※この作品はR-18です。

子供に戻ったと思ったら女体化させられるし女として生きるべきか男のまま生きるべきか分からない俺はスワンプマン   作:千佳のはんぺん

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ただのどっかの日常の一コマ『体育大会。ギャンブル。ジャンプ』

 子供に戻り女になり、学校に通い直して1ヶ月経ち10月中旬。合唱コンクールを終えた俺達には次なる学校行事、体育大会が待っていた。

 

 説明しよう。我が校の体育大会と呼ばれる行事は、平たく言えば名称が違うだけの球技大会である。

 

 うちの体育大会では四つの競技が実施され、クラス毎に競技選手が選抜され勝ち星の数で学年ごとのMVPを決める、というのが体育大会の本旨である。

 種目の選択肢はソフトボール、バレーボール、卓球、ドッジボールの四つ。ここからそれぞれ生徒がやりたい競技に立候補していきチームを結成する。俺が選んだのはソフトボールだ。

 

 バレーはタッパが足りなさ過ぎて戦力外通告されそうだし、卓球は男だった頃でさえ上手く出来た試しがない。ドッジボールはシンプル飽きた。だからソフトボール。

 

 と、まあそんなことはどうでもいいのだ。重要なのはここからである。

 

 

「私も賭けに参加したいんだけど」

「あ? 転校生さんじゃん」

 

 

 放課後、俺が向かったのは不良らがたむろしている空き教室であった。

 

 俺らの学年では、不良連中が主体となって学校行事が起こる度に賭け事をするイベントが実施されている。

 

 主催は主に八木が執り行っており、各クラスの拝金主義者達を集め、賭けるクラスを決めさせ、賭け金を出し、的中させた連中で山分けするといった単純なシステムだ。

 

 割合の調整が面倒いからという理由で複数賭けは不可。先着から順に投票でき、一定数票が集まった所には投票出来ないという制度も設けられている。

 

 参加者が結果に意図的に手を加えられる投票は禁止となっている。例えば、自分とぶつかる相手クラスに全額ベットしわざと負ける八百長試合を仕組む、これは当然ながらアウトだ。

 自分が関与する種目に賭ける場合、参加者は自身の参加チームにしか賭けることは出来ない。

 

 

「鹿狩? なにしてんの」

「佐藤だ。こんにちわ。風の噂で皆が賭博してるって聞いて、いいな〜ってさ。お金欲しい!」

「俗物過ぎやろ」

 

 

 佐藤に説明すると、麻雀中の八木が笑いながら俺に興味を示した。

 

 

「いいね〜鹿狩さん! ちなみに賭けの概要は理解してる?」

「種目を決めて、優勝チームを的中させた人に賭け金が行くんでしょ?」

「そうそう。いくら賭けるつもりなん? ちなみに最低額は1000円からね」

 

 

 うちの学年は計6クラスある。6分の1で勝ちの賭けで1000円からかぁ。良心的ですね。

 

 

「私は賭け金はっ! イツモンイン!」

「イツモ? ……1万!? 1万!!?」

「1万!?!? おい正気かあんた!?」

「最高額やんけ!!?」

 

 

 俺の宣言と、財布から恭しく出した1万円札に恐れ戦く中学生達。

 

 

「ふふふ。なけなしの1万を何十倍にも増やしてして遊びに使うんだ……!」

「いや一人勝ちしたとしても何十倍にはならんやろ。やめとけよ、アホかお前」

「アホじゃないです。賭け金増やしたら勝った時多めに配当されるんでしょ? 私はソフトボールで、自分のクラスに賭けるよ。だって考えてみ?」

 

 

 万札を折って八木が差し出してきた『やきゅう』とメモが貼られた缶型貯金箱にソレを入れると、佐藤の方を向いて説明してやる。

 

 

「ソフトボールの参加メンバーさ、辻井君や松前君、佐藤もいるし、辻井君とバッテリー組んでる茂北(もきた)君もいる。都子もいんじゃん。明らかに優勝候補筆頭でしょ」

「朔月と宮木(みやき)がいる以上勝ち確とまでは行かないけどな」

 

 

 俺の言葉に付け足しを加えたのは、ポーカーに興じていた辻井だった。当然だ、うちのチームの司令塔とも言える存在は辻井な訳だし、チームメンバーそれぞれを見て能力を分析してるだろうし。

 

 ちなみにネタバレすると、ソフトボールに関しては我々が優勝します。

 

 前回の世界で既に先は見てきているのだ。この賭けは予想とか全く関係なく、ただ純然たる事実として未来を知ってしまっているから大金を出したのだ。約束された大儲けだぜぐへへへへ。

 

 

「負けるつもりはないがその額を賭けるのはちょっと頭足りんやろ。もう少し考えな」

「酷いこと言うなぁ。勝つよ! 皆めっちゃ頑張ってるもん!」

「俺と佐藤は金が絡むからそれなりにはやるが、その他のモチベーションは高くないだろ?」

「間違いねぇ。練習風景から不安が残るのは否めんわ」

 

 

 佐藤と辻井がガックシと項垂れ嘆く、この二人も自分らが属してるからという理由で自分のクラスのソフトボールに賭けてるんだよな。

 

 八木はもう貯金箱を仕舞っており、ニシシと笑い「もう返金は出来ねぇぞ〜」と追い討ちで佐藤を煽っていた。そしてロンされ一人大負けしていた。天罰早かったな〜、八木が黒焦げになっちまった。

 

 

「じゃ、そゆことだから。ちゃんとリストインしといてよ八木君! その諭吉、本当に私のなけなしだからね!」

「はいはい」

「もう行くのか?」

 

 

 用を済ませたので教室に戻ろうと踵を返すと、すれ違いざまに佐藤に問われた。なんだ? やたらと長く佐藤が目を見てくる。その目を見てるとちょっと変な気持ちになりそうだからそっぽを向いた。

 

 

「そろそろおかえりルーム始まるから戻らないと。ワダセンに怒られちゃうよ」

「そりゃ大変だ」

「本当は君らも例外じゃない筈なんだけどね〜。じゃあね。皆さん」

「おー」「また来いよー」

 

 

 不良連中に挨拶をし、足早に教室に戻る。

 

 くふふ、未来カンニング最高だな。こんな簡単に、確実に軍資金が手に入るだなんて。不幸続きの過去転送をされてから久方ぶりに訪れた幸運である。

 

 ぐふふ、ぐふふ。何買おっかな〜。女になった事だし、一人で堂々とピューロランド歩けるな!? てか女湯とか入り放題だな、この金を元手に下着何枚か買って肌に擦り付けて定価の倍の価格で売るのもありだなぁ!!

 

 膨らみますねぇ〜夢! 億万長者の道は今拓かれり。

 

 

 

 *

 

 

 

「言っとくけど、寄せ集めのチームで私らに勝てると思わない方がいいよ辻井!」

「言うじゃねえか柳瀬川!」

 

 

 体育大会当日。我々2-bメンバーは前の世界と同様順当に勝ち進む事が出来た。だが、急に不具合が生じた。

 

 なんか、前の世界では当たらなかったはずの柳瀬川菜摘という名の別のクラスの女子がソフトボールに参加していて、辻井に向けてバットを向けて宣戦布告していたのだ。

 

 バタフライエフェクトである。

 

 俺の知らない流れに歴史が進んでいる形跡。俺が知ってる柳瀬川さんは辻井とそこまで仲良くない。つまり、何らかの歪みが原因で二人が縁を持つようになり、因果が狂ったのだと理解出来た。

 

 やばくね? 歴史変わる可能性高すぎじゃね? 不安になってきたぞ……?

 

 

「私ら2-dベイスターズはそれぞれ経験者、普通に野球が上手い人で固めてあるからね」

「なっ!? 卑怯だろ! あっ、てかおいてめぇ木下ァ!!」

「ヒューヒュー」

 

 

 辻井が俺の方を見て怒鳴る。正確には俺の更に後ろの方にいる不良グループの一人である木下に怒鳴る。木下は口笛を吹いている。

 

 木下はソフトボールを選んでいない、自分が関与していない以上敵側チームに賭けても不正にはならない。

 

 木下は辻井の誘いを蹴って、運動があまり得意じゃない朔月さんと宮木さんをソフトボールの空き枠に入るよう打診していた。なるほどなるほど、柳瀬川クラスの戦力を先に把握しておきこういう形を取ったわけか。

 

 策士すぎるな。ガキの賭け事でする頭脳戦か? これ普通にグレーゾーンだろ。

 

 

「じゃ、俺そろそろ行くわ。ドッジやでよ」

「クズ野郎め! 後で覚えとけ!!」

「ちょっと辻井! 私からの挑戦を無視するな! コテンパンにしてやるからなー!」

「望む所だっつーの。よし、お前ら!!」

 

 

 辻井が振り向いて控えている俺達に声を掛ける。

 

 

「ねえ見て都子ちゃん八尋ちゃん! ピアス増やした! スクランパー!」

「可愛い! でもそれどこに刺してるの?」

「んー、名前はわかんないけど、口の上の所! 二人はピアスしないの?」

「付けてもいいかもね、耳とかなら。鹿狩くんは?」

「いいよねぇ。腕とか足に幾つか付けて、リボンで通して交差させたり……」

「グロっ! そういうのが趣味なんあんた!? 引くわ……」

「それめっちゃ可愛い! いいね八尋ちゃん!」

「小鞠もソッチかぁ……」

 

 

 俺、都子、朔月さんの三人は日陰に固まって呑気に雑談していた。辻井の話は入ってこない。

 

 

「鷲見さんって髪めっちゃ綺麗だよね〜! ねねっ、オススメのヘアケアとか教えてよ!」

「宮木さんの髪ならサロン系の洗髪剤に変えるだけで大分印象変わると思うよ? いいの貸そっか」

「ホント!? やったー!」

 

 

 鷲見さん、宮木さんという残りの女子勢も固まって美容トークを繰り広げていた。辻井の話なんて微塵も耳に入って無さそうだ。

 

 

「佐藤っていつ童貞捨てたん?」

「んー? ナマは去年。ゴムアリなら小五」

「小五!? 早すぎて草。てかその歳じゃゴム余りまくりだろ」

「舐めんな、当時からデカチンだっつの。小五なんだ、女側もキツマンで丁度良かったしな」

「小五……ロリ……悟り……!」

「おまえは何を言っているんだ?」

 

 

 佐藤、茂北、松前等男子勢は男子勢で固まり下らん下ネタトークに花を咲かせていた。

 

 

「もう少しやる気出して貰っていいかなぁ!?」

「ビックリした。何よ辻井」

「竜胆! 鹿狩さんも朔月も! 鷲見も宮木も松前も茂北も佐藤も!! 佐藤は特にもっとやる気出せよ!?」

「まあまあ、肩の力抜けって」

「バカ! こちとら金賭けてんだよ! 遊びでやってるんじゃねーの、お前らにも責任のしかかってんだからな!」

「勝手に責任おっ被せられてる」

「ね〜。迷惑〜」

 

 

 おー、非難轟々ですね。当たり前か。勝手に賭けられてその分働けとか、当人からしたら知らんこっちゃないもんね。

 

 

「佐藤と鹿狩さんは金賭けてんだからもっと周りを鼓舞してくれ! 何一緒になってだらけてんだよ!!」

「え、鹿狩くんあんた、金賭けしてんの?」

「ダメだよー八尋ちゃん! 賭博罪!」

「してないよ? 何言ってんだろうねあの人、怖いかも」

「嘘をつくな鹿狩さん! 賭けただろ1万! 1万円分の頑張りを見せなきゃ無駄金に」「辻井くん顔になんか付いてる〜」

 

 

 辻井の口に手を当てて黙らせる。そうこうしているうちに試合開始の時間が迫り、試合前の挨拶を終え初めはコチラのバッティングから始まる。

 

 打順は一番に辻井、二番に茂北、三番に俺と言う順番になっている。

 

 一番二番は野球部で安定して出塁出来る二人なのは納得出来る。なんで三番手が俺? と思って聞いてみたら、どうやら辻井視点では俺も都子と同じく打力、バッティングの安定感、走力がバランス良くて繋ぎの能力が高いという評価だったらしい。

 

 過大に評価して貰えるのはありがたいが、役割を与えられているのは億劫だ。

 

 変に因果が歪まなければやる気もなしに大金が手に入る筈だったのに。

 

 バタフライエフェクトが起きたせいで能動的に動かないといけなくなった。全く、女体になって能力低下してるのは明らかなんだから出来るだけ頑張りたくないゾ〜……。

 

 

「あんたが1番か、辻井。4番は誰にくれてやったの?」

 

 

 マウンドに立つ相手方のピッチャーは柳瀬川さんだった。辻井のライバルやらなんやらで辻井が特に警戒している相手だ。

 

 

「佐藤に譲ったよ。単純にアイツが一番打力あって球も当てれるからな」

「その人野球部じゃないんでしょ? 失策なんじゃないの〜?」

「馬鹿言え。4番は花形だがそれだけが野球の勝敗を左右するわけじゃないんだよ。それをお前に教えてやる!」

 

 

 おー、なんか語ってら。なんだよ辻井の奴、青春ごっこ出来そうな女いんじゃん。今泉さんにちょっかいなんか掛けるから女と縁が無さすぎて女嫌いになってんのかと思ってたわ。

 

 

「なんかいいね〜ああいうの。漫画みたい」

「? あぁ、辻井の話か」

 

 

 バッターボックス横で待機している茂北に話しかける。素振りを止めてくれたので、俺は隠し持ってたガムを1つ出す。

 

 

「食べる?」

「ガムか? もらうもらう。てかなんでガムなんか持ってんの?」

「野球にはガム噛んでる有名選手が付き物でしょ〜よ。絶対勝たないとだからね、形から入らなきゃ!」

 

 

 教師にバレないよう、茂北に近付いて胴体で顔を隠すようにして風船を膨らます。美味み美味み。

 

 

「形からねぇ。昔のアイツみたいやな」

「アイツ?」

「なんでも。じゃ、次バッター俺だから出るわ。ガムあんがとね」

 

 

 茂北はガムを口に放り込むとそのままバッターボックスに立ち一球目で速攻ヒットを出した。しかも華麗にツーベースヒット。早速俺の打順で点を取れるか取れないかという場面になる。

 

 

「ピッチャーフライでアウトになっても安心していいぞ〜鹿狩。俺が軽〜くホームラン打ってやっからよ」

「やる気出る激励お願いしま〜す」

 

 

 俺を弄る佐藤の軽口に答えバッターボックスに立つ。うわぁ〜、いい眺め。柳瀬川さん下着が透けてるねぇ。エッチだ!

 

 

「野球部二人からの繋ぎがこんな小さな女の子なんだ。三番で捨ては無いやろうし、君も野球得意なんだ?」

「いや、そういうわけでもないんで、お手柔らかに……」

「ふーん」

 

 

 俺の言葉を信じてくれたのか、柳瀬川さんは一度目を閉じ投球フォームを取る。

 まっ、辻井のライバルと言えど相手は女子中学生。筋肉だってそこまで付いているようには見えないし、ビビる必要も無いわな。

 

 テキトーに打って出塁したい所だが、相手の選手は一人余さず野球に慣れているらしいし。変な所に落とすよりかは思い切り打って距離で時間を稼ぎたいところですな。

 

 

「……ふっ!」

「えっ」

 

 

 ズバァン! と音が鳴った。

 柳瀬川さんから球が放たれる。その球は俺の想定よりもずっと鋭く、一球目は全然目で捉えることが出来なかった。

 

 腰を曲げ、地面スレスレのアンダースローから放たれた一球。アンダースローは球速が出にくいと聞いたのだが、120キロ到達してない? バッセンで感じた事のある風を受けたぞ今。

 

 

「あの〜……私初心者」

「初心者でも全力で戦うのがモットーなので」

「よくないと思います! 初心者バイバイですよそれ! もっとビギナーに優しくしないと若者離れがひうぅっ!? 今投げるなよー!」

 

 

 俺の訴えをフル無視した豪速球。加減しなさすぎだろ。

 辻井からヤジが飛ぶが、柳瀬川さんが投げる球、普通の小柄な女子中学生が打てる球じゃねえから!

 

 

「ひぃ!?」

 

 

 ズバァン! と三度目の、グローブに球が収まる音が響く。ボールだ、俺の体格から見てストライクゾーンを外れた球がグローブに刺さっていた。

 

 

「無理無理絶対無理打てないぃ……佐藤っ、打順交代しよ!? アレは無理だわ、怖い!!」

「いや交代とか無理だから。てか交代しても結局次じゃんお前」

「ホンマや〜!!! くっそーあの女全然手ぇ抜かんし!! ごめん辻井くん、ごめーん!!」

 

 

 もうね、三球とも全く動けていない時点でね、打てる確率なんてゼロなんですよ。柳瀬川さんも分かるでしょ、俺マジで野球得意じゃないんやって。

 

 

「ひぇ!?」

 

 

 二発目のボール。おちょくってるのか? 俺の出方を見てるようだが、何発投げてもバットは振らねえよ? もう諦めてさっさとストライクにしてくれ、近くを球が通る度に無い金玉がヒュンヒュンするわ。

 

 

「はぁ。仕方ない、少し加減するよ」

 

 

 そう言いながらも、やはり柳瀬川さんの球速は素人目で見たら相当速い。力は抜いているものの100キロ前後は出てるだろう。

 

 

「よいしょっ」

 

 

 ま、ようやく惜しみない力で振っても確実に当てれる速度になったので思い切りぶち打ってやった。

 

 

「んなっ!?」

「やっしゃー見たか! これが! 我が必殺チビメスホームラン打法!!」

 

 

 100キロ近く出ていようと、所詮バッセンで考えれば打つのもそう難しくない速度だ。120キロは俺の実力不足でちょっと慣れないと当てれないけど、110キロ位までならニブイチでホームラン打てるぜ!

 

 俺の打った球は空に向かって伸びていき、グラウンドの果てまですっ飛んで行った。ウケる、あれを取りに行くのは骨が折れますね。

 

 

「はぁ!? 嵌められた〜!!!!」

「吠えとる吠えとる。っしゃーこれでノーアウト3点先取っ!」

「鹿狩さん」

「んっ?」

 

 

 悠々とホームに戻り打席を控えた皆の元へと歩いていたら、目を鋭く尖らした辻井が駆け寄ってきた。

 

 

「今の、わざとか?」

「え? うん、油断させりゃ外野の人らも近付いてくるやろし、確実に点取れるかな〜って」

「もう卑怯なのは無しだ。いいな?」

「えっ、いやだって」「無しだ。こう見えてお前の事高く買ってんだから。スポーツマンシップに則る事」

「えぇ……? よくわかんないけど、はいぃ……」

 

 

 無言の圧力が怖くて素直に返事する。自信喪失しちゃった……皆のためにした事なのにぃ!

 

 

「ひん……」

「よしよし。八尋ちゃんは悪くないよ〜」

「うっ、うっ……小鞠って……いい匂いするよね……ちょっとえろい……」

「それはキモいよ八尋ちゃん!」

 

 

 木陰で体育座りしていたら朔月さんが頭を撫でてくれた。けど言葉のデッドボールもついでに食らった。

 

 

「あんな細腕でもあんな飛ばせるんやな〜。よっ」

 

 

 佐藤が安定して鬼の長打を叩き出し一人でダメ押しに一点もぎ取った。しかし次の打者から追い風も止んだのか都子、松前は塁に出たもののスリーアウトとなった。

 

 攻守交替。俺らが守備の番となった。

 

 ポジションはピッチャーが辻井、キャッチャーは茂北。ここはバッテリーを組んでいるから妥当。

 

 

「強い球飛んできたらどうしよう〜! 怖いよ〜!」

「私と鹿狩くんでどうにかするから安心しな」

「外野手なのにこんなに内野側にいるのおかしいよな〜……」

 

 

 俺はレフト、都子はセカンドで朔月さんがショート。運動神経オールマイティな都子がセカンドなのは納得できるが、俺と朔月さんが果たしてまあまあ球の飛んでくるこの位置を守ってていいのだろうか。甚だ疑問である。

 

 

「セカンドからサードの間、守備全員女じゃねえかよ。何考えてんだー? 辻井」

「さあな。気になるなら狙ってみろよ」

 

 

 辻井と1番バッターニキが短い会話を交わした後、辻井が球を投げた。当然の如く柳瀬川さんよりも鋭い速球が放たれる。

 

 一球目は動けず、二球目はファール。投げる側も凄いが、当ててくる相手も凄いなぁ。近くで見て来た事だけあるね、野球部対決だ。

 

 

「おらっ!!」

 

 

 もう一度ファールを挟み相手のバッティングにより球がこちらへ飛んでくる。素早い球が地面にワンバウンドし、膝の高さに球が飛んでくる。取りづらいショートゴロだ。

 

 

「よいしょっ!」

 

 

 自分から球に走り寄っていった朔月さんが難なく拾い、都子に短距離パスを送る。そのまま流れ作業のように一塁に球が投げられた。

 

 

「ほいナイス」

「……マジかよ」

 

 

 都子からの取らせるつもりも無さそうな乱暴な速球を佐藤が受けとり塁を踏む。

 キャッチボール練習の時、この二人だけ相手の事を微塵も思いやらない豪速球を投げ合っていた。それがキャッチボールとして成立していたことに着想を得たポジショニングである。

 

 都子は割とどんなコースの球でも捕れるし切り替えも早い。朔月さんは辻井の献身的な教えのおかげでフライ以外ならマトモに捕球出来るようになった。フライの時は俺か都子がサポートして取る事になっている。

 

 女が固まってると言えど、姦しくはあれど舐める事なかれ。このチームはとっくに弱点を克服している。

 

 二番は辻井がスリーストライクで完封しあっという間にツーアウト。三番目にしてようやく一塁が奪われる。そして、次の打者には相手チームのピッチャーをしている柳瀬川さんが立った。

 

 

「やっと男が途切れたか。小休止小休止」

「いやいや、相手4番打者だよ? 油断は良くないぜ都子」

「大丈夫だよ〜! 菜摘ちゃんはサッカー部だから、きっと足が早いからって理由で四番打者なんだよ! きっとさっきの男子達よりも……」

 

 

 ガギイィィンッ!! と、それまでとは明らかに違う鈍い当たりから響き渡る高音。想定とは大きく外れ、今までのと比べてもかなり強力な打球がこちら向けて飛んできた。

 

 

「きゃあっ!?」

「ちょっ、避けんなぁ!?」

 

 

 レーザービームと形容出来そうな豪速球を朔月さんは頭を抱えて避ける。グローブで受ける……いってぇ!? とりこぼしたし……!!

 

 

「びっくりしたぁ……」

「びっくりした、じゃないわよ。避けちゃダメでしょ」

「いやアレは避けるよ死んじゃうでしょ!?」

 

 

 都子と朔月さんが若干口論じみた言い合いをし始める。ワイの心配はしてくれないんか、お手手いたいいたいですよ〜?

 

 そこからも相手の勢いは失速すること無く同点まで追いつかれ攻守交替する。流石は全員野球に精通してるメンバーで固められているだけはある、勝てるビジョンが急に遠のいてしまった。

 

 

 そのままゲームの進行は進み5回表。第5イニング終了時に点差があればゲームセットというルールで、現在の点差は俺らが8点相手が12点。打順は辻井からだから数点もぎ取る事は出来ると思うが、死ぬ気で守らなきゃ負けちまう。なけなしの1万円がパーは勘弁だァ!!

 

 

「しっかりしろよ辻井〜。確実に一点もぎ取れ〜。ホームランじゃホームラン」

「簡単に言ってくれるなよ……」

 

 

 佐藤に背中を何発かぶっ叩かれ、手形でもみじを作らされた辻井がバッターボックスに立つ。

 

 

「うわっ、やべっ!!」

「あ゛!? 茂北のアホ〜!!!」

 

 

 辻井は一塁まで出る事が出来たが、調子が悪かったのか続く茂北の打球は芯を外し大きく上へ打ち上がり、センターの立っている場所にそのまま落ちてアウトとなった。

 

 続く俺の打順。

 辻井は足がものっそい速いから二塁打三塁打を狙っていきたい……。けど、初心者打法以降も長打を連発してしまってるから、勝負を決めたいこの回で俺に打たれることは絶対嫌った球を投げてくるよな。

 

 

「ボール……ま、普通に考えて敬遠するか」

 

 

 柳瀬川さんは俺のストライクゾーンより上に意図的に球を投げてきた。フォアボールにして打順を流すつもりだ。

 

 次の佐藤の時もそれをやって塁に三人出して、続く鷲見さんと都子の打順でアウトを取る気満々なのが透けて分かる。一応挑発してみようかな〜?

 

 

「まさか、わざとフォアボールにして私に打たせないようにしよう、なんて姑息な事考えてないよね〜?」

「敬遠も立派な戦略だし。てか、私の本気の球普通に飛ばせるのに初心者偽ってホームラン出した人に言われたくないな〜」

「ぐぅ〜」

 

 

 構わず投げてくるのでぐうの音だけ出しておく。うーん、やっぱり届かない場所に投げられる。ゆるゆるな球で敬遠かよ、ムカつくのぉ〜!

 

 辻井にアイコンタクトを送り、目が合ったのを確認したらすぐに柳瀬川さんの方を見る。

 

 柳瀬川さんの腕から球が離れる寸前、一塁にいる辻井が二塁へと走り出そうと姿勢を低くし地面を蹴る。

 

 

「そうなるよね」

「うおっ!?」

 

 

 グワッと柳瀬川さんが振り返りオーバースローで二塁に爆速牽制球をぶん投げた。何だこの人、アンダースロー以外にも武器持ってるんかい。てか盗塁失敗したし、食えなさすぎだろ。

 

 

「クッソー……」

 

 

 三発目は盗塁防止が目的なのかかなり速い速度の敬遠球を投げられた。だが、速度が速まってコントロールがブレたのか若干コースは下がっている。

 

 ワンチャンあるか? ワンチャン、ぶち当てれないか? 敬遠打ち。

 

 どうせ外してもワンストライクだし、チキらずに当てて飛ばせばマシなヒットになるよな。

 

 柳瀬川さんから球を投げられる。速度は先程よりも速い、けどコースはまた若干下にブレて何とかバットを縦にして振れば当てれる位置に飛んできた。

 少しでも辻井を走らせておきたい。当たる前提でバットを縦に、いわゆる大根切り打法のような形で思い切りバットを振るう。

 

 

「おっ、りゃあぁあ!!」

「それ打つ!?」

 

 

 お、お、お!? 飛んだ飛んだめっちゃ飛んだ! 予想外にも二塁打くらいぶちかませた、レフトとセンターの中間あたりまで飛ばせたぞ、ナイスすぎる!

 

 

「ナイスだ鹿狩ー!!」

「えへへ!」

 

 

 気合いを出して三塁まで走破した辻井にニカッと爽やかな笑顔を向けられながら親指を出されたのでピースして返してやった。心無しか柳瀬川さんに睨まれた気がしたが、気の所為としておこう。

 

 ただ、辻井が三塁に出たとしても佐藤にデカいの打たれるのは嫌だろう。柳瀬川さんは佐藤に対して完全に打たせる気のない大フォアボールをカマしてきた。

 

 辻井がホームベースに戻り一点加算、点差は9-12。縮まったねえ、あと5点は取りたいな……!

 

 敬遠ってプロ野球とかでやると攻撃側が非難轟々に言われるイメージあるのだが、気軽に連発できるものなのか? 野球に疎いからわからんな……。

 

 その後、鷲見さんがストライクで完封させられそうになるがなんとバントを使うという画期的な方法を取ることで塁を踏むことが出来た。

 続く都子もなんとかサードゴロを出す事に成功し、死ぬ気のダッシュ飛び込みで俺はホームに戻ることが出来て10-12。更には満塁の状態となった。

 

 

「うあー死ぬほど体操服汚れたー!」

「八尋ちゃんすごーい!」「ヒヤヒヤしたわ。でもナイスだ、鹿狩!」

 

 

 朔月さんと辻井が近付いてきて褒めてくれた後にハイタッチしてくれた。他の皆ともいぇーいする。こういう瞬間が1番子供に戻って楽しいって思えるな!

 

 そして、次のバッターはこの学校屈指の怪力ロリコンゴリラである松前。でも困った事に、松前って打率あんま良くないんだよな。

 

 力一杯振るのは良いが、大体明後日の空間を打ち抜いているのだ。パワーヒッターも当てられなきゃ宝の持ち腐れ。どうしたものか。

 

 

「八尋ちゃん八尋ちゃん!」

「? どしたん、小鞠」

「松前君にさ、エール送ってよ。可愛く!」

「うん。どしたん? 小鞠」

「いいからいいから!」

 

 

 朔月さんに引かれ何故か一度ネットの方へと連れて行かれた。そして、そこで受け取ったものを装着し、丸太みたいな腕で素振りをする松前の方まで駆け寄る。

 

 

「ふん! ふん! ロリ! ロリ!」

 

 

 この世の終わりのような掛け声で素振りをする松前の近くまで来る。彼は俺の格好に気付くと、バットを手から落としてポカーンとした顔を向けてきた。

 

 

「か、鹿狩さん。その格好は」

「うぅ……」

 

 

 猫耳に、猫のしっぽ。ドンキで買ったのかってラインナップを渡され装着させられた。なんでこんなもん常備してんだろうね。

 

 恥ずかしくて顔面から火ィ出そうだ。松前の顔なんか恥ずかしくて見れないが、朔月さんからは出来るだけ目を合わせてと言われたので、頑張って顔を見る。

 

 

「わ、笑いたきゃ笑えぃ……」

「笑うもんか! 素晴らしい、可憐だ! かなり良いぞ鹿狩さん!」

「えぇ……?」

「その羞恥に染まる表情、かなり良い! それはまるで母親にしつこくせがまれ好みじゃない洒落着を着させられた幼女のようなそんな可憐さがある!!」

「キモいぃ……」

 

 

 なんだこの人。前世の知識プラス日常会話からロリコンなのは分かっていたんだが、それっぽければ同級生にもその性癖で興奮出来る口なのかよ。無敵だな。

 

 

「して? 僕になにか用かな、鹿狩さん。カガロリさん」

「カガロリさん!? センスない上に癖が滲んでて嫌だぁ……はぁ」

 

 

 ため息を吐き、頬をパンっと叩いて気持ちを切り替え、意を決して松前を見上げる。

 

 

「え、えーと……頑張ってホームランを打ってくれたら、ご褒美? だっけ。まあ、なんかしてあげる、にゃん。だから、頑張るにゃーん……?」

「……」

「……寒いな〜って思ったら、鼻で笑ってくれた方が、気が楽にゃん……」

「……1つオーダーいいかい?」

「エッチなのは無しだにゃん」

「盾士くん頑張れ〜、打ったらキスしてあげるにゃ〜ん。って甘い媚びるような声で言ってくれたら逆転サヨナラホームランを打てる気がするんだ」

 

 

 何言ってんのこの人。この肉体での初チューをこんな流れであげるわけないやろ。舐めんな変態ロリゴリラが。

 

 

「言ってくれないと、きっとここでアウトになって朔月さんに渡ってしまうな〜。彼女が勝敗の鍵を握る、そんなプレッシャーに果たして耐えられるかな」

「どんだけ必死なんだよぉ! わ、私なんかとキスとかしたいんですか!?」

「言うのかい? 言わないのかい? 柳瀬川さん達待ってるよ?」

 

 

 本当だね。てか、体操服に猫耳猫しっぽというマニアックなコスプレ姿を晒してるせいで変な目で見られてるわ。朔月さん、軽率に俺の人生終わらせに行くのやめてね。

 

 ……ま、実質ここが勝敗を分かつターニングポイントなのは間違いない。

 1万円賭けてるし、勝ったら膨大な金が手に入るし、ここは恥を偲んで一肌脱ぐべきか。いや、体操服脱いだら下着だから流石に脱げないけども。

 

 

「キ、キスはあの、初めては彼氏作ったらその人としたいから……だからあの、ハグくらいなら」

「ハグがなんだって? ダメだよ、僕の指示通り甘々な感じで!」

「……。こ、盾士くん頑張れ〜。これでホームラン打ったらハグしてあげるにゃ〜ん。だから私に、かっこいい所見せてほしい、にゃ」

「了解したァ任せてくれ鹿狩さんんんんっ!!!」

 

 

 テンションがぶち上がった松前は宣言通り、その剛腕で柳瀬川さんの球を学校の外にまで打ち飛ばし一瞬にしてホームベースを踏んで戻ってきた。

 

 

「さあ、鹿狩さん! さあさあさあ!!」

 

 

 目の前でブシューっとシーブリーズを全身に食らわせて、制汗剤の香りを纏わせた松前が両手を広げた姿勢になった。

 

 ……約束だもんな。反故にするのは良くないよなぁ。

 

 

「う……あの、私にもシーブリーズ、貸して」

「嫌だ」

「なんで!?」

「そのままの、ありのままの鹿狩さんのにお……待てよ。これセクハラか? やめておくか、口にするのは」

「ねえキモい!! もーーっ!!! はぁ……」

 

 

 自分が汗臭くないか不安な所ではあったがシーブリーズは貸してもらえなかった。なんでかな。仕方ないので、そのまま松前に抱きつく事にした。

 

 

「うぅ……臭かったらごめんね」

「構わんさ。それよりも鹿狩さん」

「ん……?」

「いや。僕としては全く問題ないんだが、ここでハグすると周りの目に入りまくるぞ」

「それは確かにだけど抱きつく前に言って欲しかったな!」

 

 

 一瞬しがみついて一瞬で離れてやった。変態野郎め。一生女の裸も拝めなければ女と二度と密着する事も出来ない呪いをかけてやる。ざまあみろ。ロリに幻想を抱いて死ぬんだながはは。

 

 松前の活躍のおかげで14-12、リードする事は出来た。が、点差を開く事は出来ず朔月さん、宮木さんのコンビネーションにより守備に入れ替わる。

 

 

「うぉぉっ!!」

「オリャッ!」

「くっ!! 松前、走れーっ!!」

「うおおおおぉロリリリリリッ!!」

「アイツなんでクラスで孤立してないんだろうな……」

 

 

 相手チームの猛攻は激しい。辻井のピッチングに遊びがないからストライクを稼げるが、それでもバットに球が当たった時は恐怖だ。

 全部取りづらくて危険な球が飛んでくる、しかし取りこぼしでもして隙を与えて加点されたら負けてしまう瀬戸際。1万出費は流石に洒落にならんよ!!

 

 

「鹿狩ー! そっち行ったぞー!」

「おう!」

 

 

 柳瀬川さんのバッティング、スタミナ切れなのか彼女の打った球は上空に飛び落ちてくる。レフトフライか、ここに来て勝利の女神が俺に微笑んだな。

 

 こんなんなら余裕で取れるってーの。なんて油断したまま、俺は上空をのんびりと飛ぶ球を目で捕える。楽勝楽勝、一時はどうなることかと思ったが、バタフライエフェクト阻止完了でございやす。

 

 

「わっ!?」

「えっ!? 小鞠? あっ」

 

 

 球を目で追っていたら、同じく目で追っていたら朔月さんとぶつかってしまった。2人して目を丸くし不思議がる中、俺らの横に球が降ってきて、ワンバウンドした。ま、いわゆる戦犯である。

 

 

 その後、これが起因となり俺たち2-bチームは敗北を喫してしまった。

 

 

「うっ! うぅっ!! うううぅうぅぅうぅぅぅ……っ!!」

「泣くほど悔しかったんだ、八尋ちゃん……」

「鹿狩くん……すごいね。顔がしわくちゃだ、全力で泣いてるね……」

「おでぼいぢまんんんんっ(俺の1万〜!!!)」

「……なんて言ったんだろ、都子ちゃん」

「さあ。まあどうせろくな事じゃないでしょ。ある程度慰めたし、移動しよ」

「え、八尋ちゃんは!? 置いてくの?」

「置いてかないわよ。見て、私の体操服の裾掴んでるでしょ。これ、着いてくから構わないでってアピールだから」

「そ、そうなんだ」

 

 

 俺のせいで負けてしまった。俺のせいで皆が培ってきた努力を泡にしてしまった。俺のせいでっ、俺の1万円がああぁぁぁぁぁっ!!!

 

 俯いて涙を流していたら、肩をポンッとされた。見るとその相手は辻井だった。

 

 

「皆がお前の努力を見ている。お前は認められてるんだ。だから元気出せよ」

「……ゔゔうぅぅっ。ありがと、辻井くっ……ありがとおおぉぉぉおおぼぼおぼろっ!!」

「1万は諦めろっ。お前が頭悪かった、それだけの話だろ?」

「うおおおぉぉぉおんっ!!! うおおぉぉぉんっ!!!」

 

 

 辻井に励まされてギャン泣きしてしまった。なんで最後に傷口に塩を塗り込んできたのこの人。鬼の子かなにか?

 

 

 俺はこの日の出来事を早々忘れる事は無いだろう。こんなレクリエーションイベントでガチ泣きカマすとか変人エピソードすぎるもんな。出費も痛すぎるし。はぁ……。

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