち込まれた。
「えぇー……?」
鹿狩は困惑したような声を上げながらも、俺の喉仏の横の窪みに親指を思い切り押し付けてきた。気道が狭まり、周囲の筋が引っ張られるような痛みに襲われ肩が硬直する。冗談かと思うくらい動かせない、なんだこれは!?
鹿狩は俺の喉に親指を入れたまま、先を曲げて一気に下に下ろした。鎖骨に指が引っかかり、引き寄せられると抵抗出来ず体が倒される。
「ねえ、辻井。辻井くんよ」
「クッ、ソ……降りろや!!」
鹿狩は俺の腕を捻り上げ、肩の可動域ギリギリまで上に腕を釣り上げるとそこに膝を置いた。背中の、胸の直上にある位置を押さえられている為身体を起こすことが出来ず身動きが取れない。力が分散して鹿狩を跳ね除けることすら適わない。
「辻井くんよ」
「っ! んだよクソ女!!」
「いやいや。真っ向勝負してさ、マトモに殴り合ってさ。こんな弱い事あるかね?」
「んだと!?」
「んだとじゃないでしょーがー。クロスカウンターが決まった時なんかつい声出しちゃったよ。あんなんで面食らって硬直しちゃって、お前マジでお友達の中でも最弱やろ」
「殺すっ!!! ぶっ殺すっ!!! てめぇ鹿狩、ぜってぇ殺すからな!!!」
「おーおー騒ぎ始めた。なに、顔赤くしちゃってどうしたの、恥ずかしい? いいんやない? ここ薄暗いし本調子出んよね〜」
などと言いながら、鹿狩が俺の極められている方の腕を自分の首の後ろに通し、左手で掴み、背中に尻を下ろして靴の底を脇に当てた。
「何しやがるっ!?」
「何すると思う? ヒントは脱臼」
そう言うと、ストレッチするかのようなゆったりとした動作で鹿狩は足を伸ばし、俺の肩がボグッと音が鳴るまで伸ばし続けた。
「がああぁぁぁっ!!? くそっくそくそくそくそころすころすころすころす!!!」
「ココスってもう長らく行ってないな〜。久しぶりに行ってみようかな」
意味の分からないことを喚きながら鹿狩は俺の右腕を離し、今度は左の肘に足を乗せ左半身を完全に動かないよう拘束した。
「やめろっ、やめろぉ!!」
「辻井く」「それ以上やったらマジで殺す!! マジで殺す!!!」
「うるさ……辻井くん。一旦落ち着いて話をしよ」「離せえええぇえええっ!!!」
右の肩から迸る激痛に悶えながら暴れて鹿狩を振り落とそうとする。コイツの体重はそこまで重くない、どんなに喧嘩慣れしていようが、肉体のスペックじゃ絶対俺に利があるんだ。やろうと思えば気合いでこんな拘束、強引に!!!
「うるせぇな」
ズブッて、何かが外から俺の背中を通して体内に入る感触がした。
引き抜かれる。見ると、鹿狩の手には授業で使った備品のはずの彫刻刀が握られていた。
血の気が引く。コイツ、今、俺の背中を刃物で刺しやがった。
「あん? なんで急に静かになった? 喚きたいんだろ、辻井」
鹿狩が俺の肩を掴み、強引に引っ張って仰向けにさせられる。
腹の上に鹿狩が乗ってくる。下着姿の美少女が自分に乗っている、だと言うのに性的興奮は微塵も感じられず、むしろ命を脅かされているという危機感から全身の毛穴が開き脂汗が吹き出てくる。
「ほら。喚けよ、俺を殺すんやろ」
「ぎっ!? くはっ……!」
振りかぶって勢いよく刺してくる、なんてドラマのような方法は取らなかった。
鹿狩は俺の着ているシャツを捲りあげ、手で胴体を撫でて肋骨の位置を把握すると、その隙間にそっと彫刻刀を添え、斜めに刃を入れてゆっくりと挿入していったのだ。
一気に刺されたのなら、痛みは一瞬の内にやってくる。でも彼女は皮膚が裂け、刃が沈み、皮膚が隆起し、隙間から血が漏れだしてくる工程を俺に見せつけるようにゆっくりと刺しこんできやがった。
痛み以上に、脊髄から溢れてくるような寒気が背中に滲み広がる。自分の肉体が破壊される様を、ここまで分かりやすく見せつけられたのは初めてだった。
鹿狩の持っていた彫刻刀は先の形が湾曲してUに見える物だった。刃渡りは精々2cmもない程度。どれだけ深く刺そうとしても命までは取れないだろう。
殺すのを嫌い、かつ相手の敵意を簡単に削ぎたい、そんな条件に見合った道具。拷問や、イタズラに相手を痛めつける道具だ。俺の手を潰した鹿狩なら選ぶのも頷ける凶器だった。
「どしたん? 喉潰れたん?」
「いっ! ……く、そ!」
ズプッ、ズプッと次々胴体に穴を空けられていく。出血を押さえるために鹿狩は穴を開ける度にそこを舐めてガムテープを貼り、また新たな穴を空ける。
気が狂いそうだった。決して弱くはない、叫び声を上げるほどでもないが歯を食い縛らないと耐えれないくらいの痛みが何度も何度も襲ってくる。その動きは機械的で、抵抗しようにも片腕は外され、もう片腕も上手いこと関節が極められているせいで動かしようがない。
「は、あっ……! ぐぅっ、やめろぉ!」
「あぇ? なにー?」
「やめろ、降りやがれ」
「ぎゃはっ! 嫌だよーん。れろれろろ」
「やめっ、傷にベロ、入れんなっ」
彫刻刀で空けられた穴に舌が捩じ込まれる。そこまで傷は大きくないから深く入れられてないが、先端だけでもチロチロと中身が擦られ、ズキズキと鋭い痛みが周囲の神経に伝播する。
「追っ手は捕まえといたぞー。って、何やってんのお前」
「おー。おつかれ、めぐっちゃん」
俺が拷問を受けている最中に男の声がした。
八木達をボコした男だ。長身の、ロン毛の男。前科持ちの犯罪者、酒田廻。
少し服が乱れている、喧嘩をした跡だ。しかし本人はなんでも無さそうな顔をしている。
「ありがとね〜今日も。どんくらい居た? 辻井くんのお仲間さん」
「8人くらいじゃないか? 全員かは分からん。情報は引き出せたか?」
「あ、忘れてた」
「お前……」
「呆れないでくださーい! 鷲見さんも堀口さんもありがとーね。どう? 二人は怪我ない?」
酒田廻の他にも人影はいた。さっき鹿狩りをいじめていた女二人だ。鷲見は元クラスメートだったから知ってる、もう一人は知らない。コイツらも、鹿狩の手駒だったのか……!?
「ちゃんと言った通り、ビルに拘束してある?」
「……あぁ。ちゃんと縛ったよ、あんたの言う通り」
「ありがとー!」
「でも聞いて鹿狩さん! 鷲見さんね、あたしがあの男を押さえてるってのに中々動いてくれなかったの! これって裏切りじゃない? 罰じゃない??」
「違っ、堀口! だってそんな、人を殴りつけるなんて簡単に出来るわけ……っ」
「ねえねえ罰だよねぇ! 鷲見さんは鹿狩さんを裏切ろうとしたよ! 罰だよね! ねっ、ねっ! 鹿狩さん!」
堀口、と呼ばれた女は物騒な事をぴょんぴょんと飛び跳ねながら、鹿狩の手を持って振り回しながら言った。なんだコイツ、さっきまで俯いてボーっとしてたのに急に元気だな。
「あ、あはは。仕方ないよ堀口さん。鷲見さんも言ってたけど、いきなり人を殴って拐えなんて言われたら困惑するし上手くいかないものだよ。成功したのならそれを褒めないと」
「でも鹿狩さんっ! 言うこと聞けない悪い子には罰でしょ!?」
「堀口さん。誰だって初めてやる事には戸惑うんだよ。初心者には優しくしなきゃです。結果論上手く行ったんだから、鷲見さんに責める所なんてないんだよ」
「うぅー! ……あたし、あの男に頭叩かれたぁ。ほっぺもぶたれたよ?」
「え、そうなん!? 先に言ってよ! 廻君、なにか飲み物買ってきて!」
「お、おう」
鹿狩が男に命令すると、すぐに近くの自販機から買った水の入ったペットボトルを受け取った。
「どこ殴られた? ここ?」
「そこ。ひやっ!」
「腫れたら良くないからね〜。これで冷やしてて。ごめんね、でかしたぞ〜堀口さん」
「えへへ」
堀口は、鹿狩に頭を撫でられるとふにゃっとした笑顔を浮かべた。その後、何故か堀口は鹿狩に抱きつき、そのまま離れようとしなかった。
レズビアン、ってやつだろうか?
「さて」
鹿狩は堀口を抱きしめたまま、再び彫刻刀を手に取り俺の目玉のすぐ前に刃を置いた。
「辻井くんのお仲間は全員で何人いる? 答えなかった場合、お目目ひとつね?」
「……っ、12人だ」
「12、ね。ちなみに嘘だった場合も、あとでお目目一つだけど。どう? 訂正しない?」
「…………間違えた。9人、かもしれない。正確な数は分からない。覚えてない」
「覚えてない? もう野球出来ない、喧嘩は女にストレートで負ける、女経験がロクにない、いじめっ子だから人から嫌われてる。その上で記憶力も悪いん? 何なら誇れるん? 君」
「……っ」
脱臼してない方の拳を握る。だが、片方の視界を埋める刃のせいで逆らえない。身体を僅かに動かせばそれだけで眼球が潰される、脅しですらない純然たる事実だ。逆らいようがなかった。
「まあいいや。じゃあ廻君、辻井くんをビルまで運ぼっか」
「なっ! どこに連れてくつもっ」
「隻眼の翔平、カッコイイあだ名だねぇ」
彫刻刀が少し下に滑り、目玉と皮膚の境界線にある骨の窪みの縁に当たる。目玉をほじくり出すつもりだ、鹿狩は嫌なニヤケ顔を浮かべながら、刀身で骨のくぼみをコリコリと優しく擦る。
「逆らったらかっこよくなれるよ。さ、私に逆らおう! ゴーゴー! 立ち向かえっ、頑張れ辻井くん!」
「……」
「辻井くーん? 片目潰される絶好のチャンスですよー? ほら、暴れてみてー。ビルに連れ込まれちゃうぞー?」
「クソッ……クソッ、クソォッ!!!」
「声だけは立派なんだけどなぁ。動く気はサラサラないと。肝っ玉も金玉もミニミニでございますな。じゃ、廻君」
「おう」
酒田廻に目隠しを付けさせられ、周囲が分からない状態にされると担ぎあげられた。コイツらが言う"ビル"というのは、何処にあるのかがバレると都合が悪い場所らしい。
……まさかそんなわけ、と思ったが元殺人犯が関与してるんだ。コイツら、なにか法に触れる様なことをしてるんじゃないだろうか。
「鷲見さんと堀口さんは、今日はおつかれ。もう遅いし帰ろうか。家まで送るよ」
「やぁー! あたし鹿狩さん手伝うよ! あたし鹿狩さんの為なら何でもするもんっ!」
「いやーはは。嬉しいけども。親御さん心配するよー?」
「いいもん!」
「よかねーでしょ。行くよ、鷲見さんも」
「……なぁ。今後もまたこんな事すんの? いつか絶対バレて大事になるよ、そんなのに私達が巻き込まれるのは」「鹿狩さんっ!! 今の聞いた!? 鷲見さん悪い事言ってる! おしおきだおしおき!! 罰ゲーム決定〜!!」
「ん〜、言ってる事は鷲見さんの方が正しいからなぁ……不問にしたいけど、確かに反乱因子は良くないね。罰ゲームしよっか!」
「え、あっ、嘘っ、ごめんなさい! ごめんなさい!!」
暗闇の向こうで女達が会話している。その声が少しずつ遠のいていく、進んでいる方角から頭の中でどう進んでいるのか想像する。こっちは……さっき、鹿狩が追い詰められもたれかかっていた建物の方向じゃないか?
何か横にスライドする音がした後、一歩分進んだ後にガチャと扉が開く音がした。コツコツ、と鉄の上を歩くような音が数歩分した後、階段を登る。
数階分上昇すると、今までとは打って代わり足音は布や絨毯を踏むような柔らかで小さな物に変わる。
数歩進み、柔らかい物に座らされる。ソファ? いや、広さ的にベッドか?
「んんんっ!!! ゔぅうぅっ!!!」
遠くの方で呻き声が聴こえる。その声は、聞き慣れた声だ。同じ部活で聴いた声が幾重にも、幾重にも重なってくぐもり空間に響いていた。
「ごめんなさい!! ごえんなさっ、ごめっ、あぁぁぁぁあいやぁぁぁぁ助けて助けてっ!! お母さんっ!!! お母さああぁあっ!!!」
女の声が聴こえてきた。女は金切り声を出し泣き叫んでいる。それも遠くの方で響いていて、声は横に移動し壁を隔てた向こう側で鳴り響いていた。
「いやいや。園子温かって話よな〜。そういう癖の映画やんって声出すのやめて欲しいわ〜」
目隠しが外される。
辺りは薄暗いが、切れ掛けの電灯で一応周囲は確認できる。部屋の内装は……床のタイルが所々剥がれており、乱雑に様々なカーペットが床に敷かれていた。
黒いカーテンが全ての窓から見えるはずの景色を遮断していて、吸音材と思しき物がそこらの壁、床に不規則に設置されていた。
「ここがどこか気になる? 教えな〜い」
「……拉致監禁でもする気か。犯罪者が」
俺の両手両足は拘束具によってベッドに縛り付けられていた。……このベッド、女用か? 天蓋が着いてる。
少し離れた位置にあるむき出しの柱に、俺が待機させたはずの後輩が縛られ固められていた。全員目隠し、耳栓、口にガムテープを貼られており、何も分からない状態で拘束されているようだった。
……その集団の中に、先程まで一緒に居た筈の二階堂も居た。
「ああいう風に視覚、聴覚を封じられ、助けも呼べない状態で縛られるとね。一時間ほどで不安を誤魔化せなくなって、三時間も経てば発狂するんだって。勿論、前提として突然そんな目に遭うかそんな目に遭うと分かっているかによって効果は左右されるから、YouTuberとかが企画でやったとしてもドッキリとかじゃない限り発狂はしないんだけどね」
「……てめぇ」
「発狂する寸前で皆を解放する。そうすれば十分にトラウマを与えられるから、ちょっとした脅しでも死ぬ気で守ってくれる可能性が高い。ま、人間不信とか精神病患って引きこもったりする可能性激高なんだけどね」
鹿狩がベッドに座りギシッと音が鳴る。鹿狩はプチ、プチ、と俺のシャツのボタンを外していき、上半身を裸にさせる。遠くの部屋では女の甲高い悲鳴が鳴り響いている。
「他の部屋に行った子が気になる? アレはね〜、私のお仲間達に課せられてるルールを破った人が受ける、罰ゲームの音だね。具体的に何されてるか、興味ある?」
「……」
「ない? まあ別に語る気ないけど。それよりもさ〜」
鹿狩の指がそっと胴体に、臍の周りに置かれる。五つの指の爪が腹をくすぐり、段々その感触は上へと登っていく。
胸の高さまで指が登ると、指がすぼんで行き胸の突起をカリッと擦ってきた。変なくすぐったさに身が悶えて息が切れる。その俺の様子を見て、吹いた後に鹿狩は顔を近付けた。
「あははっ! 辻井くんのせいで、部活の仲間の人生も台無しにしちゃったね〜? ホント、誰なら愛してくれるんだろうね? お前みたいな疫病神」
「っ!! 黙れええぇぇぇぇえっ!!」
鹿狩の吐いた言葉が一気に心の中枢まで潜っていき、心臓を抉り出される。
「クソがっ!!! 誰にも愛されないのはお前や!!! お前みたいな何も無い空っぽな女っ、人を傷つけるしか能の無い女が愛されるわけないやろがっ!!! 黙れ黙れ黙れ!!! 俺から人生を奪った分際で何笑ってやがる!!! クソッ、クソォオオオ!!!」
「クソ、って言う頻度がやけに高いよね。辻井くんって。お前の閉鎖的な人生でそんな頻繁に悪口を言われる事があるとすれば〜……お父さんかな?」
「なっ!?」
「お父さんに叱られる時とかに、クソって単語をよく吐かれたのかな。言うもんね〜、人が他人を感情的に罵倒したい時って、その本人が言われたら傷つく言葉を選ぶって」
「だ、まれ」
「愛されない、に過剰に反応した辺りそれもコンプレックスなのかな? 女にマトモに触れもしない潔癖症で、尚且つ愛着障害持ちか。発達障害の気があるね〜。ま、人と円滑な関係を築く事も出来ず馬鹿正直に野球しかやってこなかった時点でそれは透けるか」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れだまっ」
「黙らな〜い。あははっ、柳瀬川さんはすごいねぇ。お前みたいな人間に自分から話しかけて、自分から仲良くなったんだもん。良かったね、人間関係に恵まれていて」
「柳瀬川、だと?」
柳瀬川にも何か、したのかコイツ!? と、つい顔に焦りを出した瞬間、鹿狩の笑顔に凄みが増した。鹿狩の目が俺の眼球を覗き込んでくる。
「安心してよ。柳瀬川さんは友達やし、何にもしてないよ」
「ほ、本当か!?」
「本当かなぁ? 嘘かなぁ? ま、あんま接点ないし関わり自体少ないってのは確かだね。辻井くんの話を聞いたのも去年チラッと聞いただけやし」
「……んだよ」
ホッとした。アイツにもしもの事があったら、復讐所ではない。二度と立ち直れなくなるだろう、それだけは確実だ。
「さて。それじゃ廻くん、あの二人を家まで送っていってあげて」
「……あぁ」
鹿狩がそう言うと、椅子に座りタバコを吸いながらスマホで動画を見ていた酒田廻が返事をし部屋から出ていった。
部屋には俺と鹿狩、そして拘束された後輩達が残される。
「ふふっ。ねぇ辻井くん。やっぱお前さ、童貞でしょ?」
鹿狩が笑いながら俺のズボンに手をかける。
「童貞じゃねえよ! てか、何やってんだ!」
「ん〜? 卒業しよーよ、私で」
「はぁ!? 何でだよ、頭おかしいんじゃねえのお前!?」
「まあまあ」
慣れた手つきでベルトを外し、チャックを下げ、ズボンと下着を剥ぎ取られる。暴れていても全く効果はなく、あっという間に鹿狩の前で全裸にされてしまう。
「やめろっ!! やめろっ!!!」
「やめないよ?」
「なんでだよ!? お、お前、俺の事好きなんか!?」
「うん好きー。赤ちゃん作ろー?」
「嘘つけ!! 棒読みじゃねえか!!!」
「ぎゃはははっ!! まあまあ。ほら、一旦さ。辻井くんには痛い目見てもらわないとじゃん?」
「あぁ!? なんで俺がっ!!」
喋っている最中に口の中に彫刻刀を突っ込まれる。口の中は幸いにも無傷だった。
「私を襲撃して失敗したんだ。ペナルティは受けないと」
「へ、へなるてぃ?」
「うん。憎んでる女に初体験を奪われて、性感帯を刺激されながら彫刻刀や私の拳で痛めつけられて、痛みと快感どっちでイったか分からない状態にして性癖をぶっ壊すの」
「…………は?」
「お前をドMにしてやるよ。しかも、血ぃ流すくらいの痛みでしかイけない終わってるレベルのマゾにしてやる。嫌いな女にそんな肉体改造を受けるとかバカ無様じゃない? 動画とかも撮って、変態じじいどもに売ってやるよ」
「……本気、なのか?」
「冗談で肩外す奴なんかおるかなぁ? そんな事するやつが、冗談でこんな提案するかなぁ?」
「や、やめっ」
鹿狩は、笑った。不快な笑い声が、邪悪に満ちた悪意の嗤いが俺を見下しながら、全身に浴びせられる。俺は、折れそうな心をどうにか憎しみの火を絶やさないようにして奮起させる。が、そんなささやかな抵抗はお構い無しに、鹿狩による愛の伴わない愛撫が始まった。